AWC 空中分解2



#3116/3137 空中分解2
★タイトル (AKM     )  93/ 4/16   4:57  ( 75)
●楽戦楽勝ごりら男●その16 9人抜きの巻 ワクロー3
★内容

    ◆楽戦楽勝ごりら男◆16 9人抜き達成

 大変です。面接の時間まで残り20分を切っています。ここまで
8人抜きを達成して、9人目に挑戦している知人Rですが、会社の
面接時間まで、それほど時間はない。近くに会社があるといっても、
徒歩5分は見ておかないと行けません。

 目指す面接の場所が、会社のどこにあるかも少し早めにいって確
かめないとならないでしょう。

 声をかけようか。一瞬そうも思いましたが、声がかけられないほ
ど緊迫した勝負が始まってしまいました。

 おお。こうなったら会社の面接なんてどうでもいいではないか。
会社なんてどこにでもある。しかし、ストリートファイター9人抜
きの名誉はどこにでもあるもんじゃなかろうもん。ほとんどひとご
とだと思って、でたらめな理屈でもって観戦を続けました。

 まさに今、Rに立ち向かう少女は、清楚な外観に似合わず、相当
な使い手です。少なくとも勝負に関する限り油断は出来ません。僕
はRの必死の操作を、この大事な局面でほとんど見ていませんでし
た。コントローラーと6つのボタンを滑らかに操作する、Rの対戦
相手の少女のほうばっかりを見ていました。いったいどこで、ここ
まで修練を積んだというのか。技は完璧にコントロールされていま
す。竜巻旋風拳とか、大技も出せるのでしょうが、逆襲を恐れてか、
うかつには出しません。勝負はまったく接近戦になってしまいまし
た。

 コントローラーを軽く握って、時には離れ、時には上に、前へ、
迫り来る醜悪な『ごりら男』から『ケン』を救おうと華麗なボタン
操作です。
 力任せに狂ったようにたたきつけていた、これまでの男のゲーマ
ーとは、どえらい違いです。静で正確なボタン操作では、それほど
激しい音はでないものなのか。それとも、実はでているのだけれど、
ついひいきめに見てしまうのか。それは定かではありません。

 少女ゲーマーをうっとりと眺めているうちに、勝負自体を忘れそ
うになってしまいました。

 そのとき、どよめきが起きました。『ごりら男』ブランカの噛み
つきが、無惨にも『ケン』の身体にしっかりと入っています。周囲
のゲーマーのどよめきは、明らかに失望のどよめきでした。ダメー
ジラインは『ごりら男』の側により多くでていました。

 ということは、それまで少女の方が優勢だったということです。
この噛みつき攻撃さえ受けなければ。。。少女ゲーマーは、今やコ
ントローラーに力を込めながら、右手で懸命にボタン連打します。
ボタンを打ちまくることによって、噛みつきを逃れようと努力をし
たのでしょう。

 見ていてそれは哀れなほどでした。

 ゲーセンの常連も、がっかりしたでしょう。彼女がこのゲーセン
最強のゲーマーだったのかもしれません。連勝を止める、期待のス
トッパーは、最後にとどめの電気ばりばり攻撃を浴びて、『ケン』
は骨をあらわにしながら、あの世にいってしまったのです。

 9人抜き。もう誰もRを止めることはできないのか。面接の時間
もそろそろ始まります。ここらが潮時というものでしょう。声をか
けようか。そう思い迷った瞬間に、勇気ある10人目のゲーマーが、
今や無敵の知人Rに挑戦をしてきました。

 脊がやけに高い10代のGパン男が、10人目の相手でした。選
択したのは『ベガ』。自らの力不足をキャラクターそのものの力で
補おうとする意図がみえみえです。どちらが真の使い手か、戦って
みれば一目瞭然でした。 知人Rに唯一の隙があるとしたら、会社
の面接の時間が迫っているということかもしれませんでした。この
段階になると指の疲労はもはや気にならないほど、Rのボタン操作
は、完璧に『ごりら男』と一体化していたようです。関心はいまや
知人Rが10人抜きを達成するか否か。そして誰に負けるか。その
ふたつに絞られてきました。

       (以下次回)




#3117/3137 空中分解2
★タイトル (ZBF     )  93/ 4/16  19:50  ( 99)
「荒らぶる海」(8)    久 作
★内容

    ●御座船

    主膳は弓を手に御座船の舳先に立ち、ジッと海を見つめていた。大島沖
   は、いつも波が高い。飛沫が全身に降り懸かる。江戸への参勤は、もう十
   数度目だ。潮で産湯をつかったと豪語する主膳にとっては、目をつぶって
   も進んでいける。いつもなら御座船に乗り組むのを晴れがましく感じる心
   が、今回は暗く閉じきっている。無毛島の一件で統制派の周防一味に抑え
   つけられ牙を抜かれた主膳は、このところメッキリとフケ込んだ。海族と
   して生まれ育ち、何よりも束縛を嫌う彼にとって、泰平の世は生きにくい。
   諦めが漂う、しかし強い視線で、荒らぶる海を見回していた。無毛島が、
   すぐ左手に見える。
    右手から一艘の舟がグイグイ漕ぎ進んでくる。主膳は目を見張った。水
   軍たる主膳たちでさえ、この荒い大島沖に木っ葉舟で漕ぎ出す気にはなら
   ない。目を凝らすと、一人の男が櫂に取り付いている。
    「旗印も立てた御座船の前を横切るとはっ 無礼にもほどがあるっ
     主膳っ アヤツを射殺せっ」
    船酔いでゲンナリしていた筈の周防が、背後で喚きだした。
    「かしこまりましてございます」
    主膳は馬鹿丁寧な口調で応えると弓に矢をつがえた。舟は近付いてくる。
   乗っているのは十八ぐらいの若者だ。御座船には、目もくれない。主膳は
   狙いを定めた侭、舟の進むに合わせてユックリと体の向きを変えていく。
   若者は獣のような形相で、無毛島を目指し、一心不乱に漕いでいる。主膳
   は若者に何故か、懐かしさを覚えた。そして、羨ましく思った。
    若者の舟が御座船の直前を通り掛かった。と、その時、急に主膳は体を
   捻り、見当違いの方向へと一の矢、二の矢を続けざまに射放った。矢はチ
   ャポン、チャポンと軽い音を立て、空しく海に沈んでいった。
    「しゅっ 主膳っ なんとするっ」
    周防が主膳に詰め寄り条、何やらマクシ立てようとする。主膳は、まる
   で父が子の初陣姿を眺めるように、定を見送りながら、
    「ワシの腕も落ちたものじゃ 十間ばかり先の的を外すとは
     いやはや面目ない
     はっはっは おぉおぉ ナカナカの漕ぎ手じゃのぉ
     ほれ もぉ あんなに 遠くへ……
     最早 矢も届きますまい はぁっはっはっはっ」
    「しゅっ 主膳っ 覚えておれっ」
    イキリ立った周防が鞭を振るい雑兵たちをけしかけ、銃で射撃させた。
   が、海に不慣れな雑兵の弾が当たる筈もない。定の姿は、波の向こうへと
   消えていった。主膳は満足そうな表情で、いつまでも見送っていた。

    ●荒らぶる海

    まだ四十になったばかりの亀吉は最近、めっきりフケ込んだ。俄か造り
   の仮堂に、誤って殺した九人霊を祀ると足繁く赴いた。この日もサキを伴
   い、磯辺の堂へと向かった。
    亀吉は堂の前にうなだれ立ち、目を固く閉じ苦渋の表情でブツブツ経文
   の一節を繰り返す。サキは背後で、咲き誇る桜を呆けた顔で見上げている。
    「うわあああぁぁぁぁぁ」
    雄叫びとともに一人の男が堂から躍り出してきた。飛び降りざまに、驚
   き見上げる亀吉の胸に、蹴りを食らわせる。亀吉はブザマに倒れ、咳込み、
   ノタウチ回る。男は亀吉を何度も足蹴にし、馬乗りになってメチャクチャ
   に殴りつける。サキはまるで無関係であるかのように穏やかな笑みさえ浮
   かべ、活劇を見守っていた。定が見上げる。視線ェ出会う。青白いサキ゚の
   頬に赤みが差してくる。事件以来、消え失せていた生気が、瞳に戻ってュ゚
   る。
    「あっ あんたはっ」
    驚愕が、そして憎悪が、サキの目に浮かぶ。定は見つめ上げ条、押し殺
   した声で、
    「お前が 忘れられんかった」
    「よくもっ よくも あたいをぉぉっ」
    サキは目に涙を浮かべ叫んだ。今まで抑えつけていた憎悪が、悔しさが、
   一時に迸り出た。定はギラギラと輝く瞳で睨め返し、
    「忘れられんかったんじゃぁぁぁぁっっ」
    絶叫するとサダはサキへと殺到し、突き飛ばし、漣ト}えつけた。
    「ああっ なっ 何をっ や鱇てっ やめぇてぇぇぇっ」
    モガき泣き叫ぶサキを担ぎ上げ、定は磯へと駆けだした。
    「サキィィィ」
    亀吉が胸を押さえて漸く立ち上がった。ヨロヨロと後を追う。定は落ち
   着いた足取りで岩を伝い行き、海べりで振り返った。亀吉がゴツゴツした
   岩に手を掛け、躓き、倒れ込み条、向かってくる。定は隠してあった舟に
   サキを投げ込むと結わえてあった縄を解きだした。亀吉が漸く追い着いて
   くる。定が舟に飛び降りる。櫂でグイと磯を押す。亀吉が海へと身を躍ら
   せる。
    「サキィィィ」
    亀吉は懸命に泳ぎ、舟に辿り着こうとする。
    「父っつぁぁんっ」
    サキが舟べりから手を伸ばす。定は櫂を穴に入れ込もうとしていた手を
   止め、近付いてくる亀吉の頭を見つめている。
    殺気に気付きサキが振り返る。定がユックリと櫂を頭上に振り上げよう
   としている。サキは何やら喚き条、定の踏ん張った脚にシガミ付く。櫂が
   振り下ろされる。
    「サキィィィ」
    叫びの後半は泡と消えた。亀吉の頭が沈んでいく。
    「父っつぁぁんっ」
    サキが舟べりに取り付き、海中を覗き込む。ユックリと何かを掴もうと
   するかのような手が海中から伸びてくる。頭も浮かんできた。再び櫂が振
   り下ろされる。鈍い音がして、亀吉の頭は沈んでいく。続いて沈んでいく
   手は震えているようだった。どこまでも澄んだ淡い緑色の海に、赤い血が
   ユックリと煙のように広がっていく。
    「父っつぁぁんっ」
    赤く濁った海に俯伏せの亀吉が浮かぶ。定は荒く呼吸をしながら暫らく
   亀吉を眺めていた。サキは横倒れになり、身を震わせて泣いている。定は
   無表情の侭、櫂を舟に取り付けた。遠く、伊予の島々が見える。海にギラ
   つく太陽の光がそそぎ、トゲトゲしい輝きを放っている。漕ぎ出す舟は、
   白く泡立つ波に揉まれ条、徐々に小さくなり、やがて見えなくなる。
    荒らぶる海は、元の澄んだ緑に戻る。亀吉の遺骸がユラユラと波に合わ
   せて、揺れている。

