AWC ●連載



#1125/1125 ●連載    *** コメント #1124 ***
★タイトル (AZA     )  19/04/16  01:53  (212)
白の奇跡、黒の変事 三   永山
★内容

注意!
『不具合が起きたのか、UPの途中で切れてしまったようです。一部重複を含め、続き
を上げておきます』

             *           *

 完結したかに見えたホワイトデーの出来事に、真の意味での終わりをもたらそう。
 学内探偵は、喉に刺さった魚の小骨を抜きに動いた。小骨ではなく、大きな骨と呼ぶ
べきかもしれない異物を。

「思い返してみれば、この事件の学校から外部、要はネットへの情報漏洩は極めて少な
かった。特に初期段階での噂レベルのやつはね」
 探偵は言った。
「それは十四日の朝休みから一時間目の時点で、ほぼ何も分かっていなかったからじゃ
ないかと思う。警察の到着を目撃した生徒が発生源になって、学校内で何事かの異常事
態が起きた、くらいのことは広がり得るが、誰かが死んだとかいう話になると難しい。
にもかかわらず、君は当日の朝、クラスメートの一人に桜井茂の死を噂として伝えたみ
たいだ」
「別にどうってことない。俺も噂を聞いて、広めただけさ。最初に言い出した奴の勘
が、たまたま当たったのかもな」
「ふむ。ところで、十四日の朝は、やけに早く学校に着いたみたいだね」
「そうだったかな」
「普段、たいていは男友達と一緒に通学していると聞いたよ?」
「目が早く覚めてしまって一緒にならないことも、たまにはある」
「だけどちょっと早すぎやしないかい? 十四日朝、学校周辺の防犯カメラ映像をくま
なく見ても、制服姿の君は見付からなかった。時間が早かったんじゃなくて、スピード
が速くてカメラにも映らなかったのかな」
「……」
「まさかとは思ったが念のため、前日夜の映像を調べた。すると、午後八時四十ないし
四十五分に掛けて、黒いコートを纏って黒い帽子を目深に被った人物が、君の家と学校
とを結ぶ道の二箇所で映っていた。一つは飲料用自販機で何かを買うところで、もう一
つは雪の降る中、猫背気味に急ぐところ。慎重にルートを選んでも今のご時世、それな
りに都会だと防犯カメラに全く映らずにいるのは難しい」
「そのコートと帽子の人物が俺?」
「コートなんかは今まさに君が着ている物とそっくりだが、確証はない。まあ、歩き方
で個人特定をするソフトが存在するから、そいつに掛ければ、あるいは人物の同定は可
能かもしれないね。証拠として認められるかは別として」
「黒尽くめの人物が、学校に入ったかどうかも分からないんじゃないのか」
「僕は黒尽くめとは一言も口にしてないが、まあいいさ。そう、君の言う通り、学校を
出入りするところは目撃されていないし、防犯カメラもプライバシーへの配慮からか、
出入りを見張るような位置にはない。タイミングから言って、そいつの学校到着は午後
八時五十分前後だろうな。雪はまだ降っていた頃だし、門の辺りに積もった分は、ちょ
うど出て行った西谷先生の車のタイヤ跡で多少乱れていたろうから、躊躇なく足跡を残
せる。門を開けて通るには何の問題もない。あるいは、先生が帰るのよりも先に、そい
つが学校に着く場合もあり得る。先生がいつ出て来るのか分からないから、運悪く鉢合
わせすることのないよう、門を避けて裏手の塀を乗り越えたかもしれない。
 問題があるとしたら、いかにして校舎内に入るかだ。計画的な行動なら、前もってど
こか目立たない窓を開けておくか、鍵を複製しておくかするのも手だけど、この事件は
突発的のようだからね。さて、この問題、少し見方を変えると、簡単になる。中にいる
人物に開けてもらえばいい。夜九時になろうかという学校に、誰が残っていたかって?
 桜井茂がいる。外から彼に頼んで、玄関を開けてもらったんだ」
「桜井は頭に顕微鏡を落とされて、意識を失っていたんじゃあ?」
「前に披露した僕の仮説ではそうだったけど、絶対とは言い切れない。西谷先生の見回
りを、桜井本人の意思で身を隠すことにより逃れた可能性もあるにはある」
「中にいる桜井に、どうやって伝える? 桜井の携帯端末に記録が残ってかまわないの
か?」
「いや、記録は残したくなかったはずだし、事実残っていなかった。ややこしく考える
必要はない。第二理科準備室は一階にある。窓をこんこんと叩けば、最初は驚かれるか
もしれないが、開けてくれるだろう」
「謎の人物と桜井はかなり親しかったことになるな。夜の学校で、そんな風にやり取り
