AWC ◆シビレ湖殺人事件 第2章・春田ー1   ぴんちょ



#1043/1158 ●連載
★タイトル (sab     )  16/01/22  18:35  (235)
◆シビレ湖殺人事件 第2章・春田ー1   ぴんちょ
★内容


アサー、目が覚めて、あーとあくびをしたが、瞼が浮腫んでいて目が開かない。
ぐーっと伸びをして、その手で頭を押さえてみると、髪が逆だっていて、
こりゃあサモアの原住民みたいになってんじゃないか、と思った。
頭を押さえつつ、俺はベッドの上で上半身起こした。
「パパイヤ鈴木みたーい」。いきなり隣のベッドのミキが突っ込んできた。
瞼を無理矢理開けてミキを見る。
タンクトップが寝ている間に延びてしまっていて、ノーブラで、
肌は青白っぽくて、多少の汗臭さが漂ってきている。
ミキは、あー、と長い腕を伸ばして伸びをした。脇の下も青っぽい。
手を後ろにまわして肩甲骨のあたりをポリポリかいた。テナガザルか。
俺のちんぽは、既に勃起していた。朝立ちではなかった。
窓の外から、ヒヨリとかヨーコとかの声が聞こえる。テラスに出ているんだろう。
「みんなの声が聞こえるじゃない。私も行こーっと」
言うとミキは起き出して、サンダルをつっかけて、スタスタと出て行ってしまった。
俺はズボンに手を突っ込んで、仮性包茎が巻き込んだ陰毛を引っ張り出した。 
やっちゃえばよかったのに、と思う。でも、そんな図々しさはないよ。

ベランダに行くと、ヒヨリ、ヨーコが、「昨日の放送はなんなんだったのよー」、
「ナベサダが喋ると口の端にツバがたまってキモい」、とか言い合っていた。
斉木は手すりに寄っかかっていた。
ミキはみんなに混ざって行って「今日も暑いわねー、曇っているけど」と言った。
「でもセミとか全然鳴いてないね」とヨーコ。
「だってここは黄泉の国だもの」
ヒヨリがペットの水をかざしていて「葉緑素が増えた気がする」と言った。
「こんなの飲んでも、がぶがぶになるだけだけど」
「だったら芋でも食う?」と俺。
「芋はあっても燃料が無いのよ」とヒヨリ。
「レトルトご飯だったら残っている」
「燃料が無い、ってんの」瞬間的に般若の面になった。
「ああ、そっか。テラスでもはがそうか」
「そんな事をしたら怒られんだろ」
手すりに寄りかかっていた斉木が「2日目のカリキュラムって、木こりだったよね」
と言ってきた。
「えーーー」全員が目を剥いた。
「まだカリキュラムをやる積り」とヒヨリ。
「ちょうどいいじゃない。燃料は無いんだし。
こっちの山道は土砂崩れなんだから向こうはどうなっているのかを見てきつつ」
それはそうよねぇ、と女子は納得しながら頷いていた。
俺はテラスの下から裏山に伸びている道を見た。
こっからだとロッジが邪魔になって見えないのだが、
夕べあの山の活断層みたいな割れ目で、牛島は死んだんだよな。
背中に、あの生臭くてぬるっとした巨大魚の重みが蘇ってきて、ぞっとした。
あのグロいご遺体は地下室に眠っているんだよな。
やべーな。こうしちゃいられないな。
「じゃあ、薪を運ぶ入れ物がいるな」と斉木。「もう僕のシャツもボロボロだし」
「じゃあ、牛島のシーツとか毛布とかとってくるよ」とヒヨリ。
言うと女子は二階に行ってしまった。
俺らは、台所まで行くと、キッチンカウンターの前にしゃがみこんだ。
ナイフとかと畜銃とかナタが並べてある。
ナタの柄を指で押さえて「こんなの使ったことある?」と聞いた。
「それは君にまかせるよ」と言うと斉木は地図を手にとった。
俺だって非力なのに、と思いつつ、ナタを持ち上げると、肘ががくがくした。
なんとか肩に担ぐ。

俺らは、全員が持つべきものを持って、湖畔の小道に出た。
つまり先頭の斉木は地図、ヒヨリは毛布、ミキはシーツ、ヨーコは枕カバーを、
しんがりの俺はナタを持っていた。
俺らは、キノコの傘のように樹木がせり出している下を歩いた。
しかし、50メートルも行かない内に、右に逸れていく脇道があって、
あっちに行くと何があるんだろう、と思った、次の瞬間、
俺は遠心力で脱線するプラレールみたいに、そっちを歩いていた。
そうすると緩やかな登りになっていて、そこをハァハァしながら上って行った。
すると、湖側に、台形を逆にした感じのでかい穴があって、
四方がシジミでもびっしり積み上げたような壁になっていた。
なんだ、これは。貝塚みたいなものかな。
ふと、牛島をここに捨てちゃえばいいのに、と思ったが、それは可哀想だな。
小便がしたくなったのでナタを森側に落とすと、貝塚に向かってちんぽを出した。
じゃーーーー。
あー、気持ちいい。一体どこの筋肉を緩めたらこんなに勢いよく出るんだろう。
きっと膀胱が風船みたいに膨らんでいて、ギューッと押し出すんだろうな。
めまいがするぐらいだ。
木々の向こうに他のメンバーが行進しているのが見えた。
あいつら俺がこんなところで小便しているのも気が付かないで、アホな奴らだ。
ヒヒヒ。
俺は、ちんぽをしまうと、ナタを拾い上げた。
その時、雑草の中に、笛になる草を見付けたので、
摘んでちぎると口にくわえた。ぴぃー。
俺は脇道から戻ったりしないで、そのまま前に進んで行った。
どっかで湖の周りの小道と合流すると思ったからだ。
雑木林を挟んだ向こう側では、俺と並行する感じでみんなが歩いていた。
ピーピー笛を吹いたのだが誰も気が付かない。ぴぃー。
更に進んでいくと、思った通り合流していた。
みんなの前に飛び出ると、笛を鳴らす。
「ぴぃー」
「びっくりするじゃない」全員がのけぞった。
「どこに行っていたのよ」とタマ。
「散歩。ぴぃー」
「散歩って。探していたんだよ。神隠しにでもあったのかと思って」
「ふん」とヒヨリが鼻で笑った。「こいつは何時でもこうなんだよ。
コンパの時に皆で待ち合わせをしているのに全然来ないから、
どこへ行ってんだ、っ携帯に電話したら、
腹減ったから途中でラーメンを食っている、だって」
「そういえば教室のPCが壊れて、みんなでムラウチに行ったのね。
そうしたら、突然春田君が消えて、どこへ行ったんだろうってみんなで探したら、
一人で雑誌のコーナーで『ファミコン通信』とか読んでんだよね」とミキ。
「つーか、そのPCでスカイプやっていたら、こいつ、雑誌読んでんだよ、通話中に。
携帯で話している時にも、突然関係ない事言い出すんだけれども、
宇多田ヒカルって結婚したんだー、とか。通話中に雑誌読んでんだろう。
通話料発生してんだぞ」とヒヨリ。
「そんないきなり、がーって言ってくることないだろう。ぴぃー」
「つーか、さっきからおしゃぶりみたいにぴーぴー吹いているけれども、
かぶれているよ」とヒヨリ。
「えっ」と俺は口の端に手を当てた。
「ヘルペスじゃないか」と斉木。
「いやだぁ、伝染るぅぅ」と女子が仰け反った。
「いや、あれは常在菌といって誰の体内にもあって、
抵抗力が落ちると出てくるだけなんだよ」
「へー、そうなんだ」とミキ。
「つーか、暑いから早く行こう」とヒヨリ。
「そうね。抵抗力落ちるものね」
「そうそう、いこいこ」
そして、俺らは軍隊の様に行進していった。

