AWC 【野良理教授のバラード 第四話[野良理教授のバイコロジー]前


        
#190/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (ZTD     )  87/ 4/19  18:57  ( 52)
【野良理教授のバラード 第四話[野良理教授のバイコロジー]前
★内容

 古書の中にも「目に近く移れば変わる世の中を」とあるごとく、時世と共にあ
らゆる物事が変化してゆく。
言葉の中にも、今の年輩の人たちの子供の頃にあっては、普通に使われていた言
葉が、新世代の世界にあっては、既に「死語」となって実態を伴わなくなってし
まったものが沢山あるようである。
例えば、女性下着の代表であったシュミーズとか或は、以前の小学校から高校ま
での女学生の体操服であった、ちょうちんブルマーなど(話が偏った着眼に陥っ
たことは、御容赦願いたい)今日では、どの国内メーカーでも製造していないこ
とからして、確実にこの世の中から葬り去られる名詞となりつつある。
或は、『学生運動』なんて言葉も、うかつに使うと「えっ、どんなスポーツ?」
などと言われかねない時代になってしまった。
そういった意味からすると『苦学性』などという単語も今日においては、風前の
灯猫の前のサンマ穴空きポケットの百円玉・・・と言う訳で、死語と化すのも時
間の問題ではなかろうか。なんとなれば一度大学の、それも医学部の学生駐車場
を覗いて見られるとよろしかろう。そこにはベンツやポルシェ或はBMWといっ
た高級車が、ずらりと並んでいる光景を眺めることが出来る。まあ医学部ほどで
はないにしても文学部の学生にしたって、そのマイカー族の数たるや、恐れ入っ
た次第である。
 さてそのH大の文学部教授である野良利氏は、教授と言うからには、さぞや立
派な黒塗の高級社で大学に通っているか、と思いきや。確かに黒塗高級車(?)
には違いなかったが、それには車輪が二つしかなかった。
そう、自転車。これが野良理教授の愛用車であった。

 H大では教授職にある人たちに対する特典制度があった。大学の乗用車かタク
シーによる送迎制度もそのひとつであった。
しかし、野良理教授はがんとしてこの制度の恩恵に与ることを、拒みつづけてい
たのである。
この特典制度が(表向きは)教授という地位に対しての、敬腸の表れであると表
明されてはいたのであるが(実のところは)これらの人達に共通する問題、即ち
老齢の身を案じることから運営されている制度であることを、野良理教授は感知
していたのである。
彼の生理的欲求としては「ああ、特典の恩恵に与りたい!」ということであった
が、プライドを守るために働く理性(?)は、鋼鉄のごとく強じんであり、断じ
て何者であろうとも、自分を老人扱いすることを許そうとはしなかったのであっ
た。

 「自動車。ふん、あんな物は病人か土地成金か、かさもなくば黒い裏金か献金
 をもらっとる政治家か、某大学の理事長が乗るもんじゃ。健康で清く正しく生
 きる人間には、自転車が一番なのじゃ」

 教授が現在乗っている自転車は、三台目であった。一台目の自転車を手に入れ
たのは、いまより五年程前である。
大学の学生が教授に売りにきたので、その学生が千円と主張するところを強引に
半値に負けさせて手に入れたものであったが、それは観たところ、前衛的な色に
塗られた代物であった。それでも「実用上、問題無し」と判断した教授は「安い
買物をした・・」と満足であった。
塗り変えるのも面倒なので、そのサイケデリックなデザインはそのままにして使
用しつづけていたが、それが間違いの元だったのである。

    野良地教授のバラード 第四話:野良理教授のバイコロジー(つづく)





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