AWC 空中分解2



#3098/3137 空中分解2
★タイトル (UYD     )  93/ 4/11  21:36  ( 22)
タイガース日記4/11  KEKE
★内容
 阪神やっと勝った。まずはめでたい。それに勝ち方もいい。湯舟
が抑えて打線が爆発。ま、途中で追いつかれたけれど、あれは大チ
ョンボによるものだし、湯舟には関係ないことだ。三点取られてい
るが、実質は一点だ。投手陣全滅という私の予言ははずれるかもし
れない。中込は、この間のトーナメントをみるかぎり結構やりそう
だし、猪俣もなかなかいい。仲田だってまさかあのままということ
はあるまい。もし投手陣が去年のように好調だと、打線がいいだけ
に優勝争いに絡むかもしれない。いや、ケッコウケッコウ。

 巨人は今日も勝ったけどたいしたことはない。今年最下位とみら
れている横浜相手にあのありさまでは、勝った、勝った、と大喜び
することではない。たいしたことない投手陣相手に4〜5安打しか
できない打線の心配でもしていたほうがいいだろう。もっと投手陣
のいい相手かあるいは打線のいい相手だと手もなくひねられるんじ
ゃないか。それに長嶋監督の采配は相変わらず変だ。監督一期目の
最下位が目にうかぶ。

 広島が意外といい。打線がいいし、投手陣も意外とふんばってい
る。ひょっとしたら優勝の一番手になるんじゃないか。台風の目だ
な。

 ともあれ野球シーズン開幕。今年もわくわくさせてくれ。



#3099/3137 空中分解2
★タイトル (KGJ     )  93/ 4/12   9:29  ( 77)
お題>青空           村風子
★内容

 急峻な狭間の底、谷川添いの路。
<ここの空は、青く澄んでいるわ> 女は歩きながら言った。
<うん、空は青い> 男は言った。
 女は、大学生、男はこの村の者、二人は同じ歳。

 天竜川から和知野川をさかのぼる。谷は深く山は幾重にも急峻に重なる。
 谷川に沿った道。上り下り右に左に、杉、桧、松、家は山の斜面にしがみつき、点在
している。山間の少し開けた平地に出る、これが村の中心地。過疎の村。山紫水明の美
しい村。自然のふところに深く抱かれて自然に溶け込んでいる。村の心の拠り所となる
景観。その中心に、二人が出た、小学校と中学校が並んでいる。
 女は目指した大学へ。
 男は村役場の職員に。先祖から受け継いだ、自然、文化、心、郷土愛をもって未来を
切り開いて行く職員に。妥協?、情熱?。
 村の人口は七百六十八人、結婚は一年に一組、離婚も一組、平成二年のデータ。

<覚えている? 学校の階段、上がって行くと青空へ吸い込まれる、感じ・・・>
<うん、透明の屋根> 男は女の言うことに答えるだけ、それも呟くように。
<体育館と修学館の、間、垂直な空間に、透明の屋根が・・>
<うん、空が見えた>
<本館二階から体育館へ、橋渡しの廊下、透明のドーム、学校じゅう見渡せたね>
<うん、空も見えた「ハシロウカ」て呼んでた>
<雨の日、風の日、雪の日、何時も移動が楽しかったわ、あの「ハシロウカ」>
<うん、「ハシロウカ」へ行かない日はなかった>
<あの「ハシロウカ」の口へ一人で立つと・・・、何処へ続く架け橋か・・?>
 女はそこで口をつむった。男は黙って一歩遅れた。
 女は空を見上げた。宙をはしる「ハシロウカ」二十一世紀へと続く架け橋をイメージ
させる光景、設計者の意か、二十一世紀はもう間近か。
 女が口をつむったのは、放課後、人気の無い校内を歩いて、「ハシロウカ」の口へ出
た印象が頭をよぎったから。透明なドームに覆われた橋の廊下は、眩しく明るかった、
しかしその奥は体育館、体育館に間違いないのに、体育館は見えない、薄暗く霞んだ空
間でしか無かった。踏み込もうとする廊下は、あまりにも明る過ぎた。
<・・・あそこにも空が欲しかった>
 女が呟いた、男は、また一歩遅れた。女は上って行くと大空へ吸い込まれる感じの学
校の階段が好きだった。この階段を昇って最初に卒業した生徒の二人。村の人達一人一
人が、村を愛する心で力を合わせて、新しく建て替えた学校。未来に向かって大きい呼
吸を、明るい未来のメッセージが聞ききたくて。大空へ吸い込まれる感じの階段を上が
った、空に向かって、希望に向かって。

 空も色々。
 重く灰色の雲が垂れ下る空、雨の日の空、雪の舞う空、その上に青空があると女は信
じていた。空に「大学」の文字が浮かんだ間は。今は違う。大学生になった今は、東京
の空は、白く不透明、その上に澄んだ青空があると、信じょうと努めても、だめ、倦怠
が覆うだけ。「ハシロウカ」みたい、気付かずに飛び込んだ眩しく明るい廊下の、大学
は、中程までは佳かったが、残りは、急いで渡れない。先に広い自由に活動の出来る広
場があると判っていて、それでも。大学の廊下は、何故? 恐いの? わからない。

 女は、空を見に、確かめに、村へ戻ってきた。
 青く澄んだ空はあった、しかし、何も語らない、教えてもくれない。

女は立ち止まり、男を待って、肩を並べた。男の心、胸の内、考えている事を知りたい
と思った。すると歩きながら肩が自然に並んだ。何も語らなくても女は肩を並べて歩け
ることを知って、黙って歩いた。

 男が言った。
<どうかしたのか?>
<いえ、別に>今度は女が呟くように言った。
<おかしいよ>
<どうして?>
<何かあったのかい>
<何もないわ>
<なら、いいけど。何で今頃帰って来た>
<青空が見たくなって> 女は笑顔を見せて明るく言った。
<青空? そんな、空なんて何処でも見える>
<東京の空は白いの、いえ、少し灰色掛かった白ね?>
<驚いた、空を見に、わざわざ>

 男は笑った。女は首をすくめて微笑んだ。

<そんなことして遊んでたら卒業できんぞ、大学出て何になりたい?>
<それ、それなの、公民館で雇ってくれない、村長さんに頼んでおいて、きめた>

 女は髪を風になびかせて走りだした。
 男も走った。二人の肩は並んでいた。
                               終





#3100/3137 空中分解2
★タイトル (AKM     )  93/ 4/12  22:37  ( 59)
●楽戦楽勝ごりら男●その15 美少女激闘の巻 ワクロー3
★内容

 ◆楽戦楽勝ごりら男◆15 少女抜き

 少女ゲーマーとの2ラウンド目。これを失うと負けです。知人R
は、どんな戦術で立ち向かうのか。
 見物人が見ている中、開始早々にRは『ごりら男』にローリング
アタックを掛けさせました。これは無謀か...

 相手はRの出方を熟知しています。いきなり大技を仕掛けては返
されるに決まっている。 案の定、少女の『ケン』は波動拳を出そ
うとします。さっきと同じ波動拳の連続攻撃で一気にかたをつけよ
うというのでしょう。知人Rの表情には一瞬しまった!という色が
出ました。うっかり出してしまった技だったようです。

 しかし、高度な技量の持主の失策は、かえって奇襲の効果をもた
らせたようです。

 少女は当然のごとく波動拳で、撃退.....と思いきや、あり
えない無造作な技を見て、判断が狂ったとしかいいようがない失敗
です。昇竜拳を打ってしまいました。
 跳んでくる相手に対しては効果的な昇竜拳も、ごろごろ転がって
来る『ごりら男』に対しては無力です。むしろこの場合有害でしか
ない。相手がいない方向に昇竜拳を打ち、着地してきたところに転
がってきた『ごりら男』のローリングアタックがもろに命中しまし
た。

 おおー っとどよめく背後の観衆。ほとんど全員が少女ゲーマー
のファンといってもよいでしょう。必勝パターンをミスタッチによ
って自ら苦境に立たされた少女ゲーマーへの無言の声援が圧迫して
きます。

 その中、Rの『ごりら男』は、この機会しかない、とばかりにボ
タンを連打しての電撃攻撃。これも決って『ケン』は骨を浮き上が
らせてのけぞります。
 金髪の『ケン』の気絶。彼女は『ケン』の意識を戻そうと懸命の
連打連打連打連打連打...華麗に舞っていた時の『ケン』が美し
いだけに、哀れを誘います。
 少女ゲーマーの懸命のボタン連打にもかかわらず、Rは、とどめ
をさしにきます。周囲はあきらかに『容赦の無いごりら男』に憎し
みをあらわにしはじめていました。

 『くそーあの野郎、なかなかしぶといぜ』という露骨な声まで聞

 端正な姿形の『ケン』に襲いかかる『ごりら男』の2段頭突き。
少女ゲーマーの方へコントローラーを倒し中ボタンを連打しての醜悪な技
です。これがとどめになりました。2ラウンド目は完勝。

 セットカウントは1−1なり決着は3ラウンド目に持ち越しまし
た。しかし、これまでのRとはなにか違うものを感じました。これ
まではたとえ1ラウンドを失ってもどことなく余裕がありました。
しかし、今は完全にない。たった今勝利した2ラウンド目は結果か
ら行けば勝利には間違いないのですが、精神的にはぎりぎりで勝っ
たような気さえするのです。
 純粋な技量からすると、少女ゲーマーの方が上ではないのか。あ
るいはこれまでの8人抜きでRの指は、ぼろぼろに疲れているので
はないのか。そんな不安がよぎるなか。3ラウンド目がはじまりま

    (以下次回)




#3101/3137 空中分解2
★タイトル (UYD     )  93/ 4/14   1:41  ( 13)
タイガース日記4/13  KEKE
★内容
 阪神やった。さよなら勝利。野球はこうでなくっちゃ。それなん
だよ。でも松永負傷はがっくり。全治6週間ということは二ヵ月は
駄目ということじゃないか。何のために松永を取ったのかわからな
い。これなら野田と取り替えることはなかったのだ。

 巨人はそろそろ本性を表してきた。あのままいくはずはないと思
っておったのだよ。長嶋ばかりにライトが当たっていて、選手は不
快でないのか。監督は黒子であって、あくまで選手が主役だぜ。

 それにしても広島は好調だ。こりゃ優勝も考えられるな。ま、ま
だ早いが。

 阪神ガンバレ、俺がついているぞ。



#3102/3137 空中分解2
★タイトル (HVJ     )  93/ 4/14   5: 8  (184)
『ルナティック・ジェラシー / 月夜の誓い』 ごんた
★内容


   『ルナティック・ジェラシー / 月夜の誓い』



 1981〜1983 / 欲望と快楽の日々。

 グラス越しに、あなたは思わず溜息をもらしてしまいがち、、。乱れ
狂うレーザーとスリムな女達の爪先。ワインレッドなヒールに差し込む
快楽の陽光たち。クラブハウスに群れ狂う、しゃがれた眼付きの女達。
 欲情が満たされるだけの不埒なルージュが誘いかける女神のささやき。
マニキュア越しにそっとあなたの耳もとで揺れながら、グラスの底へと
誘いかける。気ままに揺れ遊ぶ視線は奪われたままの深い溜息、ベッド
サイドの欲望へと絡みつく。
 快楽の陽光、スリムなヒールはクラブのリズム越しに、、、、あなた
の唇が淫らに踊りだす。まるで断末魔のうめき声のように、官能と快楽
が欲望と幻想を呼び覚ます。          1981〜1983




 1984、2/23 / ルナティック・ジェラシー

 あなたは、黒いウールのハーフコートに、肌寒い2月の冬空色にお似
合いな手編のセーターを着込みなさい。デニムのシャツとウールのスラ
ックスに良く似合うスウェードのローファーを選びなさい。そうして、
あなたは病棟を、空のベットだけを残して、そっと部屋を出るのです。
 脳腫瘍で、彼女は時々ひどい吐き気とめまいに襲われます。あなたは
彼女を興奮させてはいけません。羽毛のように壊れそうな身体、白いネ
グリジェに夢の続きを見せて上げなさい。とても素敵な寝顔です。
 愛する者を救い出す勇気を出しなさい、あなたの優しさが、きっと彼
女を幸せに出来るはず。そう、あなたは今夜、彼女の全てを盗み出しな
さい。彼女の望む全てを、、、。



 1983、12/3 / さよならの感傷旅行

 深夜の眠たげな3時ころ。今夜もあなたは彼女に誘われて、クラブの
夜に流されている。ときどきあなたは、そんな夜に流されたままの時を
気にしながら、冷たく湿った朝靄に霞んだ日差しを待つだけの二時間を
過ごしている。メンソールの煙ったい不健康な空気から今夜も抜け出せ
ずにいる。
「踊らないの?」
「ああ、友美、、、今夜は踊りたくないんだ。」
「具合わるいの?。」
ミニスカートの裾があなたの眠たげな瞳のなかで揺れながら求めるまま
に触れ合いためらいがちに、あなたの両手、器用な指先が彼女の夜の仮
面を静かに濡らしてゆきます。そっと近付け頬を寄せたくなるような彼
女の長くて美しい黒髪も、今夜のあなたには陰気で色あせた灰色の雨雲
のよう。まるで憂鬱な梅雨空を思わせます。
「ねえ、、、。」
「ん、、。」
眠たげな視線に欲情を失い忘れそうなあなたの唇が女の耳たぶを軽く食
みながら、ほんのり湿る彼女の胸元があなたに何かつぶやきかけていま
す。

 甘い唇の向こうに苦い言葉が今夜のあなたを待ち伏せして、安ホテル
のベットまで運んでゆきます。
「今夜で、、、さよなら。」
「、、、」
「、、、」
「今夜で、、、最後なんだね、、。」
「ねぇ、そんな顔しないで。ほ〜ら!、、もう、哀しまないで。優しく
さよならって言って、、。」
「、、、。」

 あなたが恋したこの街に、今夜の別れの闇に用意されたベットサイド
の哀しげな横顔。素敵な感傷旅行のチケットが二枚、殺風景に置かれて
いる。そんな情景を心のどこかで認めてごらんなさい。それを知るほど
に募る彼女への想いにさよならを、そのために用意した夜は眠らないは
ず。
 幸福が癒すはずの二人の夜が静かに明ける頃、あなたの内で彼女が消
え、彼女の中のあなたも消えて、そうして二人、感傷旅行に出かけなさ
い。遠い別々の旅路へ、、、、。



 1983、冬

 そんな夜明けの感傷旅行から幾日か過ぎさって、二人はそれぞれに傷
口を癒していたはず。二つの傷口は別々の包帯にくるまれて、いつかそ
っと静かにはずされます。とかれた包帯の塗り薬に汚れたままの傷口を、
醜いその傷跡を誰も癒しはしないはず。それをあなたは知っている。気
まぐれな恋人達の憂鬱な戯れ、おしゃべりではないのです。二人きりの
熱い想いだけが癒しえることを、もうあなたは知っているはず。
 そうです、それは幾度も闇に重ね、そうして互いを慰める為だけに嘘
で満たされた優しさでしたね。闇に重ねた欲情とメンソールシガレット
の煙に不安を隠しながら、一体何を求め合って来たのだろう?。




 1984、1/24 / 告白と約束

 あなたの不安な足取りが女の枕元へ駆けよります。
「ただの脳腫瘍よ!。」
「腫瘍?。」
「そう。」
「、、、、」
「もう手術は無理みたいなの、、、。気づくのが遅すぎたみたい、、。」
「、、、」

あなたは彼女の震えそうな小さな肩を優しく抱いてやりなさい。しばらく
じっと眼を閉じて、不安に震える心のどこかに、あなた自身の安らぎの言
葉を求めなさい。煙草をくわえたまま、煙に目蓋を細目ながら、、、、。
「僕がついてる、、、。」
ひと言、そうつぶやきなさい。

 一晩中彼女に付き添って、精いっぱいの思いやりを、優しさを、、。月
夜がとても奇麗な窓越しに浮かぶ彼女の白い横顔、、、涙が頬を濡らしま
す。それは、さよならの別れを告げられたあの夜に似ているようでした。
どこかが似ているような気がします。

 いつも二人は、そんな夜ばかりを巡り合って、闇に恋していたのでしょ
うね。沈黙に包まれた告白の夜。枕元に彼女の横顔、哀しみと混乱に震え
る目蓋に揺れる涙。どうして今夜の彼女はあなたを哀しませるのでしょう。
それを今夜、どうして告げる必要があったのでしょうか?。

「朝までぐっすりお休み、、、。」

あなたの心の中で、何かがはっきりと動き始めていました。

「解っていたんだ、、、でも、言い出せなかったんだよ。辛かったね、ご
めんよ。」



 1984年、2月23日 / 月夜の誓い

 こっそりと彼女はあなたの腕の中、白い病棟を抜け出しました。きっと
病院中が大騒ぎになることでしょう。薬づけの冷たく無関心につながれた
ままの命を、今、あなたによって、彼女のすべてを盗み出しなさい。

 病棟を後にする足音も、鉄のドアが締められ廊下に響く長くて深い闇の
声も、彼女には何一つ聴こえてはいません。彼女は薬で良く眠っています。
あなたはいたって冷静に、次の仕事に取りかかりなさい。女の静かな眠り。
月夜のあなたを、もう誰もとめられはしません。
 彼女のカルテを盗み出すのです。不法に書き換えられた偽りを、あなた
は彼女の為に盗み出します。

 白くて長い廊下のあちらこちらを防犯システムが作動しています。赤外
線警報装置が見張っていることでしょう。あなたは油断してはいけません。
それは、こっそりと行われなければなりません。気づかれないように、計
画通りに今夜、彼女を盗み出しなさい。

 今日の夜勤、見習い看護婦さんとは知り合いです。あなたの信頼のおけ
るパートナー。彼女はすべてを知っています、、、何もかもを。二週間前
からあなたの計画にもぐり込んで、あなたのベットと好奇心とを虜にしま
したね!。そんな彼女は、看護婦好きなあなたの指先を少し器用にします。
 今夜のあなたは、あとは彼女からカルテを受け取りさえすればいいので
す。警報装置をうまく抜ければ、今夜のあなたは暗闇に潜めいた女の声を
待つだけ、、、。
「早く!!、約束の裏口の鍵!。ネェ!、きっと、見つからないで!。」


 裏口を閉ざす重たく厚い扉を抜けると、そこは一面の野原。月夜に照ら
し出され、冷たい夜風にさらされている。

 今夜の月明りがあなたを謎めいた冒険へ勇気へと駆り立てるかのように、
そこに、その胸に、あなたはしっかりと彼女を抱きしめている。もう、決
して離してはいけません!。あなたの胸に、高鳴る鼓動に、月夜にぼんや
りと浮き上がった彼女の白い身体をしっかりと埋めなさい!。素肌の温も
りを、彼女のいとしさを、そして愛の重みに永遠の約束を、、、、月夜に
誓いを!。

 数え切れないほどの闇と欲望と快楽の夜を重ねるだけの「月影」ではな
かったのですよ!。そう、彼女は月影のように虚ろで悩ましげな魅力。ハ
イヒールの爪先で淫らに闇を踊る月夜の妖精でした。あなたを狂わせ夢
中に、、、、。そうして、あなたを愛によって苦しめます。確かな愛と希
望の光りをあなたに与えてくれたのですね。


      ルナティック・ジェラシー。告白と誓いの月夜に
     秘められたジェラシー。不安で失いそうな愛の妬み。
     狂いそうな愛の光。
      あなたに今夜、そっとささやきかける。


                     FIN


          HVJ36211   ごんた



#3103/3137 空中分解2
★タイトル (UYD     )  93/ 4/14  22:47  ( 22)
タイガース日記4/14  KEKE
★内容
 不思議なもんだなあ。たかが野球のひいきのチームが勝つか敗け
るかでこうも心境がかわるのだから。昨日の劇的なさよならでは、
そのあと非常に気分がよかった。その後のスポーツ番組をぜんぶみ
て、あらためて阪神の勝ちを確認している私であった。その気分の
よさは今日まで持続していた。今日一日非常に充実した気分ですご
したのだった。それが、今日の敗戦で一転どん底である。何もやる
気がおきない。あああ、と出るは溜息ばかりなり。

 たかが野球なのである。それなのにこの心境の変化はどうなって
おるの。何となく情けないという感じもある。つまるところ、野球
に自分の心境が影響されるというのは、野球以外に充実したものが
ない、ということなのではないか。なーんにもないから、つい野球
に自分をたくしてしまう。たかが野球に。

