AWC リレーA>第7回 Fusion Product(融合生成物) AWCの


        
#235/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (EFC     )  87/ 7/31  21:32  (131)
リレーA>第7回 Fusion Product(融合生成物) AWCの
★内容
ノックの音にナオミは目を覚ました。
 「なに・・・」
ねぼけまなこの彼女の耳に聞こえたのは父親の声だった。
 「私だ。開けてくれないか、ナオミ。」
ナオミはあわてて起き上がった。普段は仕事ばかりで家庭を省みない父親だった。ジャ
ンボが墜ちたというニュースがテレビで流れたときにも家に帰ってこなかったのだが。
 「パパ」
開けたドアの向こうには、やつれた顔の父親が立っていた。
 「よく、無事で・・・」
彼は涙をこらえるようにうつむいた。ナオミの目から涙があふれだし、父親に抱きつい
ていた。いつのころからだろうか、父親と顔を合わせなくなってしまったのは。彼を愛
していたころ、彼を信じていられたころ、でも今はもうこの男は信じられない!ナオミ
は自分が今考えていた事を思い返して驚いた。私は何を考えているの?パパを愛した?
そう、三日前までは彼を・・・。混乱するナオミの心に気付いたのか父親は彼女の顔を
見た。
 「どうしたんだ、ナオミ。」
 「い、いえ。なんでもないわ。」
 「それならいいが。なにしろ自分が乗るはずの飛行機が墜ちたんだからなあ。ところ
  でな、ナオミ。おまえがやったアルバイトは憶えているだろう。」
 「ええ。人間の隠された能力の開発とかいったことの実験だったわね?」
 「そう。あの実験の中で幾つか副作用のような事例が見つかってな。気分が悪くなっ
  たりするようなんだが、おまえが飛行機に乗れなかっはξもその影響かもしれない。」
 「そうだったの。」
その時彼女は不快感を感じた。これもきっとその副作用なんだわ。彼女はそう思おうと
したが、その感じは次第に強くなり、まるで一つの人格となっていくようだった。
 「命には別状ないんだがとにかくかなり嫌な気分になるようなんだ。」
そう、その通りよパパ。なんとか治してちょうだい。
 「これを治す方法もだいたい判ったんだ。今から会社に行こう。」
 「いやよ!」
ナオミは自分も驚くほどの大声で叫んだ。こんな大声を出す必要はないわ。彼女の心と
は裏腹に彼女の口は動き続けた。
 「実の娘さえ殺そうとは、私もとんだ親を持ったものね。」
 「何をいうんだ、ナオミ。」
父親は慌てたように言った。ナオミは口を閉じようとした。しかし「加奈」はそれを許
さなかった。
 「そう、あなたは私の荷物をいれたバッグに細工をした。あれは確かにただのハード
  ケースのようだったわね。誰もプラスチック爆弾でできているとは思わなかった。」父親は目を剥いたまま無言だった。やめて!ナオミは叫んだ。いや、叫んだつもりだっ
た。しかしそれは言葉にならず、彼女の口は動き続けた。
 「宮脇加奈、彼女についても言えるわね。あなたがてがけた超能力開発の被検者のの
  ひとり、あなたが命じて自由超能力集団に潜り込ませたスパイ、あなたがもてあそ
  び、不用になったら始末した、彼女のことよ!」
「加奈」が高倉との経験を考える度、それは「ナオミ」の経験として感じられるのだ。
彼が彼女に何をし、何を命じたのか。彼女がそしてどう感じたのか。嘘よ!「ナオミ」
は心の中で叫んだ。パパはそんな人じゃない。ねぇ、パパ。何とかいってよ!
 「なぜ、おまえがそんな事を知っているんだ。」
そこにいるのはもはや「ナオミ」が知っている父親ではなかった。彼の公的な姿、邪魔
者は殺すのも厭わない男だった。彼は全ての仮面を脱ぎ捨てていた。彼はポケットに手
を入れ、ナイフを取り出そうとした。彼女の目の色が少し淡くなった。と、彼は身動き
できなくなった。「ナオミ」には信じられなかった。父親がそのような男だったとは。
 「さよなら。」
再び彼女の目の色が変わった。同時に高倉源三は胸を押さえて倒れこんだ。
 「心臓が、ナ、ナオミ。いや加奈だろう、おまえは。た、助けてく・・・」
彼女は断末魔の彼を冷やかに見つめていた。

