#108/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (KUC ) 87/ 2/ 8 14:41 ( 95)
「透き徹ったガラスの向こう...」 File #2
★内容
して。エスケープシークェンスでやってみる」
「ちょっと、それ、犯罪よ。いいの? そーゆうことしちゃって。でも、おもし
ろそー、まってて、やっちゃうから」
ミムは、おもしろがって協力した。
「データを送るから、そっちのバブルメモリーのファイルをオープンしてくれ」
「パラメーターは?」
ミムの協力でささやかな犯罪が成立した。
「ファイル名はMSにしたからね」
「MSかぁ。なんとなくSMみたいで、やらしーわね。いったいどーゆう意味な
の?」
「Mはミムの頭文字、Sは僕の頭文字さ」
「やだぁー。なんでそーなるの。私は、オジサンとは何の関係もありませんから
ね」
「別にそういう意味じゃ」
「ならいいわ。それじゃ、バイバイ。気がむいたら、またかけるわね。さよなら」
「うん。今度はちゃんと服着てね」
「たく、もう、それっきゃ、頭にないんだから」
「いやー、かぜでもひいたら困るだろうと思って」
「落ちこぼれのバカは、かぜなんかひかないの。オジサン、からむ気?」
「からまない、からまない」
「それじゃあね。いいわね」
「はい」
それがふたりの犯罪の始まりだった。ミムは、それからも、たびたび電話して
きた。
地球でいえば高校生の彼女は、苦手な数学や科学などの学科について尋ねてき
たのだ。
もともと、地球人より知能指数の高いフェラス人の彼女は、覚えがよかった。
地球語を完全にマスターしているぐらいだから、別に不思議はないが、それにし
てもすばらしい理解力だ。
これでよく地球の科学力がフェラスにたちうちできるものだ。
もっとも、フェラス人の知能指数が平均して高いのに対して、地球人のは個人
差が大きく、突然変異的超天才もいるのだから、うなずけないわけでもない。
八十六光年の隔たりのあるふたりの非合法な通話は、それからも続いた。商用
回線や政府間回線に混じって密かに、時空を超えて、ふたりの声は、暗黒の宇宙
を駆けめぐった。
「御機嫌いかが? 今日の御気分は?」
彼女は、決まってこの夕暮れ時にかけてきた。地球の紅い夕陽を見るのが好き
なのだ。
「最低と言いたいところだが、君が美しいから最高!」
「とぅぉーぜんよ。ところで、今日は夕陽、見せてくれないの?」
「まったそれ、あんなもんのどっこがいいんだ。今日はそれより、君をびっくり
させるもんがあるんだ」
「あんなもんとは、御挨拶ね。紅い夕陽は、私の緑色の髪を美しく、演出するの
よ。夕陽を背に、私の髪が揺らぐの」
「メロドラマの主人公じゃあるまいし、なぁーにが、チョメチョメ。しかし、よ
くまあ、時差があるというのに、この時間に、いっつもいつも、かけてこれるも
んだ。学校の授業時間とかさならないのか」
「地球の公転、自転周期から日没の時間を算出するぐらい簡単よ。それに、おか
げさまでティーチングコンピュータをごまかすぐらいの事は、わけないわ」
「そりゃいかん。まずいよ」
「何言ってんの。非合法は、お互いさま。それより、びっくりさせるって、なぁ
に?」
「うん、それだが、その前に、この前の復習から。まずは、ホログラフィクマッ
プ(立体地図)のレーザーディスプレイ干渉変調回路をメインコンピュータに継
ないで、それから三色レーザーに切断用パワーレーザーのブースターを付加して
くれ。もちろん、コンピュータはターミナルモードにする」
「いったい、何を始めようというの?」
「いいから、言うとおりにしてくれ。次は、ホームキープシステムのマニピュレ
ーターをコンピュータに継なげば、後はこっちから操作する」
「だめよ。ホームキープシステムのマニピュレーターは、マザーマシンじゃない
から、精密な機械の工作は無理よ」
「まあ、いいから僕にまかせて」
ミムは、間違いなく機械を継ないだ。マニピュレーターの動きを、目をまある
くして見つめるミム。
やがて、あるシステムが完成した。
「なぁにぃー、この霧は?」
「いや、ちょっと待ってくれ。2D回線で3D情報を送るには、データ圧縮に不
足データのランダム補正と、まあ、いろいろと大変でね。時間もかかるし、ほら、
はっきりしてきただろ」
目の前にくりひろげられた、雄大な風景に驚くミム。地平線のかなたに夕陽が
没む。
大平原に舞う土煙。真赤な夕焼け。
「これが本当の地球の日没だ。超高層ビルの谷間に没むひなびた太陽とは、わけ
が違う」
「わあー、きれい。地球の景色ね。でも、なんか変ねェ。そーよ。さかさまなん
だわ。あまのくじゃく、いいえ、あまのじゃく、あまのはしだて、えーと、何で
もいいわ。今、地球語データ・ベースは使えませんよね。とにかく、さかさまな
のよね」
「いっけねぇー。ごめん、ごめん。今直す」
「ドジな先生。それでも、センセッ?」
「ヨォー言うわ。好きで貴女のセンセやってるわけじゃないでしょーが。ったく、
もう」
「あら、おじさんでも傷つくことあるのね」
「そう、傷ついた。傷ついた」
「きゃわぃいーぼーや、いい子、いー子ね」
「あのなぁー」
「まあー、きれい、きれ。美しいわ。この景色すばらしいわ」
「もう、負けるわ、貴女には」
「なあに。急にマジになったりして。熱でもあるの」
「あのなぁー、貴女が真剣な顔してたから」
「そぉーかしら、私はいたって、非理性的な落ちこぼれよ」
「いいや。貴女は美しい。それに落ちこぼれなんかじゃない」
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