#253/1850 CFM「空中分解」
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野獣のおきて 第二章 (1)
★内容
第二章 覚醒
1
男は杉の木の蔭に身を潜めていた。
30メ−トル程離れたところで登山ナイフを右手に、猪を解体している
草薙 翔の様子を伺っていた。
坂田甚八である。
警視庁特犯課特務部隊‥‥いわゆる狙撃班に所属する敏腕刑事だ。
草薙とは、かつて同じ職場の飯を食った仲間であった。
「 隠れてないで出て来たらどうだ!」
草薙に気配を悟られぬよう極力身動きせずに息を押し殺していた。気付かれな
い自信があった。その自信が見事に崩れたのだ。
以前の端整で柔軟な顔立ちは物の見事に消え失せている。
髪の毛や髭は伸び放題、着ている物は数十メ−トル離れていても臭って来そ
うなくらい汚れてボロボロなのだ。
この男が曾ては自分と組んで幾つかの凶悪犯との銃撃戦の中を戦い抜いた同胞
の友なのかと思うと、坂田は切ない想いに駆られた。
ゆっくりと草薙の方へ歩み寄っていた坂田の足が一瞬止まって2、3歩後退
りした。
獣のようなその風貌と、太さが自分の太腿ほど有りそうな草薙の腕を見てま
るで頭から冷水を浴びせ掛けられた様な冷たいものが背中を走った。
鋭い双眸が坂田を見据えていた。
足下の荊に注意を払いながら、またゆっくりと草薙に歩み寄った。
「 坂田‥‥か」
低く短い声だった。
夜の闇は既に西の空彼方に消え失せている。
「 傷は‥‥大丈夫か?」
2年前の事件には坂田も加わっていた。目の前で草薙が犯人の凶弾によって
肩を打ち抜かれたのを今も鮮烈に記憶している。
BB弾、通称〈だむだむ弾〉だ。
通常、銃から発射された弾頭の鉛は物に当った場合、潰れて変形こそするが
砕けることは無い。
ところがBB弾の場合、弾頭が特殊な金属で出来ているため当った瞬間、粉々
になって砕け散ちるようになっている。
そのBB弾が草薙の肩に命中したのだ。
草薙の肩の肉が半分、吹っ飛んだ。
腕が付け根から千切れたかの様にみえた。