   (終劇)



#3118/3137 空中分解2
★タイトル (UYD     )  93/ 4/16  21:12  (  2)
タイガース日記オンライン  KEKE
★内容
阪神、さよなら満塁ホームランで敗けた。あはははははははは。
今のベイスターに敗け茶いかんぜよ。



#3119/3137 空中分解2
★タイトル (UYD     )  93/ 4/16  21:17  (  7)
タイガース日記オンライン  KEKE
★内容
阪神もひとがいいから、同情したんだな、きっと。5連敗もしている
んだから、敗けてやろうと考えたわけだ。そうでなけりゃ、何で監督が
あれほどどっしりして動かないのだ。チャンスに代打も出さないのだから、
今日は敗けてやろうと考えたとしか思えない。
ま、それが阪神のいいところであるが、それじゃ優勝は無理だな。
勝てるところからは、無慈悲なほど勝ちをむしりとらねば。
でもこの正確は嫌いでない。私は。



#3120/3137 空中分解2
★タイトル (KCF     )  93/ 4/17  16:51  (189)
掲示板(BBS)最高傑作集44
★内容

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
アメリカ帰りの女友達の話3  [3/27]
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

  前回までの話で、アメリカのトイレがどのようなものであるかご理解いただけ
たと思います。しかしながら、アメリカは国土が広大なため、地域によって言葉
や習慣はかなり異なります。したがって、ロサンジェルスとニューヨークあるい
はマイアミの公衆便所が同じものであるなどと考えるのは愚かなことです。

  私自身、アメリカはカリフォルニア州しか行ったことがなく、他の州のトイレ
がどのようなものだか知りません。そこでアメリカから帰ってきたばかりの例の
女友達にどこのトイレが一番変わってたか尋ねてみました。
  彼女は、「ラスベガスのトイレが一番変わっていた。」と答えてくれました。
  そこで今回は、私なりにラスベガスのトイレがどんなものか予想してみたいと
思います。

  その女友達に「ラスベガスのトイレがどう変わっていたのか?」と聞いてみて
もよかったのですが、こう尋ねたところでどうせ、
「ギャンブルで潤っている街だから、ちゃんと掃除人がいて、いつもトイレがき
れいなのよ。」とかいう面白くも何ともない答えしか帰ってこないと思いました
ので、彼女に聞くのはやめました。
  けれども、私が「ラスベガスのトイレ」と言うと彼女はいつもプッと吹き出す
ため、ラスベガスのトイレは相当変わったものだと思われます。

  ラスベガスはネバダ州の砂漠のまん中にあり、ご存じのとおりギャンブルしか
産業がないという非常に変わった都市です。街にはたくさんの高級ホテルが建ち
並び、その中にあるカジノで毎日数千万ドルの金が合法的に賭けられています。

  このようなホテル内のトイレが他の地域の公衆便所と同じであるなどと考える
方が間違っています。
  ホテルはギャンブルによりかなり儲っているため、おそらく便器は大理石でで
きているはずです。
  用を足して水を流す時にひねるレバーも、普通のトイレで見られるあのちっぽ
けなレバ−のわけがありません。カジノで長時間お遊びになったお客様は、スロ
ットマシンのレバーを引くことに慣れきっているので、用を足した後にあのちっ
ぽけなレバーを左右にひねったら、急に慣れない手の動きをしてしまうことにな
り、手首から肘にかけての筋を切ってしまいます。
  トイレを使用したお客様が、カジノに戻らずに病院にかつぎ込まれてしまった
らホテル側は大損です。ただ、ホテルと病院が提携していて、病室にスロットマ
シン付の差額ベッドが導入されているようなところでは、レバーが普通のもので
あることがあります。
  しかし、病院と提携していないホテルではどうでしょうか。
  このようなホテルのトイレでは、お客様を病院にとられないよう、水を流すと
きひねるレバーとして、当然のことながらスロットマシンのレバーが使用されて
いるはずです。そのレバーはもちろん左右ではなく、前後にひねるものです。こ
れが、トイレの水タンクの横に付いているのです。
  水タンクの位置も普通のトイレとは少し異なります。普通の洋式便所の場合、
水タンクは便器に腰掛けたあなたの後ろにあります。用を足し終わったらあなた
は便器から立ち上がり、後ろに振り返ってからレバーをひねり水を流しています
ね。
  カジノのお客様はこのような動きに慣れていません。カジノにおいて、誰がス
ロットマシンにコインを入れた後に立ち上がり、後ろに振り返ってからレバーを
引きましょうか。カジノでは、みんな座ったまま正面にあるレバーを引いている
のです。
  というわけで、もし、ラスベガスのトイレの水タンクが普通のトイレ同様、便
器に腰掛けたお客様の後ろに位置していたら、お客様は座ったままレバーを引き
たいため、腰から下は動かさずに上半身だけを後ろにひねってレバーに手を伸ば
してしまいます。飛び込みの選手でしたらどってことないのでしょうが、一般の
お客様がこのように無理に胴体をひねると、背骨及び肋骨にひびが入ってしまい
ます。
  したがって、ラスベガスでのトイレの水タンクは便器に腰掛けたお客様の真正
面に位置しています。
  また、ラスベガスのトイレの水タンクが普通のトイレ同様、のっぺらぼうの白
一色というわけがありません。水タンクの横にはスロットマシン式レバーが付い
ているので、正面もスロットマシン同様にウインドウがあり、3列の絵が回転す
る仕組みになっているはずです。
  このようなトイレで用を足してレバーを引くと、目の前の水タンク上にある3
列の絵が回転し始めますので、お客様は各列の下にある3つのボタンを押して、
絵の回転を1列ずつ止めます。3列すべてが止まった時、横あるいは斜めに同じ
絵が並んでいた場合は、スロットマシン同様、報酬がタンクから出てこなければ
お客様は激怒してしまいます。
  この場合の報酬は何でしょうか。
  カジノのスロットマシンでしたら、報酬としてマシンに挿入した物、つまりコ
インが出てきます。だから、ラスベガスのトイレの場合の報酬は当然、前に便器
を利用したお客様が便器内に落下させた物、つまり汚物が出てきます。
  もちろん、3列の絵が並ばなかった場合は水だけ流れ、あなたが便器内に落と
した物は取られるだけです。
  その場合は、再びふんばってレバーを引き、前と同様に3つのボタンを再び押
します。
  ついてないときは、3列の絵が一回も揃ってくれず、腸が空になってしまいま
す(この状態を「運(ウン)がない」という)。
  カジノの場合、コインを全部使ってしまったら、あきらめるか、あるいはコイ
ン交換所で新しいコインを買って、さらにギャンブルを続けることができます。
  トイレにはコイン交換所はありませんが、その代わり売店があります。そこで
は釣ってから2ヶ月たった刺身、しぼりたての日から3ヶ月後の牛乳などが売ら
れています。ですから、ラスベガスのトイレで、「今日はついてねーな。」とい
う人で、
「このままでは帰れない。」という人は、売店に立ち寄った後にさらにチャレン
ジを続けることができます。

○コメント
「なぜ売店では下痢をしそうな食べ物、飲物しか売ってないのですか。普通のも
のでもいいと思いますが。」という疑問のメールをいただきました。
お答えします。
普通のものでは、消化して下腹部から出てくるまで数時間かかります。お客様は
そんなに長い時間トイレで待てません。ですから普通のものではダメなのです。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
私が公衆便所を嫌いな理由  [4/3]
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 今回は、「公衆便所が嫌いな理由」について述べてみたいと思います。

 おそらくほとんどの人は、「公衆便所が嫌いな理由」として以下のものを挙げ
るでしょう。

「トイレットペーパーがない。」
「掃除をしてなくて汚い。」
「ひわいな文字や絵が書かれていて不快。」

 一見納得のいく理由に思えます。
 しかし、よく考えると、これらの理由をもって公衆便所が嫌いだなんてバカげ
ています。

「トイレットペーパーがない。」などと言う人は図々しいと思いませんか。こう
いう人はトイレットペーパーは無料だと思いこんでいるのです。
 近ごろは、駅前などでティッシュペーパーを無料で配っているものだから日本
人は「トイレで使う紙などに金を払えるか。」などと思って付け上がっているの
です。
「ふざけんのもいい加減にしろ! 紙がなかったら、自分の靴下でもパンツでも
シャツでも使って拭け!」と怒鳴ってやりたい気持ちです。

「掃除をしてなくて汚い。」というのも理由になっていません。なぜ汚いかとい
うと、利用者がきれいな使い方をしないからなのです。中には便器を大きく外し
た用を足しておいて、そのままトイレを出ていく馬鹿もいます。こういう奴らは、
残された物体から回虫が何匹も顔を出していても恥ずかしいと思わないのでしょ
うか。
 みんなが公衆便所をきれい使えば、数年、いや数十年誰も掃除をしなくてもき
れいなはずです。公衆便所が汚いのは、公衆便所やそれを管理している役所が悪
いのではなく、利用している自分達が悪いのです。誰も自業自得だということに
気付いていないのです。

「ひわいな文字や絵が書かれていて不快。」というのも何だかよく分かりません。
不快に感じるのは、公衆便所に書かれた文字や絵を単なる「落書き」としてしか
見ていない証拠です。それらを文学・芸術作品として鑑賞していれば、少しは違
った見方ができるはずです。自分の文学・芸術に対するセンスのなさを棚に上げ
て、何を言ってやがる。

 とまあ、一般の人々は自分勝手な理由で公衆便所を嫌っているわけです。

 私はこのような凡人とは違い、上記の特徴を持つ公衆便所に入ったとしても、
それは公衆便所が悪いのではないことを知っているため、気を悪くしたりするこ
とはありません。