したとするなら」
「ああ。そして君も桜井とは同じクラスで、一緒に遊ぶくらいには親しいんだろ。充分
じゃないか」
「俺なんて薄い付き合いだ」
「主観の問題だね。とりあえず、謎の人物は桜井のフォローによって、校舎内に入れた
とする。どんな会話を交わしたのかは想像するのも難しいが、田町さんか児島さん、渡
部さんの誰かから聞いたことにして、様子を見に来たとでも言ったのかな。温かい飲み
物を自販機で買ったようだし、家から調理パンや使い捨てカイロを持って来たかもしれ
ない。ともかく、表面上は穏やかだったはずだ。何せ、死亡推定時刻まで少なくとも三
十分ある。ところでここで一つ、浮かんで当然の疑問がある。謎の人物は桜井が夜の学
校にいることをどうやって知ったのか? それを君が言い出さなかったのはやや不思議
であるし、当事者だから自明で、疑問に感じなかったのかもしれない」
「――過大評価だな。単に思い付かなかっただけ」
「桜井が学校に残る原因となった女子三人の誰かから聞いたのか? 否。聞いたとした
って、桜井がずっと学校にいるとは考えまい。桜井自身が知らせることもあり得ない。
端末の記録があるからね。ではどうやって? 恐らく、盗聴だ。市販の盗聴器を使った
か、お手製か、それとも携帯電話を利した極シンプルな仕組みか。多分、謎の人物は自
宅で盗聴しただろうから、距離から言って盗聴器よりも携帯電話の利用がありそうだ。
二台購入して、家族間通話無料のプランでも使えば、つなぎっぱなしにしても料金を抑
えられるだろう」
「バッテリーが保たない」
「いや、充電器を通じてコンセントに差しておけば、ずっと保つ。詳しくないが、今の
バッテリーは、電源に差したままでも簡単には壊れないとも聞く」
「危険だ。簡単には壊れなくても、劣化は加速する。それ以上に発熱異常を起こす。温
度が上がると機能しなくなったり、最悪、火事の恐れもある」
「なるほど。でも――機械いじりが趣味で、得意な君には対策可能じゃないのかな。え
っと、調べたばかりで実際には試せていないが、ダミーのバッテリーをかませて、誤認
識させるとか何とか」
「……試すときは、もっとちゃんと調べた方がいい。まあ、やり方があるのは事実だ。
学内探偵というのは人が悪いな。何も知らない素振りで、鎌を掛けてくる」
「“学内”を外してくれていいよ。さあて、そういった盗聴器を仕掛ける機会は、いく
らでもあるだろう。目に付かない場所にコンセントがあればね。で、第二理科準備室内
の動向を把握した謎の人物は、あるとき桜井に対して殺意を抱いた」
「ちょっと待った。謎の人物は盗聴内容をいつ聞いた? 午後五時の田町さんら女子三
人が桜井に詰め寄ったときなら、俺は当てはまらないぜ。友達と一緒にいたからな」
「リアルタイムで聞く必要はない。多分、自宅で延々と録音できるシステムになってる
んじゃないかな。帰宅後、それを1.5倍速ぐらいでチェックするか、適当な時間帯に
当たりを付けて聞けば済む」
「……」
「いいかな? 十三日の何がきっかけになったのか。今、君が言ったくだりだとは思う
が具体的な動機となると分からない。想像を逞しくするに、桜井はやはり大森さんと密
かに付き合っていたのかな。だとしたら、あの日彼は大きな嘘を吐いたことになる」
「知らんよ。そちらの情報網に引っ掛からないことがあると認めるのか?」
「もちろんある。スパイ組織じゃないんだ。それまでの人間関係に重点を置いた口コミ
レベルがメインで――ま、そんな説明はいいか。とにかく、義憤に駆られたか、三人の
女子の誰かが好きなのか、謎の人物は桜井に対して制裁を加えねばと考えた。盗聴音を
チェックすると、桜井はまだ学校にいて、しかも怪我のせいで本調子からは程遠い。絶
好のチャンスだ。謎の人物は夕食後、家族には勉強があるから邪魔しないでとか言って
人払いしてから、密かに抜け出し学校に急行。先程述べたやり方で校舎に入った。食べ
物で油断させた相手の隙を見て、再び顕微鏡で殴打したのか、机の縁に叩き付ける。す
でに結構な重傷だった桜井は、呆気なく動かなくなったと思う。目的を果たした謎の人
物、犯人は急いで帰ろうとしただろう。しかし、やらねばならないことに気付いた。ま
ず、盗聴に用いた携帯端末の回収だ。これは簡単だったろう。次に考えたのは、このま
ま遺体を放置すると、田町さん達三人が疑われるか、少なくとも彼女達にプレッシャー
を与えることになるという事実。撲殺とは違うやり方で殺すべきだったと後悔したかも