しばらく行くと、昨日の芋畑の入口の前に差し掛かり、そこを通り過ぎる。
そして、もうしばらく行くと、又入口が見えてきた。
斉木が、「ここだ。1時の方角だから」と言った。
そして全員で、ぞろぞろと右折していく。
と、そこは藤棚みたいに上から草が垂れてきていて、
そこを、いらっしゃーい、みたいに、暖簾をくぐる様に通り抜けて行った。
と、林に囲まれた原っぱあって、その真ん中に、
椎茸でも栽培するような丸太がごろごろと転がっていた。
「あれだ」と言って、ぞろぞろとそこまで歩いて行った。
「なんだよ、自分で切り倒すわけじゃないんだ」
俺は重かったナタを、丸太の一本に落とした。
サクッっと乾いた音をたてて、おっ立つ。
「切ったばかりの木なんて燃えないからなんじゃない?」とミキ。
「そうかもなあ。じゃあみんな、シーツを広げて、これを包もう」
と俺はヒヨリらに言った。
「ちょっと待って。その前に土砂崩れの状態を見に行くんじゃなかったっけ」と斉木。
「あ、そっか。忘れてました」
原っぱの向こうを見ると、夏草が生い茂っていて、その向こうには、
『遥かなる山の呼び声』的景色が広がっていた。
「そんじゃあ、草ぼーぼーだから俺らで見て来るよ」とホットパンツの女子に言う。
みんな太腿がむちむちだ。
「じゃあ、行こう」と斉木を促す。
そして斉木と草むらの中に入って行った。
青々としたススキみたいな草が胸の高さまで生えていた。
それを、かき分けたり、なぎ倒したりしながら、
ミステリーサークルでも作るみたいに進んで行った。
ところが、しばらく行くと、突然草むらが終わって、
俺らは地面の露出しているところに出たのだが、
そこで俺らが目の当たりにしたのは、想像を絶する驚愕の風景であった。
地面がぼっこり凹んでいるのだ。
「なんなんだ、これはッ」
近くにいってみると、幅10メートルぐらいのU字型の溝がずーっと続いている。
モスラの幼虫でも這って行ったらこんなになるんじゃないか。
エッジのところは、ゴルフ場のバンカーみたいになっている。
「なんなんだ、これは。これも地震の影響か?」
「いや、元々、こういう地形だったんじゃない?」
「もしかしたら学校がやったのかも知れない」と俺は言った。
「なんの為に?」
「俺らを逃がさない為に。
つーか、牛島んちの近くにラーメン二郎があって、
圏央道に抜ける道を造成しているのだけれども、
あそこがこれぐらいの深さでさぁ、あそこにあるぐらいのパワーショベルがあれば、
こんぐらいの溝は掘れるんじゃないかなぁ」
「そんな金は学校には無いよ。あってもやらないし。
それに、なだらかな感じだから自然に出来たんだと思うよ」
「じゃあ地震でもないのか」、
俺は落ちないように身を乗り出して、溝を見た。
深さも幅も10メートル程度だが、傾斜はなだらかだった。
「これだったら向こう側に行けるかも知れないな」
「いや。止めた方がいいよ。
真ん中辺が液状化していて沼になっているかも知れないし。
仮に向こう側に行けても、迷うだけなんじゃない」
「うーん。じゃあどうする?」
「とりあえず引き上げて協議だな」
「そっかあ」
という訳で俺らは踵を返した。
草むらの中を引き返していたら、
女子3人が切り株のところに突っ立っているのが見えてきた。
ミキ、ヒヨリ、ヨーコの3人は、Gパンをホットパンツみたいに切っていたのだが、
内側からポケットがべろーんと覗くぐらいに短い。
「それにしてもミキっていい体格しているなぁ」俺は何気、呟いた。
「えっ」と言って、斉木は立ち止まった。「今、そんな事を考えるぅ?」
「だって、夕べ一晩一緒だったんだぜ」
「やっちゃったの?」
「まさか」
「そりゃあそうだろうな。まあ、ミキは君には無理だと思うよ」
「えっ、なんで」
「いや、別に、君のモテ非モテに関係なく無理だよ」
「なんで」
「産婦人科的にはそう思うんだよ」
「なんで、産婦人科的にそう思うわけ?」
「うーん」と唸ると、腕組みをして片方の手を顎に当てた。
「あの3人の体格をよく見てみな」
向こうでは、左からミキ、ヒヨリ、ヨーコの順番で突っ立っていて、
何か話しをしていた。
俺らは女3人を観察するような感じになった。
向こうからはこっちは見えていない。
「一番骨盤がでかいのはミキだろう。それからヒヨリ、ヨーコの順番だ。
分かりやすく言うと、骨盤がでかい女ほど、気性が荒い。
だから産婦人科的に言ってもっとも抵抗するのはミキだと思うよ」
「えっ、まじー?」
「本当だよ。逆にヨーコなんて、ほとんど女の体をしていないだろう。
骨盤が小さくて、鳩胸で、顔がでかくて、浮腫んでいる感じ。
これはおっぱいとか受容体がないんでホルモンが行き場を失って
浮腫んでいるのだけれども。
あと髪の毛がもっさりしているのも特徴でね。うなじがないのが。
ああいうのは最も従順なんだよ。まるでロボトミー手術でも受けたみたいにね。
「マジかよ」
「なぜそうなるかっていうと、多分、性染色体が一本しかないんだよ。
普通、男はXY、女はXXだろう。
ところが彼女の場合、性染色体はX一本しかないんだよ。
両親のどっちかが高齢で、精子か卵子のどちらかに性染色体が無かったんだろう」
「そんなの見た目で分かるの?」
「だって、ダウン症とかだって 見た目で分かるだろ」
「うーん…。あ、そっか」
「そういう訳で性格はいたって従順、命令されれば、なんでもやるんじゃないか。
因みに、ターナー症候群って言うんだけれども」
「へー」
「その対極にいるのがミキ。
身体的特徴は、身長が高くて、骨盤がでかくて、痩せている。
おっぱいも骨盤もでかいから栄養はみんな吸収されちゃうんだね。
つまり受容体があるから浮腫まないんだね。
性格的には強情で自己ちゅー、って感じかな。
ああいうのはX遺伝子が3本あるんだよ。
名付けてトリプルX症候群、又の名をスーパーフィメール」
「すげーな」俺は斉木の知識にただただ関心するばかりだった。
「ああやって3人ならぶと、ミキ、ヒヨリ、ヨーコの順に、
XXX、XX、X だな。
そんで、産婦人科的に見ると、ミキって本当に女って感じがするよ。ホルモン的にね。
昔の人は、小股の切れ上がったいい女、とか、うなじが色っぽい、
とか言っていたけれども、ああいうのは当たっているんだね」
「へー」ため息が漏れた。
が、え、何で? と思った。
「X遺伝子が多いんだったらそれだけやりたいんじゃないの?」
「そういう事にはならないよ。性欲はあっても、強情なんだから、
こんなキャンプ場で遊びでセックスなんてしないんだよ」
「そうなんだ」
俺は草むらの間からミキの伸び伸びとした肢体を眺めた。
「じゃあ、行こうか」
と促されて歩き出す。




#1044/1158 ●連載    *** コメント #1043 ***
★タイトル (sab     )  16/01/22  18:35  (158)
◆シビレ湖殺人事件 第2章・春田ー2 ぴんちょ
★内容
原っぱに戻ると、女子達に、土砂崩れの状態を説明して、
「そういうわけだから、とりあえず引き上げ」と言った。
「じゃあどうやって家に帰るのよ」ヒヨリの顔が星飛雄馬のスパイクになる。
「だから、それをロッジで協議するんだよ。
もっともすげー空腹だから、とりあえず食うという事になると思うけど。
だからみんな丸太を持って帰って」
と言うと、俺は率先してシーツに丸太を包んだ。
他のメンバーも、シーツに丸太を包めるだけ包む。
そして肩から担ぐと、ロッジに向かった。

湖畔の小道に出ると、ミキ、斉木、ヒヨリ、ヨーコ、俺の順番で歩いた。
道がくねっているところでは、ミキの様子がよく見える。
背中を丸めて丸太を担いで、頬を真っ赤に紅潮させている。
人間の顔って、あそこまで赤くなるものなのか。
丸でプチトマトみたいだ。
つーか、ああやって赤くなってハァハァして俺を誘導しているじゃなかろうか。
猿が尻を赤してオスを挑発するみたいに。
斉木が、性欲はあるが強情だからやらせない、とか言っていたが、
今、ハァハァしているのが性欲なんだ。
だけれども、骨盤がでかくて強情だから、そんな恥ずかしい事は出来ない。
そういえばナベサダが、リンパ球のコピーは骨盤に宿った磁気が、
なんたら言っていたが、排卵も骨盤のパワーによるんじゃないのか。
骨盤がでかいからどんどん排卵する癖に、骨盤がでかいから強情で恥ずかしい、
という矛盾があるんじゃないのか。
だから、俺が、その、いやよいやよも好きのうち、という葛藤に気付いてやれば、
やっぱやらせるんじゃないのか。
もしかして、斉木はそれを察知して、
俺には無理とか言って邪魔しているんじゃなのか。
斉木はミキの後で、へばりつく様に歩いていた。

あいつにしてみりゃあ、ミキなんて、
星野鉄郎におけるメーテルみたいなものだからなあ。
性欲があったら困るよなぁ。

ロッジに到着すると、ロッジはスルーして、俺らはそのままキャンプ場に行った。
そこで、シーツに包んだ丸太をドタドターっと落とす。
それから、女子はロッジに戻って、鍋だの芋だの調味料だのを取って来た。
そしてみんなで、石ころでカマドを作って、湖水の入った鍋をかけた。
それから女子と斉木は、芋を洗いに、湖へ行ってしまった。
俺は、ナタで、丸太の皮を剥いたり、細く削ったりした。
それらを鍋の下に突っ込んで、チャッカマンで火を付ける。
本格的に燃えてくると丸太のままのを突っ込んだ。
やがて焚き火がぼーぼーになって、鍋がグツグツと煮立ってくる。
あとは芋を入れるだけかぁ。
ふと見ると、塩とか醤油とかと一緒にレトルトご飯が2パック転がっていた。
俺はそれを鍋に入れた。
だって、折角煮立っているんだからもったいないと思ったのだ。
そして15分たったら、棒っきれで取り出して、蓋をあけると、
ふんわりご飯の出来上がり。
蓋の底をへこませてご飯が浮き上がる様にして、ふーふーしながら食う。
甘い。ご飯の甘味が、まぃぅー。
それから塩を振って残りを食った。
それからもうひとパックは、醤油をかけて、のりなしのり弁にして食う。
まぃぅー。
腹が張った頃、みんながタオルに芋を包んで戻ってきた。
「よお」とこめかみのところで2本指の敬礼をした。
「ちょっとあんた、何食ってんの」とヒヨリ。
「あ、これ。あったからさあ」
「あったから、じゃねーだろ。みんなが芋を洗っているのに、
なんで一人で食っちゃうんだよ」
「一応リーダーなのに、なんで勝手な事するの。
そのお湯は芋を茹でる為に沸かしたんじゃないの?」とミキ。
みんなで、なんで、なんで と俺を攻めてくる。
「無理無理」と斉木が言った。「そんなのね、イルカに、
どうして浮き輪に飛びついた、と聞いているようなものだよ。
イルカは小脳でジャンプしているのに、大脳に、どうして、
なんて聞いてもしょうがないよ。
つーか、春田君の場合、小脳と大脳が関連付けられていないのかも知れないなあ。
つーか、小脳だけで生きている気もする」
と何やら俺を馬鹿にした様な事を言っていた。
しかし、女子らもなんとなく納得してくれた様だった。

それから、今後は芋を鍋に入れた。
全員で車座に座って待つこと10分。
茹だった芋を木の棒で刺して取り出すと、皮を剥いた。
醤油をつけて磯辺焼き、塩をつけてポテチ風味、砂糖をまぶしてザラメ、
砂糖と醤油でみたらし、とか味を変えてみんなどんどん食う。
俺もご飯を食った上に芋も食った。

