AWC 短編



#1328/1336 短編
★タイトル (SGH     )  01/09/09  22:46  ( 43)
毒舌ニュース9/9号   沖田珂甫
★内容
 『放置プレーの次は縛り!<Yahoo! BB』

 公称最大速度8Mbpsを歌い文句にブロードバンド事業に
参入したYahoo! BBだが、9/6以降の新規申込者には従来の

「放置プレー」に加えて「一年間の縛り」

サービスを提供することを(ひっそりと)表明した。

 「低料金」と「高速な転送速度(あくまでも最大値)」を看
板に掲げてユーザーを魅了する一方で、大々的な「放置プレー」
を展開していたが、今回の「縛り」に関しては否定的な意見し
か出てきていない。

 20年近い歴史を誇る『大きな耳たぶ』(仮名)では

「前回の放置プレーについては拙いながらも評価するが、今の
段階で縛りに移行するのは時期尚早。そもそも放置プレーの醍
醐味は奴隷に『ご主人様(女王様)、早く!』と“おねだり”
させることなのだが、今ひとつ不十分だった。
長期間の縛り(緊縛プレー)の場合、奴隷に『ご主人様(女王
様)無しではいられない』という意識が不可欠だが、他店で同
様のサービス開始のアナウンスが矢継ぎ早に出されている現状
では客離れを促すだけ。損氏はSMというものを全く理解でき
ていない。
まぁ、会員制の店を切り盛りするだけの器量じゃなかったとい
うことかな。例えるならば損氏は、せいぜいぼったくりキャッ
チバーの客引き程度がお似合い」

と辛らつな評価を下している。

 このコメントに代表されるように、風俗業界では損氏の株は
急下降しており、

「そもそも損氏の顔は“ご主人様”と言うには...」
「やはり女王様でないと...」

などと、やや見当外れのコメントまでもが飛び交っている。

 なお、この情報が某掲示板を中心に流れてから、2日間でキャ
ンセルが1万人弱出た模様。これは現在の奴隷... もとい、開
通済みのユーザーの25%に相当する人数で、開通待ち奴隷...
もとい、申込者(Yahoo! BB発表)の2%に相当する。



#1329/1336 短編
★タイトル (VBN     )  01/09/11  23:47  (150)
「俺は時計の中」    時 貴斗
★内容
 俺は時計の中にいる。巨大で、なおかつ高級なやつだ。縁の部分で、
走っている。文字盤とガラスの間にはさまれている。幅は一メートルほ
どだ。笑わないでほしい。だってみんな同じようなもんだろ? 口から
出た途端に、胴の中に戻ってしまうクラインの壷とか、たたくたびにビ
スケットが二倍に増えていくポケットの内側とか、どうせそんな所にい
るんだろ?
 ほうら! も一つたたくとビスケットが千二十四。
 も一つたたくとビスケットが二千四十八。
 足元の床はリング状で、俺が向いているのとは反対方向に、ずっと動
いている。ベルトコンベアーみたいによ。だから、俺は走り続けなけれ
ばならない。少しでも休めば、上に押し上げられ、転がり落ちてしまう。
 まるでかごの中のハムスターだ。丸いやつの中、走ってるだろ? あ
れ、名前なんて言うんだっけ。あの丸いやつ。まあ、どうだっていい。
 ガラス板の外で、監督が怖い顔をしてにらみつけている。俺が休まな
いように、見張っているんだ。
 俺は気を紛らわせるためにいろんなことを想像する。あっ、思い浮か
んだぞ。ドミノ倒しをするんだよ。こう、北極点から始めてな、渦を巻
くように並べていくんだ。で、延々続けてだな、やがて南極に到達する
んだ。すげえぜ、こりゃ。地球はドミノで真っ黒に埋め尽くされるんだ
よ。飛行機で北極に戻って最初に置いたやつを指でちょん、と突く。長
いながーい時間をかけて、そいつらが倒れていくんだ。最後まで行った
ら感動もんだぜ。その直後に地球が爆発してなくなったっていいくらい
だ。
 問題なのは、表面にいる人間とか、その他の動物とか、林とか建物だ
な。意外にでこぼこしてやがる。どうやって並べるんだよ! とりあえ
ず、動いているものをなんとかしなきゃなんねえな。時間を止めるか。
 時間を止める、か。くそ! この時計、止まってくんねえかな。
 あ、海もあるぞ。ドミノって、浮いていられるのかな。人間が大丈夫
なんだから平気だろ。でも立てられねえな。だめだこりゃ。
 はーあ。俺っていつからここにいるんだろうな。生まれた時からこう
してるんなら、クラインの壷とか、北極とか、知るわけねえな。昔、豆
腐の角に頭をぶつけたら、どうなるんだろうなんて、くっだらねえこと
考えてさ。本当に豆腐の角に頭をぶつけてみて、その途端にここに来た
んだっけかな。覚えてねえや。
 監督が鞭をふりやがった。でもガラスでさえぎられているから平気だ。
 朝七時を過ぎても、飯が食えねえ。十二時になっても、昼食はねえ。
三時になっても、おやつはねえ。――食うことばっかりだな。
 パソコンがなくても、テレビがなくても、生きてはいける。でも、お
まんまは必要だな。
 夜の十一時、十二時を過ぎても眠ることはできねえ。
 じゃあ、俺っていったいどうやって生きているんだ?
 あの長針につかまりてえ。そしたら、足を休めることができる。
 分針は動きが速そうだな。時針の方が楽だ。秒針は無い。
 ――部屋の中が洋服ダンスだらけだったら、どうしようか。正確に、
縦横に整列しているんだ。扉が観音開きになっていて、棒があって、そ
れにハンガーで服を掛けるタイプのものだ。俺はそのうちの一つを開け
る。中にはズボンばかり吊るされているんだ。これじゃないな、と思い、
次のを見る。パジャマがたくさんある。これでもない。次のやつには背
広だけが、次のやつにはTシャツだけが吊られているんだ。これかな?
違う。これかな? 違う。そしてついに、探していたものを見つけるん
だ。タンスの中に、一回り小さいタンスが入っている。それを開けると
またタンスが、それを開けるとまたタンスが……。
 で、最後のやつはもう、靴を売る時に入れる箱くらいの大きさしかな
いんだ。そして、それを開けると……わああっ。
 あらゆる悪夢が飛び出してくるんだよ。罪と罰で世界が覆い尽くされ
るんだ。
 ってことは何か? 俺は潜在意識下で、パンドラの箱を求めているの
か? まあ、そうかもしれねえなあ。
 俺の右側はガラス板だからいいが、これがもし時計だったらどうしよ
う。しかも左側の二倍の速さで動いているんだ。時間の流れがふたつあ
るんだ。そしたらもう、どっちが正しいのか分からねえ。
 どう目に映るんだろうな。嫌だな。
 こんなクイズがあったな。内側が全て鏡になっている球の中に入った
ら、どんなふうに見えるか? 答が思い出せねえ。いや、それだってき
っと不快な風景に違いないと思ってさ。
 監督が腕時計を見てやがる。こんなでかいのが目の前にあるのに、な
んでそんなことするんだろ。
「金魚ーえ、きんぎょー」っていう声が聞こえるから、行ってみたら豆
腐売りだったらどうだろう。しかたねえから買って、家に帰って醤油か
けて食ったらいきなり口の中でぴちぴちはねるんだ。あ、中に入ってや
がったのか。そしたらどうするよ。飲んじまうか。で、腹を軽く二、三
度たたいて吐き出すか。そしたら新聞紙を束ねてひもで縛ったやつに変
わってやがんの。どんな口だよ。
 おかしいなーと思ってたら、次の日同じおやじが「さおやー、さおだ
けー」って歌ってんだ。新聞持って文句言いにいったら、「うーん、その
分量だとこれだけだね」ってトイレットペーパー一つ渡されるんだ。ち
り紙交換かよ! って言うかお前、何屋だよ!
 あ、さっきのクイズの答、思い出したぞ。真っ暗で何も見えない、だ。
右が時計の場合も同じだな。ここ、ガラス板ふさがれたら光入ってこな
いからな。
 あーあ、足が疲れる。
 マッチ買いの少女っていうのがいなくて良かったな。貧乏な彼女に謎
の人物Xから与えられた任務は、三時間以内にその辺を歩いている人か
らマッチを買うことだ。Xは非情だ。遂行できなければワニの餌にされ
てしまう。