 しかし、私は公衆便所が嫌いです。公衆便所では私でも耐えられないことが一
つだけあるからです。では、そのことについてこれからお話いたします。

 私は目が悪いのですが、普段は容姿を気にして眼鏡をかけていません。そんな
わけで、公衆便所に入ったとき、和式便器の後ろの方に茶色の小さな汚物が点々
とくっついていたとしても見えません。そこで私はきれいなトイレだと思い、便
器にしゃがんで用を足してしまいます。用が済んだ後は、ごく当たり前なのです
が、トイレットペーパーあるいはティッシュペーパーで下腹部を拭き始めます。
何回か拭いた後、もう拭かなくていいかを確認するために、手に持ったトイレッ
トペーパーの汚れ具合を見ます。その時に私は、和式便器の後ろに汚物がくっつ
いていることに気付くのです。立っているときには目から便器が遠いため気付か
なかったのですが、しゃがんで便器に目をやると小さな汚物がおぼろげながら見
えるのです。
 ここで一番困のは、その小さな汚物は、私がトイレに入る前から便器について
いたものか、あるいは私が用を足したときについてしまったものなのか分からな
い点です。もしそれが自分のものであった場合は、もちろん自分に責任があるわ
けですから便器を拭かなければなりません。しかし、他人のものであった場合は、
汚した奴のために便器をきれいにしてやるなんて絶対に嫌です。
 しかしながら、見ているだけではどっちか分かりません。そこで、においを嗅
ぐのですが、私の鼻は犬ほど敏感でないため、それが私のものか他人のものか分
かりません。しかたがないのでとりあえず、私は便器についたその小さな汚物を
トイレットペーパーで拭きます。もしそれが自分のものであった場合は、出した
てのほやほやのため、「スッ!」と気持ちよく拭き取ることができて非常に気分
がいいのですが、他人のものの場合は、すでに乾燥していて、トイレットペーパ
ーが「ズリッ!」という音をたてて汚物の上を擦るだけで拭き取ることはできま
せん。それでも、もしそれが数時間前に誰かが用を足したときについたものであ
れば、トイレットペーパーに唾をつけてゴシゴシこすればなんとか拭き取ること
も可能です。しかし、数日前についたものである場合は、便器にこびりついて乾
燥しきっているためなかなか取れません。その場合は仕方がないので、人差し指
の爪で引っかきます。取れたらすぐに水道の水で爪をよく洗うのですが、人差し
指の悪臭は数日間はなかなか消えません。私が公衆便所を嫌いな理由は、まさに
これなのです。

○コメント
「人差し指の爪で引っかいた後は、匂いを嗅がなきゃいいじゃないか。」という
余計なお世話メールをいただきました。私は、他人の趣味に対しては、あーだこ
ーだ言うべきではないと思います。


これで終わりです。掲示板(BBS)最高傑作集45をお楽しみに。

                                                          フヒハ




#3121/3137 空中分解2
★タイトル (AKM     )  93/ 4/18   0:48  ( 59)
●楽戦楽勝ごりら男●その17 10人抜きの巻 ワクロー3
★内容

◆楽戦楽勝ごりら男◆17 ベガ破り10人抜き

 『ベガ』は、このゲームで最強キャラクターとされています。し
かし、問題となるのは、ここでもやはりゲーマーの技量です。

いくら優れたキャラクターでも、操っているゲーマーが弱ければど
うにもならないことはこれまで紹介してきた通りです。力が互角に
してはじめて、キャラクターの力の差がでて来るわけです。ラウン
ド1、ファイトーゲームセンターに合成音声が再び響きました。開
始早々『ベガ』はサイコクラッシャーの大技を出してきました。ど
りゅどりゅどりゅー

 擬音をひらがなで書くとあほみたいですが、ほかに表現のしよう
がありません。擬音とともに空中をよことびに飛んでくる『ベガ』。
 知人Rは『ごりら男』を後方にジャンプさせて蹴り落とします。
手慣れたものでした。『ベガ』の使い手がやったことといったら、
この開始いきなりのサイコクラッシャー。これをかけただけでした。
 蹴り落されてからは、まったく『ごりら男』のなすがままです。

 2ラウンド目は、さらに悲惨でした。抵抗のすべもなくコーナー
に追い詰められ、とどめを刺される『ベガ』。最強の名が泣きます。
ダブルニープレスも悪投げさえも、自慢の破壊的な技を繰り出す暇
もない、あっけない敗北です。

 この瞬間。ついについにゲーマーを10人撃破達成。
 ふらりと入ってきた道場破り=知人Rが、ついに10人のゲーマ
ーを破りました。周囲のゲーマーたちは、まるで看板を奪われた、
間抜けな道場師範のように放心していました。誰も11人目の席に
つこうというものがいません。

 『こいつには勝てない』

 誰しも挑戦する意欲を無くすほど、知人Rは抜群の強さを見せつ
けたのでした。Rの完勝です。

 面接までいくらも時間がありません。10人抜きをひとつの区切
りにして、会社への道に一歩を踏み出そうとしたときでした。

 ゲームセンターに入ってきたばかりの、小学生が100円だまを
握り締めて席につき、Rとの対戦機械に、その貴重な小遣いを投入
したのです。小学生の中には確かに強いゲーマーはいます。

 いますが、彼らには『知恵』がない。悲しいかな多くの小学生ゲ
ーマーは単に反射神経に優れているだけで、駆引きを知りません。
あほ丸だして手数で勝負するのが小学生ゲーマーの特徴です。

 そのことを知ってかどうか。周囲の見物人の輪が解けました。み
んなめいめいに自分のゲームをはじめる気になったのでしょう。結
果が知れている知人Rと無知な小学生ゲーマーとの対戦など、誰も
興味が沸かないという訳なのでしょうか。

 面接試験の行きがけの駄賃とばかりに、知人Rは、この挑戦を受
けて立ちました。11人目。もう、面接の時間まで余裕がありませ
んから、勝っても負けてもこれが一応の最後の勝負です。
 小学生ゲーマーはキャラクターの中から『サガット』を選択しま
した。

      (以下次回)



#3122/3137 空中分解2
★タイトル (AKM     )  93/ 4/18   2:15  (149)
お題>青空        ワクロー3
★内容

■お題《青空》■  ワクロー3


『や。わたし、ゼッタイに や だからね』

きっぱり断わられてしまった。

『どうして、わたしがやんなきゃならないのよ』
『や。だってさ、これって髪をおかっぱにするんでしょ。あたしゼ
ッタイにやだからね』
困った。


  ▼やなんだってさ▼

『それにさ、どうして、あたしじゃなくちゃなんないのよ。これさ、
これ。最初から やな予感がしてたんだよね。こんなのさ、やって
もさ、だれもこないよ。おもしろくないもん』

『とにかく や わたしはゼエッタイに ゼッタイに やだ』
『や。ほかの人さがしなさいよ』

(みんなやだと言われている)

『あなたがプロなら あたしもやってもいいけどさあ。あなたは、
学生でしょ。どうせつまらない話でしょ。誰もみないやつに あた
しがわざわざ出る意味がないもん。このくだらいのに出るためにソ
バージュきっちゃうなんてゼッタイにやだからね。ただでさえ こ
んどのは やなのに。なに?これ。ヌードのほうがまだいいわ...
あ、ヌードにもならないわよ。いっとくけど』


 ▼つりあわないんだってさ▼


『それにさ。わたしじゃ似合わないよ。これ。だってさ、わたし胸
があるしさ身長だって163あるんだよ。この時代の女の人にわた
しみたいな体格の人いないよ』

『それによ。それにさ。わたしの相手役になるW君はさ、身長16
0そこそこでしょ。そんなのゼッタイにおかしいって。つりあわな
いじゃない』

身長の差なんてどうにでもなるって。

『それにさ これって。わたしがやらなくちゃならないもんじゃな
いでしょ。だれでもいいんでしょ。だって読んだけどさ。ただ涙ぐ
めばいいんでしょ』

そりゃそうだけど。

『おかっぱにして、顔を汚して、それならさ、わたしであるヒツヨ
ウないわけでしょ』

そりゃそうだけど。

『ね?だったらさ。だったらほかにいくらでもいるって』

だって。きみはキスだってうまいし。

『ちょっと。あなたなに言ってるの????あたまどうかしてんじ
ゃないの?』

そりゃ確かに今度のやつとは無関係だけど。

『そんなことぜんぜん関係ないでしょ。ばっかみたい!!』

ああ、余計なこといって怒らせてしまった。

『だから。わたしは しないの。ほかの人のところへ話もっていっ
て。こんな話くるだけでも情けないと思っているんだから』


どうもすみません。

『それじゃ さよなら。こんなくだらない話を二度と持ってこない
でね
あたし忙しいんだから』


  ▼強気なんだからな▼

 といって強烈に断った彼女なのだが、なぜだか引き受けてくれた。
理由は分からない。理由なんてどうでもいい。引き受けたとなると、
こちらの天下だ。

『やっぱりやめる。できないもん』
『だってさ。演技ばかばかしいもん。台詞も難しいしさ。私のため
に台詞入れてくれたのはまあ、いいけどさ。これ難しくて読めない
よ。これ。振りがなふってよ』

『私ねボランティアなのよ。バイトすればバイト代出るのよ。旅行
だって行けるのよ。それをさ、こんなわけわかんないののためにさ。
お金ももらえないのにさ。髪まで切ってさ。買ったばっかのニット
の服だって似合わなくなったしさ』

言うんだよ。もいっぺん言えよ。

『強気じゃない。わたしがいないとできないんでしょ。』
『変な台本。みんなあきれてるわよ』

仕方ないので読む。いっぺんしか読まないぞ、展開を覚えておけ。
俺がWがやる上村大尉役だ。おまえ自分のところ読め。

『さいてー』


  ▼泣いて感動せよ▼

上村=全機青空セヨの命令が出ると駆け足で愛機のもとに行きます。
女子挺身隊員B=(上村をじっと見る)

上村=自分はいつ死んでも惜しい命ではありません
女子挺身隊員B=(うっすらと涙を浮かべて)セイクウってなんで
すの?