 野球が、単なる楽しみご楽とはいかないところに、私の問題があ
るようである。

 それにしても、阪神は案外期待がもてるかもしれない。今日も大
差つけられて敗戦かと思っていたら、あそこまで追い上げたもんな。
あと一歩およばなかったが、逆にいえば、あと一歩あれば勝ってい
たわけだから。今後に期待がもてるのじゃないか。なんとか優勝争
いにくわわることができるかもしれない。松永負傷はいたいが。



#3104/3137 空中分解2
★タイトル (RMM     )  93/ 4/15   0:33  ( 55)
コンビニエンス・ストア考  椿 美枝子≠
★内容
 コンビニエンス・ストアはconvenientな場所になければ意味がない、
と言ったのは確か、あの人だった。
 沈丁花の香る中、星と月を確かめながら車に向かう。こっそりとエンジンを掛
け、窓を開ける。夜の匂いだ。深夜の国道を、走らせる。遠くに小さく、灯が見
える。
 いつもの道順で店内を回る。一巡、今夜は物足りない、もう一巡、篭は空のま
ま。こんな時は何も考えず、きれいだと思うものを片端から入れてゆく。牛乳、
きたない。ソーダ水、きれい。納豆、きたない。豆腐、きれい。白飯、きたない。
パン、きれい。食欲は特にない。けれど何かを食べねばはならない。好き嫌いは
特にない。食に執着が、特に、ない。
 レジを打つ店員の顔を見て、ぼんやり考える。浅黒さが不自然な、肌。きっと、
サーファー。海、海岸、紫外線、打ち寄せるごみ、そこで波に乗る。きたない。
 袋に入れる店員の顔が、物言いたげに私を見上げる。買い物はもう少し、統一
性を持たせた方がいいかしら、気を付けよう。そうだ、宅配便。いいや、明日に
しよう。
 毎夜家を抜け出して、買い物をする。一人暮らし。夜の暮らし。昼は嫌い。太
陽が私を蝕んでゆく。太陽が私を衰えさせる。健康、不健康、どちらも必ず死に
至る。それなら、嫌な事は、しない。
 店員の事務的な声、貰わないレシート、自動ドアを背に車に向かう。アパート
の前で、立ち止まる。部屋の灯を見る。今夜も、誰の影も、見えない。見える筈
もない。灯は一度も消した事がない。暗いと、もっと、一人になってしまいそう
で、消す事が出来ない。

 本を束ねて紙で包んで、ただそれだけの為に、ひとつき掛かった。私があの人
に貸した本は、最後のその日に返された。最後と気付かなかった私は、返しそび
れて、そのままだった。
 車に向かう。エンジンを掛ける。今夜は、紙包を抱えている。ガラス張りで外
から見える店内には、客は一人も居ない、奇妙な景色。入ると、奥から昨夜のサー
ファー店員が段ボールを開ける手を休め、やって来る。私の紙包を見て即座に宅
配便の用紙を渡す、その顔に、およそ似つかわしくない自然な微笑。ここの店員
は微笑しない、目を合わせない、その筈だったので、私は戸惑う。記入を終え、
支払を終え、宅配便の手筈を全て終え、これであの人とは本当にさよなら、と噛
みしめて、レジに背を向ける間際に、サーファー店員の声。

 いつもこの位の時間にいらっしゃいますね、お勤めですか。
 学生です。
 僕もです。もしかして、ここの市立大ですか。
 はい。
 なんだ、そうだったんだ。あの、僕と付き合ってくれませんか。
 あなた、サーファー?
 え? あ、いえ、違います。日焼けは、前のアルバイトが警備員だったので。
 そう。なら、お付き合いします。

 やがて、沈丁花は胸騒ぎの香りに変わる。星と月は運命の暗示に変わる。相変
わらず部屋の灯は点けたままでも、人影が見える事がある。出掛ける回数が増え
てゆく。一人の時間が減ってゆく。
 それでも、一人で過ごす闇の隅で泣いてみる事がある。

 コンビニエンス・ストアはconvenientな場所になければ意味がない。


                  了

                       1993.4.4.26:20
                       1993.4.13.17:45



#3108/3137 空中分解2
★タイトル (TEM     )  93/ 4/15   0:53  ( 81)
タコヤキ屋“じゅうじゅう”の謎 うちだ≠
★内容

 OLのアフター5はカラオケや(ディスコ…は死んだな)飲み会や屋内プー
ルやボーリングだけじゃないの。だいたい私も良美もお酒が飲めないし、うち
の会社ってけっこー田舎だし。そんなんで最近私と良美はタコヤキ食べて帰る
のが主流となってます。成人式を迎えるというのに、まだ色気より食い気。
……ううむ、しっかしこれじゃ高校生みたいだね、ま・不況ってせいもあるし
ついつい安上がりな享楽に溺れがちなワケ。私と良美はタコヤキにはちょっと
うるさくて、駅から会社までの範囲のタコヤキ屋はすべて制覇してしまった。
で、その結論として言うんだから児童公園横にある“じゅうじゅう”ってタコ
ヤキ屋のタコヤキはまじでウマイ!!! タコはでっかくて柔らかいし、ウド
ンコでどろ〜んとした味がしないし、大きさもマル。タレはオイシイし、マヨ
ネーズはサービスでつけてくれるし値段もナイス。ただ、焼いてくれるのがカ
ニみたいに異常にエラが張ったオッサンと、今時ヤンキーで黄色のイカみたい
な頭した手伝いのバイトの兄ちゃんなんだよね、これがどっちも無口ときてる。
“カニとイカがタコを焼く”って私らはけっこー笑っちゃったんだけどさ。(あ
・もちろん本人の前で言わないよ、怖いもん)
私たちはいつものようにふたりでタコヤキを1パック買う。良美が渡した50
0円をイカの兄ちゃんは黙って受け取るとまた黙って140円の釣りをよこし
た。そうして焼けたタコヤキをカニのおっさんが黙って私に差し出した。私た
ちはいつものように自販機でジュースを買って、児童公園内のベンチに座る。
このベンチは特等席で、何が良いってモニュメントの横ってことでちょうど風
の死角になるからあんまし寒くない。ベンチの後ろには道1本隔てて“じゅう
じゅう”が見える。私と良美ちゃんはタコヤキをぱくりとほうばった。まだほ
くほくの出来立てのタコヤキ。
「あぢぢぢ・熱いよこれ〜〜……でもウマイ」
いきなり1個を口に入れてしまった良美は私のとなりでもんどりうっている。
黙っていればなかなか美人だしセンスいいしスタイルいいし、お嬢で通るのに
「係長の奴、成人式に行くんなら有休とれって。ひどくない?」
「うちの会社って募集の用紙にはしっかり土日祝日休みって書いてあるんだよ」
「あったまくるなー」
これだけ喋りながらも、私たちはぽんぽんとタコヤキをほうばっていく。あっ
たかいほうがダンゼンおいしいですからね、タコヤキは。
「ねえね、章子は“じゅうじゅう”の噂、聞いた?」
「えっ何何??」
良美はちらりと店のほうを振り返った。中のふたりは相変わらず寡黙にタコヤ
キを焼いている。良美は少し体を低くして私の耳にささやいた。
「“じゅうじゅう”のオッサン、スケコマシだって」
「スケコマシィ〜? 似合わね〜」私はげらげらと笑ってしまった。「オッサ
ンのほうがぁ?イカのほうならまだ分かるけどさあ」
「ええっ私、イカのほうだってヤダよ」
「でも、イカって顔だけはけっこーイイ線いってない? 顔だけね」
「でも聞いたのはオッサンの方の話だったよう。何かさあ、閉店間際に迎えに
くる女が、毎回変わるってハナシ」
「ぎゃはははははははははは、マジ〜〜?」
「章子、声が大きい……」
はっとして、私と良美はそうっと店の方を振り返る。中のふたりは相変わらず
寡黙にタコヤキを焼いていた。
「良かった、聞こえてなかったみたいだね」ほっと息をつく私。
「章子はカニのオッサンどう思う?」ニヤニヤして良美が私の顔をのぞきこむ。
「……オッサンはタイプじゃないナー」
「でもさあ、寡黙でなんかちょっと高倉健みたいでシブイじゃない?」
思わずぷっと吹き出してしまう私。「高倉健が怒るよ。どっちかっつーと南伸
坊じゃないの?」
「そーかなー、南伸坊って寡黙か?」
「似てるのは顔。カニのオッサンは何考えてるか分かんなくてキモチワルイ」
言い切る私に良美はしばらくうつむいてから言った。
≠サうかあ、章子はオッサンのことはホントにどうとも思ってないのね?」
「思うかそんなもん。何なのよ一体」
良美は私の顔を正面から見て、言った。「じゃあ言うわ。私、健一さんのこと
好きなの」
「けんいち??」
「カニのオッサン」
「えっ」私は金魚のように口をぱくぱくして後の言葉が続かない。
「章子、ほんっとーーにあの人のことどうとも思ってないの? タコヤキ受け
取るときに見つめあってたじゃないの」良美の目はマジだ。
私はやっとの思いで言葉をしぼりだした。「違う、それ違う」
良美は疑わしそうな目をして私をしばらく見てから、勝ち誇ったように笑って
言った。「私、健一さんと寝たわ」
「げげ」
「だから章子がどんなに見つめたって駄目よ。私、譲らないんだから」
「ゆ・ゆ・譲るもなにも、私はどうとも思ってないんだってば」
「悪いけどあきらめて。オネガイ」
「だ、だから、ぜんぜんどーとも思ってないってゆってるのにぃぃぃぃ!!」

口の中にまだタコヤキのソースの味が残っている。さっき良美が言った噂は本
当だろうか。今、良美の言ったことは本当だろうか。カニのオッサンはいかに
して良美の心を捕らえたんだろう。振り返ると“じゅうじゅう”のふたりは相
変わらず寡黙にタコヤキを焼いていた。


                 おしまい



#3109/3137 空中分解2
★タイトル (RAD     )  93/ 4/15   1: 1  (140)
「僕と天使」           悠歩≠
★内容
「僕と天使」
                        悠歩


 五時三十分、仕事が終わると僕はますっぐに家路につく。
 たまにお酒に誘われる事もあるけど、僕は行かないよ。お酒なんて飲んでも気持ち
悪いだけだし、第一仕事が終わってまで会社の奴らといっしょになんていたくないも
の。
 ぼくは知っているんだ。みんなが僕をばかにしていることを。
 みんなは僕がのろまで、暗いって言うけどそうじゃない。僕は気の狂った連中とは
合わないだけなんだ。

 僕は毎日、マンションの近くのコンビニエンス・ストアーで夕食を買って帰る。
 面倒くさいけどしょうがない。僕は一人暮らしだから。父さんも母さんも、僕が一
人暮らしをすることに反対したけど無視したよ。
 だってこのまま家にいたら、僕は殺されていたもの。知っているんだ、父さんも母
さんも僕を憎んでいることを。
 どうして僕を憎んでいるかって? そんなこと知らないよ。どうでもいいもの。今
僕はこうして一人暮らしをしているから、父さんや母さんに殺される可能性は少なく
なっているし。

 今日の夕食は、チキンラーメンと鮭と梅干しのおにぎりに決めた。奮発してデザー
トにババロアをつけよう。
「いらっしゃいませ」
 愛想よく、レジの女の子が声を掛けてきた。本当は僕は人と話をするのは嫌いだけ
ど、この娘だけは別なんだ。
 高校生のアルバイトかな。なんだか幼く見える。
 長くてさらさらな髪。一度触ってみたいな。
 くりくりっとした、かわいい目。すうっと通った鼻筋。小さな唇。白い肌。
 そして天使のように、透き通った声で僕に言うんだ。
「お仕事の帰りですか、大変ですね」
 てね。
「………うん……」
 もっと話をしたいと思ったけど、言葉が出ない。仕方無いから、ポケットから丸め
た一万円札を出して会計を済ます。
「ありがとうございました」
 天使の声を背中に受けながら、僕は店を出る。これだけで僕はまた、悪魔共のなか
で生きて行く勇気が沸き上がってくるんだ。
 僕は思う。
 彼女は本当に天使に違いないと。
 この世は悪魔に支配されつつある。僕の父さんも母さんも悪魔の下僕と化している。
会社の連中もそうだ。それだけじゃない、僕の見るところマンションの住人もほとん
どが、悪魔に乗っ取られている。
 僕の知るかぎり、悪魔の力に支配されていないのは僕と彼女だけだ。
 そうだ!! 彼女こそ一人で悪魔と戦う僕のために神の遣わした天使に違いない。
 きっと彼女だけがこの世でただ一人、僕と同じ神の一族なんだ。
 彼女は僕に気付いているのだろうか。いや、心配は無用だろう。僕が彼女に気付い
た様に、神の一族は特殊な絆で結ばれている。彼女もすでに僕のことを感じているは
ずだ。
 そうか……、彼女があのコンビニエンス・ストアーにいたのも偶然ではない。神か
らの使命を受けて僕を待っていたのだ。
 よし明日、思い切って声を掛けよう。彼女の存在を悪魔共に知られる前に。

 どうした事だ!
 本当はいやで仕方がなかったが、どうしても仕事から抜け出せないで僕がコンビニ
エンス・ストアーに着いたのは、いつもより三十分ほど遅れてのことだった。
 ところが、そこで僕を笑顔で向かえるはずの天使の姿が見当たらない。僕を待つ天
使がいるべき場所には、あきらかに悪魔の使いという風貌の若い男だった。
 もしや!!
 僕の心の中をとてつもない不安が駆け回る。
 悪魔が彼女に気付いて、その存在を抹殺すべく手を回したのか? 充分有りうるこ
とだ。あれだけ眩い光を放つ天使だ。やつらに気付かれない訳がない。むしろ、いま
までやつらが何もしてこなかった事のほうが不思議なくらいだったのだ。
 畜生! 僕がもっと早く、彼女に打ち明けていたらこんな事には。
 僕はコンビニエンス・ストアーを飛び出し、天使の姿を求めて夜の街をあてもなく
駆け回った。

「そんな馬鹿な……」
 僕は我が目を疑った。こんな事が有りうる訳がない。
 二時間ほど街をさ迷った僕は、その甲斐あって天使の姿を見つけることが出来た。
後ろ姿ではあったが、僕にはそれが彼女であることが一目で分かった。
 同じ神に属する者のみが成しうる奇跡である。
 彼女の姿を確認したとき、僕は心から神に感謝をした。ところが……。
 彼女の肩に手を掛ける悪魔があった。若くて整った顔立ちをしている男ではあった
が、その本性は醜く薄汚い悪魔であることは僕にはすぐに分かった。
 当然、彼女は抵抗を示すはずだ。彼女は僕と共に悪魔と戦うべく使命を帯びて、神
がつかわした天使なのだから。
 僕は彼女を悪魔の手から救うために拳を握り、男に飛び掛かろうと身構えた。それ
なのに……。
 横に並んだ悪魔の方を彼女が向いたとき、その表情が後ろにいた僕にも見えた。脅
えながらも毅然とした態度で悪魔を拒む天使の姿。それが僕の見るべきはずの、彼女
の顔だ。
 ところが驚くべきことに、彼女は悪魔に対して微笑んで見せた。いや、それだけな
らまだ、彼女が悪魔に哀れみを見せたのだとも思える。しかし彼女は悪魔の肩へ凭れ
掛かり、二人でホテルへと入って行った。
 天使は悪魔の手に落ちた。

「これだけ言ってもだめみたいだね」
 僕の最後の問い掛けにも、彼女はただ脅えたような視線を返すだけだった。騙され
てはいけない。あの目は悪魔の目だ。脅えたふりをして僕が隙を見せるのを狙ってい
る。あの愛しい天使は身も心も悪魔に成り下がっている。
 それが証拠に、ホテルから出てきた男をせっかく角材で殴り殺してやったのに彼女
は僕に感謝するどころか、悲鳴を上げて助けを呼ぼうとした。仕方がないからこうし
て僕のマンションに連れてきてなんとか改心させようと説得を試みたけど、駄目だっ
た。
 懸命に説得を続ける僕に彼女が言った言葉は一つだけ。
「あなたは狂ってる」
 だってさ。これで分かったよ、もはや彼女を本来の使命に目覚めさせるのは、僕の
力じゃ叶わないって事が。
 こうなったら一刻も早く、そして速やかに彼女の魂を神の元に返してやるしかない
だろう。ただし、悪魔に乗っ取られた体からその魂を開放してやるのは容易なことで
はないけれど。

 はははっ、面白い。彼女の顔ってきたら。そんなに引きつった表情で目を大きく見
開いて、せっかくのかわいい顔が台無しだ。あんまり大声を出すものだから、タオル
で口を塞いでやる。
 え? 何を言っているのか分からないよ。もごもごと。
 そんなに怖がらなくてもいいのに。これが済めば君の魂は救われる。きっと僕に感
謝するよ。
 うわっ、人の腕って結構固いものなんだな、包丁じゃ切れないや。チェーンソーな
んて持ってないし……。ああ、そうだ鋸ならあったな、ちょっと待ってね。
 あったあった、ほら続きだ。だめだよ、暴れちゃあ。うまく切れないじゃないか。
 あ痛。彼女の左手が僕の頬を打つ。
 うっかりしてた。彼女の両手は後ろ手に縛り上げていたんだけど、右手を切り落と
したもんだから左手が自由になってしまった。ほら、暴れないで! 君の血で絨毯が
汚れてしまったじゃないか。先に足を切れば良かったかな。
 もう、暴れるなって。これは君のためでもあるのに。しょうがないなあ。
 僕は椅子を振り上げて、彼女の左の肩を力一杯叩く。
 グシャっと鈍い音がした。鎖骨の砕けた音だろう。これで後からの仕事が楽になる。

 想像以上に彼女の生命力はしぶとかった。結局、両手両足を切り落としても生きて
いて、魂が開放されたのは鋸が首に半分以上入ってからだもの。
「ふーっ」
 全身を返り血で汚しながらも、僕は自分のした善行に大きく満足感を覚えていた。
これで神の元に召された彼女の魂は、本来の使命に目覚めて再び僕の前に現れるだろ
う。
「それまでしばらくのお別れだね」
 絨毯の上に転がった彼女の頭を両手でそっと抱え上げ、僕は優しく言った。気のせ
いか、彼女の頭も僕に微笑んでくれたようだった。

 見つけた! 間違い無い。あれはまさしく天使だ。彼女はやっぱり使命に目覚め、
僕のところに帰ってきた。
 僕のよく行く喫茶店。新しいウェイトレス。
 彼女は以前の記憶を失っているのか、僕の顔を見ても何も思い出さない様子だった
けど、周りの悪魔の目を気にしての事かも知れない。
 なあに、たとえ忘れていたとしたって同じ神の加護を受ける者同志。僕が必ず思い
出させてやるさ………。

                        (終)




#3110/3137 空中分解2
★タイトル (ZBF     )  93/ 4/15   1:17  (147)
八百政の謎1                     久作≠
★内容

(鬼畜探偵・伊井暇幻シリィズ)

●密命(N氏)

 「しかし その程度のことは地元の警察にでも問い合わせれば……」
 私は妙な引っ掛かりを感じた。私立探偵に或る八百屋を探らせるなど、苟くも
国家の諜報機関がすることではない。部長は面倒臭そうな表情で、
 「そうはいかんよ 結果如何によっては最終手段をとらねばならない
  我々 国の機関が動いた痕跡は全く残してはならんのだ
  一週間 これがタイム・リミットだ」
 「しかし そんな 田舎の八百屋など……」
 私は納得がいかず食い下がろうとした。部長は急にいかめしい表情になり、
 「N君 これは国家安全保障上 極めて重要な事案なのだ」
 そうまで言われたら是非もない。私は気の向かぬまま四国の宇和島という地方
都市に飛んだ。飛ぶと一口に言っても、松山という県庁所在地までは空路、そこ
から「汽車」に乗って八十分近く揺られ、深夜に漸く着いた。
 私はそのまま伊井暇幻探偵事務所に向かった。本部で調べたところ、この事務
所は「年中無休 二十四時間営業」を謳っていたからだ。いかにも貧弱だが、八
百屋の調査など何処にでも出来るし、もし万一こちらの意図に気付いても消し易
い。俺は広告に記されたアパァトの前で地図を広げてみた。ここに間違いはない。
しかし何処にも看板は出ていない。それどころか「二十四時間営業」の筈なのに、
アパァトの灯りは全室、消えている。私は電話ボックスに入り、ナンバァを押し
た。トルルルルルトルルルル……。十コォルもした頃、男の声が送話器から聞こ
えてきた。
 「はっはいっ いっいいかげんたんていじむしょっ」
 息を切らせている。まるで百メェトルを全力疾走した直後のようだ。見ている
と、アパァトの一室に電気が点いた。
 「夜分に申し訳ございません 私 山本と申します 折り入って お話が……
  勿論 お仕事の話なのですが……」
 私は消え入るような声を作り丁寧に話しかけた。もっとも「山本」は偽名だっ
たが。少し落ち着いた、しかし甚だ軽い声で男は、
 「はいはい よろしいですよ 毎度どぉも」
 「あの 今から窺っても宜しいでしょうか 近く迄 来ているのですが……」
 「えぇえぇ 結構ですとも お待ちしておりますです」
 どう聞いても軽い声だ。明らかに頼りにならない。そう思った時、私の頬には
会心の微笑が浮かんでいたかもしれない。
 私は一室のドアノブに手をかけた。何故か開いた。背中を見せていた地黒の男
が慌てた感じで振り向いた。「鳩が豆鉄砲を食らった」時の顔は見たことがない
が屹度、こんな顔だろう。まさか電話から一分もせずに依頼主が来るとは思って
もいなかったようだ。向こうで小柄な白い影がチラリと視界を横切り、隣室への
襖がピシャリと閉じた。地黒の男は紺のトレェナァに首と腕を通そうと、もがい
ていた。まるで腹踊りだ。いっときして落ち着いたか男は、こちらを向いた。澄
ましているが下半身はパンツ一枚だ。男は尊大なふうに、ソファをしめし
 「ようこそ 山本さんですね こちらにどうぞ」
 私は会釈してソファに腰を下ろすと、すぐさま用件に入った。
 「お取り込み中に申し訳ございません 実は のっぴきならぬ理由から
  堀端町五丁目の八百政を調べて戴きたいと参った次第です」
 「はあ なるほど のっぴきならない のですね」
 男は子細らしく頷き手に持っていた使用済みティッシュを背後に隠した。
 「そうです のっぴきならないのです で その八百政の人とナリ
  商売 取引先など全般にわたって調査して戴きたいのです」
 「はぁ 浮気とか何とか限定せずに ですか」
 「そうです 八百政のすべて をです」
 私は「すべて」の所に力を入れ念を押した。男は妙な顔をした。私だって妙な
気がしているのだが、それはオクビにも出さずに言葉を継いだ。
 「私にとって 重要なことなのです」
 「はぁ 解りました で 報酬の件ですが……」
 丁度その時、ジィンズにシャツ姿、十七歳ほどの少年が茶を持ってきた。身長
は百六十センチぐらい。色白でクリッとした目をしている。紅顔の美少年。仕草
が少し女っぽい。訓練を積んだ私の心も少なからず波立った。
 「あ どうも 弟さんですか」
 「は? いえ 助手です」
 男が戸惑いがちに答える。少年は頬を染め俯きながら自己紹介した。
 「僕 小林っていいます ヨロシク」
 「はぁ 宜しく 小林君は住み込みなのですか」
 「え あ はぁ まぁ えぇと ウチは二十四時間営業だもんで……」
 男が何故か慌てた口調で説明しようとした。何かアヤシイ。さっき見えた白い
人影は、或いは彼だったのかもしれない。私は興味をそそられた。だが、ここで
不必要な質問をして警戒させるのは得策でない、と思い直した。
 「助手は お一人ですか」
 「いえ 小林君の他に 通いの助手が一人います」
 「では 二人ですね それは頼もしい」
 「ははは なぁに で報酬については……」
 男は世辞を真に受けたか機嫌よく笑った。なかなかに単純な男だ。扱い易い。
 「五十万 用意しました 前払いです」
 「よろしい 妥当なところでしょう 期限と連絡方法は?」
 「一週間後の午後五時に伺います これが報酬です お確かめ下さい」
 私は用意した封筒から札束を少し抜き出してテェブルの上に置いた。男はチラ
と目を遣ったが確認もせず、立ち上がった。
 「結構です。それでは一週間後の午後五時に」
 「よろしく お願い致します」

●始動(伊井暇幻)

 俺、伊井暇幻。憚り乍ら名探偵。迷い犬なら一週間のうちに見つけ出してみせ
る。発見率は百%、ってコトになってる。見つからない時もあるけど、なぁに、
依頼主にゃ「保健所にヒかれた」って報告する。これで大抵、納得するもんだ。
浮気の調査も、お手のモノ。忍者の末裔である俺にとっちゃ、映画みたいな活躍
が似合ってるんだけど、田舎街だから仕方ない。まぁシケた商売だけど、性には
合ってる。
 昨夜、助手の小林とヨロシクやってるところに、妙な依頼人が舞い込んできた。
「八百屋のオヤジのすべて」を知りたいんだとさ。少し前だったら、地上げ屋が
脅迫のネタ欲しさに探りを入れるって線も考えられたけど、今時ねぇ。それとも
所謂「フケ専」ってヤツかな。そぉいえば都会モンらしくノッペリした感じの青
年だった。ま、報酬も貰ったしドォでもイイけどね。
 朝はイツも小林が俺の腕の中からソッと抜け出すのを感じて目を醒ます。重た
い瞼を押し上げると、台所で白く丸く盛り上がった可愛い尻を見せ、珈琲の仕度
をしている。俺はポッカリ空いた腕に布団を抱き込み、十分間だけ余計に惰眠を
貪ろうとする。小林が枕元でバタバタ着替えをする。裸の方が似合ってるのにさ。
小林が俺に飛びついてくる。ピィピィケットルが囃し立てる。小林は起き上がり、
急いで台所に向かう。何時も変わらぬ朝。俺はテェブルに就くと莨に火を点ける。
ニコチンが血管を通って行き、脳を揺さぶり起こす。カップが目の前に置かれる。
暖かい珈琲の香り。この時点で、イツものように山田が登場する。もう一人の助
手。今朝は緑のワンピィスだ。オリィブ色の肌、薄茶の長い髪に似合っている。
スコブルつきの美人だが、俺より十センチは背が高く六尺豊か。
 三人が揃うとミィティングが始まる。俺は簡単に昨夜の依頼を説明した。
 「で 今 抱えている浮気の調査二件は 解っている事実を小出しにして
  依頼主を安心させ条 この一週間は八百政の調査に専念する」
 「でも 八百屋さんの調査って専念する程のモノかしら」
 山田が珈琲を啜り条、口を挟んだ。
 「いや 何か裏があるに違いない だから全力をあげる」
 「でもさぁ あの依頼人も チョッと変だったよ」
 小林が山田の髪を三つ編にしながら言う。
 「だからこそ俺は裏があると睨んだ ヒョッとしたら依頼人の弱みを
  掴めるかもしれんしな そうなったら五十万どころか…… へっへっへ」

●接触(山田美貴)

 とりあえずアタシは八百政へ買い物に出掛けたの。小林君にエプロンを借りて。
ふふ、若妻に変装。……憧れるわぁ、若妻。アタシより背の高い彼に、尽くして
尽くして尽くし倒しちゃうんだからっ。えぇっと、お仕事、お仕事。あ、アレが
八百政のオヤジかな。もろ嫌いなタイプ。チンチクリンのハゲチャビン、おまけ
にビィル腹。どこに出しても恥ずかしくない、じゃなくって、恥ずかしい、典型
的なオヤジ。あぁ、口なんかキきたくないっ。
「あの キュウリ下さいな」
「はいよっ おっ こりゃ別嬪さんだ 何本だい」
「えぇと 3本」
 ここで下方三十度で前に腕を伸ばし、掌を返す感じで三本指を立てるってのが
若妻のポイントよ。勿論、顎は引き気味に少しだけ上眼遣い。但し、アタシの場
合、オヤジより二十センチは背が高いからココロモチだけね。
 「はいよっ ウチのキュウリは立派だろっ 太くて長くて
  奥さん方には大好評なんだよっ
  どうだい ウチの野菜はドレも大したモンだろぅ
  これこれ このナス ブッとくて黒光りしてて 年配の方に売れてんだよ
  奥さんみたいな大柄な人には コッチの方がイイんじゃない」
 オヤジの野郎、無邪気な顔で屈託なく笑ってる。可愛くなんかないわよ。まっ
たく、妄想を逞しくしなきゃ勃ちにくくなって、セクハラしたがる年頃なのは解
るけど、ほんっと頭にキちゃう。
 「ナスなんか要りませんっ!」
 「おおっと ゴメンゴメン 口が滑ったね こりゃどぉも
  えぇっと どうだい じゃっ このネギ いいだろ」
 「あら 大きなネギね 一本貰おうかしら」
 「まいどっ 三百二十円 えぇっと 別嬪さんだから三百円でいいやっ」
 案外、イイ奴かもしれないわね。このオヤジ。

つづく



#3111/3137 空中分解2
★タイトル (ZBF     )  93/ 4/15   1:20  (136)
八百政の謎2            久作≠
★内容

(鬼畜探偵・伊井暇幻シリィズ)

●展開(小林純)

 「チキショオッ キュウリの分際で生意気な……」
 先生の部屋からブツブツ聞こえてきたから、何かなぁって思って開けたら、先
生、下半身を露出して自分のとキュウリを比べてた。
 「ああっ おほんっ 小林君 入る時はノックをするよぉに」
 「何だよっ 先生 昼間っから おっ勃てて」
 「えぇと 別に……」
 「別にじゃないよっ あぁぁ 食べられなくなっちゃったじゃない 汚いなぁ」
 「なんだよ 汚いって ユウベだって……」
 「あああっっ ウルサイウルサイウルサイウルサイウルサァァァイイイイッッ」
 「あっあっ 赤くなってやがる やぁぁいっ」
 「ばかぁっ」
 ナンデこんな男と暮らしてるのか自分でも情けなくなったけど、フとキュウリ
に目を遣ると、確かに立派。先生のとは比べものにするのが失礼なくらい。長さ
は四十センチ程度、反り返って直径は五センチぐらい。
 ジュルジュルと音がするから顔を上げると、先生、今度は長さ一メェトルはあ
る白ネギを根っこの方から噛みながら汁を吸ってた。これほど格好悪い男とナン
デ一緒に暮らしているかと改めて思った途端、目頭が熱くなってきた。
 「先生 何してるんですか」
 自分でも冷た過ぎるかなって感じの声。
 「はむっ? 体に良いんだよ ハァブは」
 「ハァブ?」
 「うん ハァブってのはな ネギとかショウガとか まぁ香草
  香りの草って字が似合う場合もあってな 刺激になってイイんだよ」
 「ハァブってネギとかショウガのことなんですか?」
 「そうだよ だからネギ湯もハァブ・ティも一緒」
 本当かドウか知らないけれど、いつもケムに巻かれちゃう。
 「ふぅん じゃ せいぜいネギでもシャブって頭を良くして下さいねっ」
 精一杯の皮肉を言ってやったらニコニコ顔で「うん」だってさ。バッカじゃな
いの、本当に!
 「ああっ せっ先生っ 何だよっ イヤだよっ 昼間っから」
 背中を見せた瞬間、先生が後から抱き付いてきた。右手にキュウリを握ってる。
 「純 こいつを銜えてみな ほぉれ ほぉれ」
 「へっ変態っ イヤだよっ やめてよぉっ」
 「へっへっへ どっちが変態だぁ 女なのに男の子になりすまして
  しかも男に愛されたいなんさぁ お前もソォトォな変態じゃねぇか
  だから俺とツルんでるんだろ 変態の俺とよぉ え おいっ」
 イヤラしくニタニタ笑いながら僕の両頬を掴んで口をコジ開けてきた。
 「へっへっへ ほぉれほぉれ」
 ギトギトと脂ぎった目、ダラシなく開けた口元。本当に今度という今度こそ別
れてやるっ……ああっんんんっ。
 「先生いる? あらっ」
 美貴さんが入ってきた。片手に例のキュウリを掴み、少し上気した赤い頬をし
てる。
 「ゴメンなさい イイとこだった?」
 「いや イイよ 続きは夜にスルから それより何だい」
 続きは夜だって! お断りだよっ。でも薄暗い部屋でなら、案外イイかも。こ
のところマンネリだったし……。で、美貴さんたらキュウリをブンブン振りなが
ら、
 「先生っ 大発見です」
 「ん 何だ」
 「このキュウリ 普通のより大きいんです」
 「大きい?」
 先生は一度、僕の唇に押し入り少し濡れたキュウリをツクヅク眺め、そしてペ
ロリとひと舐めして、
 「ふむ サもあろう 野菜の分際で大き過ぎる」
 「ふふ 先生のはシメジね」
 美貴さんが悪戯っぽい目を先生の股間に向けながら軽く言った。そぉだよ、も
っと言ってやれ、って思ったけど、先生、膝をくっつけて隠しながら声を荒げて、
 「うるさいっ 美貴っ シメジは菌類だ 野菜と比べる奴がいるかっ
  だいたいなぁ 香り松茸 味シメジと言ってだなぁ……」
 「はいはい 美味しいのね で 先生 アタシもチョッと これを
  試してみたんだけど……」
 「あ? 何を試したって」
 「イイじゃないの そんなこと とにかく このキュウリ 大き過ぎるわよ」
 二人の会話を聞いて、なんだか頭が痛くなってきた。
 「あのぉ 先生 美貴さん チョッとイイですかぁ」
 「何かね」
 「なぁに 小林君」
 「キュウリも大きいけど そのネギも大きいですよ」
 「ふぅむ いつも刻んだ野菜しか見ていないから気づかなかったが
  炊事係の小林君が言うなら間違いあるまい」
 先生は腕組みをして考え込んだ。こうやって渋く思いに耽ってるところはチョ
ッと格好イイんだよね。でも一番好きな先生は安楽椅子に深々と腰かけてさ、モ
ジャモジャの髪に指を絡ませながら考え込んでる所。莨の煙をモウモウとさせて、
ウットリした目をしてさ。なんだかエロティックなんだ。
 この時は相変わらず下半身をむき出しにしたままだったけど。

●潜入(伊井暇幻)

 俺は八百政に赴いた。午後十時、もう閉店している。おまけに人通りは全くな
い。酔っぱらいぐらいはいても罰は当たらない筈だが、猫だろぉが豚だろぉが、
歩いてはいない。俺は忍び込んだ。方法? 企業機密だ。ただ何百年も前から俺
の家に伝わる技を使ったとだけ言っておこう。屋根裏から覗くと一家団欒とかを
していた。
 「おぉい もぉ一本 ビィルゥゥ」
 「はいはい これっきりよ 幸一 あんたは勉強でもしなっ
  テレビばっかり見てると父さんみたいになるよ」
 「おいっ 余計なコト言うなっ」
 なぁにオヤジも怒っているワケじゃないって表情でニヤついている。少し不機
嫌な十七、八のトッぽい兄ちゃんは二階へと上っていった。コップを片手に持っ
たオヤジはジッと何かの気配を窺っているようだった。まさか、俺に気付いたん
じゃぁ? ありえない。俺の術は完璧の筈だ。が、しかし……。ユックリと目を
開いたオヤジはニタァァと嫌らしい笑いを浮かべ隣に座っている妻に囁いた。
 「よい 布団しけや」
 どぉやら息子がおとなしく部屋に入ったかドォかを確認していたらしい。
 「もぉ ナン言よん エエ歳こいて 幸一も起きとろ」
 「ええやないかぁ なぁ」
 オヤジは五十に近い妻の腰を抱いて引き寄せ、体を摺り寄せた。
 「もぉエエ歳して 布団は敷いとるけど 出来るん こんなに呑んで」
 「おぉ 今日は出来るよぉな気ぃするんよ ほやけん のっ ヨかろが」
 ニタニタ笑うオヤジと歳甲斐もなくモジモジしている妻は居間の電気を消して、
寝室といぅか布団を敷いてある部屋に移った。俺も屋根裏をイモリのように這い
歩き音も立てずに移動した。
 「んちゅっ ちゅっちゅっ」
 オヤジは妻のハダけた弛んだ胸に顔を押し付けている。妻は平然とした顔で寝
転んでいる。オヤジは急に慌てて手を股間に伸ばしゴソゴソしたかと思うと体を
立て妻の左右の脚をそれぞれ抱えた。おやハイカラなことをと思ったが、ナンの
ことはない。腹が邪魔で正常位でできないのだと思い当たった。
 「はぅはぅはぅはぅ」
 苦しげな声が頭の上から聞こえてきた。不思議に思って術を使って覗くとトッ
ぽい兄ちゃんの部屋だ。兄ちゃんはズボンをズリ下ろし何やら雑誌を睨み付けな
がら右手を激しく動かしていた。
 「はぁはぁはぁはぁ」
 「はふはふはふはふ」
 上下から、この世で最も聞きたくない声を聞き条、仕事だから目を放すワケに
もいかず、唯一の女性とは言っても五十に近い妻を見遣ると、鮪のようにドテッ
と寝転がり静かに目を閉じウトウトしているようだ。俺は何とはなく悲しいよう
な腹立たしいような気になって目を側めた、と、その瞬間、
 「ううっっ」
 「おおっっ」
 階下ではオヤジが汗に塗れ腹の突き出た体を横たえ妻に毛布を掛けて貰ってい
る。階上では兄ちゃんが次の恋人を探してペェジを捲っている。再び階下を見下
ろすとオヤジが間抜け面を晒して眠っている。もう妻も寝ている。
 はてさてオヤジも妻を抱いた積もりはあるまい。ドウセ昼間、店に買いに来た
若奥さんの顔でも思い浮かべながら励んだに違いない。コトによったら美貴が今
夜の、お相手だったかもしれない。もしそうだとしたら、いい面の皮だ。だって、
美貴は「よしたか」っていう立派な男なんだから。自分じゃ、女と思っているみ
たいだけど。兄ちゃんも新しい恋人を見付けたようだ。俺はとりあえず事務所に
戻ることにした。小林が待っている筈だ。

つづく



#3112/3137 空中分解2
★タイトル (ZBF     )  93/ 4/15   1:24  (188)
八百政の謎3            久作≠
★内容

(鬼畜探偵・伊井暇幻シリィズ)

●調査終了(N氏)

 私は約束の時間に事務所を訪れた。伊井探偵の傍らには小林少年と初めて見る
大柄な美人が控えていた。この前言っていた通いの助手だろう。伊井探偵は薄っ
ぺらな茶封筒をテェブルの上に載せた。肘掛椅子におさまった探偵は顔の前で手
を組み合わせ勿体ぶりながら、
 「どうぞ 一週間の調査結果です ご満足戴けるものと自負しております」
 「拝見致します」
 私は幾枚かの報告書にザッと目を通した。田舎探偵には、この程度が関の山だ
ろう。
 「ふむ 簡単ですが よく纒まってますね」
 「恐れ入ります」
 「では これで 二度と お会いすることはないでしょう」
 私は事務所を出て、宿に戻った。部屋でラップトップのパソコンを開け、報告
書を一言一句洩らさずに打ち込んでいった。

    報告書

    ご依頼の八百政の件、平成五年四月六日から同十二日迄の一週間、
    当事務所が鋭意調査致しました結果を、以下にご報告申し上げます。

     松本政三郎(まつもとせいざぶろう)
     昭和十五年六月八日、宇和島市堀端街五丁目八二四番地に於いて
     政次郎、松の長男として生まれる。
     宇和津第三小、宇和津中、宇和島北高卒。
     昭和三十三年に高校を卒業後、家業の青物販売業を手伝い、
     同四十一年、父の死亡により経営者となる。
     飲酒は晩酌にビィルを二本程度。喫煙癖なし。
     女性関係は妻以外にはなく性向は別紙一参照。
     交友関係は狭く中学、高校時代に野球部に在籍していたため、
     市内の同業者で作るソフトボォル・チィム「ベジタリアンズ」に
     参加している程度。趣味は他になし。
     家業については祖父・政一郎が大正十年に現在地に開業、今に至る。
     平成三年八月に隣町・北宇和郡松野町吉延の柴田農園(別紙二参照)と
     独占契約を結びキュウリ、ナス、ネギ、タマネギ、ジャガイモ等十二種を
     購入し販売している。他種の野菜は宇和島卸売市場にて購入。
     主な販売圏は周囲約五百メェトルの同町内。常連客は近所の約七十軒。
     売り上げは平成四年度で七百二十八万三千二百十六円(納税分)。
     実際の売り上げは九百万円から一千万円と思料される。
     特に柴田農園産の各種野菜が好評で近隣町村から来る客も十一人程ある。

     妻 弥代子(やよこ)
     昭和十九年十月三日、宇和島市大超寺した二六一番地に於いて、
     海田茂、弥生の二女として生まれる。
     松木小、宇和津中、宇和島西高卒。
     卒業後は家業の農家を手伝う。
     昭和四十二年に政三郎と結婚。
     同五十年九月五日に長男・幸一を出産。子供は幸一のみ。
     趣味はなく交友も狭い。

     長男 幸一。
     宇和津第三小、宇和津中を経て現在、宇和島工業高三年生。
     ボォト部に在籍。
     本人は家業を継ぐ意志が薄いが卒業後は就職を希望している。
     職種などには希望がなく都会に出たいと周囲に洩らしている。

    別紙一
       松本政三郎の性嗜好

       (略)

    別紙二
    柴田農園

    経営者:柴田昇(27)。香川県出身。
        京都農業大学農学部大学院修士課程卒。
        家族構成は妻・美加(28)、長男・大輔(6)。
        柴田は大学院卒後、三ヘクタァルの土地を買収し農園を設立。
        大学院時代に独自に開発した有機肥料で実験栽培した野菜を
        「産地直送」と銘打ち八百政に卸している。
        他に比較のため通常栽培の野菜も作っており、こちらは
        農協を通じて販売している。
        実験栽培と通常栽培の比率は一:二。
        独自に開発した有機肥料は、
        有用な微生物群(詳細不明)をオガ屑や鰯粉に混ぜて作った媒体を
        生ゴミに振りかけ約十日間、密封して作る。
        微生物群に関しては屋内の実験室で培養している。
        この有機肥料を使えば、通常の三倍の収穫量が期待できる。
        収穫数は大きく変わらないが、個々の野菜、果実の体積が
        二倍以上と極端に大きくなる。
        またこの有機肥料を米に使用した場合、
        土中の養分を稲がすべて吸収してしまい雑草が枯れてしまうという
        実験結果が出されている。
        現在の実験進捗率は七十五%程度。
        残る課題は生ゴミの圧縮に関するもの。
        柴田は実験が完成すれば学会に発表することを希望している。

 漸く打ち終わった。私はあらかじめ指定された暗号コードを入力した。苦労し
て打ち込んだ文書が一瞬にして無意味な記号の羅列となった。小型スピィカァを
取りつける。本部に電話を掛ける。パスワァド確認の後、若い女の無機的な声が
流れてきた。
 「ピィという発信音の後にメッセェジを お話し下さい ……ピィィィ」
 俺はリタァンキィを押した。小型スピィカァから受話器に向かってギィギィガ
ァガァ雑音としか思えない音声が流れ込む。暗号一字ずつ厳密にヘルズ数を定め
音声に変換している。私にはドナルド・ダックの断末魔の叫びにしか聞こえない
のだが。ともあれ、使命は果たした。後は工作班の仕事だ。

●隠滅(山田美貴)

 今朝、新聞読んでたらビックリしちゃった。例の農園が火事で全焼したんだっ
て。柴田さん一家の全員が焼死したらしいわ。開発プラントも何もかも跡形も無
くなちゃったって。調査に行った時、ご主人に、お会いしたけど、キリッとした
目が印象的で、夢見る男っていぅのかなぁ、強い視線で遠くを見据えてるって感
じでさ。アタシ、惚れちゃってたのに……。アタシより背が高くて逞しくて、眼
鏡はかけてたけど、それが似合ってたのよ。頭良さそうで。それにダブダブの作
業ズボンの中からでもモッコシ存在を主張していた股間……。六歳の坊やも、と
っても可愛くって、アタシのこと「お姉ちゃん奇麗だね」って言ってくれたのよ
ねぇ。あのお父さんの子供だもん。将来、楽しみな子だったのに。あぁぁ、本当
にイイ男だったのにねぇ。二十七歳よ。二十七。ウチの先生と同じ年。アレが二
十七年も辺り構わず生き長らえてるってのに、あのイイ男が二十七年で逝っちゃ
うんだもんねぇ。世の中、ウマクいかないものね。
 でもぉ、新聞記事ではビニィル・ハウスの重油ストォブが出荷の原因かもしれ
ないとは書いてるけどさぁ、一行だけ、「失火と放火の両面から調べている」っ
て書いてるのが引っ掛かるわ。アタシの友達の武田っていぅのに聞いたんだけど、
こぅ書く時って、かなり放火の疑いが強い時なんだって。普通の火事って失火か
事故でしょ。で、放火の場合、放火の痕跡がなきゃ、疑い自体湧かないもんだし。
有機栽培が成功しかけてたからヤッカミもあっただろうしね。出る杭は打たれる
って言うし。それとも女絡みかしら。モテそぉだったしなぁ。

●ミィティング(小林純)

 あああ、止めてよぉ。その汚いモジャモジャ頭をテェブルの上で掻きむしるの
は。せっかく奇麗にしてるのにさ。それに欠伸ばっかしして。
 「先生 もぉすぐ美貴さんも来ますから顔洗ってきて下さいっ」
 「ふぁあ? ああ そぉしよぉかねぇ っと どっこいしょっと」
 昨夜は飲めもしないのに、お酒をガブ飲みして、今朝はアノざま。締まらない
ったらありゃしない。ふふ、でも、いつもはベッドの中で横暴なんだけど、酔っ
ぱらうとオトナシクなるからイイんだけどね。でも、先生、どぉしちゃったのか
なぁ。お酒なんて飲むこと滅多にないんだけど。夜のニュウスで例の農園が全焼
したって聞いて、急に黙り込んで飲みだしたんだけど、何か関係あるのかなぁ。
あ、少しはサッパリした顔になってる。
 「はぁぁ シみるねぇ 朝一番の珈琲 今日一日の原動力」
 「おはようございまぁす」
 「あ 美貴さん おはよぉございますっ」
 「モォニン」
 「先生 小林君 知ってる? 柴田農園が燃えたって」
 「うん 先生と夜のニュウス見てたら流してた 可哀相にねぇ」
 「そぉよねぇ 先生と同じ歳でしょ どぉして逆じゃなかったのかしら」
 「でもぉ美貴さん 僕 先生の道連れなんてヤだよぉ」
 「そりゃそぉよね ほほほほほほ ほ ほ? どぉしたの先生 傷ついた」
 「んっ んあっ? え 何が」
 「またぁ 小林君と絡んでる白昼夢でも見てたんでしょ このスケベェ」
 「あっ そぉだ 先生 例の依頼の謎解けた?」
 「あ? ああん んん……」
 「やっぱりフケ専って奴だったのかなぁ」
 「小林君たら 凄い言葉知ってんのね 専門用語よ それ
  ねぇ小林君 先生 何か言ってた? 例の依頼のこと」
 「ワケ解んないこと言ってたよ ね 先生 あれ? 寝てるよ」
 「ねぇねぇ話して」
 「でも 凄くショウモナイよ 先生の謎解き
  だから昨夜 考え直しなっ って言ってやったんだよぉ」
 「いいから ねぇ」
 「えぇとねぇ…… 先生が言ってるんだよ 僕じゃないからね
  あの変な依頼主は政府か大手商社の人間で それで あの大きな野菜を見て
  ビックリしちゃったんだって」
 「あたしだって驚いたわよ ねぇ それで」
 「あんな野菜が大規模に流通しだしたらね 食糧政策が狂うだけじゃなくって
  農業生産国との関係とかぁ 農産物輸入によって辛うじて抑えられてる
  大国との入超問題とかぁ」
 「ニュゥチョウ?」
 「僕も知らないよぉ 先生がそぉ言ったんだ でね
  この技術が一部の途上国に流れでもしたら生かさぬよう殺さぬようっていぅ
  外交政策が崩れるんだってぇ 解る?」
 「じぇんじぇん」
 美貴さんはプルプルと頭を振った。ふぅわりイイ香りが辺りに広がった。
 「今朝はフロォラルだね」
 「解る? この おマセさん」
 「へへっ でね その他 モロモロの政治的必要性ってヤツのために
  こんなことになっちゃったんだって」
 「ふぅん ってことは 八百政が目的じゃなくって
  八百政に野菜を売ってた柴田農園を突き止めるのが目的だったわけ?」
 「うん 先生は そぉ言ってた ねぇ どぉ思う この話」
 「うぅん 小林君は?」
 「いつもの誇大妄想だよ もっとマトモなことに頭使えばイイのにねぇ」
 「そぉよねぇ あれ 先生 起きてるの?」
 「え 寝てるよぉ こんなダラシない顔して 涎まで垂らせて」
 「そぉよねぇ ……でも 泣いてるみたい」
 「あ 本当だ あれ なんで?」
 「小林君に振られた夢でも見てるんじゃない
  ねぇ ゲン直しにケェキ食べに行こぉよっ」
 「え でも……」
 「いいじゃない 先生は溶けてなくなったりしないんだから 行こ 行こ」
 「行こっか」
                          (お粗末様)




#3114/3137 空中分解2
★タイトル (ZBF     )  93/ 4/15  20:50  (153)
「荒らぶる海」(7)    久 作
★内容

    ●再会

    夕暮れ。町を頬かむりをした汚らしい男が、背を丸め歩いていた。舟で
   荒波に揉まれヤットのことで大島にたどり着いた定だった。もう二昼夜、
   何も食っていない。大通りは閑散と、ただ土ボコリだけが緩やかに舞って
   いる。脂と潮に塗れた肌がザラついてくる。ひときわ強い風が正面から吹
   いた。定は目を細め顔を背けた。
    そこに、疲れた表情の老婆が縮こまり、しゃがんでいた。定はかすれた
   声で、
    「バァさん ここらに安い飯屋ないケェ」
    「ああ 飯屋かね」
    老婆はショボショボとした目で定を見上げるとニタァと笑った。定はビ
   クリと硬直し、目を外らせた。
    「飯屋なら ここを二町ほど行った辻を北に折れて暫く歩けば……」
    「ありがとぉよっ」
    「あ こぉれ どこから来なすったのかの」
    「え あ あの 伊予から……」
    「ほぉぉ 伊予からのぉ 気を付けなされよ」
        老婆は言葉を終えると疲れた表情に戻り、元通りに縮こまった。定は足
   早に立ち去った。何度も何度も振り返りながら。

    辻に近付くと五、六人の男が何やら指差し条、話し込んでいる。定は自
   然と近付いていった。
    「見なよ こいつ ダラシなく口を開けて」
    「お こいつは半眼だ うううっ 気色悪ぅ」
    「お こいつは まだ若いぜ 定だとさ 他の奴ぁ散ざっぱら
     イイことして死んだんだろぉがよ こいつはチョッと可哀相だな」
    男達の肩越しに覗き込むと父・春市だった。松吉たちもいる。九つの生
   首が、辻の晒し台に並べられていた。定は唖然と春市の顔を見つめた。髷
   は解けかけ、目は軽く閉じ、確かに口はダラシなく開けている。眠ってい
   るようだ。(思ってたより小さな顔だな)。定の胸には、恐怖ではなく、
   漠然とした悲しみと、それよりはハッキリとした懐かしさが漂った。次々
   に幼い頃から馴染んできた顔をボンヤリと眺めていった。あと半刻もすれ
   ば日が暮れる。本来なら青黒くなっている筈の生首たちは、夕陽を浴び頬
   を暖かい色に染めていた。
    九つ目の前に来た。半眼になっている。「伊予国温泉郡三津ケ浜 定
   十八才」。添えてあった木札には、そう書いていた。見たこともない少年
   だった。人数合わせに捕まった無宿者だろう。少年の生首に蝿が一匹、鼻
   を越え頬を伝い唇へと這い回っている。定は自分の顔をムズムズと蝿が歩
   いているような気になって、両手で顔を擦った。(俺の首……)。そう思
   い、定はためすがめつ少年の首を見つめた。と、目が合った、ような気が
   した。
    「あああっっ」
    定は飛びすさり、少年の首を凝視した。首は間抜けな、しかし穏やかな
   表情のままだった。定は少年に背を向け、一目散に駆け出した。

    ●裏店の女

    定は思い切り早く走った、積もりだった。空腹と披露のためか脚は思う
   ようには上がらない。半町も行った頃、足がもつれ、ブザマに転げた。こ
   めかみがズキズキと痛む。定は通りの真ん中で俯伏せのまま、荒い呼吸を
   繰り返していた。ザリッ。目を開けると女物の草履が、そこにあった。
    「どうしたんだい 坊や」
    見上げると三十過ぎの身なりのよい女だった。
    「宿無しかい ついといで」
    草履が二、三歩遠ざかって、立ち止まる。
    「ほら おいでよ」
    定は女の小さな踝を見つめ条、フラフラと立ち上がった。
    女は裏通りの小さな飴屋に入っていった。店にしている四畳半の奥には
   八畳が一つきり。三坪ほどの庭には、桜と橘が植えてある。女は定を招き
   入れると、シンバリ棒をかけた。定がボンヤリ土間を見回すうちに、女は
   手際よく米を研ぎ、飯を仕掛けた。振り返り、
    「その汚いのを脱ぎな」
    定はタメライがちに帯を解き、褌一枚になった。女は目を細め何度かネ
   ットリと見上げ下ろし、褌の上で視線を止めた。
    「それもだよ」
    「え あ あの……」
    定がモジモジしていると、女が褌に手を伸ばした。
    「世話の焼ける子だねぇ」
    定が手を掛けようとするより早く、褌はポトリと足元にズリ落ちた。
    「何 恥ずかしがってんだい 子供のクセに」
    女は婉然と微笑むと、濡れ手拭いで定の尻をハタいた。ピクリと身を驚
   かせた定の腕を掴むと、女は脂と潮に塗れ土ボコリで真っ黒になった肌を
   手拭いで擦りだした。何度も手拭いを洗い何度も擦り上げた。ボオゥとし
   ている定の頭を抱えて顔を拭いだす。定は目を固く閉じ顔をシカめ息まで
   止めて、為すが侭になっていた。しつこい汚れがあったのか、女は水気の
   なくなった手拭いの端を銜えて湿し、指に搦めて強く擦った。間近な女の
   胸元から、脂粉の臭いが立ち昇る。定の肉体に変化が起こった。顔が耳の
   後まで赤くなっている。女も変化に気付き、
    「何さ 生意気に」
    笑って白い指を絡め解きピンと弾いて、
    「さ ご飯が炊けたよ 上がって待ってな」

    「あ 水持ってきてやるよ 馬鹿だねぇ そんなにカッこんで」
    優しい目で見守っていた女は土間に降りると甕から水を汲みヒシャクの
   侭、飯を喉に詰まらせ目を白黒させている定に手渡した。定は慌てて飲み
   干した。まだ細めの首に、飛び出た喉仏がセワシなく上下するのをジッと
   見つめた女は、ふっくりした赤い唇をチロリと舐めた。飲み終わった定に
   取り澄ました声で、
    「落ち着いたかい」
    定は俯いた侭に頷いた。ボンヤリと、そして徐々にハッキリと、先程に
   見た生首が一つずつ浮かんできた。(オヤジ……、松吉っつぁん……)。
   九つ目に少年の首が浮かんだ。
    「どうしたんだい 顔が真っ青だよ」
    女が膝を寄せ、定の肩に手を掛けた。定は女にムシャ振り付き、押し倒
   した。
    「ああっ この子ったら……」
    女は微笑を浮かべると、静かに目を閉じた。女の手管に導かれ、操られ、
   定は何度も埓を開けた。

    肌寒さに定は目醒めた。白くポッテリした小柄な肌に包み込まれていた。
    「あ……ん 起きたのかい」
    柔らかく気ダルそうな声とともに定は優しく頭を締めつけられるのを感
   じた。もう陽は高い。頭を振って女の胸から逃れると定は、
    「店はエエの」
    すっかり落ち着いた声だった。女は一瞬、不審そうな顔をしたが軽く頷
   いて、
    「あ 店かい イイんだよ どうせ客なんて来ないんだからさ」
    「……」
    「ふふふ こんな裏店で飴を並べてるんだから
     解りそうなモンじゃないか」
    「何が」
    「アタイ ある旦那の妾なのさ 店は世を忍ぶ仮の姿ってワケ」
    女は冗談っぽい口調で喋り条、定の目を探るようにジッと覗き込んだ。
   定は慌てて目を外らせ、心配そうな声になり、
    「ほっ ほたら ワシがココにおったら……」
    「大丈夫だよ 旦那は大坂に行って留守さ だから……
     暫らく居てイイんだよ」
    女は定のホツれた鬢を撫ぜ着けてやりながら、くるみ込むような視線で
   定を見つめた。定はおし黙った侭、庭に寝返りを打った。桜花がチラチラ
   舞っている。
    「なにさ 難しい顔しちゃって」
    女は背後から股間に手を回し、握り締めた。
    「ほぉら コンナにして シたいんだろ」
    女は悪戯っぽい笑みを浮かべた。ユックリと定の肩を押さえつけ仰向け
   にすると、頬張り、ジキに顔を上げ舌舐めずりすると、跨がった。

    「ふふふ よく食べるねぇ お櫃は もう空っぽだよ
     待ってな すぐ炊き直してやるからね」
    立ち上がろうとする女に定は強い調子で、
    「もぉ イらん」
    「おや イイんだよ 遠慮しなくっても」
    「もぉ腹いっぱいよ ほれより ワシ 行かんと」
    「なんだい イイじゃないか 暫らく居なよ」
    「でも ワシ……」
    女は寂しそうな目で定の思い詰めた顔を眺めていたが、
    「解ったよ 気を付けるんだよ」
    「……これ」
    定は銀の簪を差し出した。
    「何だい コレって」
    「……やる」
    「イイよ 大事なモンなんだろ 仕舞いな」
    「やる……」
    定は畳の上に簪を置くと、イキナリ立ち上がり、飛び出して行った。
    「あっ チョイと アンタっ ……行っちまったねぇ」
    女は浮かしかけた腰を下ろした。肩を落とし簪をボンヤリ見つめた。タ
   メライがちに手を伸ばし簪を取ると、自分の髪に刺してみた。鏡を覗き込
   んだ顔は少女のように頼りなげだった。力なく笑みを浮かべた頬を一筋、
   涙が伝う。ソッと呟いた。
    「アンタ……」

(つづく:次回完結)



#3115/3137 空中分解2
★タイトル (UYD     )  93/ 4/15  23:10  (  6)
タイガース日記オンライン  KEKE
★内容
今日は甲子園球場にいってきた。私はなぜか球場にいくとやたら
飲んだり食ったりするのである。今日も観戦弁当、うどん、焼きそば、
焼き鳥3本、ウーロン茶、カンコーヒー3本、カン紅茶、ビールを
たべた。これだけたべていると、たべている合間に野球を観戦したという
感じで、我ながら、何のためにきたんだろうと思ったりする。
試合は阪神が勝った。満足して帰りの電車にのった。



#3116/3137 空中分解2
★タイトル (AKM     )  93/ 4/16   4:57  ( 75)
●楽戦楽勝ごりら男●その16 9人抜きの巻 ワクロー3
★内容

    ◆楽戦楽勝ごりら男◆16 9人抜き達成

 大変です。面接の時間まで残り20分を切っています。ここまで
8人抜きを達成して、9人目に挑戦している知人Rですが、会社の
面接時間まで、それほど時間はない。近くに会社があるといっても、
徒歩5分は見ておかないと行けません。

 目指す面接の場所が、会社のどこにあるかも少し早めにいって確
かめないとならないでしょう。

 声をかけようか。一瞬そうも思いましたが、声がかけられないほ
ど緊迫した勝負が始まってしまいました。

 おお。こうなったら会社の面接なんてどうでもいいではないか。
会社なんてどこにでもある。しかし、ストリートファイター9人抜
きの名誉はどこにでもあるもんじゃなかろうもん。ほとんどひとご
とだと思って、でたらめな理屈でもって観戦を続けました。

 まさに今、Rに立ち向かう少女は、清楚な外観に似合わず、相当
な使い手です。少なくとも勝負に関する限り油断は出来ません。僕
はRの必死の操作を、この大事な局面でほとんど見ていませんでし
た。コントローラーと6つのボタンを滑らかに操作する、Rの対戦
相手の少女のほうばっかりを見ていました。いったいどこで、ここ
まで修練を積んだというのか。技は完璧にコントロールされていま
す。竜巻旋風拳とか、大技も出せるのでしょうが、逆襲を恐れてか、
うかつには出しません。勝負はまったく接近戦になってしまいまし
た。

 コントローラーを軽く握って、時には離れ、時には上に、前へ、
迫り来る醜悪な『ごりら男』から『ケン』を救おうと華麗なボタン
操作です。
 力任せに狂ったようにたたきつけていた、これまでの男のゲーマ
ーとは、どえらい違いです。静で正確なボタン操作では、それほど
激しい音はでないものなのか。それとも、実はでているのだけれど、
ついひいきめに見てしまうのか。それは定かではありません。

 少女ゲーマーをうっとりと眺めているうちに、勝負自体を忘れそ
うになってしまいました。

 そのとき、どよめきが起きました。『ごりら男』ブランカの噛み
つきが、無惨にも『ケン』の身体にしっかりと入っています。周囲
のゲーマーのどよめきは、明らかに失望のどよめきでした。ダメー
ジラインは『ごりら男』の側により多くでていました。

 ということは、それまで少女の方が優勢だったということです。
この噛みつき攻撃さえ受けなければ。。。少女ゲーマーは、今やコ
ントローラーに力を込めながら、右手で懸命にボタン連打します。
ボタンを打ちまくることによって、噛みつきを逃れようと努力をし
たのでしょう。

 見ていてそれは哀れなほどでした。

 ゲーセンの常連も、がっかりしたでしょう。彼女がこのゲーセン
最強のゲーマーだったのかもしれません。連勝を止める、期待のス
トッパーは、最後にとどめの電気ばりばり攻撃を浴びて、『ケン』
は骨をあらわにしながら、あの世にいってしまったのです。

 9人抜き。もう誰もRを止めることはできないのか。面接の時間
もそろそろ始まります。ここらが潮時というものでしょう。声をか
けようか。そう思い迷った瞬間に、勇気ある10人目のゲーマーが、
今や無敵の知人Rに挑戦をしてきました。

 脊がやけに高い10代のGパン男が、10人目の相手でした。選
択したのは『ベガ』。自らの力不足をキャラクターそのものの力で
補おうとする意図がみえみえです。どちらが真の使い手か、戦って
みれば一目瞭然でした。 知人Rに唯一の隙があるとしたら、会社
の面接の時間が迫っているということかもしれませんでした。この
段階になると指の疲労はもはや気にならないほど、Rのボタン操作
は、完璧に『ごりら男』と一体化していたようです。関心はいまや
知人Rが10人抜きを達成するか否か。そして誰に負けるか。その
ふたつに絞られてきました。

       (以下次回)




#3117/3137 空中分解2
★タイトル (ZBF     )  93/ 4/16  19:50  ( 99)
「荒らぶる海」(8)    久 作
★内容

    ●御座船

    主膳は弓を手に御座船の舳先に立ち、ジッと海を見つめていた。大島沖
   は、いつも波が高い。飛沫が全身に降り懸かる。江戸への参勤は、もう十
   数度目だ。潮で産湯をつかったと豪語する主膳にとっては、目をつぶって
   も進んでいける。いつもなら御座船に乗り組むのを晴れがましく感じる心
   が、今回は暗く閉じきっている。無毛島の一件で統制派の周防一味に抑え
   つけられ牙を抜かれた主膳は、このところメッキリとフケ込んだ。海族と
   して生まれ育ち、何よりも束縛を嫌う彼にとって、泰平の世は生きにくい。
   諦めが漂う、しかし強い視線で、荒らぶる海を見回していた。無毛島が、
   すぐ左手に見える。
    右手から一艘の舟がグイグイ漕ぎ進んでくる。主膳は目を見張った。水
   軍たる主膳たちでさえ、この荒い大島沖に木っ葉舟で漕ぎ出す気にはなら
   ない。目を凝らすと、一人の男が櫂に取り付いている。
    「旗印も立てた御座船の前を横切るとはっ 無礼にもほどがあるっ
     主膳っ アヤツを射殺せっ」
    船酔いでゲンナリしていた筈の周防が、背後で喚きだした。
    「かしこまりましてございます」
    主膳は馬鹿丁寧な口調で応えると弓に矢をつがえた。舟は近付いてくる。
   乗っているのは十八ぐらいの若者だ。御座船には、目もくれない。主膳は
   狙いを定めた侭、舟の進むに合わせてユックリと体の向きを変えていく。
   若者は獣のような形相で、無毛島を目指し、一心不乱に漕いでいる。主膳
   は若者に何故か、懐かしさを覚えた。そして、羨ましく思った。
    若者の舟が御座船の直前を通り掛かった。と、その時、急に主膳は体を
   捻り、見当違いの方向へと一の矢、二の矢を続けざまに射放った。矢はチ
   ャポン、チャポンと軽い音を立て、空しく海に沈んでいった。
    「しゅっ 主膳っ なんとするっ」
    周防が主膳に詰め寄り条、何やらマクシ立てようとする。主膳は、まる
   で父が子の初陣姿を眺めるように、定を見送りながら、
    「ワシの腕も落ちたものじゃ 十間ばかり先の的を外すとは
     いやはや面目ない
     はっはっは おぉおぉ ナカナカの漕ぎ手じゃのぉ
     ほれ もぉ あんなに 遠くへ……
     最早 矢も届きますまい はぁっはっはっはっ」
    「しゅっ 主膳っ 覚えておれっ」
    イキリ立った周防が鞭を振るい雑兵たちをけしかけ、銃で射撃させた。
   が、海に不慣れな雑兵の弾が当たる筈もない。定の姿は、波の向こうへと
   消えていった。主膳は満足そうな表情で、いつまでも見送っていた。

    ●荒らぶる海

    まだ四十になったばかりの亀吉は最近、めっきりフケ込んだ。俄か造り
   の仮堂に、誤って殺した九人霊を祀ると足繁く赴いた。この日もサキを伴
   い、磯辺の堂へと向かった。
    亀吉は堂の前にうなだれ立ち、目を固く閉じ苦渋の表情でブツブツ経文
   の一節を繰り返す。サキは背後で、咲き誇る桜を呆けた顔で見上げている。
    「うわあああぁぁぁぁぁ」
    雄叫びとともに一人の男が堂から躍り出してきた。飛び降りざまに、驚
   き見上げる亀吉の胸に、蹴りを食らわせる。亀吉はブザマに倒れ、咳込み、
   ノタウチ回る。男は亀吉を何度も足蹴にし、馬乗りになってメチャクチャ
   に殴りつける。サキはまるで無関係であるかのように穏やかな笑みさえ浮
   かべ、活劇を見守っていた。定が見上げる。視線ェ出会う。青白いサキ゚の
   頬に赤みが差してくる。事件以来、消え失せていた生気が、瞳に戻ってュ゚
   る。
    「あっ あんたはっ」
    驚愕が、そして憎悪が、サキの目に浮かぶ。定は見つめ上げ条、押し殺
   した声で、
    「お前が 忘れられんかった」
    「よくもっ よくも あたいをぉぉっ」
    サキは目に涙を浮かべ叫んだ。今まで抑えつけていた憎悪が、悔しさが、
   一時に迸り出た。定はギラギラと輝く瞳で睨め返し、
    「忘れられんかったんじゃぁぁぁぁっっ」
    絶叫するとサダはサキへと殺到し、突き飛ばし、漣ト}えつけた。
    「ああっ なっ 何をっ や鱇てっ やめぇてぇぇぇっ」
    モガき泣き叫ぶサキを担ぎ上げ、定は磯へと駆けだした。
    「サキィィィ」
    亀吉が胸を押さえて漸く立ち上がった。ヨロヨロと後を追う。定は落ち
   着いた足取りで岩を伝い行き、海べりで振り返った。亀吉がゴツゴツした
   岩に手を掛け、躓き、倒れ込み条、向かってくる。定は隠してあった舟に
   サキを投げ込むと結わえてあった縄を解きだした。亀吉が漸く追い着いて
   くる。定が舟に飛び降りる。櫂でグイと磯を押す。亀吉が海へと身を躍ら
   せる。
    「サキィィィ」
    亀吉は懸命に泳ぎ、舟に辿り着こうとする。
    「父っつぁぁんっ」
    サキが舟べりから手を伸ばす。定は櫂を穴に入れ込もうとしていた手を
   止め、近付いてくる亀吉の頭を見つめている。
    殺気に気付きサキが振り返る。定がユックリと櫂を頭上に振り上げよう
   としている。サキは何やら喚き条、定の踏ん張った脚にシガミ付く。櫂が
   振り下ろされる。
    「サキィィィ」
    叫びの後半は泡と消えた。亀吉の頭が沈んでいく。
    「父っつぁぁんっ」
    サキが舟べりに取り付き、海中を覗き込む。ユックリと何かを掴もうと
   するかのような手が海中から伸びてくる。頭も浮かんできた。再び櫂が振
   り下ろされる。鈍い音がして、亀吉の頭は沈んでいく。続いて沈んでいく
   手は震えているようだった。どこまでも澄んだ淡い緑色の海に、赤い血が
   ユックリと煙のように広がっていく。
    「父っつぁぁんっ」
    赤く濁った海に俯伏せの亀吉が浮かぶ。定は荒く呼吸をしながら暫らく
   亀吉を眺めていた。サキは横倒れになり、身を震わせて泣いている。定は
   無表情の侭、櫂を舟に取り付けた。遠く、伊予の島々が見える。海にギラ
   つく太陽の光がそそぎ、トゲトゲしい輝きを放っている。漕ぎ出す舟は、
   白く泡立つ波に揉まれ条、徐々に小さくなり、やがて見えなくなる。
    荒らぶる海は、元の澄んだ緑に戻る。亀吉の遺骸がユラユラと波に合わ
   せて、揺れている。

   (終劇)



#3118/3137 空中分解2
★タイトル (UYD     )  93/ 4/16  21:12  (  2)
タイガース日記オンライン  KEKE
★内容
阪神、さよなら満塁ホームランで敗けた。あはははははははは。
今のベイスターに敗け茶いかんぜよ。



#3119/3137 空中分解2
★タイトル (UYD     )  93/ 4/16  21:17  (  7)
タイガース日記オンライン  KEKE
★内容
阪神もひとがいいから、同情したんだな、きっと。5連敗もしている
んだから、敗けてやろうと考えたわけだ。そうでなけりゃ、何で監督が
あれほどどっしりして動かないのだ。チャンスに代打も出さないのだから、
今日は敗けてやろうと考えたとしか思えない。
ま、それが阪神のいいところであるが、それじゃ優勝は無理だな。
勝てるところからは、無慈悲なほど勝ちをむしりとらねば。
でもこの正確は嫌いでない。私は。



#3120/3137 空中分解2
★タイトル (KCF     )  93/ 4/17  16:51  (189)
掲示板(BBS)最高傑作集44
★内容

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
アメリカ帰りの女友達の話3  [3/27]
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

  前回までの話で、アメリカのトイレがどのようなものであるかご理解いただけ
たと思います。しかしながら、アメリカは国土が広大なため、地域によって言葉
や習慣はかなり異なります。したがって、ロサンジェルスとニューヨークあるい
はマイアミの公衆便所が同じものであるなどと考えるのは愚かなことです。

  私自身、アメリカはカリフォルニア州しか行ったことがなく、他の州のトイレ
がどのようなものだか知りません。そこでアメリカから帰ってきたばかりの例の
女友達にどこのトイレが一番変わってたか尋ねてみました。
  彼女は、「ラスベガスのトイレが一番変わっていた。」と答えてくれました。
  そこで今回は、私なりにラスベガスのトイレがどんなものか予想してみたいと
思います。

  その女友達に「ラスベガスのトイレがどう変わっていたのか?」と聞いてみて
もよかったのですが、こう尋ねたところでどうせ、
「ギャンブルで潤っている街だから、ちゃんと掃除人がいて、いつもトイレがき
れいなのよ。」とかいう面白くも何ともない答えしか帰ってこないと思いました
ので、彼女に聞くのはやめました。
  けれども、私が「ラスベガスのトイレ」と言うと彼女はいつもプッと吹き出す
ため、ラスベガスのトイレは相当変わったものだと思われます。

  ラスベガスはネバダ州の砂漠のまん中にあり、ご存じのとおりギャンブルしか
産業がないという非常に変わった都市です。街にはたくさんの高級ホテルが建ち
並び、その中にあるカジノで毎日数千万ドルの金が合法的に賭けられています。

  このようなホテル内のトイレが他の地域の公衆便所と同じであるなどと考える
方が間違っています。
  ホテルはギャンブルによりかなり儲っているため、おそらく便器は大理石でで
きているはずです。
  用を足して水を流す時にひねるレバーも、普通のトイレで見られるあのちっぽ
けなレバ−のわけがありません。カジノで長時間お遊びになったお客様は、スロ
ットマシンのレバーを引くことに慣れきっているので、用を足した後にあのちっ
ぽけなレバーを左右にひねったら、急に慣れない手の動きをしてしまうことにな
り、手首から肘にかけての筋を切ってしまいます。
  トイレを使用したお客様が、カジノに戻らずに病院にかつぎ込まれてしまった
らホテル側は大損です。ただ、ホテルと病院が提携していて、病室にスロットマ
シン付の差額ベッドが導入されているようなところでは、レバーが普通のもので
あることがあります。
  しかし、病院と提携していないホテルではどうでしょうか。
  このようなホテルのトイレでは、お客様を病院にとられないよう、水を流すと
きひねるレバーとして、当然のことながらスロットマシンのレバーが使用されて
いるはずです。そのレバーはもちろん左右ではなく、前後にひねるものです。こ
れが、トイレの水タンクの横に付いているのです。
  水タンクの位置も普通のトイレとは少し異なります。普通の洋式便所の場合、
水タンクは便器に腰掛けたあなたの後ろにあります。用を足し終わったらあなた
は便器から立ち上がり、後ろに振り返ってからレバーをひねり水を流しています
ね。
  カジノのお客様はこのような動きに慣れていません。カジノにおいて、誰がス
ロットマシンにコインを入れた後に立ち上がり、後ろに振り返ってからレバーを
引きましょうか。カジノでは、みんな座ったまま正面にあるレバーを引いている
のです。
  というわけで、もし、ラスベガスのトイレの水タンクが普通のトイレ同様、便
器に腰掛けたお客様の後ろに位置していたら、お客様は座ったままレバーを引き
たいため、腰から下は動かさずに上半身だけを後ろにひねってレバーに手を伸ば
してしまいます。飛び込みの選手でしたらどってことないのでしょうが、一般の
お客様がこのように無理に胴体をひねると、背骨及び肋骨にひびが入ってしまい
ます。
  したがって、ラスベガスでのトイレの水タンクは便器に腰掛けたお客様の真正
面に位置しています。
  また、ラスベガスのトイレの水タンクが普通のトイレ同様、のっぺらぼうの白
一色というわけがありません。水タンクの横にはスロットマシン式レバーが付い
ているので、正面もスロットマシン同様にウインドウがあり、3列の絵が回転す
る仕組みになっているはずです。
  このようなトイレで用を足してレバーを引くと、目の前の水タンク上にある3
列の絵が回転し始めますので、お客様は各列の下にある3つのボタンを押して、
絵の回転を1列ずつ止めます。3列すべてが止まった時、横あるいは斜めに同じ
絵が並んでいた場合は、スロットマシン同様、報酬がタンクから出てこなければ
お客様は激怒してしまいます。
  この場合の報酬は何でしょうか。
  カジノのスロットマシンでしたら、報酬としてマシンに挿入した物、つまりコ
インが出てきます。だから、ラスベガスのトイレの場合の報酬は当然、前に便器
を利用したお客様が便器内に落下させた物、つまり汚物が出てきます。
  もちろん、3列の絵が並ばなかった場合は水だけ流れ、あなたが便器内に落と
した物は取られるだけです。
  その場合は、再びふんばってレバーを引き、前と同様に3つのボタンを再び押
します。
  ついてないときは、3列の絵が一回も揃ってくれず、腸が空になってしまいま
す(この状態を「運(ウン)がない」という)。
  カジノの場合、コインを全部使ってしまったら、あきらめるか、あるいはコイ
ン交換所で新しいコインを買って、さらにギャンブルを続けることができます。
  トイレにはコイン交換所はありませんが、その代わり売店があります。そこで
は釣ってから2ヶ月たった刺身、しぼりたての日から3ヶ月後の牛乳などが売ら
れています。ですから、ラスベガスのトイレで、「今日はついてねーな。」とい
う人で、
「このままでは帰れない。」という人は、売店に立ち寄った後にさらにチャレン
ジを続けることができます。

○コメント
「なぜ売店では下痢をしそうな食べ物、飲物しか売ってないのですか。普通のも
のでもいいと思いますが。」という疑問のメールをいただきました。
お答えします。
普通のものでは、消化して下腹部から出てくるまで数時間かかります。お客様は
そんなに長い時間トイレで待てません。ですから普通のものではダメなのです。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
私が公衆便所を嫌いな理由  [4/3]
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 今回は、「公衆便所が嫌いな理由」について述べてみたいと思います。

 おそらくほとんどの人は、「公衆便所が嫌いな理由」として以下のものを挙げ
るでしょう。

「トイレットペーパーがない。」
「掃除をしてなくて汚い。」
「ひわいな文字や絵が書かれていて不快。」

 一見納得のいく理由に思えます。
 しかし、よく考えると、これらの理由をもって公衆便所が嫌いだなんてバカげ
ています。

「トイレットペーパーがない。」などと言う人は図々しいと思いませんか。こう
いう人はトイレットペーパーは無料だと思いこんでいるのです。
 近ごろは、駅前などでティッシュペーパーを無料で配っているものだから日本
人は「トイレで使う紙などに金を払えるか。」などと思って付け上がっているの
です。
「ふざけんのもいい加減にしろ! 紙がなかったら、自分の靴下でもパンツでも
シャツでも使って拭け!」と怒鳴ってやりたい気持ちです。

「掃除をしてなくて汚い。」というのも理由になっていません。なぜ汚いかとい
うと、利用者がきれいな使い方をしないからなのです。中には便器を大きく外し
た用を足しておいて、そのままトイレを出ていく馬鹿もいます。こういう奴らは、
残された物体から回虫が何匹も顔を出していても恥ずかしいと思わないのでしょ
うか。
 みんなが公衆便所をきれい使えば、数年、いや数十年誰も掃除をしなくてもき
れいなはずです。公衆便所が汚いのは、公衆便所やそれを管理している役所が悪
いのではなく、利用している自分達が悪いのです。誰も自業自得だということに
気付いていないのです。

「ひわいな文字や絵が書かれていて不快。」というのも何だかよく分かりません。
不快に感じるのは、公衆便所に書かれた文字や絵を単なる「落書き」としてしか
見ていない証拠です。それらを文学・芸術作品として鑑賞していれば、少しは違
った見方ができるはずです。自分の文学・芸術に対するセンスのなさを棚に上げ
て、何を言ってやがる。

 とまあ、一般の人々は自分勝手な理由で公衆便所を嫌っているわけです。

 私はこのような凡人とは違い、上記の特徴を持つ公衆便所に入ったとしても、
それは公衆便所が悪いのではないことを知っているため、気を悪くしたりするこ
とはありません。