 マッチを売って下さい。ああ、ああ、おじさん、マッチを売って下さ
い。寒いわ。こごえそう。なぜお店で買ってはいけないのかしら。そし
たらすぐ済むのに。あ、あのおばさんはやさしそう。すみません、マッ
チを売って下さい。ああ、そんな目で見ないで。もう時間がないんです。
なんてこと! あと三十分しかないわ。私、ワニの餌にされてしまうん
です。ああ、行ってしまった。
 あ、あの子マッチをすっているわ。私と同じで、不幸せそう。ねえ、
お願い。私にそのマッチを売って。何かつぶやいているわ。
「おいしそうな鵞鳥」って、私の話、聞いてる? 「きれいなクリスマ
スツリー」って、そんなものないわよ。
 かわいそうに。この子も私と同じで貧乏なんだわ。きっとこのマッチ
を売ろうとして一本も買ってもらえず、寒さと空腹のために幻を見てい
るのだわ。あ、そんなに無駄にすらないで。もったいないわ。なんとい
うこと。今ここに、のどから手が出るほど欲しがっている人間がいるの
に。早く気づいて。
 え? 「おばあちゃん、私も連れていって」って、ちょ、ちょっと、
行っちゃだめ! だめだってば!
 ああ、神様、この子と私にお慈悲を。
 そうだわ。これ、もらうわね。お金、ここに置いておくわね。私急ぐ
から。有難う、有難う。

 ちぇっ、泣けてくらあ。マッチ買いの少女がいなくて本当に良かった。
 あと、モアイとピラミッドがバミューダトライアングルの上に浮いて
いたらすごいぞ。ついでに、その海底にはアトランティス大陸があるん
だ。それぞれの摩訶不思議なパワーが渾然一体となり、とんでもないこ
とになるぞ。そんな所を航空機でも通ろうもんなら、そりゃあもう、間
違い無く消えるね。で、気がついたら火星だな。なんか変だなーと思っ
てよく見たら、表面に人面石がたくさんあって、こっちを見てにやにや
笑ってるんだ。と思ったら次の瞬間には宇宙の果てだね。羽根が生えた
巨大な人がふたりいて、ウェルカム! って顔してんだ。
 油断していたら今度は未来だ。おおお、これは西暦何年に消えたボー
イング何号だ、とか言ってみんな驚くぞ。そいつらは頭がやたらでかく
て、手足は退化して細いんだ。ってことは当然次は過去だな。原始人達
が手を振り回してわめいている。オウ、オウ、オオオウ、オウ、オウ、
オオオウ、ってな。「あれは黒いふくろうの蛇がつかわした、深い闇の鳥
だ」とか、たぶんそんなような事だ。ふくろうの蛇ってこたあねえな。
 その風景がゆがんだかと思うと、いつの間にかやかんの中にいるね。
小さくなっているんだ。航空機が。ものすごく熱いんだよ。煮えたぎる
湯とふたの間に浮いている。もうだめだ、墜落する! その瞬間、ピー
ピー鳴って、家の主が笛の部分を開けるんだ。勢いよく飛び出すね。
 で、何事もなかったかのように出発した空港に戻っている。ところが
乗客、乗務員はみんな三年だけ歳をとってるんだよ。三年っていうのが
微妙だね。白髪の老人になったとかじゃなくてさ。
 ああバカバカしい。ようし、あの長針につかまってやる! しかし、
そんな事をして大丈夫だろうか。監督が俺を見ている。
 グッドタイミングだ。ちょうど長針が下を向いた。つまり俺の真上だ。
やるんだ、やるんだ俺!
 はっはあ! ついに俺は足を休めることに成功した。そのかわり手が
疲れるがな。でも、ハムスターみたいに走りつづけるよりはよほどいい。
 ああ、極楽、極楽。うーんしかし体勢はつらいな。でも、四十五分に
近づくに従って楽になっていく。
 六十分――てことは〇分だな――に達すると、またつらくなった。こ
うして水平、垂直、水平、垂直、楽、苦、楽、苦を繰り返すんだろうな。
 だが、三十分の所に来る頃にはすっかり手がしびれ、落ちてしまった。
 なんてこった。一時間しか休めなかった。待てよ? 短針につかまれ
ば十二時間も休憩できるじゃないか。なんでそんな事に今まで気づかな
かったんだ、俺!
 ああ、神様のおめぐみだろうか。もうすぐ六時ではないか。
 よっしゃあ! 俺はジャンプした。だが、なんという運命の皮肉。

 ちくしょう! 時針は短過ぎてとどきゃしねえ!


<了>



#1330/1336 短編
★タイトル (VBN     )  01/09/11  23:54  (187)
「胃と壷」    時 貴斗
★内容
 トーストを食べながら、私は新聞を読んでいた。その間から一枚のチ
ラシがはらりと落ちた。
 白黒の粗い写真を見た時、私は仰天した。揚台という、名の知られて
いない中国の陶芸家が作った大昔の壷だ。マニアでなければその値打ち
は分からない。百万出してもいいくらいのものが、たったの十万とは!
 まだ売れていないだろうか。ぜひ手に入れたい。
 古物商、別府ゼブルという名前をみつけた時、どこかで聞いたことが
あるな、と思った。私はパンを皿に置いたまま、広告に見入った。
 二十数年前、客の手にやけどをおわせたために引退した手品師だ。売
れっ子ではなかったが、その事件だけは覚えている。同一人物なのだろ
うか。
 明日は土曜日だ。行ってみなくてはなるまい、と思い、私は朝食をほ
ったらかしにして立ち上がった。
 ネクタイをしめる手に自然と力が入る。帰りに銀行に寄るのを忘れな
いようにしなければ。今日は学生達に、無名の芸術家の話でもしてやろ
うか。私の心は踊っていた。


 電車を乗り換えるたびに、風景は田舎になっていった。チラシに載っ
ていた場所は、高木に囲まれた豪邸だった。華やかな舞台から追放され、
今は古物を取り扱い、細々と暮らしている元マジシャンがいるのだから、
雑居ビルの狭いオフィスであるとか、そういう所を想像していただけに、
意外だった。
 自宅で商売をするとはどういうことだろうか。売るというより、自分
が持っている珍しい物を、安価でゆずってやるから取りに来てくれ、と
いった気持ちだろうか。
「あのう、広告を見てきたのですが。揚台の壷をぜひゆずって頂きたく
て」
「いやあ、よくいらっしゃった」
 にこやかに応対する別府ゼブルは、背の高い、がっしりとした体格の
男だった。白髪をオールバックにし、これもまた白い口ひげとあごひげ
をたくわえている。風貌こそ変わっているが、二十年前テレビで見た手
品師と同一人物であった。
「婆や、揚台の壷を持ってきてくれ。一番奥の右端にある、青いやつだ。
あ、それから」私の方に向き直る。「昼食はお済みになりましたか?」
「いえ、まだ」
「少し早いが、お昼にするから、それも持って来てくれ」
 控えていた老女が、一礼して出ていった。
「そんなにしていただかなくても。ただ壷を買いに来ただけなのに」
「いいんですよ。こんな田舎に引っ込んでいると、寂しくてね。店を構
えているわけでもないから、客なんてめったに来ません。あなたは大事
なお客様ですよ」
 そう言って、彼は声をたてて笑った。
「あの、昔手品師をやっていた、別府ゼブルさんではありませんか?」
「ああ、覚えてくれている人がいたとは。有り難いことです。しかし」
彼は急にまじめな表情になり、私の顔をのぞきこむようにした。「手品師
ではありません。魔術師です」
「こ、これは失礼しました」
 思い出した。別府はよく、自分のは手品ではなく、魔法だと言ってい
た。しかしそれほど大げさなものではなく、素人でもトリックを見破れ
そうな、安っぽいマジックだったような気がする。だいぶ前の事だし、
有名でもなかったので、よく覚えていない。
「おや? あなた、腕時計はどうされました?」
「え?」
 見ると、はめていたはずの時計がない。
「あそこですよ」
 指差す先、本棚の上から二段目にそれはあった。
「いやすみません」彼は微笑みながら立ち上がり、その安物を私に返し
た。
「ポケットから出したのなら、手品です。しかし、あなたの目を盗んで
あんな所に置くことなど、不可能ですよ。ではこれはどうです?」
 いつの間にかテーブルの上にワイングラスが二つ、出現していた。深
い赤色の酒が満たされている。
「私には生まれつき、不思議な魔力があるのですよ。トリックなどあり
ません。世間は信じてくれませんでしたけどね」
 別府ゼブルという名は地獄の最高君主、ベルゼブルに似ている。ヘブ
ライ語で「高い館の王」という意味だ。偉大なるソロモン王を連想させ
るために、後にベルゼブブ――「蝿の王」に置き換えられてしまう。
 そんな悪魔をきどっているのだろうか。


