AWC ◆シビレ湖殺人事件 第1章・ヒヨリー5



#1037/1158 ●連載
★タイトル (sab     )  16/01/15  16:39  (100)
◆シビレ湖殺人事件 第1章・ヒヨリー5
★内容
ぎーぎー椅子を鳴らして立ち上がる、と、丸椅子をまたいで廊下に集中した。
さっき来た廊下を突き当たりまで戻ると、全員で地下へ通じる階段を覗き込んだ。
「何も見えね」と先頭の牛島。
「携帯のライトは点くんじゃないか」
携帯を取り出すと春田はライトを点灯させた。
二人はその明かりを頼りに階段を下まで降りて行くと暗い地下室の中へ入って行った。
「ランプがあるぞ」、「チャッカマンもある」、とかいう会話が聞こえてくる。
やがて明かりが灯った。
そして他のメンバーもぞろぞろと入って行く。

部屋の中はひんやりとしていた。
牛島がランプを持ち上げると部屋の様子が浮き上がる。
広さとしては、10畳ぐらい。
真ん中が鉄格子で仕切られている。
「『羊達の沈黙』みてーだな」
「『O嬢の物語』って話もあるよ」
「ふざけんな」とミキ。
牛島が鉄格子の入口を押す。きーっ、と如何にもな音がした。「鍵はねーんだな」。
ランプをかざして突き当たりの壁を見る。
壁の上部に2箇所、ダルマストーブの窓みたいな観音扉があった。
牛島は背伸びをして、それを開けた。
すーっと光が入ってきた。
部屋全体が、薄暗いが、見えてきた。
がらーんとした牢屋の隅に毛布がかかった何かがある。
牛島がそこに行ってしゃがむと毛布のすみを引っ張った。
「白骨死体だったりして…。なーんだ、こりゃ。さしすせそだ」
砂糖、塩、酢、醤油、味噌の容器。
「さしすせそ、の“そ”ってソースの“そ”じゃないの?」
「味噌だろう」
味噌? だったら無添加かどうかチェックしないと。突然私は割って入ると、
しゃがみ込んで味噌を取る。
陽の光にかざしてラベルをチェックする。
「よかった。カツオエキスとか入ってなくて」
「オメー、甘いんじゃねーの」牛島は自分の背後の壁を指さした。「これを見てみな」
そこには、鋤、鍬、ナタ、モリ…。鍋と刃渡り15センチ位のナイフもあった。
牛島はナイフを取り上げると、「最後日にはこれで牛の腹を裂くんだぜ」と言った。
「そんなんで刺したら蹴飛ばされるんじゃない?」と春田。
「じゃあこれ?」とモリを指す。
「それは漁に使うんじゃない?」
「ヨーコがと畜に詳しい」とミキ。
「ほんと?」。後方のヨーコに問いかける。
「ガールスカウトで殺していたんだよね」
「見学に行ったんだよ」とヨーコが低い声で言った。「そこに転がっている畜産銃で
失神させるんだよ」
えっ、みたいに驚いて、牛島は、足元に転がっている銃を見た。
電動ドリルみたいな銃。
「それからお腹を割いて、逆さにつるして血を抜くんだよ」
「へー。そんじゃあ、そういうのはオメーに任せるよ」
「びびってんじゃないの?」と私。
「びびってねーよ。ただ、牛殺しなんて、ウィリー・ウィリアムスじゃねーんだから」
「あれは熊殺しだろ。牛殺しは大山デス」と春田が正拳突き。

地下室から這い出してくると、今度はミシミシいう階段を上って2階に行った。
上がってすぐのところに浄化槽式のトイレがあった。
窓から顔を出すと屋根にポリタンクが見えた。水はあそこから流れてくるんだろう。
客室は、廊下の右手に3室並んであった。
一番手前の部屋に入って窓際に立つと湖が一望出来た。
手前に窓枠、その向こうに樹木が生い茂っていて、その向こうに湖、
という順番になっていて、ジオラマみたいな遠近感がある。
「こりゃあ、いい眺めだ。夜になったら神秘的かも」と春田が言った。
「じゃあ俺、ヨーコと」と突然牛島が。
「じゃあ俺はミキ」と春田。
「ずうずうしいんじゃなーい」とミキ。
なんでこいつら、すぐオスメスでべたべた張り付くんだろう。
「つーか、何で男女なの?」と私は不平を言った。
「女同士にしたって誰か一組は男女になるんだぜ。だからみんな男女にした方が
公平だろ」
「それに、ナベサダも生殖能力がどうとか言っていなかった?」
「いちいちイヤらしいこと言わないで」
「冗談です」
私はなんとなく斉木を顔を見合わせた。苦笑い。