 しかし、私は公衆便所が嫌いです。公衆便所では私でも耐えられないことが一
つだけあるからです。では、そのことについてこれからお話いたします。

 私は目が悪いのですが、普段は容姿を気にして眼鏡をかけていません。そんな
わけで、公衆便所に入ったとき、和式便器の後ろの方に茶色の小さな汚物が点々
とくっついていたとしても見えません。そこで私はきれいなトイレだと思い、便
器にしゃがんで用を足してしまいます。用が済んだ後は、ごく当たり前なのです
が、トイレットペーパーあるいはティッシュペーパーで下腹部を拭き始めます。
何回か拭いた後、もう拭かなくていいかを確認するために、手に持ったトイレッ
トペーパーの汚れ具合を見ます。その時に私は、和式便器の後ろに汚物がくっつ
いていることに気付くのです。立っているときには目から便器が遠いため気付か
なかったのですが、しゃがんで便器に目をやると小さな汚物がおぼろげながら見
えるのです。
 ここで一番困のは、その小さな汚物は、私がトイレに入る前から便器について
いたものか、あるいは私が用を足したときについてしまったものなのか分からな
い点です。もしそれが自分のものであった場合は、もちろん自分に責任があるわ
けですから便器を拭かなければなりません。しかし、他人のものであった場合は、
汚した奴のために便器をきれいにしてやるなんて絶対に嫌です。
 しかしながら、見ているだけではどっちか分かりません。そこで、においを嗅
ぐのですが、私の鼻は犬ほど敏感でないため、それが私のものか他人のものか分
かりません。しかたがないのでとりあえず、私は便器についたその小さな汚物を
トイレットペーパーで拭きます。もしそれが自分のものであった場合は、出した
てのほやほやのため、「スッ!」と気持ちよく拭き取ることができて非常に気分
がいいのですが、他人のものの場合は、すでに乾燥していて、トイレットペーパ
ーが「ズリッ!」という音をたてて汚物の上を擦るだけで拭き取ることはできま
せん。それでも、もしそれが数時間前に誰かが用を足したときについたものであ
れば、トイレットペーパーに唾をつけてゴシゴシこすればなんとか拭き取ること
も可能です。しかし、数日前についたものである場合は、便器にこびりついて乾
燥しきっているためなかなか取れません。その場合は仕方がないので、人差し指
の爪で引っかきます。取れたらすぐに水道の水で爪をよく洗うのですが、人差し
指の悪臭は数日間はなかなか消えません。私が公衆便所を嫌いな理由は、まさに
これなのです。

○コメント
「人差し指の爪で引っかいた後は、匂いを嗅がなきゃいいじゃないか。」という
余計なお世話メールをいただきました。私は、他人の趣味に対しては、あーだこ
ーだ言うべきではないと思います。


これで終わりです。掲示板(BBS)最高傑作集45をお楽しみに。

                                                          フヒハ




#3121/3137 空中分解2
★タイトル (AKM     )  93/ 4/18   0:48  ( 59)
●楽戦楽勝ごりら男●その17 10人抜きの巻 ワクロー3
★内容

◆楽戦楽勝ごりら男◆17 ベガ破り10人抜き

 『ベガ』は、このゲームで最強キャラクターとされています。し
かし、問題となるのは、ここでもやはりゲーマーの技量です。

いくら優れたキャラクターでも、操っているゲーマーが弱ければど
うにもならないことはこれまで紹介してきた通りです。力が互角に
してはじめて、キャラクターの力の差がでて来るわけです。ラウン
ド1、ファイトーゲームセンターに合成音声が再び響きました。開
始早々『ベガ』はサイコクラッシャーの大技を出してきました。ど
りゅどりゅどりゅー

 擬音をひらがなで書くとあほみたいですが、ほかに表現のしよう
がありません。擬音とともに空中をよことびに飛んでくる『ベガ』。
 知人Rは『ごりら男』を後方にジャンプさせて蹴り落とします。
手慣れたものでした。『ベガ』の使い手がやったことといったら、
この開始いきなりのサイコクラッシャー。これをかけただけでした。
 蹴り落されてからは、まったく『ごりら男』のなすがままです。

 2ラウンド目は、さらに悲惨でした。抵抗のすべもなくコーナー
に追い詰められ、とどめを刺される『ベガ』。最強の名が泣きます。
ダブルニープレスも悪投げさえも、自慢の破壊的な技を繰り出す暇
もない、あっけない敗北です。

 この瞬間。ついについにゲーマーを10人撃破達成。
 ふらりと入ってきた道場破り=知人Rが、ついに10人のゲーマ
ーを破りました。周囲のゲーマーたちは、まるで看板を奪われた、
間抜けな道場師範のように放心していました。誰も11人目の席に
つこうというものがいません。

 『こいつには勝てない』

 誰しも挑戦する意欲を無くすほど、知人Rは抜群の強さを見せつ
けたのでした。Rの完勝です。

 面接までいくらも時間がありません。10人抜きをひとつの区切
りにして、会社への道に一歩を踏み出そうとしたときでした。

 ゲームセンターに入ってきたばかりの、小学生が100円だまを
握り締めて席につき、Rとの対戦機械に、その貴重な小遣いを投入
したのです。小学生の中には確かに強いゲーマーはいます。

 いますが、彼らには『知恵』がない。悲しいかな多くの小学生ゲ
ーマーは単に反射神経に優れているだけで、駆引きを知りません。
あほ丸だして手数で勝負するのが小学生ゲーマーの特徴です。

 そのことを知ってかどうか。周囲の見物人の輪が解けました。み
んなめいめいに自分のゲームをはじめる気になったのでしょう。結
果が知れている知人Rと無知な小学生ゲーマーとの対戦など、誰も
興味が沸かないという訳なのでしょうか。

 面接試験の行きがけの駄賃とばかりに、知人Rは、この挑戦を受
けて立ちました。11人目。もう、面接の時間まで余裕がありませ
んから、勝っても負けてもこれが一応の最後の勝負です。
 小学生ゲーマーはキャラクターの中から『サガット』を選択しま
した。

      (以下次回)



#3122/3137 空中分解2
★タイトル (AKM     )  93/ 4/18   2:15  (149)
お題>青空        ワクロー3
★内容

■お題《青空》■  ワクロー3


『や。わたし、ゼッタイに や だからね』

きっぱり断わられてしまった。

『どうして、わたしがやんなきゃならないのよ』
『や。だってさ、これって髪をおかっぱにするんでしょ。あたしゼ
ッタイにやだからね』
困った。


  ▼やなんだってさ▼

『それにさ、どうして、あたしじゃなくちゃなんないのよ。これさ、
これ。最初から やな予感がしてたんだよね。こんなのさ、やって
もさ、だれもこないよ。おもしろくないもん』

『とにかく や わたしはゼエッタイに ゼッタイに やだ』
『や。ほかの人さがしなさいよ』

(みんなやだと言われている)

『あなたがプロなら あたしもやってもいいけどさあ。あなたは、
学生でしょ。どうせつまらない話でしょ。誰もみないやつに あた
しがわざわざ出る意味がないもん。このくだらいのに出るためにソ
バージュきっちゃうなんてゼッタイにやだからね。ただでさえ こ
んどのは やなのに。なに?これ。ヌードのほうがまだいいわ...
あ、ヌードにもならないわよ。いっとくけど』


 ▼つりあわないんだってさ▼


『それにさ。わたしじゃ似合わないよ。これ。だってさ、わたし胸
があるしさ身長だって163あるんだよ。この時代の女の人にわた
しみたいな体格の人いないよ』

『それによ。それにさ。わたしの相手役になるW君はさ、身長16
0そこそこでしょ。そんなのゼッタイにおかしいって。つりあわな
いじゃない』

身長の差なんてどうにでもなるって。

『それにさ これって。わたしがやらなくちゃならないもんじゃな
いでしょ。だれでもいいんでしょ。だって読んだけどさ。ただ涙ぐ
めばいいんでしょ』

そりゃそうだけど。

『おかっぱにして、顔を汚して、それならさ、わたしであるヒツヨ
ウないわけでしょ』

そりゃそうだけど。

『ね?だったらさ。だったらほかにいくらでもいるって』

だって。きみはキスだってうまいし。

『ちょっと。あなたなに言ってるの????あたまどうかしてんじ
ゃないの?』

そりゃ確かに今度のやつとは無関係だけど。

『そんなことぜんぜん関係ないでしょ。ばっかみたい!!』

ああ、余計なこといって怒らせてしまった。

『だから。わたしは しないの。ほかの人のところへ話もっていっ
て。こんな話くるだけでも情けないと思っているんだから』


どうもすみません。

『それじゃ さよなら。こんなくだらない話を二度と持ってこない
でね
あたし忙しいんだから』


  ▼強気なんだからな▼

 といって強烈に断った彼女なのだが、なぜだか引き受けてくれた。
理由は分からない。理由なんてどうでもいい。引き受けたとなると、
こちらの天下だ。

『やっぱりやめる。できないもん』
『だってさ。演技ばかばかしいもん。台詞も難しいしさ。私のため
に台詞入れてくれたのはまあ、いいけどさ。これ難しくて読めない
よ。これ。振りがなふってよ』

『私ねボランティアなのよ。バイトすればバイト代出るのよ。旅行
だって行けるのよ。それをさ、こんなわけわかんないののためにさ。
お金ももらえないのにさ。髪まで切ってさ。買ったばっかのニット
の服だって似合わなくなったしさ』

言うんだよ。もいっぺん言えよ。

『強気じゃない。わたしがいないとできないんでしょ。』
『変な台本。みんなあきれてるわよ』

仕方ないので読む。いっぺんしか読まないぞ、展開を覚えておけ。
俺がWがやる上村大尉役だ。おまえ自分のところ読め。

『さいてー』


  ▼泣いて感動せよ▼

上村=全機青空セヨの命令が出ると駆け足で愛機のもとに行きます。
女子挺身隊員B=(上村をじっと見る)

上村=自分はいつ死んでも惜しい命ではありません
女子挺身隊員B=(うっすらと涙を浮かべて)セイクウってなんで
すの?

上村=失礼しました。セイクウとは、出撃のことであります。陸軍
飛行隊ではこう言うんであります。
女子挺身隊員B=まあ、どんな字を書くのですか?陸鷲の世界には
いろいろと難しい言葉がおありになるんですねえ。

上村=青空と書いてセイクウと読むのであります。

女子挺身隊員B役の女『これってさ、制するの制の字の間違いじゃ
ないの?』

いいや。素人は黙っておけばいいの。セイクウは青空なの。

『それにしても、ほんっっとにくだらないわね。これ』

大きなお世話だ。

結局、この演劇はさんざんな失敗に終わり、それっきり俺は舞台監
督のの道を諦め、もっか脚本書きに専念しているのである。あの時
の彼女は、ときおり、ボディコンを木綿の白いシャツに着替えても
らって、いったんひざまくらしてもらい、その姿勢のまま頭だけへ
びのように首をもたげて、彼女の胸に顔を埋めさてもらうとよい着
想が湧くのではないかと何度か実行したが、そのたびに彼女は『ヘ
ンタイなんだから。もー』と赤ちゃんをあやすノリで『イイコ、イ
イコ』してくれるので、そのつど眠りに入ってしまい、さっぱり脚
本が書けないのである。つくづく俺は不幸な人間だ。


 (お題『青空』←次回からもっともっともっともっともっともっ
と複雑怪奇なお題にしてほしい。シンプルだと想像力がないので妄
想に頼るしかないのです=以上完結)





#3124/3137 空中分解2
★タイトル (WJM     )  93/ 4/18  19: 2  (179)
透明な風            κει
★内容




                透き通った風になり
                世界中を旅しよう
                日本という
                あまりにも小国の中での事に
                少し疲れた時
                そして僕は元気になろう
                悲しくなろう
                一緒に涙しよう
                勇気づけられよう
                ともに喜ぼう
                流れている透明な風





空をみつめていると、そこに雲が遅々と流れてきて。
太陽は軽い綿に囲まれていて和やか。広いだけの公園にねころがってる。
右手を動かすと青々しい芝生がチクチク。頭と首もとも同じ。服も土で汚れてる。
でもそんなのはたまらなくちっぽけな事だよ。
広いだけの公園の真ん中でこうやって大の字になり永遠を見つめていたかった。
ずっとずっと。
ミクロの世界で酸素不足になり、サイズが合わない服を着せられ小さくなってたら本
当に小さくなりそうだった。ずっとずっと。
突如暴れだしたら絶対何かにぶつかるような心になってしまった事に対する悲しみ。
一番恐れたのはそれで僕がうずくまってしまう事だった。
日差しは春のフィルターをうけて柔らか。
気まぐれに動く雲が太陽の別れの挨拶にも応えず流れた。
気まぐれである喜びと平安は悲しみを覚えなければそれでよい。
風が少し離れたポプラの木をかすめた後、僕の頬にも吹いてきた。何度も何度も。
繰り返しの行為の中でも彼らは自由であった。僕の頬の後もどこか見知らぬところへ
ゆくんだ。

僕は右手をまっすぐに挙げて今吹いていった風に手紙をさしだした。
風は快くそれを受け取ってくれる。名前も知らぬ国の誰かに届けておくれ。
風と同じ波長を持った素材からなる手紙よどこか遠くへ。

横浜の男は酒の入ったコップを小さくなっている家族へ投げつけた。
壁にあたりガラスが飛び散る。
郷愁の中で生まれた鋭い音は目に涙を浮かばせた。
酒と女とにたんできした者の受ける報酬は完全なる崩壊。
僕の言葉は彼の耳に入ったのだろうか、それは誰にも分からない。次には長く張りつ
めた静寂が訪れる。

僕からのメッセージを受け取ったスンタルの少女はその時美味しいパンを焼いていた。
つまみ食いをした弟に褒められ彼女は嬉しそう。香ばしさを含んだ風。
僕は確かに少女の意識に入った。そして僅かにうなずいてくれた。

ロサンゼルスの少年は薄暗く散らかった部屋の中、注射器をふるえる手で見つめてい
た。針先から滴る液体が僅かに光る。うつろな目とドアのノブが壊れた心。
それは広大な草原にポツリと建てられたままの廃虚に酷似していた。
窓の隙間から風がはいる。しかし彼の目は恐ろしい形をした針から移すことが出来な
い。荒い息は狭すぎる空間から出れない。
現実から逃避していきついた場所だった。もうこれ以上場所はない、どうする事もで
きない、ただ生まれおちた日を複雑な想いで目をつむり想像するだけ。
悔恨が吹き荒れる中、注射針をからだに突き刺す。
風にポルノ雑誌のページがパラパラとめくられていた。

ローマの若い婦人は最近太り始めたからと食事の献立に頭を悩ましていた。
そのよこで夫が不満そうな顔をしている。
明日からしばらく肉はなし。それにボソリと不平を呟いたがため彼女に睨まれる。
その時風が流れ、テーブルの上の鉛筆をコロコロと転がした。
微風に二人は優しく目を細める。
にわかに赤子が隣の部屋で泣きだしたので彼らは我さきにと慌てて椅子をたち、愛す
る赤子のもとへかける。

リスボンでの少女は目をつむり彼からの口づけをまっている。
しっかりと組み合わされた両手から伝わる彼の温もり。
本当に愛されている事を知って沸き上がる大量の喜びで彼女はいっぱいになる。
華奢な体は不安と期待とで微かにふるえていた。
風が外見は静かに待っている彼女の前髪を持ち上げる。やがて彼の唇。

サハラの男性はただ一滴の水を求めていた。
埋もれゆく足に全てを恐れてジリジリと焼ける体に絶望していた。何のために歩くの
かさえもう分からぬ、ただ続く地平線の彼方。
道は無く今自分がどこにいるのかさえ分からぬ。ゆらゆらと揺らめく大地。右も左も
上も下も苦しみ。
こんぱいしきった精神。
空気が熱すぎて砂が熱すぎて体が熱すぎて喉が熱すぎて。
そして諦めるようにその場へ崩れた。焼けた砂が右頬にはりつく。
やけになり砂を口いっぱいに頬張った。そしてしばらくそれに苦しんだ。
希望はすでに枯渇しており、空にはただ灼熱の太陽があるだけ。焼けつきるのを覚悟
で太陽を見つめ続けた。放心は苦しみ。
そこで風は迷惑な砂嵐を運ぶ事しか出来なかった。しかし彼は僕の想いを受け取った
と思う。

モンロビアの少年は叫んでいた。
得体の知れぬ不安を消しさるべく険しい丘をかけながら。
破裂しそうになる心臓はかまわない。枝に足をつられて大きく転んだ。滲む血を右掌
でぬぐう。そこでまた大きく叫ぶ。
不安は成長してゆく自分にじゅうりんされているもう一人の自分と、捨てきれない夢
からでるものだった。叫びはあたりにこだましつづけている。

ヒューストンの青年は隣の彼女の肩を抱きたいと思いつつ勇気が出ずにためらってい
た。急に無口になった彼をみて彼女は首をかしげた。どうしたの?いやなんでもない。
ほんとお?茶目気をだして疑う彼女をみておもわず彼は大きな腕で彼女を抱きしめた。
一瞬驚いた彼女だがやがて目をつむり彼の胸に顔をもたせかけた。

アスシオンでは生命が世に誕生していた。母親の安らかな微笑みと力強い産声。
赤子の生命は輝ける希望と可能性をたずさえていた。
大事なことはそんなにない、ただ一つの生命が今この世におりた。風はその産声を母
親の耳に届けた。僕と一緒に。母親は静かに高揚していた。

どこか知らぬ寂しい路地に座っているのは男だった。何ももたない。
無気力な心は何も出来ない。雨がふっていてずぶ濡れだった。
彼はべつにそんな事はどうでもよかった。
泥が跳ねて彼の顔を汚す、傘をさした子どもたちが彼をみて罵っていたがそんな事も
どうでもよかった。
髭と髪が顔にへばりつく。ゴミ場の中で掴んだのはゴミだった。彼はそれをしばらく
は見つめたがやがて雨ふる空をみあげた。
どんよりとしたものだった。自己はとうに忘却されていた。

アンカラでは思いがけない誕生パーティーに一人の少女が恍惚とした表情を浮かべた
あと歓喜の声をあげた。クラッカーを存分に浴びて幸せを感じる。
微笑んでいる友人たちの手を飛び上がりながら握ってゆく。
にぎやかな部屋の中、潤んだ涙を風はやさしく包み込んだ。

同じようにオウルでも一人の女性の誕生日だった。彼からのプレゼントに彼女も歓喜
していた。
思わず彼に抱きつく。プレゼントは質素なものだった。ダイヤモンドの指輪ではなか
った、金のネックレスではなかった、決して彼女への貢ぎものではない彼の愛だった。
彼女があまりにもはしゃぐので彼も同じように喜ぶ。
お互いたまらなく幸せを感じとっていた。
幸せは相手からの純粋な愛以外のものを拒否する。

ネルチンスクの幼子は母親に抱かれて何の心配もなく母親のままに平安を感じていた。
夢うつつの状態で細くあけた目からは母親の微笑みが覗いている。
何もかも脆弱であるのに危惧を感じる必要がないという事の素晴らしさに気付くのは、
幼子がもっともっと成長した後。
母親が幼子のみずみずしい頬に何度もキスしはじめていた。
幼子はおもむろに瞳をとじてゆく。

僕と同じ心をみつけた。ブタペストの街で。
青すぎる空を仰いで白すぎる雲に想いをのせていた。
縛られていると感じた毎日の光はやはり太陽からの日差しであった。漠然とした夢が
あってその希望ゆえに苦しんでいた。
何の希望も持たずただ働いている人々のようになるべきなのか。
吟味すればするほどこたえはみえてくる。理想をすててしまい流れのままに揺られる
ならばきっと苦しむことはない。
捨てられない想いゆえ焦燥し涙するのだ。
ドナウ川へ向けて小さな石ころを精いっぱい投げつける。
もたれかけている大木の生命力と人々のざわめきの中の輝きをかいまみてもっと強く
生きようと心に唱えて胸を叩き続けていた。

風にのって帰ってきた返事を僕は両手いっぱいに抱え込み、そっと胸に押しやった。
音もなしにそれぞれが僕の胸に入りこみ、その中でまたそれぞれがそれぞれに歩みだ
した。そしてそのそれぞれの中にも僕が宿った。
きっと僕という存在を感じたはずだった、ほんの一瞬でも吹いた風に、ほんの一瞬で
も感じたささやきに。
彼らは遠い国にいる一人の僕をどのようにうつしたのだろう。眩しい光が僕の目には
いる。隣の学生鞄を手にすると僕は立ち上がった。とうに授業は始まっている。
もう昼になる頃だった。僕は土をはたく。
目をつむると全世界を旅したさわやかな微風が僕を包み込んだ。
僕は目をほそめ、もう一度両腕を精いっぱいひろげた。

















                                   Keiichiro☆彡

                                                        1993.04.09
                            1993.04.16



#3125/3137 空中分解2
★タイトル (AKM     )  93/ 4/19   0:43  ( 59)
●楽戦楽勝ごりら男●その18 サガットの使い手の巻 ワクロー3
★内容

 ◆楽戦楽勝ごりら男◆18 サガットの使い手

 それにしてもおかしい。平日の午後。夏休みでもなかったのに、
どうして小学生がゲームセンターにいたのか。こいつ。学校をさぼ
って、ここにいりびたってらがるのか。とんでもないやつがいたも
のである。しかし、まあ、それはそれとして。