上村=失礼しました。セイクウとは、出撃のことであります。陸軍
飛行隊ではこう言うんであります。
女子挺身隊員B=まあ、どんな字を書くのですか?陸鷲の世界には
いろいろと難しい言葉がおありになるんですねえ。

上村=青空と書いてセイクウと読むのであります。

女子挺身隊員B役の女『これってさ、制するの制の字の間違いじゃ
ないの?』

いいや。素人は黙っておけばいいの。セイクウは青空なの。

『それにしても、ほんっっとにくだらないわね。これ』

大きなお世話だ。

結局、この演劇はさんざんな失敗に終わり、それっきり俺は舞台監
督のの道を諦め、もっか脚本書きに専念しているのである。あの時
の彼女は、ときおり、ボディコンを木綿の白いシャツに着替えても
らって、いったんひざまくらしてもらい、その姿勢のまま頭だけへ
びのように首をもたげて、彼女の胸に顔を埋めさてもらうとよい着
想が湧くのではないかと何度か実行したが、そのたびに彼女は『ヘ
ンタイなんだから。もー』と赤ちゃんをあやすノリで『イイコ、イ
イコ』してくれるので、そのつど眠りに入ってしまい、さっぱり脚
本が書けないのである。つくづく俺は不幸な人間だ。


 (お題『青空』←次回からもっともっともっともっともっともっ
と複雑怪奇なお題にしてほしい。シンプルだと想像力がないので妄
想に頼るしかないのです=以上完結)





#3124/3137 空中分解2
★タイトル (WJM     )  93/ 4/18  19: 2  (179)
透明な風            κει
★内容




                透き通った風になり
                世界中を旅しよう
                日本という
                あまりにも小国の中での事に
                少し疲れた時
                そして僕は元気になろう
                悲しくなろう
                一緒に涙しよう
                勇気づけられよう
                ともに喜ぼう
                流れている透明な風





空をみつめていると、そこに雲が遅々と流れてきて。
太陽は軽い綿に囲まれていて和やか。広いだけの公園にねころがってる。
右手を動かすと青々しい芝生がチクチク。頭と首もとも同じ。服も土で汚れてる。
でもそんなのはたまらなくちっぽけな事だよ。
広いだけの公園の真ん中でこうやって大の字になり永遠を見つめていたかった。
ずっとずっと。
ミクロの世界で酸素不足になり、サイズが合わない服を着せられ小さくなってたら本
当に小さくなりそうだった。ずっとずっと。
突如暴れだしたら絶対何かにぶつかるような心になってしまった事に対する悲しみ。
一番恐れたのはそれで僕がうずくまってしまう事だった。
日差しは春のフィルターをうけて柔らか。
気まぐれに動く雲が太陽の別れの挨拶にも応えず流れた。
気まぐれである喜びと平安は悲しみを覚えなければそれでよい。
風が少し離れたポプラの木をかすめた後、僕の頬にも吹いてきた。何度も何度も。
繰り返しの行為の中でも彼らは自由であった。僕の頬の後もどこか見知らぬところへ
ゆくんだ。

僕は右手をまっすぐに挙げて今吹いていった風に手紙をさしだした。
風は快くそれを受け取ってくれる。名前も知らぬ国の誰かに届けておくれ。
風と同じ波長を持った素材からなる手紙よどこか遠くへ。

横浜の男は酒の入ったコップを小さくなっている家族へ投げつけた。
壁にあたりガラスが飛び散る。
郷愁の中で生まれた鋭い音は目に涙を浮かばせた。
酒と女とにたんできした者の受ける報酬は完全なる崩壊。
僕の言葉は彼の耳に入ったのだろうか、それは誰にも分からない。次には長く張りつ
めた静寂が訪れる。

僕からのメッセージを受け取ったスンタルの少女はその時美味しいパンを焼いていた。
つまみ食いをした弟に褒められ彼女は嬉しそう。香ばしさを含んだ風。
僕は確かに少女の意識に入った。そして僅かにうなずいてくれた。

ロサンゼルスの少年は薄暗く散らかった部屋の中、注射器をふるえる手で見つめてい
た。針先から滴る液体が僅かに光る。うつろな目とドアのノブが壊れた心。
それは広大な草原にポツリと建てられたままの廃虚に酷似していた。
窓の隙間から風がはいる。しかし彼の目は恐ろしい形をした針から移すことが出来な
い。荒い息は狭すぎる空間から出れない。
現実から逃避していきついた場所だった。もうこれ以上場所はない、どうする事もで
きない、ただ生まれおちた日を複雑な想いで目をつむり想像するだけ。
悔恨が吹き荒れる中、注射針をからだに突き刺す。
風にポルノ雑誌のページがパラパラとめくられていた。

ローマの若い婦人は最近太り始めたからと食事の献立に頭を悩ましていた。
そのよこで夫が不満そうな顔をしている。
明日からしばらく肉はなし。それにボソリと不平を呟いたがため彼女に睨まれる。
その時風が流れ、テーブルの上の鉛筆をコロコロと転がした。
微風に二人は優しく目を細める。
にわかに赤子が隣の部屋で泣きだしたので彼らは我さきにと慌てて椅子をたち、愛す
る赤子のもとへかける。

リスボンでの少女は目をつむり彼からの口づけをまっている。
しっかりと組み合わされた両手から伝わる彼の温もり。
本当に愛されている事を知って沸き上がる大量の喜びで彼女はいっぱいになる。
華奢な体は不安と期待とで微かにふるえていた。
風が外見は静かに待っている彼女の前髪を持ち上げる。やがて彼の唇。

サハラの男性はただ一滴の水を求めていた。
埋もれゆく足に全てを恐れてジリジリと焼ける体に絶望していた。何のために歩くの
かさえもう分からぬ、ただ続く地平線の彼方。
道は無く今自分がどこにいるのかさえ分からぬ。ゆらゆらと揺らめく大地。右も左も
上も下も苦しみ。
こんぱいしきった精神。
空気が熱すぎて砂が熱すぎて体が熱すぎて喉が熱すぎて。
そして諦めるようにその場へ崩れた。焼けた砂が右頬にはりつく。
やけになり砂を口いっぱいに頬張った。そしてしばらくそれに苦しんだ。
希望はすでに枯渇しており、空にはただ灼熱の太陽があるだけ。焼けつきるのを覚悟
で太陽を見つめ続けた。放心は苦しみ。
そこで風は迷惑な砂嵐を運ぶ事しか出来なかった。しかし彼は僕の想いを受け取った
と思う。

モンロビアの少年は叫んでいた。
得体の知れぬ不安を消しさるべく険しい丘をかけながら。
破裂しそうになる心臓はかまわない。枝に足をつられて大きく転んだ。滲む血を右掌
でぬぐう。そこでまた大きく叫ぶ。
不安は成長してゆく自分にじゅうりんされているもう一人の自分と、捨てきれない夢
からでるものだった。叫びはあたりにこだましつづけている。

ヒューストンの青年は隣の彼女の肩を抱きたいと思いつつ勇気が出ずにためらってい
た。急に無口になった彼をみて彼女は首をかしげた。どうしたの?いやなんでもない。
ほんとお?茶目気をだして疑う彼女をみておもわず彼は大きな腕で彼女を抱きしめた。
一瞬驚いた彼女だがやがて目をつむり彼の胸に顔をもたせかけた。

アスシオンでは生命が世に誕生していた。母親の安らかな微笑みと力強い産声。
赤子の生命は輝ける希望と可能性をたずさえていた。
大事なことはそんなにない、ただ一つの生命が今この世におりた。風はその産声を母
親の耳に届けた。僕と一緒に。母親は静かに高揚していた。

どこか知らぬ寂しい路地に座っているのは男だった。何ももたない。
無気力な心は何も出来ない。雨がふっていてずぶ濡れだった。
彼はべつにそんな事はどうでもよかった。
泥が跳ねて彼の顔を汚す、傘をさした子どもたちが彼をみて罵っていたがそんな事も
どうでもよかった。
髭と髪が顔にへばりつく。ゴミ場の中で掴んだのはゴミだった。彼はそれをしばらく
は見つめたがやがて雨ふる空をみあげた。
どんよりとしたものだった。自己はとうに忘却されていた。

アンカラでは思いがけない誕生パーティーに一人の少女が恍惚とした表情を浮かべた
あと歓喜の声をあげた。クラッカーを存分に浴びて幸せを感じる。
微笑んでいる友人たちの手を飛び上がりながら握ってゆく。
にぎやかな部屋の中、潤んだ涙を風はやさしく包み込んだ。

同じようにオウルでも一人の女性の誕生日だった。彼からのプレゼントに彼女も歓喜
していた。
思わず彼に抱きつく。プレゼントは質素なものだった。ダイヤモンドの指輪ではなか
った、金のネックレスではなかった、決して彼女への貢ぎものではない彼の愛だった。
彼女があまりにもはしゃぐので彼も同じように喜ぶ。
お互いたまらなく幸せを感じとっていた。
幸せは相手からの純粋な愛以外のものを拒否する。

ネルチンスクの幼子は母親に抱かれて何の心配もなく母親のままに平安を感じていた。
夢うつつの状態で細くあけた目からは母親の微笑みが覗いている。
何もかも脆弱であるのに危惧を感じる必要がないという事の素晴らしさに気付くのは、
幼子がもっともっと成長した後。
母親が幼子のみずみずしい頬に何度もキスしはじめていた。
幼子はおもむろに瞳をとじてゆく。

僕と同じ心をみつけた。ブタペストの街で。
青すぎる空を仰いで白すぎる雲に想いをのせていた。
縛られていると感じた毎日の光はやはり太陽からの日差しであった。漠然とした夢が
あってその希望ゆえに苦しんでいた。
何の希望も持たずただ働いている人々のようになるべきなのか。
吟味すればするほどこたえはみえてくる。理想をすててしまい流れのままに揺られる
ならばきっと苦しむことはない。
捨てられない想いゆえ焦燥し涙するのだ。
ドナウ川へ向けて小さな石ころを精いっぱい投げつける。
もたれかけている大木の生命力と人々のざわめきの中の輝きをかいまみてもっと強く
生きようと心に唱えて胸を叩き続けていた。

風にのって帰ってきた返事を僕は両手いっぱいに抱え込み、そっと胸に押しやった。
音もなしにそれぞれが僕の胸に入りこみ、その中でまたそれぞれがそれぞれに歩みだ
した。そしてそのそれぞれの中にも僕が宿った。
きっと僕という存在を感じたはずだった、ほんの一瞬でも吹いた風に、ほんの一瞬で
も感じたささやきに。
彼らは遠い国にいる一人の僕をどのようにうつしたのだろう。眩しい光が僕の目には
いる。隣の学生鞄を手にすると僕は立ち上がった。とうに授業は始まっている。
もう昼になる頃だった。僕は土をはたく。
目をつむると全世界を旅したさわやかな微風が僕を包み込んだ。
僕は目をほそめ、もう一度両腕を精いっぱいひろげた。

















