#129/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (ZKF ) 87/ 2/20 14:13 ( 64)
「ウイスキー」 山辺馬鹿人
★内容
「久し振りに、どうだい ?」
長山に呼ばれた私は、彼を訪ねることにした。
彼は、いつものようにウイスキーで私をでむかえてくれた。
「このウイスキーにはねぇ・・・」
彼は、飲みだすといつも話しをするのだった。
「きれいな娘さんがね・・・ そう、いつだって笑ってた・・・」
少し変だった。彼が女の話しをするなんて。
彼は、このとしになっても落ち着こうとしない。女嫌いなのである。
「ところがね、あれは・・・ あれは、10年前の晴れた日だった。
いつものようにその娘にあったんだよ。ところが、その日に限って暗い顔をしてるんだ。おれは、『変だな。』 と思ったね。で、聞いてみたんだ。
『何か、あったんですか ?』 なんて・・・ うむ、ちょっと惚れてたしね・・・」
なんだ、初恋の話しか・・・ と、私は思った。ところが・・・
「彼女、何て言ったと思う ? 『私、死ぬんです。』 なんて言ったんだ。
おれゃびっくりして、『どうして ? どうして死ぬんですか。御病気でも・・・』
そこまで言ったとき・・・ なんと彼女が、おれの方にたおれてきたんだよ。
だきかかえてみると、
もう彼女は、死んでいたんだ・・・
おれゃもう必死で彼女の家に走った。『お嬢さんが・・・ お嬢さんが・・・』
なんて叫びながら、家に駆けこんだんだよ。」
これだっ!! これである。いつも彼のはなしはミステリアスなのだ。
「ところが、驚くじゃないか。家じゃパーティーの真っ最中だったよ。
娘の姿をみた親父さんなんて、
『さあさあ祝いだ、酒を飲んでくれ!!』 なんて、言いだすんだ。
おれは頭が変になりそうだった。きっと、何かあるんだなって思ったよ。
すると親父さんは、こんな話しをしだしたんだよ・・・」
彼は、私がウイスキーを飲みほすのを見て 「もう一杯いるかね。」 と聞いてから、つづけた。
「『娘は、死んだんじゃないんだ。あいつは、旅にでたんだよ。
あいつは、あんたに惚れていた。それで、あんたを試す旅にでたわけだ。
10年間、あんたが他の女のひとに惚れなかったら、娘がまた戻ってこれるように
このウイスキーに呪いをかけてね。
今のままの、若い娘としてね・・・ どうだね、あんた』
おれは馬鹿々々しいと思ったんだが、その呪いの効果はてきめんだったよ。
女を好きになれなくなってしまったんだ。
どうしても好きになれない。
で、10年間、呪いのとけるのを待った。
え ? 娘の呪いのとける方法かい ?
それはね・・・ それはこのウイスキーを、10年たったら誰にでもいい。誰にでもいいから、女に飲ませればいいんだ。そうすればその女が死んで、彼女がまた戻ってくる。
おもしろいね。
あんたが、おれが選んだ女ってわけだよ・・・ 」