 運ばれてきたのは、ステーキだった。まだ昼間だし、あまり強い方で
もないので、酒は遠慮した。テーブルの端に空色の壷が置かれている。
「見事なものですなあ」
「中国を旅していた時に見つけたものです。こんな掘り出し物がその辺
の露店に、ひょい、と飾られていたのですから、びっくりしましたよ」
「ああ、いえ、さっきのやつですよ。ちょっと視線をそらせて、元に戻
すと、もうワインが並んでいる。どうやったのかさっぱり分かりません」
 この二十年の間に、相当腕を上げたようだ。きっと、舞台へのあこが
れが根強く残っているに違いない。
「どうしても手品だと思われてしまうのですね。まあ無理もありません。
常人には理解できないでしょう」
 別府はフォークを一振りした。折れ曲がっていた。
「いやはや、参りました。それだけの手さばきができるようになるまで
には、何年もかかったでしょう?」
 彼の笑顔が、一瞬凍りついたような気がした。
「私がなぜ引退したか、ご存知ですか」
「ええ、確か……」
「客の一人がいちゃもんをつけたんですよ。そんなのは魔術ではない。
そのトリックは、こうで、こうで、こうだと」別府は遠い昔を思い出す
ような目つきをした。「強情な奴でね。素人でもできる手品だと言って、
一歩も引かないんですよ。つい、カッとなってしまいましてね」
 まさか、たかがそれだけの事で?
「そいつを舞台に上げて、こう、手を握りましてね。力が入り過ぎて、
やけどをおわせてしまったんです。いえ、ごく軽いものですよ。ところ
がマスコミが騒ぎ立てましてね」
「でも、水酸化ナトリウムを使うなんて危険ですよね。倫理に反します」
「そんな薬品を使ったのではない。魔術なのだ!」
 別府がいきなりテーブルを叩いたので、びっくりした。
 彼は私を見つめた。口元は笑っているが、目の奥にどす黒くまがまが
しいものを感じ、背筋が冷たくなった。
「大学の先生はおかしなことを言う。しかしあなたの専門は薬学でも化
学でもない。考古学のはずでは?」
 どうしてそんな事が分かるのだ。
「たしか、テレビでそう言っていたのだったか、雑誌で読んだのだった
か」
「素人がよく知りもしないことを言うべきではない」
 少し腹が立った。なぜ手品ではいけないのだ。
「私だって学者のはしくれです。魔術などという非科学的なものを信用
できません。私が大学の教授だと分かったのも、何か特有の動作をした
とか、しゃべり方をしたとか……」
「あなたは、カノプスの壷をご存知ですか?」
 いきなり変な事を言う。
「ええ、古代エジプトでミイラを作る時に使われたものです。遺体の肺
臓、肝臓、胃、小腸をおさめるための、ふたが動物の形をした四つの壷
です」
「さすが考古学者だ。その四つの壷が、ほら、そこに」
 別府は鳥が翼を広げ、はばたくように両腕を動かした。ゆっくりと、
ゆっくりと。
 一瞬、めまいがした。風景が揺れた。と、いつの間にか本でしか見た
ことがないカノプスの壷が、テーブルの上に現れていた。
「偉大なる西の王よ、私の肋骨の細胞四つを捧げるかわりに、この者が
今申した内臓を壷に移したまえ」別府は奇妙な呪文を唱えた。
 まるで夢の中にいるようだった。風景が古い写真のように見えた。
「肺と、肝臓と、胃と小腸でしたかな? 今あなたのを移しました」
「バカな。そんなことがあるはずがない」
「一週間も我慢できないでしょう。あなたは再びここを訪れますよ」
 口中に残る肉の味が、すっかり消え去っていた。


 揚台の壷は、結局買わずに帰ってきた。その後がひどかった。食欲は
あるのだが、腹が満たされない。どんな料理も、あまりうまいと感じな
い。というより、味がよく分からない。なんだか砂をかんでいるようだ
った。呼吸はできるが、胸が苦しく感じる。感じるだけで、実際に苦し
いわけではない。例えて言えば、夏から秋への変わり目だ。気温は下が
りつつあるのに、暑いと思う。むしろ、生ぬるい。寒くもないし、かと
言ってちょうどいい温度というわけでもない。どういう状態だと、はっ
きり決められない。実にもどかしい。
 本当に内臓がなくなってしまったのだろうか。もしそうなら生きては
いない。それとも、食道から先が壷の中の胃につながり、小腸から体内
の大腸に通じているのか。
 三日たち、体重計に乗ると、六キロ減っていた。こんなバカな事があ
るか。
 別府は術をかけたのだ。だが魔法などではない。五日目、ついに私は
たまりかねて、休講にしてもらい、再び彼を訪れた。
「お願いです。催眠を解いて下さい」
「私が言った通りになりましたね。しかし、なぜ催眠術だとお思いで?」
 別府の目がぎらりと光った。
「他に考えようがありますか。いきなり壷が現れたのも、私の体調がお
かしくなったのも、それで説明がつきます」
「悲しいことですなあ。しかし壷は西の王に預けていますし、あなたの
内臓はその中ですよ」
 彼は眉を下げたものの、口元には嫌な笑みが浮かんでいた。
「ええ、ええ、あなたのが魔術だということは認めますから、早く元に
戻して下さい」
 別府は少し考え込んでいたが、立ち上がり、「いいですよ」と言った。
 両の手の平を私にかざし、気を送るように動かす。
「偉大なる西の王よ、私の髪の毛一本と引き換えに、預けた内臓を戻し
たまえ」
 腕をおろし、微笑む。
「これでもう大丈夫です。いや、大人気ないことをしました」
 ――だが、その後も胃腸は治らなかった。呼吸の不快感はなくなった
ものの、食べても食べても、満たされない。腹の中に真っ黒な穴が開い
て、料理が異空間へ放り出されてしまっているような、そんな感じだ。
空腹感はないが、少しずつ痩せていった。なぜなのか。別府は内臓を返
してくれたはずなのに。いやいや、催眠を解いてくれたはずなのに。
 それとも、彼とは関係なく、私は病気ではないのか? もはやそうと
しか考えられない。これは大変だ。明日にでも病院に行かなくては。そ
んなふうに思っていたら、突然別府が来訪したので驚いた。
 とりあえず上がってもらい、妻にチーズと赤ワインを用意するように
言った。
「ああ、お気使いなく。すぐに退散しますから」
「あのう、どうして家が分かったのですか」
 彼はそれには答えなかった。
「今日伺ったのは他でもありません。大変なミスをしてしまいまして」
「カノプスの壷のことですか?」
「そうです、そうです。いやあ、失礼。胃を戻すのを忘れていました」
 と言って別府はまた、意味のよく分からない呪文を唱えた。
「偉大なる西の王よ、私の脳細胞一つと引き換えに、この者に胃を返し
たまえ」
 途端に私の腹は張り、彼と初めて会った時に食べたステーキの味が舌
によみがえり、唾液さえ口中にあふれてくるのだった。
「じゃ、私はこれで」
 薄笑いを浮かべ出て行く彼を、私は呆然と見送った。