                                   Keiichiro☆彡

                                                        1993.04.09
                            1993.04.16



#3125/3137 空中分解2
★タイトル (AKM     )  93/ 4/19   0:43  ( 59)
●楽戦楽勝ごりら男●その18 サガットの使い手の巻 ワクロー3
★内容

 ◆楽戦楽勝ごりら男◆18 サガットの使い手

 それにしてもおかしい。平日の午後。夏休みでもなかったのに、
どうして小学生がゲームセンターにいたのか。こいつ。学校をさぼ
って、ここにいりびたってらがるのか。とんでもないやつがいたも
のである。しかし、まあ、それはそれとして。

 まずはお手並拝見。ラウンド1ファイトー。
 聞き慣れた機械の音声が再びゲームセンターにこだましました。
周囲の見物人はざっと5、6人に減っています。10人を抜かれた
今となっては、見ているだけでRの強さを認めることになるので、
実に不愉快だといわんばかりの仕打です。しょせん勝負なんてこん
なものなのです。

 勝てば勝ったで恨みを買う。誰も応援してくれもしない。孤独の
なかで闘う名誉こそ貴いのです。

 『ごりら男』は、間合いを測らず一気に飛び込みました。今度ば
かりは相手の出方を待っている暇はありません。なにしろ面接時間
が控えている。先制攻撃をかけて、蹂躙するつもりでしょう。『ご
りら男』の手慣れた飛び込みに続いて、知人Rは即座にパンチと蹴
り技を入れて、相手を圧倒するはずです。

 知人Rが、弱いやつを相手に繰り返し使っていた攻撃パターンを、
僕も見ているうちに覚えてしまいました。完璧な飛び込み、そして
息をつかせぬ追撃。とどめの電撃。画面を見なくとも、目に描ける
ほどです。

 しかし、ここで意外なことが起きました。『ごりら男』が飛び込
むのと一瞬遅れて、小学生操る『サガット』が登り蹴りの対空技で
迎え撃ったのです。これが決まりました。飛び込みを終えて着地態
勢にはいる『ごりら男』の顔面にもろに蹴りが入りました。

 『ごりら男』は、両目を飛び出して、ぐえ〜、という表情で情け
なく舌を出します。大技を受けて攻守が逆転しました。

 すかさず電気を出して感電攻撃で逃れようとした『ごりら男』。
けれどもこれもアッパーカットで返されてしまいます。返し技2発
の連続命中で窮地に立たされました。これはやばい。はた目にもは
っきりとわかります。

 油断したか知人R。こうなると反射神経に優れた疲れを知らない
小学生ゲーマーの天下です。ボタン連打の乱れ撃ち。なすすべもな
く一方的な小学生の勝利です。1ラウンド目完敗。知人Rは、刻刻
と迫り来る面接時間のプレッシャーに負けたわけでもないでしょう。
しかし、明らかに1ラウンド目を負けてしまったのです。

 『おお、小学生にやられた』

 数人残っていた、軟弱な見物人の一人が無遠慮に大きな声を出す
ものですから、再び人が集まってきました。まさかとは思うが、こ
いつが負けるかも知れないから見てやろうという、露骨な見物人根
性丸だしです。
 2ラウンド目が始まりましす。知人Rが、1ラウンド目とうって
変わって、対戦に真剣さを注入したのがよくわかりました。この相
手は、なめられん。気合いを入れて完璧をきさねば。決意がひしひ
しと伝わってきます。
     (以下次回)



#3126/3137 空中分解2
★タイトル (AKM     )  93/ 4/21   4: 6  ( 63)
●楽戦楽勝ごりら男●その19 知人Rの敗北の巻 ワクロー3
★内容

 ◆楽戦楽勝ごりら男◆19 知人Rの敗北

 2ラウンド目。知人Rは『ごりら男』に防御姿勢を取らせ、相手
の出方を見ます。1ラウンド目を完敗してしまったので相手の力量
がどの程度なのか測れませんでした。小学生ゲーマーは『サガット』
を前進。この間1秒もない間合い。知人Rは、飛び込み。緒戦の一
撃をものにしようとしました。

 小学生は『サガット』を手早く後退させて、登りげり。1ラウン
ド目開始のときと同じパターンです。着地する『ごりら男』の顔面
に蹴りがヒットします。ダメージ。

 さっきはここから電撃にいって返し技を食ったので今度はすばや
く引いて自重です。

 両者防御姿勢で動きが止まりました。この小学生。『サガット』
を操っての『ごりら男』の料理の仕方にかなり手慣れています。
『ごりら男』が飛び込んでくる間合いを承知していて、待ち受けて
いるようです。うかつには動けません。

 他の大技ではどうか。ポイントを先取されているので試すわけに
いきません。的確な返し技を受けると致命傷になってしまいます。
仕掛を誘う両者。相手に技をかけさせて返し技を狙おうという考え
で一致しているようでした。それにしても老練な小学生です。

 にらみあいの時間が過ぎました。このままでは、最初にポイント
を失っている知人Rの時間切れ判定負けになってしまいます。ゲー
ム機械の前に再び見物人が集まってきました。

 『ひょっとしたら。。』
 誰もが知人Rの敗北を期待しているようでした。面接の時間に迫
られ、同時にゲームのタイムオーバーに追い詰められた知人Rは、
ついに仕掛けました。ローリングアタック。 とみせかけての飛び
込みです。間合いを詰めての攻撃に反撃の活路を見いだそうと肉薄。
裏をかかれた小学生は、返し技を出し損なって後退。人間の心理と
して次は突撃したくなるところです。

 これを予測して『ごりら男』に電気びりびり防御をとって待ち受
ける知人R。

 完全な頭脳戦です。技量に差がないもの同士がはじめて行える高
度な予測戦術。正確なレバー操作での技の保持。隙あらば間違いな
く相手の死命を制するボタン操作。なんという素晴らしい試合なの
か。TVで全国中継してもいいぞー

 小学生は、知人Rの裏の裏をかきました。電撃にはまるとみせか
けて、大足払いで『ごりら男』の電撃を覆しました。転がされた
『ごりら男』に容赦なく襲いかかる小学生の集中攻撃。

 あっけない幕切れでした。10人抜きの勇者の最後が、こんな形
でやってこようとは。『ごりら男』は敗れました。

 小学生に再戦を挑む時間はありませんでした。面接までの時間が
無いので、まるで敗北を恥じるかのように、ものも言わずに、ゲー
ムセンターを出ていかねばならなかった知人R。

 次回は、その後の知人Rを追いながら、この物語の結末としたい
と思います。


         (以下次回)




#3127/3137 空中分解2
★タイトル (AKM     )  93/ 4/22   4: 7  ( 72)
●楽戦楽勝ごりら男●完結 老人ゲーマーの巻 ワクロー3
★内容

 ◆楽戦楽勝ごりら男◆20 老人ゲーマー

 キリストの生誕歴(つまり西暦)2035年12月1日土曜日。
80歳になった僕は、どでかいデパートが主催する『懐古骨董趣味
/電脳遊技展』の会場に陳列している展示品『ブロック崩し』の前
によぼついて立ち尽くしていました。

 こみ上げる懐かしさ。青春時代の興奮。展示品のケースによだれ
をだらだらだらだらしたたらせながら、

 『あふぁふぁ、こりは、こりはああーーー』歯が抜けてしまって
何を言っているのだかさっぱりわからぬ言葉で、じじいの僕は『ブ
ロック崩し』ゲーム機に頬ずりしている。

 コンパニオンのばあさんが、露骨にいやな顔をしながら『展示品
によだれをたらせては困るんだよ』と、冷たく言いはなつ中、懐か
しさを讃えた胸の興奮は治まらなかった。青春の日々、このゲーム
機と対して、1球全面クリアパーフェクトを立て続けに出していた、
反射神経と100円だまの日々。

 的確を誇ったパドル操作を誇っていた右腕もいまやぶるぶる震え、
目もしょぼついて、軽快に動く、玉の移動を示す輝点を追うのがや
っとです。コンパニオンのばあさんに執拗に懇願する僕。

 『なんだってー。これがやってみたいだってー。100円だまが
あるだって〜。じょうだんば、いっとかんねー。この機械は伝説的
電脳ゲームメーカー/タイトーが生み出した、電脳ゲームの始祖と
もいえるゲーム機の骨董品ばい!このくそじじい。あんたがさわれ
る機械じゃないんだよ』

 にべもなく追い払われるのでした。

 そのころ、同じデパートの子供向けのゲームセンターの一角に、
66歳になる知人Rが、今は誰も振り向かなくなってしまったぽん
こつゲーム機。『ストリートファイター2』の前にやってきました。

 若い頃の無理がたたったのか腕の震えが激しい知人R。それでも、
スト2の前に立つと、一瞬の気合いがよみがえるのか。100円だ
まを投入する。この機械の方もゲームコーナーの片隅で40年以上
にわたって息ながらえてきただけに老朽が目立ちます。

 最新鋭マシンが時折派手な電子音を出すたびに、電波干渉を受け
るのか、スト2の画面はよれよれによじれます。コントローラーは、
通算50万人近いゲーマーがいじり回してきたので、手ごたえがな
いほどふにょふにょです。ボタンは6つともカバーがとれていて、
連打すると指の皮につき刺さる。こんなことでは、電撃もローリン
グアタックも繰り出せないでしょう。

 『ありゃー』

 ふにょふにょのコントローラーで手元が狂ったのか、はたまた自
分の腕の震えから選び損なったか。知人Rは最弱の『バイソン』を
選んでしままいました。そうして機械が選択したのは、なんという
皮肉か。ごりら男=ブランカ。

 ラウンドーファイトー。。。。の合成音声も今では張りがありま
せん。
 66歳になった知人Rを空想するのは、このくらいでやめにして
おきましょう。20世紀日本が産んだせつな的な真剣勝負『ストリ
ートファイター』は電脳ゲームの傑作として歴史にのこるでしょう。

 しかし、このゲームを操った町のストリートファイターたちの名
前は残らないかも知れません。誰も記録しないヒーローたち。その
一人が知人Rだったというわけです。

 ちなみに知人Rは、11人抜きが挫折したがために面接に間に合
い、みごとその会社に就職を果たしたそうです。スト2の達人を社
員として迎えるその会社は、なんという幸運でありましょうか。

              (以上完結)




#3129/3137 空中分解2
★タイトル (UYD     )  93/ 4/23  12:15  ( 19)
タイガース日記  KEKE
★内容
 10試合ほどやって、阪神はまずまずの位置にいると思う。この
まま2勝1敗くらいのペースでいけばいいだろう。

 巨人はやっぱりという感じ。長嶋長嶋と騒ぎ過ぎて選手が萎縮し
ているようだ。昨日のプロ野球ニュースで豊田がそう言っていたが
、まさしくそのとおりだと思う。打席であれだけ力がはいっていて
は打てません。

 中日は意外なかんじ。デキが良すぎる。いずれ落ちてくると思う
。今が最高のデキで、これはいずれ裏目にでてくるだろう。まあ、
いいとこ4位というところじゃないの。

 広島はいい。このまま走ってしまうかもしれない。優勝の一番手
だな。

 ヤクルトもこのままとは考えられない。今にきっとでてくるだろ
う。

 横浜はこのままだな。最下位はまず確定だろう。



#3130/3137 空中分解2
★タイトル (UYD     )  93/ 4/23  21:57  (  4)
タイガース日記4/23  KEKE
★内容
一茂に打たれて敗けるとは。完全に安全パイと思っていたが。
まあいいだろう。年に一度の狂い咲き。長嶋親子もたまにはいい思いを
しなければ可哀相。だが年に一度だけだぞ、阪神投手陣。明日からはぴっちり
締めてやれ。



#3133/3137 空中分解2
★タイトル (KCF     )  93/ 4/24  10:39  (186)
掲示板(BBS)最高傑作集45
★内容

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
股間のなぞなぞ  [3/27]
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

○  缶を金槌で叩くと、どういう音がするでしょうか?

                                            答:「カーン!」

○  股間を金槌で叩くと、どういう音がするでしょうか?

                                            答:「コカーン!」
                                (「ボコ!  ウギャー!」は間違いです。)

納得のいかない方のためにもう一つ

○  プロレスラー、キラー・カーンの弟子で、股間が異常に発達した
  レスラーは誰?

                                            答:「キラー・コカーン」

○コメント
「股間を金槌で叩いたときの音として、
『ボコ!  ウギャー! ピーポーピーポー(救急車のサイレンの音)』というの
ではダメでしょうか?」というメールをいただきました。
「ウギャー!」から「ピーポーピーポー」までの時間が短すぎます。数行空けて
いたら部分点を与えたのに、残念です。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
スキー靴を履いての車の運転  [4/3]
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 先日、私は久しぶりに車でスキーに行ってきました。スキー場は、私が行く直
前に大雪が降ったらしく、雪がいっぱいあり、しかも快晴とあって、本当につい
ていました。しかも、宿泊していた旅館では女の子のグループと知り合いになり、
夜遅くまで一緒に酒を飲むこともできました。
「こんなラッキーなことばかり続いていいのかなあ」と思ったら、やっぱり最後
に嫌なことが起こりました。旅館を出発する寸前に、買ったばかりのナイキのシ
ューズを盗まれてしまったのです。そこで私はしかたなく、帰りはスキー靴をは
いて車を運転せざるを得ませんでした。

 最初のうちは問題なかったのですが、関越自動車道(高速道路)に入った途端、
なんとパトカーが私の車に近づいてきて、「前の車、路肩に寄りなさい。」とマ
イクで怒鳴り始めたのです。私は「やばい!」と思い、すぐに車を路肩に止めま
した。
 別にスピードを出しすぎていたわけではないので、「なぜなんだ?」と不思議
に思っていると、パトカーから20歳くらいの若い警官が降りてきて、私の車に
近づいてきました。私は、ドアウインドウを下げ、警官に尋ねました。
「私が何か悪いことしましたか?」
すると警官は、「不審な走り方をしていた。」と答えたのです。
 私はその答に全然納得がいかないので、頭にきて、「何なんだよ、その『不審
な走り方』って?」と文句を言ってやろうかと思いましたが、スキー靴を履いて
運転をしていたことがばれたらやばいので、車の外へ出ずに運転席から、
「申し訳ございません。これからは公明正大な走りを心がけます。」と言って素
直に頭を下げて謝りました。
 でも、これがよくなかったのです。私があまりに素直に謝ったため、その警官
は私が何かを隠していると感じたみたいなのです。そして、警官は私に、「車か
ら出ろ。」と命令してきました。
「寒いから嫌だ。」私はどうしてもスキー靴を見られたくないので反抗しました。
「怪しい。何か隠しているな。早く外に出ろ。」その警官はますます私を疑いま
した。
 私はハンドルにしがみついて抵抗しました。しかし、パトカーから45歳くら
いの中年の警官が応援に駆けつけ、私は2人の警官によって車の外へ引きずり出
されました。
 私はスキー靴を手で覆い隠しました。しかし、当たり前のことですが手よりも
スキー靴の方が大きいので隠しきれません。若い警官は、
「お前、何隠してるんだ。」と言いながら、私の手を払いのけました。
2人の警官は、私の足元をじろじろ見ながら言いました。
「スキーの帰りだな。」
「そうらしいですね。」
 私の車の屋根にはスキー板が積まれていました。スキー板はシートに包まれて
いたわけではなく、裸のまま車の上に載っていたのです。私の足元を見るまでも
なく、誰がどう考えたって私は「スキーの帰り」です。私がそのとき万が一「わ
らじ」を履いていたとしてもやっぱり私は「スキーの帰り」に決まっています。
この警官達はいったい何なんでしょうか。
 でも、スキー靴を履いて車を運転していたことについては何も言われなかった
ので、私は素直に、
「はい。おっしゃるとおり、私はスキーの帰りです。志賀高原から東京に帰ると
ころです。」と、とりあえず言っておきました。私は、「これで大丈夫かな。」
と思ったのですが、すぐに、中年の警官がまずいことを言い出しました。
「あれ? スキー靴履いて車を運転していいのかな?」
私は「やばい!」と思い、すぐに弁解しました。
「あれ! スキー靴履いて車を運転しちゃいけないんですか? 知らなかったな
ー。 どうもすみませんでした。」
こんな言い訳で許してくれるわかけがないのですが、2人の警官は私から離れ、
自分達だけで相談を始めました。
「先輩。私はスキー靴履いて運転しちゃいけないなんて聞いたことがありません
けど。」
「俺も聞いたことないけど、いけないんじゃないの。」
「でも先輩。交通法規にそんなこと書かれていませんよ。」
「こういうことは、交通法規ではなく、安全運転教本に書かれているんだ。」
「安全運転教本ならパトカーの中にあるから私が持ってきましょう。」
 若い警官はパトカーに行き、すぐに安全運転教本を持って戻ってきました。彼
は目次を見て、
「えーと、『車を運転するときの履き物に関する注意』、これですね。」と言っ
てページをぺらぺらめくり、やがて「履き物に関する注意」を読み始めました。
「えーと、『裸足で運転してはいけません。また、ハイヒール、サンダルなどの
脱げやすく不安定な靴を履いて車を運転してはいけません。』 先輩。スキー靴
はダメとは一言も書いてありませんよ。」
「そうだなあ。スキー靴は脱げにくく、安定性が抜群だからなあ。」
「やっぱりスキー靴はいいんですよ、先輩。」
 話し合いがまとまり、2人の警官は私の所へ戻ってきました。
「今日は大目に見ておくが、今度からは許さんぞ。」若い警官は私にこう言って
きました。
 私は何を大目に見てくれたのかよく分からなかったのですが、そのまま謝れば
警官達はすぐにどこかへ行ってくれそうだったので、
「わかりました。今後、このようなことが絶対ないよう注意いたします。」と頭
をかきながら警官達に言い、深々と頭を下げました。すると、警官達はパトカー
に戻り、猛スピードで走り去りました。

 私は納得のいかない警告に対する怒りと、スキー靴については問われなかった
という安堵のため、複雑な心境のまま車を走らせました。
 私は、次のインターチェンジで高速道路を降りました。まともな警官にスキー
靴を履いて運転しているところを見られたら、今度は絶対にまずいことになると
考え、靴を買うことにしたのです。しかし、高速道路を降りたところは超田舎で、
靴屋さんどころかコンビニすらほとんどありませんでした。結局、2時間ほど探
し、大きなスーパーマーケットでナイキの模造品である「ナイケ」のスポーツシ
ューズを2500円で買い、それを履いて東京に無事帰ってきました。

 みなさんもスキーに行って旅館で靴を盗まれた場合、いつ私と同じ運命になる
かわかりません。また、みなさんの場合は、スキー場で金を使いすぎ、新しい靴
を買うことができずに、結局はスキー靴を履いたまま自宅まで車を運転しなくて
はならないことになる可能性がないとは言えません。

 そこで、スキー靴を履いて車を運転する時の問題点を、私の経験に基づいて少
しばかし述べさせていただきます。

 スキー靴の第一の難点は、靴が馬鹿デカイことです。
とくに幅が大きいのが致命的です。履いている靴の幅が大きいため、ブレーキを
右足で踏むと、必ずアクセルかクラッチも同時に踏んでしまいます。従って、ス
ムーズな運転などできるわけがなく、警官に「不審な走り方をしている」と思わ
れてしまう可能性があります。

 第二の難点は、足首の曲げ伸ばしがまったくできないことです。
スキー靴を履いていると足首が常に曲がった状態ですので、ペダルをおもいっき
り踏むことができません。しかし、それでも急ブレーキをかけるときなど、ペダ
ルをおもいっきり踏まなくてはならないことが車の運転中は必ずあります。そこ
で、強引にペダルを踏んでしまうわけですが、その場合は必ずダッシュボードの
下に膝を激突させてしまいます。従って、自宅に着いたときは両足の膝の半月盤
がボロボロになっていることでしょう。

  第三の難点は、足の裏の感触がまったくないことです。
普通の靴を履いていれば「ペダルの踏みごたえ」があるのでスピードの微妙な調
節が可能です。しかし、スキー靴の場合は、靴底が分厚く、さらにバックルをき
つきつに締めているため足の感覚が麻痺して、ペダルを踏んでいるんだか踏んで
いないんだかまったくわかりません。従って、非常に危険です。

 第四の難点は、重いことです。
スピードを落とすためにアクセルからブレーキに右足を踏み換えるとき、靴が重
いと足が思うように上がらないため、ブレーキペダルを右側からスキー靴で蹴飛
ばしてしまいます。そうするとブレーキペダルを根元から折ってしまう可能性が
あります。しかし、履いているのがスキー靴なため、右足を怪我することはあり
ません。

 第五の難点は、足はスキー靴を履いているのに、手は何も付けていないという
のは不公平に思えることです。
そこで、手にスキー手袋をはめてハンドルを握ることになります。車内は暖房が
入っているので、運転中、ハンドルではなく車のラジエーターを握っているので
はないかと勘違いしてしまうほど手が熱いはずです。
 やがて、スキー手袋から汗が湧き出てきます。その汗は上腕を伝わり、肘から
下にポタポタ落ちます。手はハンドルを握っているわけですから、肘から落ちた
汗は下にあるズボンに吸収されます。すぐにズボンは手から流れ出た汗でびちょ
びちょになり、今度は足を伝わってスキー靴の中に染み込みます。この時の足は、
地表を突き破ってマグマに直接足を接触させているんじゃないかと思うほど熱い
はずです。
 車に同乗している友人達は、あなただけにそんな苦痛を味あわせるのは酷だと
同情してくれるので、みんなも車の中ではスキー靴を履き、スキー手袋をはめ、
汗だくになります。したがって帰りの車中は、サウナの中で焚火をしているとき
に、何を思ったのか、焚火の上から灯油をぶっかけてしまったという、そんな熱
さになるでしょう。

○コメント
文章の中で、車のルーフにスキー板を積んでいれば、足は何を履いていてもスキ
ーに行く途中、あるいはスキーの帰りになるというようなことを書いてしまいま
したが、これは間違いでした。車にスキー板を載せていても、足にスキューバダ
イビングの「足ひれ」を履いて車を運転していた場合は、必ずしもスキーに行く
途中、あるいはスキーの帰りとは限りません。ただし、この状態で警官に見つか
った場合は、挙動不審と見られ、警察に連行される可能性がありますので注意し
て下さい。


これで終わりです。掲示板(BBS)最高傑作集46をお楽しみに。

                                                          フヒハ




#3135/3137 空中分解2
★タイトル (TEM     )  93/ 4/24  19: 7  (121)
当世源氏(6)        うちだ
★内容

〜いいひとでいてね〜

ある夜突然、浅雄が女の子を連れて僕のアパートにやってきた。
「タミオ〜。金貸してくれー。あとで絶対返すから」と浅雄。
「イキナリなんだよ、それは」
さすがに温和な僕も突然寝入りばなを起こされて“金を貸せ”と来られたら、
そりゃ気分よくない。それでも一応二人を中に通してインスタントコーヒーを
入れて出した。浅雄は数カ月前にバイト先で知り合った大学生だ。女の子のほ
うは僕の初めてみる顔だった。入ってくるなりずっと下をむいたまま黙って座っ
ている。髪の長い子供っぽい輪郭の娘だった。下を向いたままだから顔ははっ
きりと分からない。浅雄が喋りはじめた。
「この娘、俺の友達でさ、ちょっと事情があって今日帰れないんだ。俺んち泊
めるわけにはいかんし、なんとかしてあげたいんだ」
浅雄って人が元気がないというとわざわざ来てくれてるような、ほーんと気の
良い奴なんだけどね、寝起きで機嫌が悪い僕は少しだけイジワルを言ってみた
くなる。「じゃ僕のアパートに泊めてけば?」
「・・・タミオ。お前は悪い奴じゃないけどこと女に関しては、どーーも信用
おけないんだよな。この娘、美也子ちゃんてゆうんだけど、この娘はそういう
フシダラな娘じゃないんだよ」浅雄は鬼のような形相で僕にくいさがってくる。
顔には人格がにじみでるとかいうけどあれは嘘だ。浅雄なんて世話好きですご
くいい奴なんだけどふだんも凄く恐ろしい顔をしている。まさに鬼瓦。
「フシダラねえ」僕は苦笑する。「そんなことはどーでもいいけどさ。お金も
貸すのはいいよ。でもせめて訳を教えてくれない?」
美也子ちゃんはうつむいたままだ。浅雄は少し躊躇したけどもそもそと話はじ
めた。「タミオさあ、透って知ってるよな?」
「えーと・・・前に浅雄のこと迎えにきた、なんか奇麗な顔した奴、だろ?」
浅雄はこくりとうなずいた。彼がまだバイトをしていたころ、店をひいた後か
らスキーへ行くとかで何度か車まで店に彼を迎えに来た同じサークルの男の一
人が透だ(そのサークルは夏・サーフィンとダイビング、冬・スキーというお
気楽なものらしい)。僕も少し話したことがある。透には“伝説”が数多く残
されていると浅雄は笑って僕に教えてくれた。透は口説かなくても女の子が落
ちるとか、高校の頃は土曜の放課後の学校の正門に彼を迎えに来る車の女がは
ちあわせて取っ組み合いの喧嘩が始まっただの。彼には双子の姉がいて、やっ
ぱりモテるんだけど、これも人を人とも思わない女らしいとか。ま、それはお
いといて。
「あいつ・・・透さぁ二万円で美也子ちゃんのこと売ったんだよ」
「売ったぁ〜??」
思わずすっとんきょうな声を出す僕。ううっと浅雄のとなりで、かの美也子ちゃ
んが泣き出した。浅雄は“もっと気を使ってくれよう”ってな感じの視線を僕
に送る。浅雄は壊れ物に触るみたいに彼女の肩に手をかけたて彼女をなぐさめ
はじめた。浅雄の話によると美也子ちゃんは前からイイナアと思っていた透か
らデートに誘われて有頂天になって出掛けていったそうだ。帰る段になって透
が無理やりラブホテルに引っ張り込んだという。
「でな、それだけでもヒデーんだけど“俺のこと好きならなんでも言うこと聞
くだろ”とかゆってそのホテルの部屋に別の男が待たせてあるんだぜ。美也子
ちゃん、びっくりして逃げてきて、さっき俺のところに連絡くれたんだ」
「????」僕は首を傾げた。浅雄が言葉を続ける。
「いや、その男ってのは同じサークルの杉本って奴で、後で本人から聞いたん
だけど透が“女連れてくるから”っ言うから金を渡してホテルで待ってたらし
い。まさか顔見知りの美也子ちゃんが来るなんて夢にも思ってなかったって言っ
てた」
「なんだそりゃ」
あんまりといえばあんまりな・・・それって単に馬鹿にされてるってことじゃ
ないだろうか、美也子ちゃん(杉本って奴もね)。遊んでポイの比じゃないと
思う、なんて本人目の前にしてさすがに言えなかったけど。僕は思わず頭をか
かえた。人を人とも思わない透。それでも彼のことを追い回す女の子が絶えな
いというのはひとえにそのルックスによるものだろう。僕はいつか見た彼のこ
とを思い出していた。身長180センチのスラリとした体型。そつのない喋り
方。切れ長の澄んだ眼。あっさりした顔つき。天使みたいに罪のない爽やかな
笑顔。その下にそんな悪魔のような心があるなんて想像できる女の子がいるだ
ろうか。で、その夜は結局、僕は浅雄にお金を貸した。一人暮らしの僕が一万
円の出費は痛いけど、浅雄は金のことはきっちりしてくれる奴だし。それに彼
が美也子ちゃんのことを好きだというのがはたから見ている僕にもはっきり分
かったからね。浅雄は僕に何度も礼を言って美也子ちゃんを送っていった。浅
雄はきっと、ただただちゃーんと美也子ちゃんを送って、まじめに帰っていく
んだよな。まあそこがあいつのイイトコなんだけど。

二、三日後に浅雄はお金を返しに僕のバイト先のコンビニエンスストアまで来
てくれた。それからあの日以来、美也子ちゃんと結構喋れるようになったと喜
々として話して帰っていった。

いつものようにバイトで入ってて、レジを打ったり商品を並べた
りしていた。でも新しく出来たピザ屋のバイトの時給がイイもんだから、コン
ビニエンスでのバイトはその日が最後だった。夕方、黒いワンピースの若い女
がヨーグルトを買った。
「一〇三円のお買い上げになります・・・袋はいいですか?」
「あの・・・タミオくん・・・でしょ」
と言われて僕は目を上げた。いつかの夜、浅雄が連れてきた女の子だった。長
い髪をポニーテールにして片えくぼで笑っている。こうして見るとちょっと可
愛かった。
「あ・・・えーっと、確か浅雄の友達の・・・」
「美也子よ」
美也子ちゃんはニコリと笑って言った。それから一〇三円きっかりでお金をく
れた。「倉田クンからここだって聞いたから、一言お礼が言いたくて・・・」
倉田クンというのは、浅雄のことだ。
「そーか・・・美也子ちゃんはもう大丈夫?」
「うん、もう元気。この間はゴメンナサイね」
「はは、お礼なら俺よりも浅雄に言ってよ。すっごく心配してたからさ、あい
つ」
うふふと美也子ちゃんは困ったように笑った。「そのことなんだけど・・・私、
すっごく感謝はしてるのよ? 倉田クンていい人なんだけど・・・」
僕はレジの手を止める。「だけど?」
「・・・何か最近、映画とかいろいろ誘ってくれて・・・倉田クンはいい人な
んだけど、付き合うとかそう風には、私考えられなくて」
「ふーーーん。なるほどね。じゃ美也子ちゃんはどんな奴がいいの?」
「えー・・そうねー」美也子ちゃんはいたずらっぽく笑った。「そうねえ・・・
タミオくんとか結構タイプ・・・なんてね」そう言うと僕の目をのぞきこんだ。
「そぉう?」僕は笑ってヨーグルトのパックを手渡した。「じゃあさあ、今度
どっか遊びに行かない?」
「行く行く!」それから美也子ちゃんは電話番号をメモして僕の手に握らせて
帰っていった。次の日、浅雄が日本酒の一升瓶を片手に僕の部屋にやって来た。
僕と浅雄は黙って飲んだ。浅雄はしたたか飲んで帰り際、“美也子ちゃんにハッ
キリ振られた”と言った。僕は黙って聞いていた。浅雄はいいやつ。だけどそ
れだけじゃきっと駄目なんだ。美也子ちゃんはこのあいだの浅雄の話じゃ“透
に無理やりホテルへ引っ張り込まれて云々”ってことだったけど、ホントのと
ころ“透なら一回でもイイから”ってその気でついて行ったんじゃないかな、
なんて僕は思う。なんとなくだけどね。僕はジーンズのポケットに入れたまま
になっていた電話番号のメモのことを思った。女の子って残酷だ。透ってやつ
はほんとにヤナ奴なんだろうけど、そんな“残酷”な部分をいやってほど知っ
てるんじゃないかと思った。そんなことは知らなければ知らないままのほうが
いいのに。

