#275/1160 ●連載
★タイトル (pot ) 04/05/11 11:46 (195)
alive(8)(18禁) 佐藤水美
★内容
8
夜中に家の階段から落ちた。
担任の教師や伯父夫婦に対して、僕はそう言い続けた。おかしな理由でも、主張
を繰り返していれば、いずれ真実に変わる。疑り深い伯父でさえ、最終的にはそれ
で納得したのだ。
瞬は秘密を完璧に守ってくれた。指示したとおりの台詞をきちんと言い、顔色ひ
とつ変えなかった。逆に、僕のほうがしどろもどろだったくらいだ。
もう一方の当事者である恭一は、家にほとんど寄りつかなくなった。友人の家を
泊まり歩いているらしく、着替えを取りに戻ってきてもすぐに出かけてしまう。僕
と顔を合わせるのも、ひとつ屋根の下で暮らすのも嫌なのだろう。会いたくないの
は僕とて同じだから、かえってちょうどよかった。
2月に入ると早々に、県立Z高校の入試が行われた。僕はその数日前に風邪を引
いてしまい、万全とは言えない体調で臨んだ試験だったが、運良く合格することが
できた。一番喜んでくれたのは、もちろん瞬だ。
そして3月。
恭一は予定より10日あまり早く家を出て、ひとり暮らしを始めた。相川家に残
る子供は、瞬と僕だけになった。
天敵(?)がいなくなり、瞬は堂々と僕の部屋に入るようになった。表情は明る
く、可愛い笑顔を見せてくれる。僕が痛い思いをしたのも、これで報われるという
ものだ。
「来月から高校生だね」
瞬はそう言うと、いつものように僕のベッドに腰掛けた。
「うん。いろいろあったけど、受かってよかったよ」
偽りのない本音だった。瞬の隣に座って細い肩を抱き寄せる。
「メガネ、前のやつより今のほうがいいね。似合ってる」
「はは、ありがとう」
前のメガネが恭一に壊された後、急いで新調したものだ。プラスチックレンズと
銀色の細いメタルフレームという平凡な組み合わせなのだが、これをかけると何と
なく秀才っぽく見える。
「あのさ……訊いてもいいかな?」
「ん? 別にかまわないけど」
「怒らない?」
「そんなこと言われると、緊張するなあ。いったい何が訊きたいの?」
「ねえ、絶対怒らないって約束して」
瞬が何を訊きたいのか見当もつかなかった。
「わかった。絶対怒らない」
僕はそう断言すると、従弟の顎を持ち上げて柔らかい唇に軽くキスをした。
「恭一と喧嘩した夜のこと、覚えてるよね?」
瞬はあの夜から、恭一を「おにいちゃん」とは呼ばなくなっていた。こちらの表
情をうかがうように見て、小さなため息を吐く。
「うん。でも僕としては、一日も早く忘れたいな」
「もしあのとき、僕が来なかったら……幹にいちゃんは、恭一の奴と……」
握りしめた拳が膝の上で震えている。瞬が何を言いたいのか、すぐにわかった。
「そんなことになるわけないでしょ」
「だって……」
「僕が好きなのは瞬だけだよ。何度も言ったはずだけど」
「じゃあ……抱いてよ」
瞬は立ち上がったかと思うと、目の前でいきなりトレーナーとジーンズを脱いだ。
呆然とする僕を尻目に、下着まで剥ぎ取ってしまう。
体毛の薄い、華奢な子供の身体。瞬の裸は子供の頃から見慣れているはずなのに、
心臓がやけにドキドキする。ヘアの生えていない股間を見ると、ソーセージみたい
な形をしたペニスが、一人前に勃起していた。
男とやるのって、どんな感じ?
