AWC   「夢」        山辺馬鹿人


        
#124/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (ZKF     )  87/ 2/16  17:32  ( 56)
  「夢」        山辺馬鹿人
★内容

 彼は今、とても冷静になれる気分ではなかった。
就職は希望どおりの大企業に決まり前途揚々の彼にとって、今日という日の大切さは計り知れない。
そう、卒業をかけた英語の試験があと30分後にせまっている。彼は、大学への坂道を急いでいるのだった。

  今日は、坂を下ってくる若者の姿がいつもより多いようだ。

「何か、あったかな ・・・ そうそう、今日は入試の発表や ・・・」

  自分自身の4年前を思い出してつぶやくと、あの日のことが目の前にありありと浮か
できた。

「あんなコピー屋あのころにはなかったなぁ。そうや、あっこでかわいいねーちゃんが、わあわあ泣いとった・・・ そや、藤井が『おまえの番号あったでぇ!!』いうてくれたんや。あの、パン屋の前で・・・ あれっ、あそこにおるの藤井や・・・」

 パン屋の前には、親友の藤井がたっていた。

「まいどっ!!」

なぜか藤井は悲しい目をしていた。そして、こうつぶやいたのである。

     「おまえの番号なかったで・・・」

「おまえ、なにゆうとんねんや・・・わしゃ今日は合格発表に来たんやないでぇ・・・」
     「おまえこそ、何ゆうとる。夢でもみとんとちゃうか ?」

 夢 ・・・ なにやら胸騒ぎがしてきた ・・・ 今までの4年間はもしかしたら夢やったんとちゃうやろか ・・・

 彼は駆け出した。

「受験番号、何番やったかな ? そやそや 3358 や ・・・・」

正門を入って、左にまがる・・・ 白鳥がおよぐ池の前・・・ 掲示版だ・・・

「えぇぇっと・・・ 3200・・・ 3300・・・ 3350・・・ 3354・・・ 3360・・・ んっ!! ・・・ 3354・・・ 3360・・・・・
 ないっ!! わしの番号ないやないかっ!! ・・・・・・  」



 彼は大声をあげて・・・ 目が覚めた。

「ん ? ここはどこや ??」

そこは、教室だった。
英語の試験はいまにも終わろうとしている。
彼の前には白紙の答案があった。

彼は気付いた。

「3358番って・・・ 就職試験の番号やったんや ・・・」




前のメッセージ 次のメッセージ 
「CFM「空中分解」」一覧 山辺馬鹿人の作品
修正・削除する コメントを書く 


オプション検索 利用者登録 アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE