AWC 「彼からの手紙」(ある医師の日記より) 2 フウ


        
#165/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (XBA     )  87/ 4/ 3  14: 8  ( 69)
「彼からの手紙」(ある医師の日記より)  2      フウ
★内容
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2日

  彼は泊まった。予想、と言うよりも期待していたことだ。
  しかし、本当に彼だろうか。3年前とは似てもにつかない。でも、確かに、話し
の辻褄も合っているし。背だって、縮んだんならともかく、伸びたんだ。可笑しな
ことではない。それに、3年前とちっとも違っていなかった。
  だが、違わないことが可笑しいんだ。外見はあんなに変わっているのだから、中
身だけ昔のままと言うのは。考え過ぎだろうか。

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3日

  彼は帰った。どうも、気に掛かる。やはり、別人だったのだろうか。私はてっき
り、あのことの決着をつけに来たのだと思っていたが。どうやら、違っていたらし
い。
  だが、奴のことはばれてしまったらしい。彼は敏感だから。隠し切れるとは思っ
ていなかったし、覚悟はできている。
  明日、奴を迎えに行こう。おとなしくしていただろうか。どうせ、拗ねているの
だろう。電話もするな、と言っておいたから。
  ご褒美に何か買ってやった方がいいだろう。

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10日

  彼から手紙が来た。だが、ここには書けない。燃やしてしまった。
  どうやら、悪い方向へ話しが動き出している。最悪ではないが、良い話しでもな
い。やはり、あの時、はっきりと縁を切るべきだったか。
  奴はうまく説得できるだろう。
  法的にも問題はない。
  ただ、後は、ゴシップと、何よりも私の心の問題がある。
  どちらを選ぶか。こんなことは分かり切ったことだ。過去と現在とでは比較にな
らない。しかし、彼は本当に過去なのだろうか。

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11日

  奴には手こずらされた。だが、いつものことだ。明日には、けろりとしているだ
ろう。
  さて、彼の身辺調査を頼んでおいたが、どれだけ期待できるか。

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25日

  役立たずにもほどがある。2週間掛かって、分かったことは、住所不定で無職、
極めて多彩な交際関係と行動範囲が広いこと。それに、誰かの資金援助を受けてい
るらしいこと。
  だから、何だと言うんだ。こんなもん。役立たずめ。
  まあ、いい。しかし、誰が資金援助を。彼の財産は確かに莫大だが、私が管理し
ているんだ。一円も減ってはいない。
  うかつだった。減ってはいないんだ。彼はこの3年間物乞いでもしていたのだろ
うか。いくらでも使える金に手をつけずに豪遊ができる訳がないのに。
  私はてっきり、地道に暮らしていると思っていたが。
  彼のこの3年間の過去を調べても良いだろうか。契約違反だが。

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26日

  考えてみれば、私は彼のことをほとんど知らない。知っているのは、3年前の彼
だけだ。その前の17年間も、その後の3年間も知らない。
  私は、意外と間抜けらしい。彼と一緒に暮らした1年間しか彼を知らないんだ。
  奴の質問にもほとんど答えられなかった。どうやら、話しは難しくなりそうだ。
正直に話してもうまくいきそうにもない。
  来月になれば、また手紙が来るだろう。それから、考えることにしよう。

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                                                          つづく
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