<了>



#1331/1336 短編
★タイトル (AZA     )  01/09/30  23:10  (103)
推理クイズ>半分嘘    永山
★内容
<問題>
 A化学工業の開発課ナンバーワンのプレイボーイとして名高い若手社員・財
前満が死んだ。独り暮らしの彼が自宅で倒れているところを、訪ねてきた同僚
の孔雀勝子が発見したのである。
 検視官の女性は調べた結果を次のように報告した。
「死因は毒殺ね。毒は被害者の勤務する会社では容易に手に入る代物だから、
有力な証拠にはならないとみられます。死亡推定時刻は……死んでから二十〜
二十二時間経って発見されたと考えられるわね」
 そして捜査の末、容疑者として次の三人の女性が浮かんだ。
 一人目は孔雀勝子。そう、第一発見者でもある女性だ。彼女は入社直後から
財前と付き合っており、最初はうまくいっていたが、近頃は浮気性の財前に愛
想をつかしていたらしい。清算の意味合いで、殺害の動機ありと見る。
 二人目は、同じく財前の同僚で、少し年のいった玉置三枝子。オールドミス
の範疇に片足を突っ込んだ彼女にとって、財前の甘い言葉は救いに思えたのか
もしれない。その言葉が嘘だと分かったら、好意が殺意に変わっても不思議で
ないだろう。
 三人目は牟田綿子という、ある高級クラブに勤めるホステスで、稼ぎのほと
んどを財前に渡していた。これも結婚を餌に財前が仕掛けた罠だったのだが、
牟田はつい最近まで気付いていないようだった。こちらも動機は充分。
 この三人にはアリバイがない。他にも財前の付き合っていた女性は数多いの
だが、アリバイやら何やらで、容疑の枠から除外されたのだ。
 三人の女性は、警察で次のように証言をした。

孔雀勝子:玉置先輩が付き合ってたからといって、あの人に満さんを殺せるは
    ずないわ。たくさんの女を騙し続けたことの罪に絶えられなくなって、
    自殺したのよ、満さんは。
玉置三枝子:財前君が自殺なんてする訳ないですわ。犯人は孔雀さんよ、かわ
     いい顔して。
牟田綿子:殺したのは彼の年上のヒト、そう玉置とかいう年増だわ。もちろん、
    私は殺してない。

 このあと、事件は急転直下、ある有力な目撃証言によりあっさり解決したの
だが、結果的に、三人の容疑者の証言は、真実の一文と嘘の一文からなってい
ることが分かった。

 さて、財前を殺したのは誰でしょう? 犯人はこれまでに出てきた登場人物
の中にいます。念のために言い添えておくと、財前は自殺ではなく、明かに殺
されていました。

 答はこのあとすぐ!(^^)

























<答>
 三人の証言をもう一度見てみよう。

孔雀勝子:玉置先輩が付き合ってたからといって、あの人に満さんを殺せるは
    ずないわ。たくさんの女を騙し続けたことの罪に絶えられなくなって、
    自殺したのよ、満さんは。
玉置三枝子:財前君が自殺なんてする訳ないですわ。犯人は孔雀さんよ、かわ
     いい顔して。
牟田綿子:殺したのは彼の年上のヒト、そう玉置とかいう年増だわ。もちろん、
    私は殺してない。

 各々の証言は真実の一文と嘘の一文を含んでおり、ここに、財前の死が自殺
でないという事実を当てはめると、まずは以下が確定する。

孔雀勝子:玉置先輩が付き合ってたからといって、あの人に満さんを殺せるは
    ずないわ(真実)。たくさんの女を騙し続けたことの罪に絶えられな
    くなって、自殺したのよ、満さんは(嘘)。
玉置三枝子:財前君が自殺なんてする訳ないですわ(真実)。犯人は孔雀さん
     よ、かわいい顔して(嘘)。

 孔雀の証言の内、玉置に殺せるはずがない云々の部分が真実と決まったので、
残る牟田の証言の真偽は次のようになる。

牟田綿子:殺したのは彼の年上のヒト、そう玉置とかいう年増だわ(嘘)。も
    ちろん、私は殺してない(真実)。

 上をまとめると、孔雀は真実として「玉置に殺せるはずがない」と言い、玉
置は「犯人は孔雀」と嘘を吐き、牟田は真実として「私は殺していない」と言
っている。
 玉置でも孔雀でも牟田でもない。犯人がいなくなってしまった?
 否。この三人の中にはいないということに過ぎない。
 ここでもう一つの条件を思い出してみよう。「さて、財前を殺したのは誰で
しょう? 犯人はこれまでに出てきた登場人物の中にいます」と問題文にある。
登場人物は先の三人と被害者、それに検視官である。最初の容疑者三人は誰も
犯人でなく、被害者は自殺でないのだから、残る検視官が必然的に真犯人とな
る。

    −おしまい



#1334/1336 短編
★タイトル (XVB     )  01/11/21  04:04  (104)
ダイエット日記1  $フィン
★内容
お菓子をやめるだけで1年間30kg弱も痩せれる! これであなたもスマート美人と
言われるかもしれません。なんてね、わたしは1年間ダイエットの結果30kg弱痩せ
ました。


2000年11月19日 *2.0kg 最初からの値 0kg
この時、階段から足を踏み外したものがなかなか治らなくて、手術ということになっ
たのだけども、前日にアルファベットチョコレートを1袋食べたせいか、採血の結果
血糖値が異常に高かった(血糖値210ml/cl 基準値は60〜109ml/cl)
ため、手術を一旦、延期することになったのでした。私もこのままだと血糖値に驚
き、糖尿病になって毎日腹に注射を打つようになってはたまらないと、即ダイエット
に励むことにしました。

11月19日の食事
この時点でははかっていません。


2000年12月19日 *8.5kg 最初からの差 3.5kg
まず間食をできるだけ制限した結果、1ヶ月で3.5kg痩せました。メル友にカロ
リー計算を手伝ってもらうなどのサポートがよかったようです。

12月19日の食事
昼食 サンドイッチ(5枚切パン一枚 187kcal  ハム一枚 31kcal   レタス一枚
3kcal チーズ63kcalマヨネー    ズ 98kcal)
    牛乳300cc 177kcal      プリン108kcal
夜食 ごはん一杯 180kcal
    焼きうどん(1/3玉  キャベツ たまねぎ 牛肉)200kcal
    イカとこんにゃくの煮物 80kcal
           キャベツ一皿 12kcal(ダイエットドレッシング40kcal)
間食 博多名物ひよこ一個 110kcal インスタント紅茶13g 39kcal
    合計 1328kcal


2001年1月19日 *6.0kg 最初からの差 6.0kg
この月、今流行りのキトサンダイエットをはじめました。なんでもキトサンというの
は、カニの甲羅から作ったもののようで、受験生が神社でお守りを買っていくような
あんまり信用はないけれども、あった方が心強いかなって感じでした。金額1970
円なり。

1月19日の食事
昼食 マクドのハンバーガー1個 360kcal 
    チーズバーガー1個 400kcal
         コーヒー(牛乳200cc)118kcal
夜食 ほうれん草の白あえ150g 120kcal
     モヤシ炒め(もやし、豚肉、卵)150g  180kcal
        ハマチの刺身4切れ 180kcal
          ジャガイモとかぼちゃとちくわの煮物 200kcal
間食 トマトジュース32kcal
        合計 1590kcal