満腹するすと、みんな後ろに手を付いて、Gパンのボタンを外したり、
腹をさすったりしていた。
食った後だから暑い。
あぢー。半端ねー。
じーっとしていると、汗が吹き出してくる。
お日様は出ていなのだが、風がないからだろう。
空気が澱んでいて、森の方から土のニオイ、というか、
すえた様なニオイが漂ってくる、と思ったんだが、なんだ、この沢庵みたいな臭いは。
もしかして誰か…。
「ミキちゃん、オナラした?」俺は隣のミキに聞いた。
「してないわよ。失礼ねえ」
「そんなに怒る事ないじゃない。オナラぐらいで」
「してないって言ってんの」
「じゃあ誰だろう」
「知るかー」
俺は腰を浮かせると、くんくんやりながらニオイの元を探って行った。
まずトイメンの斉木に近付くと「オナラした?」
「してないよ」
そしてカニ歩きで横に行くとヒヨリに「オナラした?」
「してねーよ」
そして隣のヨーコに「オナラした?」
「した」
「なんだよー」
そのまま中腰でカマドの周りをぐるり一周してきて、ミキの横に戻ってくると、
「ヨーコだったよ」と報告した。
「あんた、ガキだね。楽しいの、犯人探しして。満足そうな顔しちゃってさあ」
「なんで、俺はただヨーコだったよーって」
「あーあ、このガキの影響で私までトイレに行きたくなっちゃった。
ちょっと行ってこよーっと」
ミキは、立ち上がって、ぱたぱたと尻を叩きながら、森の方へ歩いて行った。
そのGパンのポケットをじーっと見ていたのだが、ふと、
あれ、ティッシュもっていないんじゃないか、と思った。
なんか拭くものがないと困るんじゃないか、とあたりを見回す、
と、丸太をくるんできたシーツが丸まっていた。
俺はそれを引っつかむと、足元に転がっていたナタの歯で切れ目を入れて、
ザーッと裂いて、
くるくるくるーっとトイレットペーパーの様に丸めると立ち上がった。
「どこに行く気」とヒヨリ。
「ペーパーがないんじゃないかと思ってさ」
「はぁ?」
「これを持って行ってやろうかと思って」
「やめろー」
「だって無かったら困るだろう」
「やめろ、ってんの」
と引き止めるのを無視して、俺はキャンプ場の砂利をじゃりじゃりいわせて
森の方に走って行った。
そして森に入ると 歩調を緩めて、「ミーキ、ミキ、ミキ。どこにいる」と、
迷い猫でも探す感じで、あたりを見つつ進んでいく。
と、ひときわ大きいケヤキの木陰にミキらしき人影が。
「そこにいるのは、ミキか」
とにじり寄ると、さっと立ち上がってホットパンツを上げるが早いか、
「なぁーーーーにしに来たのよ。デバガメ?」
「そうじゃないよ。紙をもってきたんだよ。布製だけれども」
「そんなものいらない」
「だって困ると思って…」
「思ってくれなくていいよ」と言うとケヤキの根の間から出てきて、
こっちを向いた。「思ってくれなくていい、ってんの」
「思っているよ」言うと、丸めた布を放り投げた。
するとミキは足で踏み潰した。
「あッ。俺の愛を踏みにじったな」
「愛? 何言ってんの。あんたみたいなガキに愛なんて分かるか」
「分かるよ」
「じゃあ何よ。教えてよ。あんたの愛を」
「俺の愛の証を見せてやる」
「何よ、それ」
「そのウンコを食ってやる」
「はぁ?」
「お前のウンコを食べてやるって」
「はぁ? あんた、何言ってんの? 頭は正気? でもいいわよ。
だったら食べてみなさいよ」
「食ってやるッ」と俺はケヤキの根に突進した。
が、すれ違いざま、ミキが足で土を蹴飛ばして、目くらましを食らわせてきた。
「うわー、目がッ」
「もう、あんたみたいな馬鹿とは付き合ってらんないわ」と言って、
俺をスルーして行ってしまう。
「見ていてくれなきゃ意味ないじゃないか」とミキの背中に叫ぶ。
しかしミキの白いTシャツは、木の間から差し込んでいる光の中に滲んで行った。
しばらく立ち尽くしていたが、そんなもの一人で食べても馬鹿みたいなんで、
肩を落として脱力すると、とぼとぼと戻った。




#1045/1158 ●連載    *** コメント #1044 ***
★タイトル (sab     )  16/01/22  18:36  ( 66)
◆シビレ湖殺人事件 第2章・春田ー3
★内容
カマドのところに戻ると、ヨーコが一人で座っていた。
「あれぇ。他のみんなは?」
「泳ぎに行ったよ」
「とか言ってケツを洗いに行ったんだな。つーか、まさか裸で泳ぐの?」
「ちゃんと水着か下着を着てだよ」
「なーんだ」と言うと、俺はヨーコの隣に座った。「つーかなんでウンコぐらいで
怒るのかねぇ」
「そういうのは、大人になるとどんどん回路が出来て、封印してしまうんだよ。
禁欲だよ」
「いや。回路が出来ると言うよりか、括約筋が出来るんだと思うね」
「肛門の?」
「うん。そんで、封印されたかの様で、実は、括約筋のところを
ウンコが通過する時に初めて快楽が生じるんだよ。
ただミキの場合は、後で気が付くという感じかな。
えー、こんなにぶっといウンコが大腸の中にあったの? みたいな。
肛門に感覚は残っていはいるものの、既に通過してしまっていて、
昔を懐かしんで懐メロを聴くみたいな感じかも」
「なんの話?」
「カタルシスだよ」
「カタルシス?」
「うん。分かりやすく言うと、水戸黄門かな」
「水戸黄門?」
「そうだよ。ああいうドラマって、悪代官とかお百姓とか、
そういうのが溜まっていって、最後に黄門様の印籠を出した時、
ぶりぶりぶりーっとカタルシスを得る、みたいな。
これが本当の水戸肛門、みたいな。
ただミキの場合には夜中頃になって、初めて、いいドラマだったなあ、
って気付くんじゃね。
その点俺はリアルで楽しめる」
「ドラマを?」
「いや、音楽だね」
「水戸黄門の音楽? ♪じーんせい楽ありゃ」
「違うよ。ヒッキーとかだよ。
ファーストラブとか、どうしていいんだろうって、自分の体でチェックしてみたんだ。
そうしたら、♪you are always gonna be my loveのところで、
ベースがかぶってくるところで、ジーンとするんだよねえ。
やっぱあれは、ヒッキーが括約筋で、そこにベースとかストリングスとか
色々なものがどばーっと流れてきて感じるんだろうなあ。
とにかく俺はリアルで楽しむよ」
「じゃあどうしてウンコを食べるの?」
「えっ。ミキがそんな事言ってった?」
「う、うん」
「まぁ、それは元カノの影響だろうなあ。元カノに、
愛しているなら食べろって迫られたから」
「食べたの?」
「食べないよ。だって、俺はウンコ自体に快楽があるとは思わないし。
あくまでも括約筋の方が気持ちいいんであって」