しれないが、ときすでに遅し。今さら刃物傷を付けるか、紐で首を絞めた痕を残すかし
ようにも、道具がない。いっそ、顕微鏡で滅多打ちにしてやろうかとも考えたかな。そ
うこうする内に、犯人は異変に気付いた。家から持ってきた物の内、消えた物がある
と」
「学内探偵ってのは、『講釈師、見てきたような嘘を吐き』の口だな」
「かもしれない。まあ、今まで聞いてくれたなら、最後までお付き合い願うよ。桜井は
死の間際に、最後の力を振り絞ったのさ。犯人が持って来た、犯人の指紋が付いている
であろう品を身体のどこかに隠したんだ。最初、犯人はその意図にも気付かず、ただた
だ探したかもしれない。部屋の電灯をつける訳にもいかなかったろうから、明かりは自
らの端末のバックライト頼みで、探すのはひどく手間が掛かっただろうしね。かなり時
間が経過して、桜井が隠した可能性にやっと思い至る。が、その頃には死後硬直がぼち
ぼち進んでいたんじゃないか。犯人は死体のあちこちを調べて、桜井の口の中に何かあ
ることを発見したんだと思う。でも、顎の硬直は早い段階に起きるとされる。簡単には
開けられず、犯人は途方に暮れたろう。だからこそ、犯人は校舎内にとどまったんだ。
死後硬直がましになるまで、とどまらざるを得なかった」
「確か死後硬直は、死後十二時間で最高潮を迎えるんじゃなかったか? いくら待って
も硬くなるばかりで、朝を迎えてしまうだろう」
「それはあとから調べて得た知識かい?」
「……」
「はは。犯人も待つ内に、どんどん硬くなっている、まずいと実感したろうね。空が白
み始めた頃だろうか、猶予は最早ないと火事場の何とやらを発揮して強引に口を開け、
中から物を取り出した。遺体が口を開けたいのか閉じたいのか、奇妙な具合に捻れてい
たのはこのせいだ。朝が近くなると、犯人が学校を出るメリットはほとんどない。とど
まる方がましというレベルに過ぎないが、とにかく犯人はタイミングを見計らって、内
側から第二理科準備室の鍵を開錠し、廊下に出た。コートの下は学生服を着ていたんだ
ろう、だからこそこんな無茶をやってのけた。学生鞄がないのはよくないが、時期的に
どうにか乗り切れる。あとは……高校生としては歯磨きぐらいはしておきたいところだ
が、はて、どうしたんだろう。たまたまミント風味のガムでも持っていたなら、ちょう
どいいんだが」
「――その落ちで話は終わりか」
「終わりにしてもいいけど。このままだと、帰ってしまいそうだね」
「当たり前だ。証拠のない、単なる妄想に付き合ってやっただけ、感謝してもらいたい
ね」
「証拠ね。たとえば第二理科準備室に君のと思しき毛髪があったり、機械工作の際に出
たと考えられる銅粉が落ちていたりというのは?」
「犯行の立証にはならん。俺もあの教室には以前入ったことがある。銅粉なんて、そも
そも誰の物だか分からないだろうが」
「なるほど、確実性に欠けると。他に何かあったかな。ああ、そうそう」
 探偵は芝居がかった仕種で手のひらを見つめ、急に閃いたように手を打った。
「現場から消えている物があるんだけど、分かるかい?」
「俺は犯人じゃないから、分かる訳がない」
「いや、事件の概要を聞いた人なら、ぴんと来てもいい物なんだ。普通なら警察が調べ
るであろう物なのに、全然出て来ない。遺体が発見される前の時点ではあったはずなの
に、消えているんだ」
「……仄めかしはやめろ。試験されるいわれはない。答を知っているなら、もったい付
けずに言えっての」
「じゃあ教えるとしよう」
 探偵は一歩、いや二歩踏み出し、彼我の間の距離をぐいと詰めた。そして右手にして
いた毛糸の手袋を取る。
「な、何のつもりだ?」
「こうして袖をまくって、その黒のコートのポケットに手を突っ込みたいと思ってね。
手には手術用のラテックス手袋を填めているよ」
「よせ、やめろ」
「君は君自身が証拠は残さなかった自信はあるかもしれない。だけど、桜井の執念をど
こまで推し量れたかな……」
 探偵が右手をポケットからゆっくり引き抜く。その人差足指と中指とが、小さな物を
摘まんでいた。小指の先サイズの白い玉。しわくちゃに丸められた紙のようだ。探偵が
開いて、しわをのばす。
「これはこれは。思惑通りの代物が見付かったよ。桜井茂は自身の体調を鑑み、他人に
見られたら小っ恥ずかしいからと一旦破棄するつもりで丸めたな。それを咄嗟の閃き
で、犯人のコートのポケットに入れるなんて、なかなかのアイディアだ」
 探偵が広げた紙――便箋の表をこちらに向けた。
 そこには、桜井茂から田町由香莉へ宛てた返事が長々と綴られていた。