恭一の言葉が、頭の中でこだまする。
違う。何かが、違う。
「ちょ、ちょっと待て、瞬!」
我に返った僕は、慌てて瞬の下着と服を拾い上げた。
「服……着ろよ。風邪ひくぞ」
「どうして……? 僕のこと、好きだって言ったのに」
「好きだよ」
僕のひと言に傷ついたように、瞬の顔が歪む。
今感じている自分の気持ちを、どう表現すればいいのだろう。どんな言葉を選ん
だら、瞬は理解してくれるのか。
「好きだから、今は……」
「……わかったよ」
瞬は目を潤ませて言うなり、裸のままドアのほうへ行こうとした。
「瞬!」
服を放り出し、従弟の細い手首をつかまえて引き戻す。
「離せっ、離せよ! 僕なんか、どうでもいいんだろっ!」
こちらの手を振り解こうとして、何度も身をよじる。
「どうでもよくないっ!」
僕は強く言い返し、暴れる瞬をきつく抱きしめた。こわばっていた身体から、力
が次第に抜けていく。
「幹……にい……」
瞬の声が、すすり泣きに変わる。
「うまく言えないんだけど……、僕にとって瞬は……すごく大切な存在なんだ。世
界でたったひとつの宝物だから……もっと自分を大事にして欲しい」
僕は瞬の頭を撫でながら、耳元でささやいた。その言葉は決して嘘じゃないけれ
ど、別の面から見れば、僕自身がやっていることとは明らかに矛盾している。
恥を忍んで告白すれば……僕は怖じ気づいたのだ。ストレートに想いをぶつけて
くる瞬に応えるためには、セックスをするしかない。でも、どうやって?
瞬が熱い息を吐く。心臓の鼓動がまた早くなる。迷いとは裏腹に、もうひとりの
僕は欲望に忠実になれと言う。
瞬が好きか? 好きだ。
瞬とやりたいか? ……やりたい。
「でも……でも……寂しいよ」
「瞬」
僕は従弟の顎を持ち上げ、覆い被さるようにキスをした。柔らかい唇を思う存分
しゃぶってから、舌を滑り込ませる。前歯をなめてやると、瞬は自ら歯列を割って
僕を迎え入れた。
欲望の走るまま、僕たちはレスリングをするみたいに互いの舌を絡ませ合う。そ
こにはもう、ためらいも恥じらいも存在しない。
「……んっ」
微かな、瞬の声。
僕は小さな舌をなめ回しながら、片方の手で瞬の股間に触れた。ぴくぴくとする
ペニスを手の中に収め、ゆっくりと上下に動かしていく。従弟の息づかいが、さら
に荒くなる。
「はあっ……!」
瞬はふいに身体をのけぞらせた。顔を切なげに歪め、きつく閉じた目には涙が滲
んでいる。
「……いや?」
そう問いかける僕の息も、興奮のあまり弾んでいた。トランクスの中で、僕のペ
ニスも硬さを増しながら勃起している。湿った感触があるのは、先走りが出たせい
だ。保たないかもしれない。
「ちが……う……」
瞬はいやいやをするように首を振ったかと思うと、僕にむしゃぶりついてくる。
「ベッド……行くよ……」
僕は瞬の身体を抱き上げて、ベッドに運んだ。仰向けに寝かせ、膝を立てた足を
大きく左右に開く。ペニスは包皮が下がり、鮮やかなピンク色をした亀頭を露出し
ている。思わずそこにキスをすると、瞬が可愛い声を出した。
ああ、もうどうなったってかまうもんか。
素早く服を脱ぎ捨てて全裸になる。充血し、いきり立った僕自身は自らの出す粘
液に濡れている。
僕は瞬の上に乗って、愛しい唇を再び貪った。密着した胸と胸が、互いの激しい
鼓動を伝えてくる。
瞬、君が欲しい。
耳たぶを甘噛みし、続いて華奢な首筋に唇を這わせる。
「幹……あっ……」
喘ぎ声を聞きながら、乳首を舌で転がし、滑らかな肌を何度も吸う。そして僕は
最後に幼いペニスを口の中に含んだ。こんなことするのは初めてだけれど、どこを
刺激すれば気持ちがよくなるのかは……知っているつもりだ。特にカリ首のあたり
を念入りに、しゃぶるようになめていく。
「……ううっ」
瞬の身体が震えるのがわかる。足に力が入って閉じようとするのを、僕は両手で
押さえつけた。ペニスが口の中で膨らみを増す。
「な、なんか……出そう……」
それでいいんだよ。
僕は瞬自身を愛撫しながら、指先でそっとアヌスに触れた。固く閉じていたそれ
は、わずかな刺激にも反応してさらにすぼまってしまう。
入れるとしたら、ここしかないけど……無理だよね?
僕は仕方なく自分の股間に手を伸ばした。自慰でも何でもいい、こっちも処理し
てやらないと、爆発しそうだ。
「あっ……ああっ!」
瞬が突然叫び声を上げる。少量だが、口の中に粘液が放出されるのを感じた。僕
は喉に流れてくるものを、余すところなく飲み込んだ。花が枯れるように、ペニス
がしおれていく。
「今の……やつ……」
瞬が、かすれ声で言う。
「何? ああ、あれ……出したの、初めて?」
「……うん」
会話しながらも、僕の視線は自分の股間に注がれていた。身体を起こし、カチカ
チになったペニスを慣れた手つきで刺激する。
「僕の……全部飲んだの?」
「飲んだ」
僕はぶっきらぼうに答えると、瞬に背を向けた。膝を立てて両足を開き、脱いだ
トランクスをティッシュ代わりに引き寄せておく。
「幹にい」
いつの間にか、「ちゃん」がとれてなくなっている。瞬が起き上がったらしく、
ベッドが少し動いた。
「はあ……何?」
「どうしたの? 何してるの?」
「別に……」
瞬、頼むから話しかけないでくれ。
妙な喘ぎ声を漏らさぬよう、奥歯を食いしばって耐える。
「幹にい、大好き」
瞬が後ろから抱きついてくる。柔らかい唇を首筋に這わせ、耳たぶをなめながら
熱い息を吐く。敏感になっている身体が、その刺激に反応しないはずがない。
「うっ!」
股間を覆う暇もなかった。ペニスの先端から精液が勢いよく噴出して、掛け布団
に飛び散ってしまう。快感と、やっちゃったという思いが交錯し、僕は思わずため
息を吐いた。心臓がまだドキドキしている。
「瞬、ティッシュ取って」
「え?」
「ティッシュだよ、そのへんにあるだろ」
「ちょっと待って、ええと……あった」
差し出されたティッシュを受け取り、萎えたペニスを拭く。掛け布団のほうは、
拭くだけでは済みそうになかった。自分のしたこととはいえ、頭が痛い。
「幹にい、今日はここで寝てもいいでしょ?」
瞬が甘ったれた声を出す。
「駄目、自分の部屋に戻って寝ろ」
僕は振り向きもせず、即座に言い放った。トランクスをはき、パーカーを着る。
朝まで一緒に寝よう。
そう言えたら、どんなにいいか。
「何で? 何で駄目なの?」
「明日は終業式で学校に行くんだろ?」
「そうだけど、でも……」
「朝になって伯母さんが瞬を起こしにきたとき、部屋にいなかったらおかしいじゃ
ないか」
僕はジャージをはきながら、そっけなく言った。ベッドから下り、脱ぎ捨てられ
たままになっている瞬の下着と服を拾う。
「早く着ろよ」
顔を背けたまま、服のかたまりを瞬のいるほうに投げた。
「……わかった」
従弟の声は沈んでいる。
僕は窓際に立って、カーテンを半分開けた。暗い窓ガラスに室内が映る。瞬がと
きどき目のあたりをこすりながら、服を着ている様子が目に入った。
ごめんね、瞬。
胸が苦しかった。カーテンを引いて、瞬の姿を消す。
「幹にい、おやすみ……」
ドアの閉まる音を背中で聞いた。
to be continued