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 俺達が乗った車はナオミの家に近付いた。家の前には大型のセダンが止まっている。
中には何人か乗っているようだ。彼らは俺達の車を見るとあわてて車から降りてきた。
俺はその姿の異様さに驚かされた。服装は黒ずくめで、顔もまた黒い。しかし黒人では
ないようだ。胴長短足の姿はあくまで東洋人である。体にドーランでも塗っているので
はないだろうか。
 「いかん!奴らは・・・」堤さんは顔をひきつらせた。
 「何者ですか?奴らは。」
 「高倉源三の手の者だ。強力なESPを持った殺し屋なんだ!」
彼らの一人が俺達の車をめがけてゆっくりと手を伸ばした。
 「飛び降りろ!」
堤さんの絶叫に俺は慌ててシートベルトを外し、ドアからころがり出た。俺は自慢じゃ
ないが柔道は黒帯を持っている。それでも数十キロの速度を出している車から飛び降り
たショックは大きかった。ほんの数秒だろうが、したたかに背中を打った俺は息もでき
なかった。そんな俺に活を入れたのはドンという鈍い音だった。黒服の男は車のフロン
トガラスを念力で砕いたようだった。その粗目(ざらめ)状のかけらは車内を荒れ狂い
中にある物をすりつぶしていった。車は速度を落とし、電柱にぶつかって止まった。
 「ムン!」
堤さんが声にならない声を上げた。それと同時に黒服の男の一人が吹き飛んだ。俺はよ
ろけながら車の所まで進み、よりかかった。車の中は荒い紙やすりで削られたようにぼ
ろぼろになっていた。いくらESPの話を聞いたことがあっても現実に見ると足がすく
んでしまう。堤さんと彼らは互いに衝撃波を応酬していた。ところが黒服の男の一人が
俺に気付き、片手を俺めがけ振った。同時に腹に強い衝撃を受け、俺は吹き飛ばされ壁
でしたたかに頭をうってしまった。
 次に気付いたとき腹と左腕にすさまじい痛みを感じた。目を下にやった俺は顔をしか
めた。腹はナタを打ち込まれたように裂けている。左腕はほとんど切れかけていて皮一
枚でぶら下がっているといった状態だ。これでは二度とバイクに乗れないな。馬鹿なこ
とを考えながら目を上げると堤さんがいた。
 「しっかりしろ!」
そう言われても頭の中はぼんやりとしたままで、ただ痛みだけがはっきり感じられる。
 「奴らはどうなりました?」
 「全部倒したよ。すまない。こんなことに君を巻き込んでしまって。」
 「そんなことよりナオミをはやく・・・」徐々に痛みも感じなくなってきた。もうお
しまいか。それにしても短い人生だったな・・・。
 カンフルを受けたときがこうなるのだろうか、頭の中の霧が突然晴れたように感じた。目の前の堤さんが驚いている。俺は立ち上がって堤さんに言った。

〜〜〜 後で聞いたところでは蒼白となった顔に一瞬にして赤みがさし、   〜〜〜
〜〜〜 立ち上がったそうである。腹が裂け、腕がちぎれているというのに。 〜〜〜

 「早く・・・」
俺の声は途中でさえぎられた。
 「早く車に乗って。」
俺達は声がした方に顔を向けた。そこにはナオミがいた。
 「ナオミ!大丈夫だったのか!?」
俺は大声を出しかけて痛みに腹を押さえた。裂けた腹を押さえたのでたちまちもっと強
烈な痛みが襲ってきた。
 「大丈夫じゃないのはあなたの方よ。あなたのおなかと腕は本当にちぎれかけている
  のよ。」
ナオミは俺に柔らかな視線を向けて言った。ナオミはこんな女だったろうか。姿こそナ
オミだがこんなに落ち着いた雰囲気ではなかったような気がする。そんな考えもたちま
ち痛みに消されてしまった。とてもじゃないがこれでは死んだ方がましだ。
 「今は私の力で傷を押さえているからこれ以上悪くならないけど、この力がなくなっ
  たらあなたはたちまち死んでしまうわ。堤さん、早く彼をあの車に乗せて。」
 「判った。この近くの病院というと・・・」
 「病院ではだめよ。」
 「じゃあいったい・・・」
 「父の研究所に連れて行きます。」
 「しかし」
 「あなた方にとっては敵の本拠地でしょうね。でも大丈夫。わたしにまかせて。それ
  にあそこしか十分な設備がないの。」
後で考えると彼女は催眠術を使ったのではないかと思う。とにかく俺達は黒服の男達が
乗って来た車に乗り込んだ。堤さんは車を急発進させた。
 「堤さん。けが人が乗っているのにそういう運転はやめてください。」
俺は痛みをこらえながら言った。しかしこの急発進は別の者の注意を惹いてしまった。
堤さんは慌てていたために自転車に乗った高校生をひきかけたのだ。かろうじてかわし
たものの俺の事を心配してか、そのまま止まらずに行こうとした。
 「ゆるさん!貴様のような奴はヴァニッシュしてやる!」
その高校生はそう叫ぶと自転車で俺達の車を追いかけはじめた。俺達の車は時速80キ
ロは出ていたはずだ。しかし彼は俺達の車に劣らぬ速度で後をつけてきた。再び彼の声
が聞こえた。
 「輪行!」
                         <<つづく>>





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