 まずはお手並拝見。ラウンド1ファイトー。
 聞き慣れた機械の音声が再びゲームセンターにこだましました。
周囲の見物人はざっと5、6人に減っています。10人を抜かれた
今となっては、見ているだけでRの強さを認めることになるので、
実に不愉快だといわんばかりの仕打です。しょせん勝負なんてこん
なものなのです。

 勝てば勝ったで恨みを買う。誰も応援してくれもしない。孤独の
なかで闘う名誉こそ貴いのです。

 『ごりら男』は、間合いを測らず一気に飛び込みました。今度ば
かりは相手の出方を待っている暇はありません。なにしろ面接時間
が控えている。先制攻撃をかけて、蹂躙するつもりでしょう。『ご
りら男』の手慣れた飛び込みに続いて、知人Rは即座にパンチと蹴
り技を入れて、相手を圧倒するはずです。

 知人Rが、弱いやつを相手に繰り返し使っていた攻撃パターンを、
僕も見ているうちに覚えてしまいました。完璧な飛び込み、そして
息をつかせぬ追撃。とどめの電撃。画面を見なくとも、目に描ける
ほどです。

 しかし、ここで意外なことが起きました。『ごりら男』が飛び込
むのと一瞬遅れて、小学生操る『サガット』が登り蹴りの対空技で
迎え撃ったのです。これが決まりました。飛び込みを終えて着地態
勢にはいる『ごりら男』の顔面にもろに蹴りが入りました。

 『ごりら男』は、両目を飛び出して、ぐえ〜、という表情で情け
なく舌を出します。大技を受けて攻守が逆転しました。

 すかさず電気を出して感電攻撃で逃れようとした『ごりら男』。
けれどもこれもアッパーカットで返されてしまいます。返し技2発
の連続命中で窮地に立たされました。これはやばい。はた目にもは
っきりとわかります。

 油断したか知人R。こうなると反射神経に優れた疲れを知らない
小学生ゲーマーの天下です。ボタン連打の乱れ撃ち。なすすべもな
く一方的な小学生の勝利です。1ラウンド目完敗。知人Rは、刻刻
と迫り来る面接時間のプレッシャーに負けたわけでもないでしょう。
しかし、明らかに1ラウンド目を負けてしまったのです。

 『おお、小学生にやられた』

 数人残っていた、軟弱な見物人の一人が無遠慮に大きな声を出す
ものですから、再び人が集まってきました。まさかとは思うが、こ
いつが負けるかも知れないから見てやろうという、露骨な見物人根
性丸だしです。
 2ラウンド目が始まりましす。知人Rが、1ラウンド目とうって
変わって、対戦に真剣さを注入したのがよくわかりました。この相
手は、なめられん。気合いを入れて完璧をきさねば。決意がひしひ
しと伝わってきます。
     (以下次回)



#3126/3137 空中分解2
★タイトル (AKM     )  93/ 4/21   4: 6  ( 63)
●楽戦楽勝ごりら男●その19 知人Rの敗北の巻 ワクロー3
★内容

 ◆楽戦楽勝ごりら男◆19 知人Rの敗北

 2ラウンド目。知人Rは『ごりら男』に防御姿勢を取らせ、相手
の出方を見ます。1ラウンド目を完敗してしまったので相手の力量
がどの程度なのか測れませんでした。小学生ゲーマーは『サガット』
を前進。この間1秒もない間合い。知人Rは、飛び込み。緒戦の一
撃をものにしようとしました。

 小学生は『サガット』を手早く後退させて、登りげり。1ラウン
ド目開始のときと同じパターンです。着地する『ごりら男』の顔面
に蹴りがヒットします。ダメージ。

 さっきはここから電撃にいって返し技を食ったので今度はすばや
く引いて自重です。

 両者防御姿勢で動きが止まりました。この小学生。『サガット』
を操っての『ごりら男』の料理の仕方にかなり手慣れています。
『ごりら男』が飛び込んでくる間合いを承知していて、待ち受けて
いるようです。うかつには動けません。

 他の大技ではどうか。ポイントを先取されているので試すわけに
いきません。的確な返し技を受けると致命傷になってしまいます。
仕掛を誘う両者。相手に技をかけさせて返し技を狙おうという考え
で一致しているようでした。それにしても老練な小学生です。

 にらみあいの時間が過ぎました。このままでは、最初にポイント
を失っている知人Rの時間切れ判定負けになってしまいます。ゲー
ム機械の前に再び見物人が集まってきました。

 『ひょっとしたら。。』
 誰もが知人Rの敗北を期待しているようでした。面接の時間に迫
られ、同時にゲームのタイムオーバーに追い詰められた知人Rは、
ついに仕掛けました。ローリングアタック。 とみせかけての飛び
込みです。間合いを詰めての攻撃に反撃の活路を見いだそうと肉薄。
裏をかかれた小学生は、返し技を出し損なって後退。人間の心理と
して次は突撃したくなるところです。

 これを予測して『ごりら男』に電気びりびり防御をとって待ち受
ける知人R。

 完全な頭脳戦です。技量に差がないもの同士がはじめて行える高
度な予測戦術。正確なレバー操作での技の保持。隙あらば間違いな
く相手の死命を制するボタン操作。なんという素晴らしい試合なの
か。TVで全国中継してもいいぞー

 小学生は、知人Rの裏の裏をかきました。電撃にはまるとみせか
けて、大足払いで『ごりら男』の電撃を覆しました。転がされた
『ごりら男』に容赦なく襲いかかる小学生の集中攻撃。

 あっけない幕切れでした。10人抜きの勇者の最後が、こんな形
でやってこようとは。『ごりら男』は敗れました。

 小学生に再戦を挑む時間はありませんでした。面接までの時間が
無いので、まるで敗北を恥じるかのように、ものも言わずに、ゲー
ムセンターを出ていかねばならなかった知人R。

 次回は、その後の知人Rを追いながら、この物語の結末としたい
と思います。


         (以下次回)




#3127/3137 空中分解2
★タイトル (AKM     )  93/ 4/22   4: 7  ( 72)
●楽戦楽勝ごりら男●完結 老人ゲーマーの巻 ワクロー3
★内容

 ◆楽戦楽勝ごりら男◆20 老人ゲーマー

 キリストの生誕歴(つまり西暦)2035年12月1日土曜日。
80歳になった僕は、どでかいデパートが主催する『懐古骨董趣味
/電脳遊技展』の会場に陳列している展示品『ブロック崩し』の前
によぼついて立ち尽くしていました。

 こみ上げる懐かしさ。青春時代の興奮。展示品のケースによだれ
をだらだらだらだらしたたらせながら、

 『あふぁふぁ、こりは、こりはああーーー』歯が抜けてしまって
何を言っているのだかさっぱりわからぬ言葉で、じじいの僕は『ブ
ロック崩し』ゲーム機に頬ずりしている。

 コンパニオンのばあさんが、露骨にいやな顔をしながら『展示品
によだれをたらせては困るんだよ』と、冷たく言いはなつ中、懐か
しさを讃えた胸の興奮は治まらなかった。青春の日々、このゲーム
機と対して、1球全面クリアパーフェクトを立て続けに出していた、
反射神経と100円だまの日々。

 的確を誇ったパドル操作を誇っていた右腕もいまやぶるぶる震え、
目もしょぼついて、軽快に動く、玉の移動を示す輝点を追うのがや
っとです。コンパニオンのばあさんに執拗に懇願する僕。

 『なんだってー。これがやってみたいだってー。100円だまが
あるだって〜。じょうだんば、いっとかんねー。この機械は伝説的
電脳ゲームメーカー/タイトーが生み出した、電脳ゲームの始祖と
もいえるゲーム機の骨董品ばい!このくそじじい。あんたがさわれ
る機械じゃないんだよ』

 にべもなく追い払われるのでした。

 そのころ、同じデパートの子供向けのゲームセンターの一角に、
66歳になる知人Rが、今は誰も振り向かなくなってしまったぽん
こつゲーム機。『ストリートファイター2』の前にやってきました。

 若い頃の無理がたたったのか腕の震えが激しい知人R。それでも、
スト2の前に立つと、一瞬の気合いがよみがえるのか。100円だ
まを投入する。この機械の方もゲームコーナーの片隅で40年以上
にわたって息ながらえてきただけに老朽が目立ちます。

 最新鋭マシンが時折派手な電子音を出すたびに、電波干渉を受け
るのか、スト2の画面はよれよれによじれます。コントローラーは、
通算50万人近いゲーマーがいじり回してきたので、手ごたえがな
いほどふにょふにょです。ボタンは6つともカバーがとれていて、
連打すると指の皮につき刺さる。こんなことでは、電撃もローリン
グアタックも繰り出せないでしょう。

 『ありゃー』

 ふにょふにょのコントローラーで手元が狂ったのか、はたまた自
分の腕の震えから選び損なったか。知人Rは最弱の『バイソン』を
選んでしままいました。そうして機械が選択したのは、なんという
皮肉か。ごりら男=ブランカ。

 ラウンドーファイトー。。。。の合成音声も今では張りがありま
せん。
 66歳になった知人Rを空想するのは、このくらいでやめにして
おきましょう。20世紀日本が産んだせつな的な真剣勝負『ストリ
ートファイター』は電脳ゲームの傑作として歴史にのこるでしょう。

 しかし、このゲームを操った町のストリートファイターたちの名
前は残らないかも知れません。誰も記録しないヒーローたち。その
一人が知人Rだったというわけです。

 ちなみに知人Rは、11人抜きが挫折したがために面接に間に合
い、みごとその会社に就職を果たしたそうです。スト2の達人を社
員として迎えるその会社は、なんという幸運でありましょうか。

              (以上完結)




#3129/3137 空中分解2
★タイトル (UYD     )  93/ 4/23  12:15  ( 19)
タイガース日記  KEKE
★内容
 10試合ほどやって、阪神はまずまずの位置にいると思う。この
まま2勝1敗くらいのペースでいけばいいだろう。

 巨人はやっぱりという感じ。長嶋長嶋と騒ぎ過ぎて選手が萎縮し
ているようだ。昨日のプロ野球ニュースで豊田がそう言っていたが
、まさしくそのとおりだと思う。打席であれだけ力がはいっていて
は打てません。

 中日は意外なかんじ。デキが良すぎる。いずれ落ちてくると思う
。今が最高のデキで、これはいずれ裏目にでてくるだろう。まあ、
いいとこ4位というところじゃないの。

 広島はいい。このまま走ってしまうかもしれない。優勝の一番手
だな。

 ヤクルトもこのままとは考えられない。今にきっとでてくるだろ
う。

 横浜はこのままだな。最下位はまず確定だろう。



#3130/3137 空中分解2
★タイトル (UYD     )  93/ 4/23  21:57  (  4)
タイガース日記4/23  KEKE
★内容
一茂に打たれて敗けるとは。完全に安全パイと思っていたが。
まあいいだろう。年に一度の狂い咲き。長嶋親子もたまにはいい思いを
しなければ可哀相。だが年に一度だけだぞ、阪神投手陣。明日からはぴっちり
締めてやれ。



#3133/3137 空中分解2
★タイトル (KCF     )  93/ 4/24  10:39  (186)
掲示板(BBS)最高傑作集45
★内容

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
股間のなぞなぞ  [3/27]
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

○  缶を金槌で叩くと、どういう音がするでしょうか?

                                            答:「カーン!」

○  股間を金槌で叩くと、どういう音がするでしょうか?

                                            答:「コカーン!」
                                (「ボコ!  ウギャー!」は間違いです。)

納得のいかない方のためにもう一つ

○  プロレスラー、キラー・カーンの弟子で、股間が異常に発達した
  レスラーは誰?

                                            答:「キラー・コカーン」

○コメント
「股間を金槌で叩いたときの音として、
『ボコ!  ウギャー! ピーポーピーポー(救急車のサイレンの音)』というの
ではダメでしょうか?」というメールをいただきました。
「ウギャー!」から「ピーポーピーポー」までの時間が短すぎます。数行空けて
いたら部分点を与えたのに、残念です。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
スキー靴を履いての車の運転  [4/3]
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 先日、私は久しぶりに車でスキーに行ってきました。スキー場は、私が行く直
前に大雪が降ったらしく、雪がいっぱいあり、しかも快晴とあって、本当につい
ていました。しかも、宿泊していた旅館では女の子のグループと知り合いになり、
夜遅くまで一緒に酒を飲むこともできました。
「こんなラッキーなことばかり続いていいのかなあ」と思ったら、やっぱり最後
に嫌なことが起こりました。旅館を出発する寸前に、買ったばかりのナイキのシ
ューズを盗まれてしまったのです。そこで私はしかたなく、帰りはスキー靴をは
いて車を運転せざるを得ませんでした。

 最初のうちは問題なかったのですが、関越自動車道(高速道路)に入った途端、
なんとパトカーが私の車に近づいてきて、「前の車、路肩に寄りなさい。」とマ
イクで怒鳴り始めたのです。私は「やばい!」と思い、すぐに車を路肩に止めま
した。
 別にスピードを出しすぎていたわけではないので、「なぜなんだ?」と不思議
に思っていると、パトカーから20歳くらいの若い警官が降りてきて、私の車に
近づいてきました。私は、ドアウインドウを下げ、警官に尋ねました。
「私が何か悪いことしましたか?」
すると警官は、「不審な走り方をしていた。」と答えたのです。
 私はその答に全然納得がいかないので、頭にきて、「何なんだよ、その『不審
な走り方』って?」と文句を言ってやろうかと思いましたが、スキー靴を履いて
運転をしていたことがばれたらやばいので、車の外へ出ずに運転席から、
「申し訳ございません。これからは公明正大な走りを心がけます。」と言って素
直に頭を下げて謝りました。
 でも、これがよくなかったのです。私があまりに素直に謝ったため、その警官
は私が何かを隠していると感じたみたいなのです。そして、警官は私に、「車か
ら出ろ。」と命令してきました。
「寒いから嫌だ。」私はどうしてもスキー靴を見られたくないので反抗しました。
「怪しい。何か隠しているな。早く外に出ろ。」その警官はますます私を疑いま
した。
 私はハンドルにしがみついて抵抗しました。しかし、パトカーから45歳くら
いの中年の警官が応援に駆けつけ、私は2人の警官によって車の外へ引きずり出
されました。
 私はスキー靴を手で覆い隠しました。しかし、当たり前のことですが手よりも
スキー靴の方が大きいので隠しきれません。若い警官は、
「お前、何隠してるんだ。」と言いながら、私の手を払いのけました。
2人の警官は、私の足元をじろじろ見ながら言いました。
「スキーの帰りだな。」
「そうらしいですね。」
 私の車の屋根にはスキー板が積まれていました。スキー板はシートに包まれて
いたわけではなく、裸のまま車の上に載っていたのです。私の足元を見るまでも
なく、誰がどう考えたって私は「スキーの帰り」です。私がそのとき万が一「わ
らじ」を履いていたとしてもやっぱり私は「スキーの帰り」に決まっています。
この警官達はいったい何なんでしょうか。
 でも、スキー靴を履いて車を運転していたことについては何も言われなかった
ので、私は素直に、
「はい。おっしゃるとおり、私はスキーの帰りです。志賀高原から東京に帰ると
ころです。」と、とりあえず言っておきました。私は、「これで大丈夫かな。」
と思ったのですが、すぐに、中年の警官がまずいことを言い出しました。
「あれ? スキー靴履いて車を運転していいのかな?」
私は「やばい!」と思い、すぐに弁解しました。
「あれ! スキー靴履いて車を運転しちゃいけないんですか? 知らなかったな
ー。 どうもすみませんでした。」
こんな言い訳で許してくれるわかけがないのですが、2人の警官は私から離れ、
自分達だけで相談を始めました。
「先輩。私はスキー靴履いて運転しちゃいけないなんて聞いたことがありません
けど。」
「俺も聞いたことないけど、いけないんじゃないの。」
「でも先輩。交通法規にそんなこと書かれていませんよ。」
「こういうことは、交通法規ではなく、安全運転教本に書かれているんだ。」
「安全運転教本ならパトカーの中にあるから私が持ってきましょう。」
 若い警官はパトカーに行き、すぐに安全運転教本を持って戻ってきました。彼
は目次を見て、
「えーと、『車を運転するときの履き物に関する注意』、これですね。」と言っ
てページをぺらぺらめくり、やがて「履き物に関する注意」を読み始めました。
「えーと、『裸足で運転してはいけません。また、ハイヒール、サンダルなどの
脱げやすく不安定な靴を履いて車を運転してはいけません。』 先輩。スキー靴
はダメとは一言も書いてありませんよ。」
「そうだなあ。スキー靴は脱げにくく、安定性が抜群だからなあ。」
「やっぱりスキー靴はいいんですよ、先輩。」
 話し合いがまとまり、2人の警官は私の所へ戻ってきました。
「今日は大目に見ておくが、今度からは許さんぞ。」若い警官は私にこう言って
きました。
 私は何を大目に見てくれたのかよく分からなかったのですが、そのまま謝れば
警官達はすぐにどこかへ行ってくれそうだったので、
「わかりました。今後、このようなことが絶対ないよう注意いたします。」と頭
をかきながら警官達に言い、深々と頭を下げました。すると、警官達はパトカー
に戻り、猛スピードで走り去りました。

 私は納得のいかない警告に対する怒りと、スキー靴については問われなかった
という安堵のため、複雑な心境のまま車を走らせました。
 私は、次のインターチェンジで高速道路を降りました。まともな警官にスキー
靴を履いて運転しているところを見られたら、今度は絶対にまずいことになると
考え、靴を買うことにしたのです。しかし、高速道路を降りたところは超田舎で、
靴屋さんどころかコンビニすらほとんどありませんでした。結局、2時間ほど探
し、大きなスーパーマーケットでナイキの模造品である「ナイケ」のスポーツシ
ューズを2500円で買い、それを履いて東京に無事帰ってきました。

 みなさんもスキーに行って旅館で靴を盗まれた場合、いつ私と同じ運命になる
かわかりません。また、みなさんの場合は、スキー場で金を使いすぎ、新しい靴
を買うことができずに、結局はスキー靴を履いたまま自宅まで車を運転しなくて
はならないことになる可能性がないとは言えません。

 そこで、スキー靴を履いて車を運転する時の問題点を、私の経験に基づいて少
しばかし述べさせていただきます。

 スキー靴の第一の難点は、靴が馬鹿デカイことです。
とくに幅が大きいのが致命的です。履いている靴の幅が大きいため、ブレーキを
右足で踏むと、必ずアクセルかクラッチも同時に踏んでしまいます。従って、ス
ムーズな運転などできるわけがなく、警官に「不審な走り方をしている」と思わ
れてしまう可能性があります。

 第二の難点は、足首の曲げ伸ばしがまったくできないことです。
スキー靴を履いていると足首が常に曲がった状態ですので、ペダルをおもいっき
り踏むことができません。しかし、それでも急ブレーキをかけるときなど、ペダ
ルをおもいっきり踏まなくてはならないことが車の運転中は必ずあります。そこ
で、強引にペダルを踏んでしまうわけですが、その場合は必ずダッシュボードの
下に膝を激突させてしまいます。従って、自宅に着いたときは両足の膝の半月盤
がボロボロになっていることでしょう。

  第三の難点は、足の裏の感触がまったくないことです。
普通の靴を履いていれば「ペダルの踏みごたえ」があるのでスピードの微妙な調
節が可能です。しかし、スキー靴の場合は、靴底が分厚く、さらにバックルをき
つきつに締めているため足の感覚が麻痺して、ペダルを踏んでいるんだか踏んで
いないんだかまったくわかりません。従って、非常に危険です。

 第四の難点は、重いことです。
スピードを落とすためにアクセルからブレーキに右足を踏み換えるとき、靴が重
いと足が思うように上がらないため、ブレーキペダルを右側からスキー靴で蹴飛
ばしてしまいます。そうするとブレーキペダルを根元から折ってしまう可能性が
あります。しかし、履いているのがスキー靴なため、右足を怪我することはあり
ません。