でも、と俺は思い出した。
あの元カノのウンコを汚いとは思わなかったぁ。
俺は彼女の顔が好きだった。
昔のナベプロ系アイドル、天地真理とか太田裕美みたいな、
ムーンフェイスにどんぐり眼みたいな顔で。
ああいう顔をしている人のウンコは許せる。
キューピーちゃんみたいな顔をしているからかなあ。
むしろミキみたいな綺麗系には、清くあってほしいと思う。
ミキにはウンコまんこは似合わないよ。
でも、その元カノがスカトロだったのは不思議だ。
つまり、俺がウンコを許せるなーと思った女が、たまたま向こうでもスカトロだった、
というのは何でなんだろう。そんな偶然の一致があるのだろうか。
待てよ。そう考えないで、さっき斉木が、X遺伝子が一個しかない女は、
成熟しないで浮腫んでいると言ったが、
ナベプロのアイドルと考えないで、…未熟な女は浮腫んでいて、
未熟だからスカトロであり、未熟なキューピーちゃんのウンコは許せる…、
と思うと、意味は通るのかぁ。
と、ヨーコを見ると、そういう顔だった。




#1046/1158 ●連載    *** コメント #1045 ***
★タイトル (sab     )  16/01/22  18:36  (104)
◆シビレ湖殺人事件 第2章・春田ー4
★内容
「俺、どっちかって言うと、ミキよりヨーコの方が好きだな」と突然言った。
「俺、適当に言っているんじゃないよ。太田裕美とか好きだし。
ヨーコって太田裕美似だよな」
「おおたひろみ? 誰?」
「知らないの?」
「知らない」
「うーん。だったら、ちょっとエロになるけど、これを見せたい。
別にエロいものを見せたい訳じゃなくて、適当に言っているんじゃなくて、
ヨーコが好きだっていうののエビデンスとして」
言うと俺は尻ポケからスマホを出してエロ動画を再生すると、
この顔が似ているなぁという所でストップして見せた。
「これはさあ、藤原ひとみって言うんだけど、
こういうムーンフェイスでどんぐり眼で、お尻が小さくて鳩胸で、
こういうのが好きなんだよね」
「ふーん」
「それにしても、ここはむしむしするね。部屋の中の方がむしろ涼しいよ」
「うん」
「部屋に行かない?」
「いいけど…」

俺とヨーコはキャンプ場を後にして、ロッジに戻って、部屋に入った。
部屋の中は薄暗かった。
開け放たれた窓から、桟橋のミキらの声が聞こえてくる。どぼーん。
「立っていると暑いから座ろう」と言って、二人してベッドに腰掛けた。
「座っていても暑いね」
俺は突然Tシャツを脱いだ。
ヨーコは一応ビクッとしたが、特に逃げるでもなかった。
やっぱり斉木が言ったみたいに無抵抗なのか。
試しに、「ヨーコも、これ脱いじゃいなよ」とTシャツの裾を引っ張った。
ヨーコは、Tシャツの袖口に両手を引っ込めてから、首から抜いた。
そうすると、全くの幼児体型で、鳩胸にスポーツブラが食い込んでいる。
「これもいらないね」、と、今度は、ブラを引っ張り上げて、バンザイをさせると
脱がしてしまった。
すると、なんだ、このおっぱいは。
小学生男子のおっぱいみたいなホルモンの固まり上に女性の
乳輪と乳首がある感じで、池沼の女子におっぱいが出てきた感じだ。
それでも、ベッドに押し倒して、俺は吸い付いたのだが、
扁平すぎて鼻が邪魔になって吸えない。
俺は、乾いた旅人が岩肌を伝う一筋の水でも吸う様に、頬をくっつけて口の端で、
んがんがん、しゅしゅしゅ、シュシュシューと吸った。
吸いつつ、ホットパンツとパンティも脱がせる。
そして、おっぱいから臍、そして陰部へと吸いながら移動していったのだが、
こーまんにたどり着くと、なんだ、このでっかいくりは。
小便小僧のちんぽぐらいはあるぞ。
しかし、動じることなく、M字開脚させると逆肩車状態で俺はしゃぶりついた。
多少小便臭かったが汚いと感じなかった。
やっぱりキューピーちゃんの陰部は汚くないのだ。
更に俺はマングリ返しに力を入れて、アナルにまで舌を伸ばした。
と、突然太腿に力を入れて突っぱねてくる。
おおお、何を暴けているんだ。
ヨーコは俺から逃れるとベッドに腰掛けた。 
そして今度はこっちに向き直ってくると、
俺のズボンを下ろしにかかってくる。
ズボンのバックルを、荒縄でも解く感じで外すと、
Gパンとトランクスをいっぺんに下ろした。
そしてじーっと見ると、「小さーい」
「えー。もう勃っているんだぜ」
「でも大丈夫。牛島君のは入らなかったから」
へー、そうなんだ。じゃあ凸凹的にちょうどいいのかも。
じゃあさっそく、と思って、ヨーコの両脚を抱えるとベッド中央に移動して、
正常位コイタスの位置について、「導いて」と俺は言った
「えっ?」
俺ぐらいのサイズだと導いてもらわないと入れられない。
「導いて」
「うう、うん」
ちんぽを摘むと、タンポンでも入れる様な感じで、白目を剥いて天井を眺めながら、
亀頭をバギナの入り口にあてがった。
ここまでくれば大丈夫、と腰ごと体重をかけて挿入しようとする。
と、「いてててててっ」とヨーコは顔を歪めた。
「痛いことないだろう」
と、再度挿入を試みる。
「いててててて」言うと俺の下腹部を突っぱねて腰を引いた。
「どうしたんだよ」
「やっぱ無理」
「なんで、俺、乗車拒否される程のものでもないと思うけど」
「そうじゃないの。私がおかしいの」
「なに」
「小野小町なのぉ」
「なにぃ、それ」
「ちょっとおしっこしてくる」