で、唐突なんだけど美也子ちゃんの話はこれでおしまい。例のコンビニのバイ
トはあの日が最後だったし、電話番号のメモはジーンズのポケットに入れたの
を忘れて洗濯しちゃったから彼女とはそれっきり会っていない。浅雄は相変わ
らず、ときどきふらりと僕のアパートに来たりしている。今、彼は一生懸命別
の女の子にアタックしてるらしい。(報われるといいんだけどね)
浅雄は美也子ちゃんが僕のバイト先に来たことは知らない。永遠に知らなくて
いいと思う。
                             おわり



#3137/3137 空中分解2
★タイトル (KCF     )  93/ 5/ 8  16:16  (170)
掲示板(BBS)最高傑作集46
★内容

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
非常コックに注意!  [4/10]
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 バスによく乗る方はご存じと思いますが、バスの後方には必ず「非常出口」が
あります。この出口は運転席から自動的に開けることはできず、非常出口のすぐ
そばにある「非常コック」をひねらなければ開きません。実際にこの非常コック
をひねって非常ドアを開けたことのある人は少ないと思いますが、緊急の際、す
ぐにバスの外に脱出しなければならないときに必要不可欠なものですので、その
使い方は必ず覚えておかなければなりません。

 私の友人にオーストラリア人の女性がいますが、彼女が先日、「非常コック」
に関する話をしてくれました。
 彼女は千葉県でアシスタント・ティーチャー(日本の公立中・高校で英語を教
えるネイティブの外国人)をしています。その彼女が先日、福島県で同じ仕事を
している女友達(この人もオーストラリア人)と2人で猪苗代湖を旅行したそう
です。
 湖に行くため、彼女達は駅からバスに乗りました。2人ともオーストラリアの
大学で4年間日本語を学んだので、かなり日本語が流暢です。ですから、運転手
が福島なまりの強い日本語を話しても問題なく湖行きのバスに乗り込むことがで
きたそうです。
 バスには乗客は誰も乗っていませんでした。そこで2人はガラガラのバスの後
部座席に座りました。やがて彼女達は、座席の横の壁に、「非常コック」と赤い
太文字で書かれていたのに気付き、2人で顔を合わせて大爆笑したというのです。

  彼女は私にこの話をした途端、笑い出しました。私は、何がおかしいのかさっ
ぱりわからなかったので、彼女にどうしておかしいのか尋ねてみたのです。

 彼女が言うには、英語では「コック(cock)」はもっぱら「男性器」を意
味するというのです。だから「非常コック」に笑いころげたと言うのです。

  でも、これが大爆笑するほどおかしい話でしょうか。私は彼女からなぜおかし
いか説明してもらっても全然笑いませんでした。

 彼女があれだけ笑うには、バスの中で「非常コック」の赤い太文字を2人が見
つけた後に何かあったに違いません。そこで私は猪苗代湖行きのバスの中で何が
起こったか想像してみました。


 「非常」という日本語の単語は初歩的な語句なので、彼女達はすぐ「emer
gency(非常用の、緊急の)」と理解できたはずです。しかし、次の「コッ
ク」はわからなかったのではないでしょうか。私も国語辞書を引いてわかったの
ですが、日本語の「コック」は「横にねじったりして開閉する栓」を意味するの
です。この外来語の意味を正確に言える人は日本人でも少ないのではないでしょ
うか。したがって、日本語が相当できる彼女達でもその本当の意味を知っていた
とは思えません。しかし、「コック」がカタカナであったため彼女達はそれが外
来語であるということはわかったはずです。だから当然、彼女達は日本語の「コ
ック」が英語の「cock(男性器)」と同じものだと思ったに違いありません。
 つまり、バスの中で彼女達が「非常コック」の文字を見つけた時、彼女達の頭
ではすぐに、「emergency cock(非常用男性器)」と翻訳された
はずです。
 そうなれば彼女達は必死になって「非常コック」を探し始めたに違いありませ
ん。しかし、「横にねじったりして開閉する栓」はあったけど、「非常コック」
は結局見つかりませんでした。そこで「変だ!」と感じた2人はバスの運転手の
所へ行き、「非常コックがありません。」と言いました。
バスの運転手は、
「え! そんなはずはないよ。」と驚き、後部座席にやって来ました。そして彼
は、座席の横にある日本語の「非常コック」を指さし、
「そこにあるじゃないですか。びっくりさせないでくださいよ。」
と彼女達に言いました。
彼女達は、
「え? これが『非常コック』ですか?」
と言って驚きました。でも彼女達は日本人と外人の間に解釈の違いがあることが
分かったのですぐに納得しました。そして彼女達は、「コック」の英語本来の意
味を運転手にゼスチャーを交えながら懇切丁寧に説明してあげました。
 バスの運転手は、昔の日本人が英語の「cock」を誤解して日本語に取り入
れてしまったことを悟りました。そして彼は、日本では「コック」は「横にねじ
ったりして開閉する栓」を意味することを彼女達に教えてあげました。
また彼は、それだけではなんなので、
「このバスには英語の『非常コック』もあります。」
と訳のわからないことを言いながら自分のズボンのチャックを下げたのです。
 彼女達は、日本では「コック」というのは「横にねじったりして開閉する栓」
であることをすでに十分承知していたので、2人して彼のチャックから出ている
「栓」を横にねじったりしました。
 やがてバスの運転手は救急車で猪苗代救急病院に運ばれました。

  おそらくこのようなことが起こったのではないでしょうか。でなければ彼女が
あれほど笑うはずはありません。

○コメント
その後、そのオーストラリアの女性に「実際はこうだったんだろ?」と問い詰め
たところ、彼女は
「運転手のチャックから出ていた『栓』をねじった角度は32度くらいだったの
で、救急車で病院に担ぎ込まれるほどのことはなかった。」と白状しました。
私の推理は間違っていました。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
スキーで一番楽しいこと  [4/10]
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 みなさんはスキーに行って何が一番楽しいですか?

 もちろん、わざわざお金と時間をかけて遠くの山にスキーに行くわけですから、
「スキーをすること。」
が一番楽しいという人が多いと思います。もうちょっとしゃれた人なら、
「白銀の斜面にシュプールを描くこと。」などと文学的な表現を使い、
「私はスキーがうまいんだぞ!」という自慢を言外に匂わせるのではないでしょ
うか。

 また最近は、スキーがさほど好きでないのにスキーに行く人がけっこうたくさ
んいます。こういう人は、スキーで一番楽しいことに、
「一日中滑った後に旅館に戻ってから入る温泉」を挙げるかもしれません。ある
いは、
「アフタースキーのディスコでのナンパ」などという、何のためにわざわざ金を
かけて山奥まで来たのか首をひねってしまうような人もいることでしょう。

 いずれにしろ、「スキーで一番楽しいこと」は人によってさまざまのようです。
 しかし実際には、上に述べたようなことが「スキーで一番楽しいこと」ではあ
りません。上記のように答えた人々はスキーの本当の喜びを隠しています。その
真の喜びとは、スキーをした人なら誰でも間違いなく体験しているものなのです。
その喜びの瞬間には、人々はみんな笑顔を浮かべ、あまりの快感に「あーん!」
というため息すら漏らしてしまう人も非常に多いのです。

 さて、その喜び・快感とは何でしょうか?
 記憶力のいい人はもう思い出したと思いますが、頭の悪い人のためにここで述
べておきます。

 それは「スキーを終えて、スキー靴を脱ぐことです。」

 スキーをするときは普通、カチカチに固いスキー靴を履き、バックルをキツキ
ツに締めて滑ります。ですから、どんなにスキーがうまい人でもしばらく滑ると
足がガンガン痛み出します。こんなの楽しいわけがありません。これはむしろ拷
問です。
 やがて、夕方になりリフトが止まります。そこでみなさん旅館に戻り、乾燥室
でスキー靴を脱ぐのですが、その瞬間、すなわち拷問から解放された瞬間、極上
の快感が全身を駆け巡ります。この快感が得られるからこそ、みなさん交通渋滞
や満員電車に凝りることなく何度もスキーに行くのです。

 でも、この快感を味わうために時間をかけ、大金を払ってわざわざスキー場ま
で行く必要があるのでしょうか?
 よく考えると、こんな快感は自宅でも味わうことができそうなものです。しか
し、そこはやはり、他人の目を気にしすぎる日本人。自宅でスキー靴を脱いで快
感に浸っているところを近所の人に見つかりでもしたら、自慰をしているところ
を家族に見られたくらいに恥ずかしい思いをしてしまうのです。そんなわけだか
ら日本人は、お金と時間をかけてわざわざスキー場に行き、スキー靴を脱ぐ快感
をエンジョイするのです。

 それに比べ、外人は割り切っています。ヨーロッパ、とりわけスキー発祥の地
であるノルウェーの人々は日本人のように他人の目など気にしません。といって、
ノルウェー人は家族の目の前で堂々と自慰をしているとは言っていませんので早
合点しないでください。
 ノルウェー人はスキー靴を脱ぐ快感を味わうためにスキー場などには行きませ
ん。彼らはまず、スポーツ店に行き、スキー靴を買います。その時、店員には、
「スキー靴を脱いだときに一番快感のある靴をください。」ときっぱり言います。
そして、自分の足のサイズよりもはるかに小さなスキー靴を購入し店を出ます。
彼らはスキー板やストック、スキーウェアなどは一切買いません。家に着いたら
先ほど買ったどう見ても足が入らなそうな小さなスキー靴に自分の足を強引に押
し込み、バックルをキツキツに締め、さらに靴の周りに針金をグルグル巻いて外
へ出ます。後はもう、ぶっ倒れるまで町内を駆け巡り、足がうっ血し、足の感覚
が完全に麻痺したところで家に帰り、スキー靴を脱ぎ、「スキーの最高の喜び」
を味わうのです。この時彼らは近所を気にせず大声で、「ウォー!」という快感
の雄叫びを上げるのです。
 前回のアルベールビルオリンピックでノルウェーが大活躍したのはみなさんご
存知の通りです。5年後の長野オリンピックで多くのメダル獲得をめざす日本人
にとって、ノルウェー人から見習うことは非常にたくさんあるのではないでしょ
うか。

○コメント
メキシコオリンピックだと思いますが、マラソンで、エチオビアのアベベが裸足
で走って優勝し、全世界の人々を驚嘆させました。でも、今後誰かがスキー靴を
履いてオリンピックのマラソンに優勝したら、アベベのこの偉業も一瞬にしてぶ
っ飛んでしまうことでしょう。


これで終わりです。掲示板(BBS)最高傑作集47をお楽しみに。

                                                          フヒハ




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