#176/1850 CFM「空中分解」
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森 (遠い国の話し) 風
★内容
その国には森があった。大きな森であった。いつから、その森があるのか、誰も
知らなかったし、知ろうとも思わなかった。彼が来るまでは。
彼の名を誰も知らなかった。多分、最初から名前などなかったのだろう。彼はい
つも彼であった。それ以外の名前はなかった。
彼は尋ねた。「いつから、この森はここにあるのか。」
誰も答えなかったし、答えようとも思わなかった。それに、例え答えたいと思っ
ても、答えられなかった。
それでも、一人の娘が彼に答えた。「昔から」
彼はしつこく尋ねた。「どれぐらい昔から」
娘は答えた。「ずっと、ずっと昔から。私のお婆さんのそのまたお婆さんの時代
から。」
更に彼は尋ねた、「そのまたお婆さんの時代には。」
娘は怒った。人々は去った。一人の少年が残った。
少年は言った。「森へ行けば分かるよ。」
彼は森へ向かった。少年も後をつけた。道は一本しかなかった。畠には麦が実っ
ていた。森は緑だった。
彼は黙っていた。少年は喋った。何を喋っているのか、彼は聞いていなかった。
少年も黙った。少年は彼の前に出た。
彼と少年は森の奥へ入った。森の中は明るかった。彼は不思議に思った。しかし
少年は当然という顔をしていた。
夜になった。彼は古木の根元で寝た。少年も寝た。少年は家へ帰らなかった。し
かし、それは彼には関係のないことだった。
朝になると彼は再び歩き出した。少年も一緒に歩いた。彼は何も荷物を持ってい
なかった。少年も何も持っていなかった。
昼になった。森の中でどうやって朝と昼の区別がついたのか分からないが、とに
かく昼になった。食べ物はなかった。
彼は歩き続けた。少年は立ち止まった。彼も止まった。
少年は言った。「森に着いた。」
彼は知った、いつから、ここに森があるかを。
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