2001年2月19日 *4.0kg 最初からの差 8.0kg
少しづつ痩せてきました。1ヶ月2kg〜3kg程度の減量で身体も軽く、健やかに
なってきたような気がします。この前後に妹から今流行りの金魚運動機というものを
借ります。効果のほどはよくわかりませんが、湯で暖かくしたアイマスクと肩に貼る
タイプの低周波治療器、そしてお気に入りの音楽を聞きリラックスして15分かかっ
ていると気持ちよいような気がします。

2月19日の食事
昼食 ピザ66g 200kcal      トマトジュース37kcal
          かんとに昨夜の残り(だいこん じゃがいも   ちくわ 1個づつ)
160kcal
夜食 ギョウザ140g 290kcal       さわら70g 155kcal
            しろあえ135g 180kcal        キャベツ一皿(ドレッシング)88kcal
間食 インスタント紅茶一杯 35kcal     まんじゅう50g150kcal
       ソーセージつきパン3つで100g 210kcal
         合計 1505kcal


2001年3月19日 *3.0kg 最初からの差 9.0kg
気をよくして同じキトサンダイエットをより安い店で、1個1580円、3個474
0円のところを買ってきました。
病院で血糖値を計ってもらったら、食事2時間経過で76mg/clになり、手術可能
になりましたが、足の負担が減ったせいか、痛みは収まり手術をしなくてもよいとい
うことになりました。

3月19日の食事
昼食 たこ焼き12個 360kcal    ソーセージ1本15g 50kcal
夜食 スパゲッティサラダ280g 258kcal
          さんま(だいこんおろし)35g 55kcal
間食 チョコレートパン40g 120kcal  ミルキーあめ3つ 60kcal
    合計 903kcal


2000年4月19日 *9.5kg 最初からの差 12.5kg
キトサンダイエットのせいじゃないと思うけど、意志を強くして間食を極力減らし、
外食をやめ、自宅での食事に変えたのがよかったようです。外食は油分が多く、高カ
ロリーということがわかりました。ましてや私の好きなバイキングだと払ったお金を
取り戻そうと食べる食べる。食べるのがいけないのですね。家では和食中心の食事に
変えました。
それから薬局で遊んでいると、ビール酵母というものがあったので250g680円
で買ってきました。これは効くのかどうかわかんないけど、ヨーグルト100gに
ビール酵母5gを入れて、満腹感を出すというものだそうです。

4月19日の食事
昼食 サンドイッチ(6枚切パン1枚 チーズ1枚 ハム2枚 レタス マヨネー
ズ)286kcal 
    紅茶(砂糖なし 牛乳100cc)×2杯 118kcal
夜食 アジ(焼いただけ)90g 72kcal
         ほうれん草の白あえ130g 90kcal
        普通のそば241kcal
間食 ビール酵母入りヨーグルト77kcal×2個
        こんにゃくゼリー26kcal×1個
         合計 987kcal



#1335/1336 短編
★タイトル (XVB     )  01/11/21  04:05  (169)
ダイエット日記2  $フィン
★内容
2001年5月19日 *5.6kg 最初からの差 16.4kg 体脂肪47.
5
頑張っている私を見て、妹から体重は100g単位、体脂肪は0.5単位で計れる体重
計を買ってプレゼントしてくれました。今までの体重計はデジタルだけども、0.5
kg単位で計れるものだったので、毎日計ってもそんなに変わらずつい食べすぎてし
まうということもあった。これで楽しく計れるようになりました。
今月は薬局で、店員二人も何やら話をしているので、何事かと思っていると健康フェ
アーで、ダイエット商品のちらしを貰いました。わたしがダイエットしているのを
知っていて、話をしているのだと思いました。キトサンダイエット1個1570円3
個とビール酵母598円を購入するのがにくいものです。

5月19日の食事
昼食 サンドイッチ(5枚切パン1枚 ハム2枚 チーズ1枚 きゅうり40g ち
しゃ マヨネーズ)326kcal
    (紅茶100cc+牛乳100cc)×2杯 118kcal
夜食 ししゃも5匹70g 119kcal ちしゃ(ドレッシング43kcal)46kcal
     豚焼き(プライパンにサラダ油をひいて塩コショウで味付けしたもの)55
g 287kcal
     サラダ(キャベツ きゅうり ハム トマト マヨネーズ)180g 
200kcal
     地元産のタコ少々 40kcal
間食 アメリカンチェリー(種、皮、身つき)5.6g×24個 67kcal
        ビール酵母入りヨーグルト80kcal×1個
         合計 1283kcal


2001年6月19日 *3.0kg 最初からの差 19.0kg 体脂肪45.
5
よその店でビール酵母500gを1280円で買ってきました。さっそくヨーグルトに入れ
て食べたのですが、メーカーによって味が変わることがわかりました。なんでもビー
ル酵母はビールを作る過程ででき、ヨーグルトにいれることで腹が膨れるそうです。
家族の買い物でポケチを頼まれてスーパーでしていると見知らぬおばさんが寄ってき
て、買い物かごの中を覗き、こんなのばかり食べているからぶたになるのだと言われ
てしまいました。おかしい人もいるものです。

6月19日の食事
昼食 巻き寿司1本395g 500kal
夜食 地元産アジ65g(焼き魚)50kcal
         黒ギョウザ22.8kcal×10個   228kcal
        豆腐82.5g 48kcal     奈良漬少々  8kcal
     ちしゃ(和風ゴマドレッシング13kcal)25kcal
間食 アメリカンチャリー5個     13kcal
        ビール酵母入りヨーグルト100g×1個80kcal
         合計 952kcal


2001年7月19日 *0.3kg 最初からの差 21.7kg 体脂肪43.
0
サンドイッチのマヨネーズがわりとカロリー高いみたいです。マヨネーズを極力減ら
してサンドイッチをつくるようにしたいと思います。他に油を使う料理がカロリーが
高いので注意しないと太ってしまいます。

7月19日の食事
昼食 セブンイレブンおにぎり(海老マヨネーズ191kcal 紅しゃけ175kca
l) 
夜食 ソーメン175g 300kcal
    赤魚(焼魚白身)65g 90kcal
     自家製きゅうり+地元産タコ(酢物)70g 90kcal
    シューマイ15g×6個 240kcal   オクラ(酢漬け)50g11kcal
    レタス(和風ゴマドレッシング28kcal)31kcal
間食 とうもろこし(茹)115g 100kcal  枝豆少々 10kcal
     自家製トマト50g 8kcal
    ビール酵母入りヨーグルト100g×1個80kcal
    合計 1326kcal


2001年8月19日 *7.8kg 最初からの差 24.2kg  体脂肪4
1.0
最近ではずいぶん食事に注意するようになりました。筋肉を減らさないように、動物
性たんぱく質と植物性たんぱく質をできるだけ食事で取るようになりました。それと
今年になって、風邪を引きやすくなったような気がします。抵抗力が落ちないよう
に、決まった時間に食事をし、身体が弱らないように注意していきたいと思います。

8月19日の食事
朝食 インスタントコーヒ(牛乳100cc)118kcal
昼食 ソバ(茹でた状態)160g 246kcal
夜食 炊き込みごはん250g 500kcal
     コロッケ60g×2個 160kcal
    まめ(茹でたもの マヨネーズ付)130g 40kcal
         レタス(青しそドレッシング11kcal)14kcal
間食 白玉粉でつくっただんご175g 200kcal
          合計 1278kcal


