#44/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (YHB ) 86/11/22 19:12 ( 91)
完壁な新薬 COTTEN
★内容
男は確信した。
あの噂に間違いはない。彼は、鈴木教授は明らかにあの新薬を
完成させたに違いない。これは、俺の泥棒としての、カンでもあ
るのだ。
男は準備を万端整えた。もちろん鈴木教授の研究所に忍び込む
ための準備だ。そしてあの新薬を使いこなすための...。
かねてから、教授が飲んだ人間が透明になってしまうという、
脅威の新薬を作ろうとしている事は、知るひとぞ知るところであ
る。ただそれはまだまだ実用化にはほどとおいという話であった。
しかし、男はついに聞いたのだ。教授が新薬を完成させたと.
..。
もしかしたら、それはただのデマかもしれない。しかし彼の泥
棒としての長年のカンがそれは真実だと告げていた。そして作戦
決行の日は今日の夜...。
夜が来た。
彼は泥棒ルックに身を包み、七つ道具を持って教授の研究所に
忍びこむ。(今どきこんな格好をしている方がよっぽど怪しまれ
るが、彼は長年の習慣を決して改めようとはしない。)
こんな所へ忍び込むのはおてのもの、手慣れた仕種で道具を使
うと、いとも簡単に中へ入る事ができた。
中は真っ暗だ。教授はもう自宅に帰ったのだろうか。
静かに辺りをうかがいながら前へ進む。中は外から見たより、
狭く、そしてみすぼらしかった。
そして、ついに彼は薬品庫に辿りついた。
G−28
彼がまえもって調べておいた、透明になれるという新薬のナン
バ−だ。
G−28..G−28..G−...G...。
あった!!
そのビンには間違いなく、G−28と書かれたラベルがはって
あった。歓喜に震えながらビンの蓋に手をかける。そして、口を
つけると...。
「待った! 」
部屋の中が急に明るくなった。部屋の入口には鈴木教授が立っ
ている。
チッ! 彼は心の中で舌打した。いたのか..。しかしここま
でくればもうこっちのものだ。
男は教授にかまわずそれを飲みほそうとした。
「や、やめろ! それはまだ完壁じゃないんだ! それにおまえ
がどうしてもそれを飲むと言うなら、俺は秘密を守るため、おま
えを撃ち殺さねばならんのだ! 」
教授の手にはピストルが握られていた。
教授は顔面蒼白、ひきつった顔に冷汗が流れている。ピストル
を持つ手もこころなしか震えているようだ。
男はピストルを見て一瞬たじろいだかに見えた。しかし彼は不
敵な笑いを浮かべていった。
「撃ち殺すだと? 馬鹿な! 姿の見えなくなった俺をどうやっ
て撃つというんだ。さあ! 撃てるもんなら撃ってみろ! 」
男はそう叫ぶや否やそれを飲みほした。それと同時に、彼は計
画どおりありとあらゆる衣服を脱ぎ捨てた。七つ道具も..。
そして、男は完壁に消えたのである。
彼は自分の手を見ると、消えたことを確信し満足そうにうなず
いた。(もちろん見える筈はないのだが...。)
「どうだ! 消えたぞ! 撃てるもんなら撃て! もうこれで俺
は完壁な泥棒だ! 」
男はそれだけ言うと黙りこんだ。声で居場所を発見されるのを
防ぐためだ。
しかし今度は教授が不敵な笑みを浮かべた。
「泥棒君。君の今日の夕食はカレ−だっただろう? 」
図星であった。彼は教授がなぜそんなことがわかるのか不思議
に思ったが、みつけられてはたまらない。男はひたすら黙ってい
た。
「おまけに君はひどい便秘だろう? その様子じゃ十日は出して
ないな。」
これまた図星だ。少々不気味に思いながらも、彼は黙っていた
「いたしかたない。それでは死んでもらおう。」
そう言うと教授は微塵の迷いも見せずに、銃口をピタリと男に
合わせた。
「なぜだぁっ!! なぜ俺の居場所がわかる?! 」
男はおもわず絶叫した。
銃声がとどろいた──。
そして、悲痛な叫びをあげると、彼は倒れた。即死。(もちろ
ん見える筈もないが...。)
教授は男の死体を見おろしながらつぶやいた。
「馬鹿なやつだ...。この薬を使うにはな。絶食と...こい
つが必要不可欠なのさ。」
教授はそう言うと、イチジクかん腸を握りしめながら部屋の奥
へと消えていった。
そしてそこには...男の死体ならぬ、胃液にまみれたカレ−
ライスの残骸と、十日分の宿便が、痛々しくも転がっているばか
りであった。
<Fin.>
*感想、批評等いただければさいわいです。
そのさいには「フレッシュボイス」によろしく。
もちろん直接メ−ルででもかまいません。
よろしくお願いします。
というわけで
YHB58543 COTTEN SMITHでしたっ!!