ヨーコは、毛布をマントの様に肩にかけて、後ずさる様にベッドから下りると、
そのまま出て行ってしまった。
それから、どどどどどーっと階段を降りる音。
えっ、2階の便所でやるんじゃないのかよ。湖でやるんだったら、
あそこでは斉木らが行水をしているじゃないか。
突然、桟橋の方から斉木達の声や、水しぶきの音が聞こえてくる。
窓際によると、俺は目を凝らした。桟橋の先っぽにみんなが見える。
テラスの軒下から、毛布のマントをまとったヨーコが現れた。
しかし彼女も気付いたらしく、桟橋の先端には行かないで、
たもとから湖畔へ下りて行った。
俺は一安心すると、窓の下側の壁に背中を付けて、
ずずずずずーと滑り落ちてその場に座った。

しかし、小野小町っていうのは穴が小さくて入らないってやつだよな、と俺は考えた。
それから、ヨーコのベビーフェイスとか幼児体型とか、色々な事を考えて行った。
ピッピッピッっと脳内記憶の点と点が線で結ばれて行った。
俺の最初の彼女もベビーフェイスだったのだが、なんかの難病で若死にした。
そして、二人目の彼女はスカトロだった。
そして三人目のヨーコが小野小町。
こりゃあ、なんかあるんじゃないか。
俺の好みの女はみんな変になってしまう。
やっぱり斉木の言っていたX遺伝子が一個だとなんとか症候群だ、とか、
浮腫んでいる、とか、未熟だ、とか、そういうのが関係あるんじゃないのか。




#1047/1158 ●連載    *** コメント #1046 ***
★タイトル (sab     )  16/01/22  18:37  ( 82)
◆シビレ湖殺人事件 第2章・春田ー5
★内容
うーむ 俺は顎を揉みながら唸った。
こりゃあ何か大発見をした気分だぞ。
ヨーコが戻ってきたら色々なところをチェックしてやろう。
髪の毛の生え際とか、陰毛の生え具合とか。
やがて階段をミシミシいわせて、ヨーコが戻ってきた。
俺は膝小僧に手をあてて、よっこいしょと立ち上がるとベッドに移動して、
そして手ぐすねを引いて待っていたのであった。
ところがヨーコはドアのところでフリーズしている。
「どうしたの。こっちにおいでよ」
「なんか湿疹がすごいよ。すごい広がっている。つーか、ゾンビ?」
「えっ? 湿疹? 草笛で出来たやつかな」
俺は口の端を押さえた。
すると口の端から頬の方にかけて、ぬるっとした感じが広がっていた。
そして、指先を見てみると、血と膿の混じったような体液が…。
なんじゃこりゃーッ!
俺はすがるような視線をヨーコに送った。
しかし彼女は、後ずさる様に部屋から出て行ってしまった。
しかし逃げた訳ではなくて、すぐに戻ってくると、
手にしているコンパクトをこっちにかざしてきた。
俺はぐーっと覗き込む。
なんじゃこりゃー。
顔面ピザ状態のケロイドで、目だけがぎょろっている。
つーか、今も現在進行形で、湿疹は首の辺りに広がっているのだ。
しかも 喉に痰がからむ。
炎症は内部にも及んでいるのか。
えっへっ、と痰をきった。えっへっ、えっへっ。
痰はきってもきっても気道に滲み出てくる。
息を吸うと、ひぃー、と喉笛が鳴った。
苦しい。
「苦しい」と俺は言った。「えっへっ、息が詰まる」
「大丈夫?」
「大丈夫じゃなーーい」
えっへっ、と痰をきってから、息を吸ったら、激しく咳き込んだ。
ゲホゲホゲホ。
咳き込んだ後に、ひぃーと息を継ぐと、又咳が出る、の繰り返し。
「苦ひぃー」すがりつこうと手を伸ばした。
ヨーコは後ずさって、両手を丸めて口を押さえると、
ただただ恐怖の表情を浮かべている。
「誰かを呼んでくる」言うと部屋を出て行った。
又階段を駆け下りる音。
背中を丸めて俺は激しく咳き込んでいた。
しかし息を殺していれば咳き込まないので、しばらくそうしている。
そうすると、桟橋の先端の方から、ミキらがきゃっきゃ言う声が聞こえてくる。
それが突然止んだ。ヨーコが到着したのだろうか。
上目遣いで窓の方を見る。既に西日が差してきている。
それから騒がしい話し声がして、
バタバタいう足音と桟橋がきゅーきゅー鳴る音がロッジに迫ったか、と思うと、
足音は室内に移動して、階段からドタドタいう音が響いてきて、
ドア口にヨーコ、斉木、ヒヨリが現れた。
彼らの姿は既に涙で滲んで見える。
ヒヨリは、シューシュー部屋中に虫除けスプレーを散布した。
折角おさまっていた咳が、ガスに誘発されて又出だす。
ゲホゲホゲホ、ひぃー。
「伝染りはしないから、そんなのまかなくていいよ」と斉木。
「だってぇ」
斉木が俺の顔を覗いた。「すごい炎症だな。呼吸器粘膜もやられているのかもな」
苦しい、と言いたかったが咳で声が出ない。
息を殺して、俺は自分の喉を指差して目を大きく見開いた。
「除痰のこつは、焦って息をしない。勝手に出てくるから」
さっきからそうしている。
そうやって息を止めていると、気管支から痰が浮き出てくるのが分かる。
今度は痰がきれる、と思って、咳払いをして、その反動で息を吸って又咳き込む。
「息をするなって」
無理だ、そんな事をしたら酸欠になる。
そうこうする内に目が霞んできた。
窒息か。
「人喰いバクテリアってやつじゃない?」後ろからヒヨリの声がする。
「どうなるの?」
「なんとも分からない」
と言って覗き込むみんなの顔がだんだんぼやけてくる。
色が、赤いセロハンを何枚も重ねた様なレンガ色に見える。
血の海に浮かぶ3匹のETみたいな感じ。
動きもスローモーに見える。
「だいじょうぶ?」、「しっかりしろ」という声も、スロー再生の録音みたいに
聞こえる。
血の海はどんどん濃さを増して行った。
いや、光が見えなくなってきているのか。
これより暗くなったら真っ暗になる、という時、後ろからもう一匹、
赤いETが加わった
あれはミキか。
そいつは、スロー再生みたいな声で、「もをすぐ 放送だよ」と言った。
「ほうそうだよぉ」




#1048/1158 ●連載    *** コメント #1047 ***
★タイトル (sab     )  16/01/22  18:37  (225)
◆シビレ湖殺人事件 第2章・春田ー6
★内容
《はい、皆さん、お疲れー。
今日も又悲劇に見舞われたみたいで、
そのことは、誠に気の毒だとは思います。
しかーし、勉強は勉強でやってもらわないと。
そうは言っても、こんな勉強したところで、今日の自分達に何の関係があるんだ、
と思うんじゃないか、とも思います。
そこで、もし今日最後まで授業を聞いてくれたら、最後には、そうだったのかぁ、
と思える何かがあるかも知れない、ということは言っておきますよ。
そんじゃあ、それを期待して、授業を始めたいと思います。