2001年 9月19日 *5.6kg 最初からの差 26.4kg  体脂肪4
1.0
標準体重に近づいてきたので、ダイエット前の食事量(特にお菓子の量)は多すぎる
けど、今のままの食事量では、拒食症や過食症になるといけないのでぼちぼちダイ
エットをやめ、食事量を増やしていきたいと思います。あとリバウンドも怖いです。
この月に、お茶関係、ウーロン茶298円2個 プーアル茶298円、減肥茶298
円のところを買いました。
同じお茶を飲むのなら、美味しい水がいいからと近くの井戸から清水を週1回のわり
でペットボトル5本8L分を汲みにいくようになりました。味は美味しいような気が
します。ダイエットしていても水分だけはたえず補給しておくよう注意しました。

9月19日の食事
昼食 サンドイッチ(5枚切パン85g ハム2枚 チーズ1枚 きゅうり25g マヨ
ネーズ レタス)300kcal
    (冷コーヒー150cc38kcal+牛乳150cc)88.5kcal
夜食 野菜炒め(牛肉 ピーマン タマネギ)240g 400kcal
    赤魚(白身 焼魚)55g 69kcal  アジ(刺身)55g 80kcal
    豆腐134g 79kcal     オクラ(酢漬け)35g  10kcal
    レタス(青しそドレッシング11kcal)14kcal
間食 ビール酵母入りヨーグルト160g  128kcal
    合計 1168.5kcal


2001年 10月19日 *4.7kg 最初からの差 27.3kg  体脂肪
38.0
足部分だけのマッサージ機を買いました。すでに健康おたくになっているような気が
します。ダイエット前は見向きもしなかった健康番組(試してガッテン、あるある大
辞典、特報リサーチ等)を喜んでみるようになってしまいました。べとべと血、どろ
どろ血は怖いです。

10月19日の食事
朝食 食パン5枚切り1枚 206kcal
    インスタントコーヒー(牛乳200cc 136kcal)
昼食 スーパーのサンドイッチ200kcal
    牛乳200cc 136kcal
夜食 フライ(牡蠣80g 62.4kcal かしわ45g 92.7kcal)+衣+油等
355.1kcal
    だいこんおろし125g 22.5kcal
    豆腐200g 104kcal
    キャベツ(和風ドレッシング22kcal)×2    68kcal
間食 飴玉1個   20kcal
    試供品50ccカフェオレ1杯       15kcal
    合計 1262.6kcal

2001年11月19日 *2.9kg 最初からの差29.1kg  体脂肪3
5.0
この1年で使った健康食品は、
キトサンダイエット1970円×1個 1970円
キトサンダイエット1580円×3個 4740円
キトサンダイエット1570円×3個 4710円
ビール酵母 680円×1個 680円
ビール酵母 598円×2個 1196円
ビール酵母 449円×2個 898円
ビール酵母1280円×1個 1280円
ウーロン茶 298円×2個 596円
プーアル茶 298円×1個 298円
減肥茶   298円×1個 298円
ウーロン茶 188円×1個 188円
どくだみ茶 188円×1個 188円
合 計   19点 17042円

30kg弱減量するのに17042円(ヨーグルト代を除く)使っています。大金を使っ
たというか、小額で済んだという意見はいろいろあるでしょうけど、これらは補助的
なもので要は間食をしないという意志のもと頑張った結果でありましょう。
翌年1年間で10kgの少しづつの減量にはげもうかと思っています。ダイエット関係
の掲示板を探して書き込みしたいと思っております。そして無理なく運動して健康的
な毎日を送ることをもう一つの課題にしていきたいと思っております。
来年の11月はリバウンドしているか、それとも痩せているか、現状維持かどれかに
なっているでしょう(当たり前ですね)。来年の今ごろに報告していきたいと思って
おります。

10月19日の食事
昼食 ロールパン100kcal×2個 200kcal
    クノールスープ(クノールスープの素60kcal 牛乳200cc 128kca
l)
    ちしゃ(ドレッシング43kcal)46kcal
夜食 そば170g(茹でた状態です) 227.8kcal
    地元産アジ(刺身)55g 78.7kcal
    がしら(白魚 煮魚)120g 150kcal
    ほうれん草90g 25.2kcal
    ちしゃ(ドレッシング43kcal)46kcal
間食 酵母入りヨーグルト100g 80kcal
合計 981.7kcal