――終わり

※さらなる蛇足

「誰に春が来たのか知らないが、僕としては春が来るのが遅れて助かった」
 コートをクリーニングに出されていたら、証拠はぼろぼろになって消えていた恐れが
強い。そんな意味で探偵は言ったのだろう。
 それから項垂れる相手に対して、敢えて明るい調子で尋ねる。
「ところで、差し支えがなければ後学のためにも教えてもらいたいんだが、いいかな
?」
「……何」
「さっきは軽く触れただけでスルーしたが、実は動機が理解できていないんだ。最初
は、君が女子三人の内の誰かが好きで、その彼女に対して不誠実な桜井を罰したんだろ
う、ぐらいに考えていた。けれども、何だかおかしい。僕が田町さんを追い詰めたと
き、すなわち女子三人を追い詰めたとき、君は三人の誰もかばおうとはしなかった。田
町さんには多少の助け船を出した程度で、僕が示した説を早い段階であっさり受け入れ
た。君が真犯人なら、目的と行為とが齟齬を来している。好きな相手が大森さんかとも
想定したが、それだと十三日の盗聴を聞くよりも前に、決定的な会話を傍受し、動機が
生じているはずだ。わざわざホワイトデーを待つ必要はない。一体全体、君は何のため
にことを起こしたんだい?」
「ふふ。探偵にも分からないことがあるのは愉快だから、秘密にしておきたい」
「それならそれで仕方がない。動機について――大切なことに違いない動機について誤
認されたまま、残る人生を送ればいいさ」
「挑発がうまいな」
「武器の一つだからね」
「正直なところ、差し支えがあるんだ。そっちの胸の内に仕舞い込むと約束してくれる
のなら、話してもいい」
「……今の言い方で分かった気がするが、約束しよう。夜の学校にいきなり現れた君
を、桜井がすんなり入れたのは、そういうことか」
「ああ。愛は憎しみの始めなり、さ」

――蛇足、終わり




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