AWC 「透き徹ったガラスの向こう...」 File #1


        
#107/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (KUC     )  87/ 2/ 8  14:38  ( 96)
「透き徹ったガラスの向こう...」 File #1
★内容

    透き徹ったガラスの向こう...        橋詰流亜

 透明なガラスの向こうに彼女がいる。透き徹った壁の向こうに彼女がいる。
 そっと手を差し出せば、すぐにとどきそうなのに、透明な壁は冷たく輝くばか
りだ。
 彼女がガラスだと言うのだから、やはりガラスなのだろう。でも、本当はガラ
スなんかじゃない。透き徹っていても、それには壊れやすく繊細なガラスの心な
んかない。
 それは、強化プラスチックよりさらに強力な透明セラミックの壁だった。ハン
マーでぶったたいたって、びくともしない壁だった。
 いや、たとえ壊せたとしても、どうにもならないのだ。それは、永遠に溶けぬ
氷の壁だった。たったひとつの救いは、彼女の美しい
姿、そして、笑み。
 彼女と初めて会ったのは、テレビ電話のディスプレイパネルでのことだった。
 突然かかってきた電話が、僕の単調な毎日を変えてしまったのだ。
「ファミーミョ、レレ、シーメ、シャーム、ティシラ、セセキューレ、セラ」
 よそ見をしながら、彼女は言った。彼女は全裸だった。彼女は濡れていた。水
滴が彼女の肌の上で輝いていた。ふと、目が合った。
彼女の表情に驚きが見えた。
「フィー! あっ、ごめんなさい。間違えちゃった。セラじゃないのね。あなた
誰?。地球人ね」
「ちょっとまて、君は?、セラって?」
「私、ミム。セラは私の友達よ。もちろん女よ。クラスメートなの」
「僕は修司」
「しゅうじぃー?、あっ、そかそか、コロイド状の炭素水溶液で字を書くあれね。
習字でしょ。あらー、違ったかなぁ」
「ハハハ、違うよ。それより、あのォー、そのねェー、君の、そのォ、格好なん
とかならないだろうか。そのねー、だから」
「きゃぃーん、きゃぃーん、フフフッ、赤くなったりしちゃってさ、きゃわぃー
い」
 ミムは、あっけらかんとしていた。かわいい乳房をプルンプルンふるわせて笑
った。
「あらぁー、地球の男の人って、女の子の裸を見るの好きじゃなかったかしら。
それとも地球の女の子は、お着物を着てお風呂へ入るのかしらねェー」
「風呂から電話するバカがあるか、しかも、間違い電話」
「あら、お風呂からじゃないわ。今、お風呂から出たところよ」
「それなら、タオルか何かで隠せばいいだろが」
「それは、タテマエよね。ホンネは、ドォーなのかしらねェー」
「ヘ理屈こねたり、恥じらいのない女は、嫌らわれるぞ」
「オーきなおせわよ。地球人っていつもそーなんだから」
「まあ、まあ、そう怒らずに。ところで、君は見たところフェラス星人だね。さ
すがに科学の発達したフェラスだけのことはある。リアルタイムのトランスレー
ター(翻訳機)にしては、すばらしい感情表現だ」
「いいえ、トランスレーターは使っていないわ。私、語学は得意なの。数学、科
学はダメだけど。だから、私、落ちこぼれ。フェラスじゃ、冷静で理性的なのい
いのよね。私みたいに感情的なのは、ダメ。地球はいいわね。
そーゆーことないもの」
「いいことばかりじゃないさ。地球だっていろいろとね」
「イイわよ。地球なら私だって美しく見えるはずだわ。それだけだってイイわ。
フェラスじゃ、だめね。感情を表に出さず、氷のように冷静でなければ、いけな
いんですもの。私には、とてもムリね。フェラスじゃ、私、ブスよ。落ちこぼれ
のブス」
 ため息をつくミム。ミムらしくない。
「そんなことないよ」
「そんなことあるわ。あーあ、私、地球人になりたい。でも無理、フェラス人は、
地球の大気じゃ生きられないものね。それにフェラス人が地球に移住することは、
禁止されていますもの」
 フェラスの大気中に含まれる一酸化炭素が地球人にとって猛毒なように、フェ
ラス人にとっては酸素が猛毒なのだ。
「移住は無理でも、一般人が超時空伝導波回線に割り込んで、フェラス地球回線
を継ないいだんだから、たいしたもんだ」
「バカねェ! 間違いだって言ったでしょ。セラの所へかけたら回線が込んでい
て、なかなか継ながらなかったので、緊急非常通話回線に割り込もうとしてプロ
グラムを変更したら暴走しちゃったのよ。割り込み優先フラグを間違えたのかし
らね。私、どうもメカに弱くて困るのよね」
「フェラス人にしては、めずらしいね。普通は、メカに強いはずなんだけど」
「だから、落ちこぼれだっていったでしょ。たく、もう、何回言わせる気?」
「まあ、そう怒らずに。それにしても、偶然にしろ、超時空伝導波回線の割り込
みプロテクトを解除できたのはすごいじゃないか」
「あら、オジサン、コンピュータ屋さん? それとも、まさか、警察官じゃない
でしょうね。本当に偶然なんだから。嘘じゃないわ。お疑いなら、よく調べてか
らにして」
「おいおい、二十三のお兄さん、つかまえてオジサンはないだろう。心配するな、
警察官なんかじゃないから」
「なら、なにやってんのよ」
「古物商さ」
「古仏か。そう、仏像売ってるわけ」
「まあ、仏像も売るけど、骨董品一般を」
「滑稽品? そんなにおかしいもの?」
「コッケイじゃなくて、こっとう」
「骨盗ね。ホネ盗んでどうするのかしら。あなた、ほんとはお犬さま? そうは
見えませんけどね。そうよ、窃盗の間違いよ」
「今度は盗賊にするつもりかい。古道具屋なんだよ。どーゆう語学センスしてる
んだ」
「えーと、そう骨董、えー、やっぱり、オジンよ。骨董だなんて。オジイサンで
もいいくらいだわ」
「まいったなあ。骨董品といってもメカ中心でね、つまり、古いデバイスを再生
したりして、早い話がジャンク屋」
「なら、早くそう言えばいいのに」
「ところで、せっかく継ながった回線なんだから、プロテクトコードやフラグ、
それにパスワードなんかも調べたんだろうな」
「またぁ、落ちこぼれの私に、そーゆうことできるわけないでしょ」
「それじゃ、こっちで調べるから、そっちのコンピュータをターミナルモードに

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