 第五の難点は、足はスキー靴を履いているのに、手は何も付けていないという
のは不公平に思えることです。
そこで、手にスキー手袋をはめてハンドルを握ることになります。車内は暖房が
入っているので、運転中、ハンドルではなく車のラジエーターを握っているので
はないかと勘違いしてしまうほど手が熱いはずです。
 やがて、スキー手袋から汗が湧き出てきます。その汗は上腕を伝わり、肘から
下にポタポタ落ちます。手はハンドルを握っているわけですから、肘から落ちた
汗は下にあるズボンに吸収されます。すぐにズボンは手から流れ出た汗でびちょ
びちょになり、今度は足を伝わってスキー靴の中に染み込みます。この時の足は、
地表を突き破ってマグマに直接足を接触させているんじゃないかと思うほど熱い
はずです。
 車に同乗している友人達は、あなただけにそんな苦痛を味あわせるのは酷だと
同情してくれるので、みんなも車の中ではスキー靴を履き、スキー手袋をはめ、
汗だくになります。したがって帰りの車中は、サウナの中で焚火をしているとき
に、何を思ったのか、焚火の上から灯油をぶっかけてしまったという、そんな熱
さになるでしょう。

○コメント
文章の中で、車のルーフにスキー板を積んでいれば、足は何を履いていてもスキ
ーに行く途中、あるいはスキーの帰りになるというようなことを書いてしまいま
したが、これは間違いでした。車にスキー板を載せていても、足にスキューバダ
イビングの「足ひれ」を履いて車を運転していた場合は、必ずしもスキーに行く
途中、あるいはスキーの帰りとは限りません。ただし、この状態で警官に見つか
った場合は、挙動不審と見られ、警察に連行される可能性がありますので注意し
て下さい。


これで終わりです。掲示板(BBS)最高傑作集46をお楽しみに。

                                                          フヒハ




#3135/3137 空中分解2
★タイトル (TEM     )  93/ 4/24  19: 7  (121)
当世源氏(6)        うちだ
★内容

〜いいひとでいてね〜

ある夜突然、浅雄が女の子を連れて僕のアパートにやってきた。
「タミオ〜。金貸してくれー。あとで絶対返すから」と浅雄。
「イキナリなんだよ、それは」
さすがに温和な僕も突然寝入りばなを起こされて“金を貸せ”と来られたら、
そりゃ気分よくない。それでも一応二人を中に通してインスタントコーヒーを
入れて出した。浅雄は数カ月前にバイト先で知り合った大学生だ。女の子のほ
うは僕の初めてみる顔だった。入ってくるなりずっと下をむいたまま黙って座っ
ている。髪の長い子供っぽい輪郭の娘だった。下を向いたままだから顔ははっ
きりと分からない。浅雄が喋りはじめた。
「この娘、俺の友達でさ、ちょっと事情があって今日帰れないんだ。俺んち泊
めるわけにはいかんし、なんとかしてあげたいんだ」
浅雄って人が元気がないというとわざわざ来てくれてるような、ほーんと気の
良い奴なんだけどね、寝起きで機嫌が悪い僕は少しだけイジワルを言ってみた
くなる。「じゃ僕のアパートに泊めてけば?」
「・・・タミオ。お前は悪い奴じゃないけどこと女に関しては、どーーも信用
おけないんだよな。この娘、美也子ちゃんてゆうんだけど、この娘はそういう
フシダラな娘じゃないんだよ」浅雄は鬼のような形相で僕にくいさがってくる。
顔には人格がにじみでるとかいうけどあれは嘘だ。浅雄なんて世話好きですご
くいい奴なんだけどふだんも凄く恐ろしい顔をしている。まさに鬼瓦。
「フシダラねえ」僕は苦笑する。「そんなことはどーでもいいけどさ。お金も
貸すのはいいよ。でもせめて訳を教えてくれない?」
美也子ちゃんはうつむいたままだ。浅雄は少し躊躇したけどもそもそと話はじ
めた。「タミオさあ、透って知ってるよな?」
「えーと・・・前に浅雄のこと迎えにきた、なんか奇麗な顔した奴、だろ?」
浅雄はこくりとうなずいた。彼がまだバイトをしていたころ、店をひいた後か
らスキーへ行くとかで何度か車まで店に彼を迎えに来た同じサークルの男の一
人が透だ(そのサークルは夏・サーフィンとダイビング、冬・スキーというお
気楽なものらしい)。僕も少し話したことがある。透には“伝説”が数多く残
されていると浅雄は笑って僕に教えてくれた。透は口説かなくても女の子が落
ちるとか、高校の頃は土曜の放課後の学校の正門に彼を迎えに来る車の女がは
ちあわせて取っ組み合いの喧嘩が始まっただの。彼には双子の姉がいて、やっ
ぱりモテるんだけど、これも人を人とも思わない女らしいとか。ま、それはお
いといて。
「あいつ・・・透さぁ二万円で美也子ちゃんのこと売ったんだよ」
「売ったぁ〜??」
思わずすっとんきょうな声を出す僕。ううっと浅雄のとなりで、かの美也子ちゃ
んが泣き出した。浅雄は“もっと気を使ってくれよう”ってな感じの視線を僕
に送る。浅雄は壊れ物に触るみたいに彼女の肩に手をかけたて彼女をなぐさめ
はじめた。浅雄の話によると美也子ちゃんは前からイイナアと思っていた透か
らデートに誘われて有頂天になって出掛けていったそうだ。帰る段になって透
が無理やりラブホテルに引っ張り込んだという。
「でな、それだけでもヒデーんだけど“俺のこと好きならなんでも言うこと聞
くだろ”とかゆってそのホテルの部屋に別の男が待たせてあるんだぜ。美也子
ちゃん、びっくりして逃げてきて、さっき俺のところに連絡くれたんだ」
「????」僕は首を傾げた。浅雄が言葉を続ける。
「いや、その男ってのは同じサークルの杉本って奴で、後で本人から聞いたん
だけど透が“女連れてくるから”っ言うから金を渡してホテルで待ってたらし
い。まさか顔見知りの美也子ちゃんが来るなんて夢にも思ってなかったって言っ
てた」
「なんだそりゃ」
あんまりといえばあんまりな・・・それって単に馬鹿にされてるってことじゃ
ないだろうか、美也子ちゃん(杉本って奴もね)。遊んでポイの比じゃないと
思う、なんて本人目の前にしてさすがに言えなかったけど。僕は思わず頭をか
かえた。人を人とも思わない透。それでも彼のことを追い回す女の子が絶えな
いというのはひとえにそのルックスによるものだろう。僕はいつか見た彼のこ
とを思い出していた。身長180センチのスラリとした体型。そつのない喋り
方。切れ長の澄んだ眼。あっさりした顔つき。天使みたいに罪のない爽やかな
笑顔。その下にそんな悪魔のような心があるなんて想像できる女の子がいるだ
ろうか。で、その夜は結局、僕は浅雄にお金を貸した。一人暮らしの僕が一万
円の出費は痛いけど、浅雄は金のことはきっちりしてくれる奴だし。それに彼
が美也子ちゃんのことを好きだというのがはたから見ている僕にもはっきり分
かったからね。浅雄は僕に何度も礼を言って美也子ちゃんを送っていった。浅
雄はきっと、ただただちゃーんと美也子ちゃんを送って、まじめに帰っていく
んだよな。まあそこがあいつのイイトコなんだけど。

二、三日後に浅雄はお金を返しに僕のバイト先のコンビニエンスストアまで来
てくれた。それからあの日以来、美也子ちゃんと結構喋れるようになったと喜
々として話して帰っていった。

いつものようにバイトで入ってて、レジを打ったり商品を並べた
りしていた。でも新しく出来たピザ屋のバイトの時給がイイもんだから、コン
ビニエンスでのバイトはその日が最後だった。夕方、黒いワンピースの若い女
がヨーグルトを買った。
「一〇三円のお買い上げになります・・・袋はいいですか?」
「あの・・・タミオくん・・・でしょ」
と言われて僕は目を上げた。いつかの夜、浅雄が連れてきた女の子だった。長
い髪をポニーテールにして片えくぼで笑っている。こうして見るとちょっと可
愛かった。
「あ・・・えーっと、確か浅雄の友達の・・・」
「美也子よ」
美也子ちゃんはニコリと笑って言った。それから一〇三円きっかりでお金をく
れた。「倉田クンからここだって聞いたから、一言お礼が言いたくて・・・」
倉田クンというのは、浅雄のことだ。
「そーか・・・美也子ちゃんはもう大丈夫?」
「うん、もう元気。この間はゴメンナサイね」
「はは、お礼なら俺よりも浅雄に言ってよ。すっごく心配してたからさ、あい
つ」
うふふと美也子ちゃんは困ったように笑った。「そのことなんだけど・・・私、
すっごく感謝はしてるのよ? 倉田クンていい人なんだけど・・・」
僕はレジの手を止める。「だけど?」
「・・・何か最近、映画とかいろいろ誘ってくれて・・・倉田クンはいい人な
んだけど、付き合うとかそう風には、私考えられなくて」
「ふーーーん。なるほどね。じゃ美也子ちゃんはどんな奴がいいの?」
「えー・・そうねー」美也子ちゃんはいたずらっぽく笑った。「そうねえ・・・
タミオくんとか結構タイプ・・・なんてね」そう言うと僕の目をのぞきこんだ。
「そぉう?」僕は笑ってヨーグルトのパックを手渡した。「じゃあさあ、今度
どっか遊びに行かない?」
「行く行く!」それから美也子ちゃんは電話番号をメモして僕の手に握らせて
帰っていった。次の日、浅雄が日本酒の一升瓶を片手に僕の部屋にやって来た。
僕と浅雄は黙って飲んだ。浅雄はしたたか飲んで帰り際、“美也子ちゃんにハッ
キリ振られた”と言った。僕は黙って聞いていた。浅雄はいいやつ。だけどそ
れだけじゃきっと駄目なんだ。美也子ちゃんはこのあいだの浅雄の話じゃ“透
に無理やりホテルへ引っ張り込まれて云々”ってことだったけど、ホントのと
ころ“透なら一回でもイイから”ってその気でついて行ったんじゃないかな、
なんて僕は思う。なんとなくだけどね。僕はジーンズのポケットに入れたまま
になっていた電話番号のメモのことを思った。女の子って残酷だ。透ってやつ
はほんとにヤナ奴なんだろうけど、そんな“残酷”な部分をいやってほど知っ
てるんじゃないかと思った。そんなことは知らなければ知らないままのほうが
いいのに。

で、唐突なんだけど美也子ちゃんの話はこれでおしまい。例のコンビニのバイ
トはあの日が最後だったし、電話番号のメモはジーンズのポケットに入れたの
を忘れて洗濯しちゃったから彼女とはそれっきり会っていない。浅雄は相変わ
らず、ときどきふらりと僕のアパートに来たりしている。今、彼は一生懸命別
の女の子にアタックしてるらしい。(報われるといいんだけどね)
浅雄は美也子ちゃんが僕のバイト先に来たことは知らない。永遠に知らなくて
いいと思う。
                             おわり



#3137/3137 空中分解2
★タイトル (KCF     )  93/ 5/ 8  16:16  (170)
掲示板(BBS)最高傑作集46
★内容

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
非常コックに注意!  [4/10]
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 バスによく乗る方はご存じと思いますが、バスの後方には必ず「非常出口」が
あります。この出口は運転席から自動的に開けることはできず、非常出口のすぐ
そばにある「非常コック」をひねらなければ開きません。実際にこの非常コック
をひねって非常ドアを開けたことのある人は少ないと思いますが、緊急の際、す
ぐにバスの外に脱出しなければならないときに必要不可欠なものですので、その
使い方は必ず覚えておかなければなりません。

 私の友人にオーストラリア人の女性がいますが、彼女が先日、「非常コック」
に関する話をしてくれました。
 彼女は千葉県でアシスタント・ティーチャー(日本の公立中・高校で英語を教
えるネイティブの外国人)をしています。その彼女が先日、福島県で同じ仕事を
している女友達(この人もオーストラリア人)と2人で猪苗代湖を旅行したそう
です。
 湖に行くため、彼女達は駅からバスに乗りました。2人ともオーストラリアの
大学で4年間日本語を学んだので、かなり日本語が流暢です。ですから、運転手
が福島なまりの強い日本語を話しても問題なく湖行きのバスに乗り込むことがで
きたそうです。
 バスには乗客は誰も乗っていませんでした。そこで2人はガラガラのバスの後
部座席に座りました。やがて彼女達は、座席の横の壁に、「非常コック」と赤い
太文字で書かれていたのに気付き、2人で顔を合わせて大爆笑したというのです。

  彼女は私にこの話をした途端、笑い出しました。私は、何がおかしいのかさっ
ぱりわからなかったので、彼女にどうしておかしいのか尋ねてみたのです。

 彼女が言うには、英語では「コック(cock)」はもっぱら「男性器」を意
味するというのです。だから「非常コック」に笑いころげたと言うのです。

  でも、これが大爆笑するほどおかしい話でしょうか。私は彼女からなぜおかし
いか説明してもらっても全然笑いませんでした。

 彼女があれだけ笑うには、バスの中で「非常コック」の赤い太文字を2人が見
つけた後に何かあったに違いません。そこで私は猪苗代湖行きのバスの中で何が
起こったか想像してみました。


 「非常」という日本語の単語は初歩的な語句なので、彼女達はすぐ「emer
gency(非常用の、緊急の)」と理解できたはずです。しかし、次の「コッ
ク」はわからなかったのではないでしょうか。私も国語辞書を引いてわかったの
ですが、日本語の「コック」は「横にねじったりして開閉する栓」を意味するの
です。この外来語の意味を正確に言える人は日本人でも少ないのではないでしょ
うか。したがって、日本語が相当できる彼女達でもその本当の意味を知っていた
とは思えません。しかし、「コック」がカタカナであったため彼女達はそれが外
来語であるということはわかったはずです。だから当然、彼女達は日本語の「コ
ック」が英語の「cock(男性器)」と同じものだと思ったに違いありません。
 つまり、バスの中で彼女達が「非常コック」の文字を見つけた時、彼女達の頭
ではすぐに、「emergency cock(非常用男性器)」と翻訳された
はずです。
 そうなれば彼女達は必死になって「非常コック」を探し始めたに違いありませ
ん。しかし、「横にねじったりして開閉する栓」はあったけど、「非常コック」
は結局見つかりませんでした。そこで「変だ!」と感じた2人はバスの運転手の
所へ行き、「非常コックがありません。」と言いました。
バスの運転手は、
「え! そんなはずはないよ。」と驚き、後部座席にやって来ました。そして彼
は、座席の横にある日本語の「非常コック」を指さし、
「そこにあるじゃないですか。びっくりさせないでくださいよ。」
と彼女達に言いました。
彼女達は、
「え? これが『非常コック』ですか?」
と言って驚きました。でも彼女達は日本人と外人の間に解釈の違いがあることが
分かったのですぐに納得しました。そして彼女達は、「コック」の英語本来の意
味を運転手にゼスチャーを交えながら懇切丁寧に説明してあげました。
 バスの運転手は、昔の日本人が英語の「cock」を誤解して日本語に取り入
れてしまったことを悟りました。そして彼は、日本では「コック」は「横にねじ
ったりして開閉する栓」を意味することを彼女達に教えてあげました。
また彼は、それだけではなんなので、
「このバスには英語の『非常コック』もあります。」
と訳のわからないことを言いながら自分のズボンのチャックを下げたのです。
 彼女達は、日本では「コック」というのは「横にねじったりして開閉する栓」
であることをすでに十分承知していたので、2人して彼のチャックから出ている
「栓」を横にねじったりしました。
 やがてバスの運転手は救急車で猪苗代救急病院に運ばれました。

  おそらくこのようなことが起こったのではないでしょうか。でなければ彼女が
あれほど笑うはずはありません。

○コメント
その後、そのオーストラリアの女性に「実際はこうだったんだろ?」と問い詰め
たところ、彼女は
「運転手のチャックから出ていた『栓』をねじった角度は32度くらいだったの
で、救急車で病院に担ぎ込まれるほどのことはなかった。」と白状しました。
私の推理は間違っていました。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
スキーで一番楽しいこと  [4/10]
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 みなさんはスキーに行って何が一番楽しいですか?

 もちろん、わざわざお金と時間をかけて遠くの山にスキーに行くわけですから、
「スキーをすること。」
が一番楽しいという人が多いと思います。もうちょっとしゃれた人なら、
「白銀の斜面にシュプールを描くこと。」などと文学的な表現を使い、
「私はスキーがうまいんだぞ!」という自慢を言外に匂わせるのではないでしょ
うか。

 また最近は、スキーがさほど好きでないのにスキーに行く人がけっこうたくさ
んいます。こういう人は、スキーで一番楽しいことに、
「一日中滑った後に旅館に戻ってから入る温泉」を挙げるかもしれません。ある
いは、
「アフタースキーのディスコでのナンパ」などという、何のためにわざわざ金を
かけて山奥まで来たのか首をひねってしまうような人もいることでしょう。

 いずれにしろ、「スキーで一番楽しいこと」は人によってさまざまのようです。
 しかし実際には、上に述べたようなことが「スキーで一番楽しいこと」ではあ
りません。上記のように答えた人々はスキーの本当の喜びを隠しています。その
真の喜びとは、スキーをした人なら誰でも間違いなく体験しているものなのです。
その喜びの瞬間には、人々はみんな笑顔を浮かべ、あまりの快感に「あーん!」
というため息すら漏らしてしまう人も非常に多いのです。

 さて、その喜び・快感とは何でしょうか?
 記憶力のいい人はもう思い出したと思いますが、頭の悪い人のためにここで述
べておきます。

 それは「スキーを終えて、スキー靴を脱ぐことです。」

 スキーをするときは普通、カチカチに固いスキー靴を履き、バックルをキツキ
ツに締めて滑ります。ですから、どんなにスキーがうまい人でもしばらく滑ると
足がガンガン痛み出します。こんなの楽しいわけがありません。これはむしろ拷
問です。
 やがて、夕方になりリフトが止まります。そこでみなさん旅館に戻り、乾燥室
でスキー靴を脱ぐのですが、その瞬間、すなわち拷問から解放された瞬間、極上
の快感が全身を駆け巡ります。この快感が得られるからこそ、みなさん交通渋滞
や満員電車に凝りることなく何度もスキーに行くのです。

 でも、この快感を味わうために時間をかけ、大金を払ってわざわざスキー場ま
で行く必要があるのでしょうか?
 よく考えると、こんな快感は自宅でも味わうことができそうなものです。しか
し、そこはやはり、他人の目を気にしすぎる日本人。自宅でスキー靴を脱いで快
感に浸っているところを近所の人に見つかりでもしたら、自慰をしているところ
を家族に見られたくらいに恥ずかしい思いをしてしまうのです。そんなわけだか
ら日本人は、お金と時間をかけてわざわざスキー場に行き、スキー靴を脱ぐ快感
をエンジョイするのです。

 それに比べ、外人は割り切っています。ヨーロッパ、とりわけスキー発祥の地
であるノルウェーの人々は日本人のように他人の目など気にしません。といって、
ノルウェー人は家族の目の前で堂々と自慰をしているとは言っていませんので早
合点しないでください。
 ノルウェー人はスキー靴を脱ぐ快感を味わうためにスキー場などには行きませ
ん。彼らはまず、スポーツ店に行き、スキー靴を買います。その時、店員には、
「スキー靴を脱いだときに一番快感のある靴をください。」ときっぱり言います。
そして、自分の足のサイズよりもはるかに小さなスキー靴を購入し店を出ます。
彼らはスキー板やストック、スキーウェアなどは一切買いません。家に着いたら
先ほど買ったどう見ても足が入らなそうな小さなスキー靴に自分の足を強引に押
し込み、バックルをキツキツに締め、さらに靴の周りに針金をグルグル巻いて外
へ出ます。後はもう、ぶっ倒れるまで町内を駆け巡り、足がうっ血し、足の感覚
が完全に麻痺したところで家に帰り、スキー靴を脱ぎ、「スキーの最高の喜び」
を味わうのです。この時彼らは近所を気にせず大声で、「ウォー!」という快感
の雄叫びを上げるのです。
 前回のアルベールビルオリンピックでノルウェーが大活躍したのはみなさんご
存知の通りです。5年後の長野オリンピックで多くのメダル獲得をめざす日本人
にとって、ノルウェー人から見習うことは非常にたくさんあるのではないでしょ
うか。

○コメント
メキシコオリンピックだと思いますが、マラソンで、エチオビアのアベベが裸足
で走って優勝し、全世界の人々を驚嘆させました。でも、今後誰かがスキー靴を
履いてオリンピックのマラソンに優勝したら、アベベのこの偉業も一瞬にしてぶ
っ飛んでしまうことでしょう。


これで終わりです。掲示板(BBS)最高傑作集47をお楽しみに。

                                                          フヒハ




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