えー、まず前回の復習から。
前回は、タンパク質の合成とか、遺伝子のコピーとか、
そういうのにも過剰と去勢みたいなのがある、ってことを言ったよね。
例えば、タンパク質の合成というのは過剰であって、
ゴルジ体で調整するというのは去勢である、とか。
遺伝子のコピーに失敗してがん細胞が出来る、というのは過剰であって、
それをリンパ球で退治するのが去勢だ、とか。
或いは又、そのリンパ球に関しても、
造血幹細胞からリンパ球が出来るというのは過剰であり、
リンパ球の中から自己免疫疾患を起こすようなものを取り除く、
というのが去勢である、とも言った。
そして、この過剰と去勢が何に由来するのかも述べたよね。
過剰というのは、地球の表面が泥の川みたいにどろどろしていて、
そこに太陽が差してきて、突然有機体が出来る、みたいな感じで、
つまり太陽に由来している。
もしかしたら最初の遺伝子もそうやって出来たのかも知れない。
一方、去勢というのは、今度はその遺伝子がコピーされる場合のことなんだけれども、
遺伝子の複製の時には電車の上り下りみたいな感じになっているから、
外部の電磁気、つまり宇宙の磁気に由来しているのではないか、
という、一見大胆な説を、述べたよね。

さて、それじゃあ今日は、
そういう、遺伝子のコピーだなんだに関して、過剰と去勢があるとか言っても、
それって現在の定説に比べてどうなのよ、っていうのはあると思うんですが、
そういう諸々に関して、現在の定説と、私の言っている様な、過剰と去勢、
みたいな見方の違いについて、ちょっと比較してみたいと思います。
とりあえず今日は、リンパ球の成熟ということにスポットライトをあててそれを
やってみたいと思います。

リンパ球の成熟に関しては、今、復習に出てきたみたいに、ちょっとは言っている。
まず、造血幹細胞というのが10万個に一個ぐらいあって、
これは骨髄にあって、それがコピーされて、血とかリンパ球が誕生する。
あと、自己免疫疾患を起こす様なリンパ球は阻害される。
そして生き残ったリンパ球は…成熟するんだよね。
というか、その前に、リンパ球でもB細胞、T細胞、とか、
色々あって、今日はB細胞に関して言うんだけれども。
あと成熟っていうのは、リンパ球が相手にする病原菌も、
麻疹とか水疱瘡だとかおたふく風邪だとか色々あるので、
それぞれに対応した形になるということなのだが。
それじゃあ、B細胞に関して、それはどんな感じで成熟していくのかを、
ちょっと簡単に考えて行きたいと思います。
B細胞の成熟には、一次リンパ組織、これは骨髄なんだけれども、
そこで行われるものと、
二次リンパ組織、これは脾臓とかリンパ節とかなんだけれども、
そこで行われるものがあって、
一次リンパ組織で行われるのは、さっき言った、造血と免疫寛容です。
そんで、免疫寛容で生き残ったリンパ球には、
抗原をキャッチする、チョキみたいなレセプターが生えてくる。
免疫グロブリンというんだけれども。
で、この一次リンパ組織での成熟で重要なのは、
まだ抗原に触れていないという事なんだね。
麻疹だ、水疱瘡だの病原菌に触れていない。
触れてないんだけれども麻疹用だ、水疱瘡用だのグロブリンが生えてくる。
あんまりイメージ出来ないと思うんで、模式図的に言うと、
このグロブリンっていうのは、グローブに似ていて、
抗原をその先っぽでキャッチするんだけれども。
グローブにも、野球用、ソフトボール用、クリケット用と色々あるよね。
だけれども、どんなボールが飛んでくるか分らないので、
色々なタイプのグローブが用意される、みたいな感じで、
どんな抗原が飛んでくるか分らないので、色々なグロブリンが用意される、
みたいな感じ。
麻疹用グロブリン、とか、水疱瘡用グロブリンとか。
まぁ、そういうのが一次リンパ組織で行われることなんだけれども。
それから今度は二次リンパ組織だけれども、
今度は、そのグロブリンというかグローブが、
腋だの股だのにあるリンパ節に流れていって、
そこで実際に抗原と出会って、リンパ球の成熟が起きる。
これは、一回ハシカにかかれば二度とかからない、みたいなものだけれども。
これも模式図的に言うと、
野球のグローブも最初は硬くてボールをキャッチしづらくて
落球したりするけれども、
何回も使っている内に、段々馴染んできて、ボールを掴みやすくなるでしょう。
ああいう感じで、リンパ球の表面のグローブリン、じゃなくて、グロブリンも、
一回ハシカにかかれば、段々馴染んできて、ハシカの抗原を掴みやすくなるから、
もうハシカにはならない。
とまぁ、そういう事が、リンパ節で起こる。

以上の様な、一次リンパ組織と二次リンパ組織で行われる成熟を、
クローン選択説と言い、これが現在の定説とされているんだね。
文言としては、リンパ球は、“あらかじめ”“ひとそろいの”クローンを
遺伝子の中にもっていて、「抗原刺激を受けて更に成熟する」と説明されている。
ここでちょっと補足というか、ここで“ひとそろいの”とか言われているけれども、
実際には人間の免疫グロブリンの種類なんて100億以上あるんだよね。
そうすると、それをもしゲノムでまかなおうとすると、
ヒトの遺伝子なんて2万余りなので、全然足りないんだよね。
だから、この100億の多様性はどっから来るんだろうか、
というのがずーっと大問題だった。
それを解決したのが、有名な利根川進の実験で、利根川進は何を証明したのか。
それは、グロブリンの先っぽには、VDJC部と言われる部分があるのだが、