以上今年のダイエット日記はおわりです。



#1336/1336 短編
★タイトル (AZA     )  02/03/30  02:45  (305)
彼のちょっとした変化 <そばいる番外編>   寺嶋公香
★内容
 長瀬は、高校でも何らかの運動部に入るつもりでいた。彼の本領は陸上競技
であるが、同校同部は市内一円でもトップクラスで、全国大会で充分通用する
レベルの選手も過去に何名か輩出しているほどだった。
 よって……部活見学の際に、長瀬は半ばあきらめた。故障を抱えた自分がの
このこと入っていけるようなところではない、と。現在、走ったり跳ねたりす
る分に支障はないが、思い切り競技に打ち込んだとき、ひょっとしてまた怪我
をしてしまうのではないかというマイナス思考を、どうしても拭い去れない。
 せめて長瀬が中学三年生の頃、大会で目を見張るような記録を出していれば、
待遇が違っていたかもしれないが、彼が中学校時代の記録は、ほとんどが一年
生のときのもので、ベストも一年の秋に叩き出していた。最も力を発揮するは
ずの三年時の記録は皆無に近く、あっても数字的に凡庸だ。怪我が直りきらな
い内に無理を重ね、故障癖を付けてしまった結果である。よいコーチ、よいト
レーナーに恵まれなかったと言えなくもないが、やはり自己の責任に帰する面
が大きい。
 長瀬には、陸上が至上のもので、他のスポーツには目もくれないというよう
なところはない。だから、他の運動部も精力的に見て回った――主にやったこ
とのある球技を中心に。バスケットボールやバレーボール、野球にサッカー、
いずれも嫌いじゃない。小中学生の頃から打ち込んできた連中に比肩するとま
で大言壮語する気はないが、その背中に手が届くぐらいの能力があると自負し
てもいる。
 だが、膝と靭帯に不安があるため、踏み切れなかった。団体競技の輪に加わ
る自信をいまいち持てなかったことも、一つの理由になろう。個人競技のある
運動部に目を向けるのは、自然の成り行きだった。
 体操をするには未経験者であることに加えて、ばねが足りない気がした。格
技をやるのは親が反対しているので、なるべく避けねばならない。
 残った選択肢は、テニスか水泳だった。
 と言っても、最初の時点では、長瀬の眼中になかった運動部である。
 テニスは、中学生時にテニス部員の唐沢と遊びで対戦して、こてんぱんにや
られたことがあり、以来、苦手意識を持ってしまっている。それにやはり、膝
への負担が大きそうだ。
 水泳に対しては苦手意識はない。が、足を遠ざけたくなる理由が二つほどあ
った。「あった」というのは正確でない。「できた」とすべきだろう。
 それは、長瀬が入学して三日目か四日目のことだった。
 クラス揃って視聴覚室でパソコン利用の説明を受け、一旦は教室に帰ったの
だが、万年筆を忘れたことに気付き、取りに戻った。無事に忘れ物を見つけて
胸ポケットに収め、視聴覚室を出たとき、女の子の声が前の小部屋から聞こえ
た。
「と、届かない」
 プリンター室とプレートの掛かった小部屋の戸口は空いていた。気にすると
いうほどでもなく、何とはなしに覗いてみる。
 懸命に背伸びをしている女生徒がいた。小さいなというのが長瀬の抱いた第
一印象だった。
 彼女は左の小脇に何かのちらし数枚を持ち、右手を上方向に一杯に伸ばして
いる。その指先を延長していくと、スチール製の棚の最上段に、A4だかB5
だかのコピー用紙が、茶色の紙に包まれたまま丸ごと載っている。
「両手じゃないと危ないか」
 女生徒はつぶやき、ちらしを手近の長机の端に置くと、改めてポジション取
りをした。コピー用紙の真正面に立ち、足を揃えて、両腕を可能な限り、突き
上げる。
 長瀬は思った。台になる物があるじゃないか、と。
 確かに、踏み台はない。手頃な椅子も見当たらない。だが、長机をちょっと
移動させて、その上に乗れば、いくらあの子の背が低くても充分に届くはず。
 にもかかわらず、女生徒は自分の身体一つでコピー用紙の獲得を期している
ようだ。
(もしかすると、高所恐怖症かもしれないな)
 長瀬は好意的に解釈した。以前見たテレビで、インテリとして知られる芸能
人が、せいぜい一メートルほどの高さの脚立に昇れず、弱音を吐いていたのを
思い出した。
「手伝うよ」
 女生徒のボーイッシュな顔立ちと髪型、それに必死の目を見て、自然と声を
掛けていた。
「あ」
 相手がどうこう言わない内に、棚の斜め前に立つ。背伸びする必要もなく、
楽々と届く。両手で持つと、案外重量感があったが、それでも長瀬の腕力なら
問題ない。
「どこに置けばいい?」
「……じゃ、そこの机に。そう、機械の横の」
 ほんの少しのためらいの間があったが、女生徒は適切に指示を出した。長瀬
は言われた通り、コピー機そばの長机に用紙の束を置いた。それも、なるべく
近いように端に寄せて。
「コピーしようと思ったら、紙が切れていたのよ」
 照れ隠しなのか、非難口調で女生徒が言う。
「紙、俺が中に入れようか?」
「それは結構よ」
 女生徒は包装を破ると、コピー用紙を半分がた取り、所定のトレイに収めた。
 その合間に長瀬はちらしに目を留めた。初めてその内容を知る。クラブ活動
を勧誘するちらしだった。
「ふーん、水泳部……」
 そして目を斜め下方に向ける。ちょうど女生徒もこちらを向いた。察した長
瀬はちらしを渡した。
「水泳部員なんだ? 早いね、もう部活を決めるなんて。入った早々、勧誘の
お手伝いとは人使いが荒いような気がしないでも――」
「ちょっと」
 お礼の言葉を期待していたわけではないが、予想外のつっけんどんな調子で
応じられ、長瀬は幾度か瞬きをした。相手の顔をよく見ると、間違いなくむっ
とした風情が窺える。
「これを見なさい」
 彼女は自らの制服の襟辺りを指差した。一瞬、胸元の方へ目が行く。大きな
胸だった。
「……はあ……何か?」
 素知らぬ表情を保ちつつ、長瀬は聞き返した。何を見ろと言ったのか、理解
できない。
「こ、れ!」
 襟にある銀色のボタン、いや、バッチか。やや傾いていたが、ローマ数字の
二を型取ったデザイン。学年章だと知れる。
「それが何か……あ。もしかして、に、二年生……ですか?」
「そう」
 腕組みをした女生徒は、怒った目つきでにらんでくる。ちらしの束がかさか
さと音を立てた。続いて、彼女の右爪先が廊下の床をとんとんとんと叩いた。
「すみませんでした」
 長瀬は身体を折って謝った。
「あの、気が付かなくて、てっきり、同じ一年生かと」
「君、名前は?」
「長瀬です」
 顔を起こすと、相手の二年生の表情が多少和らいだ風に見えたので、ほっと
する長瀬。口調からは怒りや不機嫌さが薄まり、代わりに面白がる響きが滲ん
でいた。
「クラスは?」
 コピーをスタートさせた彼女は、半ばコピー機に寄り掛かる姿勢で聞いてき
た。長瀬の方は緊張感から背筋を伸ばしたままでいたが、相手の様子から心の
余裕が少しだけよみがえる。
「えっと、一年二組です。出席番号も言いますか」
「じゃあ、長瀬君。私は柏木(かしわぎ)って言うんだけれど、どうして一年
生だと思ったのかな」
「それは……先輩が若々しくて」
「ばか言ってるんじゃないの。どうせ、ちびだから、そう思ったんでしょ?」
 図星を指されると同時に、腰の辺りを力強くはたかれた。小さいからと油断
していたが、意外に力のこもった一撃だ。
「はあ、その通り」
「素直でよろしい。ところで、さっきの口ぶりだと、君はどこの部にも入って
ないみたいだね。よかったら、水泳部に入らない?」
「え……俺は」
 その時点では、水泳部も考えの内に入っていた長瀬だったが、目の前(目の
下)の先輩が、部でも先輩になるかと思うと、腰が引けた。
「まあ、そんな顔をしないで、考えてみてよ。じゃ、私は急いでいるので、こ
れで」
 いつの間にやら、コピーは全て終了した模様。紙を小脇に抱えると、爪先を
九〇度動かし、長瀬に敬礼めいたポーズをした柏木。それから前を通り抜けて、
廊下を小走りに行く。
 半ば呆然として見送った長瀬も廊下に出ると、まだ柏木の後ろ姿があった。
 と、視界の真ん中辺りで、柏木が突然立ち止まる。再び長瀬に向き直って、
距離を物ともせず、声を張り上げる。
「言い忘れていた。長瀬君、取ってくれてありがとね!」
「は……いえ、大したことでは」
 どう応じようか困惑して、頭をひょいと下げかけた長瀬だったが、すでにそ
の時点で柏木はまた走り出していた。