    CC
    CC
    CC
    CC
   C  C
  J    J
 D      D
V        V

こんな感じに。
このグロブリンの先っぽもタンパク質で出来ているので、
リンパ球の中の遺伝子が解けて、mRNAに転写されて、
核外に出てきて、アミノ酸を集めて、グロブリンを作る、って感じなんだけれども。
リンパ球の遺伝子が解けた時に、
VDJに相当する遺伝子の部分にはそれぞれにイントロンがあって、
それが、Ω状に、くるくるっと丸まって、そういうVDJ部にC部がくっついて
鋳型鎖を作る、これをμ鎖というのだが、
そういうふうになっている、というのを利根川進は実験で証明したんだよ。
そういう訳で、μ鎖は色々なタイプにくるくる丸まっているのだから、
それを計算すると、100億以上の免疫グロブリンが出来る、という計算になる。
そして、これは、一次リンパで行われるので、つまり抗原刺激なしに行われるので、
“あらかじめ”という事になる。
そして、これらのリンパ球がリンパ節に流れていって、そこで初めて、
麻疹だ水疱瘡だの抗原と出会って、「抗原刺激を受けて更に成熟する」、
という順番になる。
以上、長々とクローン選択説について喋ってきたが、分かった?
というか、ここからがやっと本番なんだが。
本日の授業の目的は、リンパ球の成熟に関して、クローン選択説と、
過剰と去勢、みたいな見方とを比較することだったよね。
じゃあ、その過剰と去勢、みたいな見方だと、どう違うのか。
それは、グロブリンの先っぽが出来る時のメカニズムに対する考え方が違う。
というか、クローン選択説においては、順番は説明されていても、
メカニズムは言われていなかったんじゃないか。
メカニズムというのは、例えば私は、遺伝子の複製に関して、
それは、鋳型鎖を鋳型にして、DNAポリメラーゼに宿った磁気をエネルギーにして
行われると言ったが、
そういうふうに、何を鋳型にしていて、何のエネルギーで行われる、
ということを言わないと、メカニズムを言った事にはならないんだよね。
だけれども、クローン選択説ではそんなことは全く言われていない。
では、私の説ではどうかというと、まず、二次リンパに関して言うと、
前述のμ鎖から転写されたmRNAを鋳型にして
免疫グロブリンの先っぽが合成されるのだけれども、
その時のエネルギーになるのは何かというと、リンパ節に宿っている磁気だ!、
と、私は言いたいのである。
あと、その時に、mRNAの近くに抗原があると、
mRNAの一部がΩ状に飛び出して、その部分がイントロンになって、
その部分だけはグロブリンの先っぽにはならないので、
それが抗原刺激による成熟ということになる。
それから、一次リンパにおいては、何をエネルギーにしてμ鎖がよじれるのか、
という事だが、やっぱり、リンパ節に宿っている磁気だと思うんだよねぇ。
ただ、μ鎖がよじれる時には、VDJ部からそれぞれ一個だけ選ばれてきて、
他はイントロンとして捨てられる、という選択が行われるんだけれども、
何を鋳型にしてそういう選択をしているのかが、分らないんだよねぇ。
まだ抗原刺激は無い訳だし、…せいぜい言えるのは、
一次リンパ組織というのは骨髄だから、骨髄のどの位置にある時にμ鎖がよじれたか、
によって、磁気の状態も違うからよじれ方も違う、程度しか言えない。
これに関しては、後でもしHOX遺伝子に関して述べることがあったら、
その箇所が参考になるかも知れないんだが。

まぁ、以上が、私の説で、これを、クローン選択説に対抗して、
クーロン選択説と命名したい。
みなさん、私の話を聞いていて、分かった?
随分長々と喋ってしまった気がするが、
しかも、ほとんどがクローン選択説についてであった気もするが。
本当はクーロン選択説だけ言えばよかったんだけれども、
それだと諸君が理解出来ないと思って、
長々とクローン選択説について喋ってしまったけれども、
なんかそうすると、私の授業というよりかは、
人の研究を引き写してきただけじゃないか、と思われそうだけれども。
だけれども、遺伝子がμ鎖に組み変わる場合でも、
μ鎖から出来たmRNAがスプライシングを起こす場合でも、
その原動力が磁気である!、…これはもう、
遺伝子がΩ状に飛び出している格好を見た瞬間に、
こりゃあ磁気ネックレスにそっくりだ、これはもう磁気に違いない、
と私は確信していたのだが、…しかしこれを言うのは本当に勇気の要ることで、
一歩間違えば、教職を追われるどころか、精神病院に入れられかねない、
それぐらいの革命的な意見だと私は思っているんだな。
であるからして、話の前段として、現在の定説を延々引用したとしても、
実は磁気だ! というのがあまりにもコロンブスの卵的なものなので、
全体のオリジナリティは損なわれないと考えるのであーる。
理解してもらえる?
眠くなっちゃったかな。
まあ。これで、今晩の予定は終了なのだが。
…あと、そうそう、約束の春田君との絡みだが、それをちょっと述べておこうか。
これは、なんとなく今晩の講義に関連させて思った事なのだが。
今夜の授業では、免疫グロブリンの先っぽの多様性という、
随分微小な事を話をしたんだけれども、
そんなことと、春田君や牛島君の人格と関係あるの? と思うかも知れないが。
ただ、こう考えれば関係あるんだよ。
つまり、牛島君のごつい体格というのは 遺伝子がそのままそうなった訳ではなく、
遺伝子から何らか物質が出来て、それがタンパク質と結合して、骨を太くしている、
結果として骨髄の磁力を大きくしている、と考える。
同じように、その何らかの物質が作用して、リンパ節も大きくしていて、
結果として、リンパ節の磁力も大きくしていると考える。
そして、そういう事が、恐らく脳においても起こっていて、
その何らかの物質が、ニューロン周辺の或る部位を肥大させていて、
その部分に磁気が宿っていて、
それで、磁気モーメントの影響で電子のスピンが加速するみたいな感じで、
イオンの流れがシャープになる、
だから、牛島の様なごつい奴はキレやすいのだ、と、
そういうふうに考えれば…。
そうすると、免疫グロブリンの多様性という微小な事と、
牛島君の体格や性格といったことは関係があったんだ、と言えるんじゃないのか。
そうすると計らずも、或る生徒の言っている、
牛島君は性染色体が濃いから体格は骨太になり 性格はキレやすく、
春田君は性染色体が薄いから浮腫んでいて、性格は場当たり的、
という考えと、一致するんだよね。
ただ、この生徒は、Y染色体が多いと何故キレやすいのかのメカニズムについては
何も言っていないんだな。
その点、私は、何らかの物質がタンパク質と結合して、
骨も、リンパ節も、脳内の或る部位も肥大させる、
そして、そこに磁気が宿って、磁気モーメント的に、
云々というメカニズム言っているので、
私の方がよりガチなんじゃないか、と思うんだよね。
私は、一番最初の放送で、諸君らのことをガチで知りたい、
本当のところを知りたいと言ったと思うのだが、覚えているだろうか。

さて、それでは今日はこのへんか。
今日は疲れたねぇ。
えー、次回は5時スタートなので、その前にバッテリーをセットして、
ディスプレイの前で体育座りをして待っていて下さい。
別に丸椅子に座っていてもいいのだが。
それじゃあ皆さん、おやすみなさい。





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