「長瀬君、入ってよ」
 四月の末頃になると、柏木から盛んにアプローチされるようになった。フル
ネームまで教えてもらった。現副部長の柏木京子(きょうこ)は色白で、小柄
な身体に比すと手足が長く、ついでに言えば胸も大きい。髪を短くしているの
は水泳部員だからという理由だけではなく、どうやら彼女に一番似合うヘアス
タイルだかららしい。
「何度も言ってるように、君は競泳向きのいい体格しているんだぞ。私が見込
んだのだから間違いないわ」
「あの、柏木先輩。前にも言いましたけど、男子の先輩がいないのが、ちょっ
とネックというか……」
 水泳部には男子部員がいなかった。普通は男子水泳部と女子水泳部が別個に
あるものなのに、この高校では水泳部と言えばイコール女子水泳部なのだ。
 長瀬を水泳部に入る気にさせないもう一つの理由が、これだった。
「いいじゃない。周りは女だらけで、もてるわよ、きっと。君のルックスなら、
部外の女生徒だって」
「もてるとかどうとかじゃなくて」
「スポーツしたいのよね? イルカみたいに泳ぎたくない?」
「イルカ……」
 その表現に唖然としてしまう長瀬。柏木はしかし、大真面目のようだ。
「イルカに乗った少年ならぬ、イルカになった少年! いいでしょ?」
 下からはしゃぎ気味に言った。
「先輩。俺ばっかりに声かけてないで、他も当たったらどうですか」
「今月一杯、声を掛けまくったわよ。だけど、まともに相手してくれたの、長
瀬君だけなんだもーん」
 馴れ馴れしいというか、親しげというか、腕を引っ張る柏木。放課後につか
まったのは、まずかったかもしれない。延々と口説かれかねない。
 端から相手しなければよかったかな、という思いが脳裏をよぎった。しかし、
初対面の状況が状況だっただけに、相手せざるを得なかったのだ。
 それに……まあ、こうして話をする分には、楽しくて愉快な先輩だ。男の先
輩よりも早く女の先輩ができるとは予定外かつ予想外だったが。
「もうちょっとしたら、プール開きでじゃんじゃん泳ぐようになるから、その
ときにまた見に来なさいよ」
「そう言えば、うちの学校の中では、水泳部は弱小なんですよね」
「……なーんで、『そう言えば』ってつながるのかしら?」
「いや、水泳部が滅茶苦茶強い学校なら、温水プールの設備があって当然だと
思ったから」
「うちの部だって、たまに市民センターの温水プールに練習に行くのよ」
「反論になってないような気が」
 長瀬が言ったが、柏木は全く相手にせず、名案を思い付いたとばかり、手を
打った。
「そうだわ。よかったら、市民センターまで来ない? 夏まで待たなくても泳
ぎっぷりを見せてあげられる」
「練習に行く予定があるんですか?」
「うーん、しばらくない。けれど、私一人が行けば事足りるでしょ。もうすぐ
ゴールデンウィークだし、ちょうどいいわ」
「てことは、わざわざ俺だけのために、水着姿を披露してくれるわけですか」
「キミ、キミ。力点の置き場所を間違ってる。練習を見せてあげようっていう
んだ。ありがたく思いなさい」
「実際、ありがたく思わないでもないんですが……」
 首を捻る長瀬。再三に渡る熱心な勧誘に、悪い気はしない。反面、どうして
これほどまでに俺に執着するのか、不思議に感じる。考えても分からないので、
最近では、よほど部員不足で苦しんでいるんだな、と思うようにしていた。
「俺と柏木先輩の二人きりというのは、やはりまずいのではないかと」
「何故」
 疑問形というよりも詰問調である。事実、柏木は一歩詰め寄ってきた。長瀬
はのけぞるような心持ちで、正直に答えた。
「それはもちろん、先輩の彼氏に悪いですから」
 柏木の目が見開かれる。と思ったら、睨むように細くなり、長瀬の表情をし
げしげと見上げてきた。
「……その顔は、からかっているわけではないようね」
「と、当然ですよ。からかうだなんて」
「私に彼氏がいるように見えた?」
「は、はい。こんなかわいらしい感じの人に、いない方が不自然かなって」
「ふむ。かわいらしいというのはちょっと引っかかるけど、そう思われたのは
嬉しくなくはないわね」
 迂遠な言い回しの柏木は、事実、嬉しげに両頬を手のひらで押さえ、にんま
りとした。次の瞬間、一転して目尻を悲しそうに下げ、深い息を吐く。
「でもねえ、現実は厳しいのだよ。一年生。こんな私でも、恋人はいないの」
「そうなんですか」
「どうやら、夏になると日焼けして、コントラストがはっきりするのが、お気
に召さないみたい。ほら、水泳部って」
「なるほど。そういうことにしておきましょう」
「どういう意味だ、こらぁ」
 殴る真似をした柏木だったが、長瀬が避ける素振りをしなかったため、振り
上げた手を仕方なく下ろす。
「長瀬君にはいるのかな」
 場つなぎのような空気を発散させて、切り返してきた。長瀬は分かっていた
が、敢えて、質問の意味が理解できないふりをした。
「彼女がいるのかって、聞いているの」
 柏木はおとぼけを見破ったのかどうか、苛立ちを垣間見せた。ここできちん
と答えないと、今度は本当に殴られるかもしれない。
「いませんよ」
「本当に? 中学のときいたけれど、高校が別々になったから自然消滅したな
んて言うんだったら、許さないよ」
 どうして知り合ったばかりの先輩から、“許さない”と凄まれねばならない
のだろう。
 長瀬は不条理に感じつつも、そのことを頭から打ち消した。何故なら、事実、
中学時代に付き合った相手はいないのだから。
「いませんてば。ただ……」
「ただ、何かな?」
 好奇心をそそられたらしく、柏木は舌先を覗かせ、上唇の端をなめた。
「小学校のとき、親しくしていたガールフレンドがいたんですけどね」
「な。ませてるわねえ」
 口を開けて、長瀬を指差しながら呆れる柏木。
「で、その子とどうなったのかしら。非常に興味あるわね」
「彼女の方が積極的すぎて、着いていけませんでしたよ。だから、ちゃんと話
をして、これっきりにしようと約束しました」
 必死の弁明めいてしまうのが、自分でも不思議だ。力説するようなことじゃ
ないし、話す義務もないのに。
「ふーん。でもさ、長瀬君。その子と中学、一緒だったんじゃない? たいて
いは同じ中学に進むものよね」
「はあ。一緒でした」
「どんな顔して会ってた? 気まずい感じが残るんじゃないの?」
「まさか。小学生の付き合いですよ。普通に話をしていました。むしろ、入学
した頃は、他に親しい女子が少ないから、そんな中ではよく話をした女子でし
たね」
 思い出がよみがえってしまった。別に封印しておきたい類のものではないが、
何しろ相手はあの白沼だったのだ。少なくとも外見はトップクラス。懐かしが
る内に、惜しいことをしたという考えが起きるかもしれない。そんな感情の推
移は、たとえ一時的なものにしろ、できれば避けたい。
「そう。なるほどね。小さな恋の物語は案外ロマンチックじゃない終わり方を
迎えるんだ。あっさりとしていて、散文的」
「何なんですか、そのコメントは」
「ふっ。こう見えても、私にも色々過去があってねー」
 横を向くと、柏木は斜め下のタイルを見つめ、やがて顔を起こすと、髪をか
き上げる仕種をした。
「……嘘だ。絶対に嘘だ」
 あまりにも芝居くさい。長瀬は決め付けた。
 柏木は肩をすくめ、「……どうして分かった?」とつぶやいた。
 どうやら長瀬の勘が当たったようだが、大した根拠もなしに決め付けたのは
後ろめたさを感じなくもない。長瀬は気の利いた答を探した。
「柏木先輩ほどの人をふる男が、この世にいるとは思えませんから」
「――ははは! 生意気にもいいこと言うね、君は」
 お腹を抱えて笑われてしまった。まあ、受けたのだから、よしとしよう。長
瀬は鼻の下をこすった。
「長瀬君、本当は女たらしじゃないのかな? それなりに二枚目だし、背もあ
るし、口がうまい」
「本気でそう思うんだったら、俺を水泳部に誘うのはやめた方がいいんじゃあ
りません?」
 ささやかな逆襲をしておこうと、長瀬はにやりと笑ってみせた。
「女子部員をみんな、ものにしちゃいますよ」
「さて。思惑通りに行くか、試しに入部してみない?」
 逆襲は不成功に終わったようだ。柏木の方が一枚上手。どうしても入部させ
たいと見える。
「まずは先輩の泳ぎを見てみないと」
 長瀬は仕方なく、話を大元に戻した。すると待ってましたとばかりに、柏木
は手を打つ。
「その気になったのなら、日を決めようじゃない。いつなら都合がいい?」
「えと、まだ何とも言えないです」
「もう、しょうがないな。見通しが立ったら、すぐ私に知らせるように。いい
わね? あ、電話でもいいから」
 手帳を取り出すと電話番号の数字を書き付け、そのページを破り取った柏木。
紙片を長瀬の手のひらに押し付ける。
「一応、注意しておくけど、君も水着を持ってくるように」
「あ、やっぱり」
 見学だけをしてすむのなら、これほど楽なことはないと考えていたが、甘か
った。案の定、柏木が頭に角を生やす。
「当ったり前でしょ! いい機会だから、泳ぎっぷりを見させてもらうからね。
私が見せるんだから、君も見せる。物々交換はあらゆる経済活動の起源よ」
 柏木は長瀬を指差しながらこう言い放つと、付け足す風に、楽しみだわとつ
ぶやいた。
「物々交換」
 その単語が耳に残る。長瀬は遅れて吹き出した。
「何よ。そんなにおかしかったかしらね」
「いえ。別に」
 忍び笑いを隠すため、上を向いた長瀬。柏木が低いところから、まだ何か文
句を言っている。
 だがもう気にしないことにした。しばらく、このかわいらしい先輩との付き
合いを続ける覚悟はできたのだから。
(浮力のおかげで故障個所への負担は少ないはずだし、軽いトレーニングのつ
もりで始めてみるかな)
 その意思を伝えるべく、長瀬が見下ろすと、柏木は腰に両拳を当てて、頬を
膨らませていた。
「背が高いと、大きな声で言わないと聞こえないのかしらね?」
 やれやれ。
 苦労しそうだなと、あきらめにも似た気分で長瀬は話を切り出した。

――『彼のちょっとした変化 <そばいる番外編>』おわり



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