そんな感じで、二階見学が終わると食堂に戻ってきて丸椅子に着席。
「私、ノド渇いちゃったんだけど。そこの水、ないの?」とミキがキッチンコーナーの
蛇口を指さした。
春田がコマネズミのように飛んで行ってひねると、一瞬、ざーっと出たが、
すぐにゴボゴボいって今のが最後の水だったのが分かる。
「はぁー」とうなだれるミキ。
春田は、戻ってくると、空のペットを振った。「湖で汲んでこようか」
「つーか、あんなの飲めんの」と私。
「腹、下っしゃうかなあ」
「トイレの水も、もうないよ」
「それも汲んでくるか」
「何に汲んでくるのよ。鍋?」
「裏口にバケツがあった」とミキが言った。
「いっそのこと、湖でやっちゃえばいいか」
「ダメだよ、そんな事したら湖が汚れるじゃない。大事な飲み水なんだから…。
つーか泊まる気?」私は牛島に振った。
「えぇー。今から帰んのかよ。今何時だよ」
「もう3時」
「今から帰っても日が暮れちゃうなあ」と春田。
「芋食って一泊するっていうのはどうよ?」と牛島。
「じゃが芋だったら味噌汁に入れると美味しいんだよ」突然ヨーコが言った。
「さつま芋だったらどうする?」
「さつま芋でも美味しいよ。かぼちゃみたいで、おほうとうみたいになる」
「そんなのいいからどうすんの」と私。
「じゃあ、とりあえず、芋掘りをして一泊して明朝下山、っていうのはどうよ」
「俺らはそれでいいよ」。春田とミキはなんとなく目配せしていた。
私は斉木を見た。
「僕もそれでいい」と彼は言った。




#1038/1158 ●連載    *** コメント #1037 ***
★タイトル (sab     )  16/01/15  16:39  (210)
◆シビレ湖殺人事件 第1章・ヒヨリー6
★内容
テラスから降りて行ったところの湖畔には船着き場があって、
一艘のボートがけい留されていた。
そこで、女子3人で、待っていた。
ミキがペットに入れた湖水を陽の光にかざして、「これ、飲めんのぉ?」と言った。
「平気だよ、そんぐらい」とヨーコ。
「じゃあ飲んでみなよ」
そしてヨーコが飲む。
「臭くない?」
「別に」
ミキも一口飲む。口をへの字に結んだ。水面を見つつ、Tシャツの裾を
パタパタさせて、「後で泳ごうかなぁー」と言った。
「水着、持ってきたんだ」と私。
「スピードのこんなやつ」と片手でコマネチのポーズをする。
「あんまりセクシーオーラ出さないでよ。あいつらその気になったらどうするのよ」
「えー、そんな事心配しているのぉ?」
と、馬鹿にしたように私を見下す。お前なんて襲われる訳ないだろ、みたいな。
自分の顔色が曇るのが分かる。
ミキはペットの水をあおって、手の甲で口をぬぐいながら、ロッジの方を睨んだ。

そっちを見ると、テラスから、農機具を担いだ牛島と春田と、
しんがりに斉木が出てくるところだった。
牛島はタオルを頭に巻いていて、Tシャツを肩までまくっていて、
Gパンを膝までまくっていて、新島のナンパ師風情。
斉木だけカッターシャツを着ていた。手に持っているのは地図だろうか。

「おーい、行くぞー」と牛島に怒鳴られて、自分らも男子と合流した。
湖畔をぐるり一周回っている小道に出る。
道幅が狭いので、私らは一列縦隊で歩いた。
小道の上に、森の樹木が傘のようにせり出してきている。
陽のあたる箇所はレタスのような薄い色、日陰ではブロッコリーのような濃い緑色を
している。
小道は乾燥していて、みんなが歩くと、じゃりじゃり音がした。
時々誰かが小石を蹴飛ばすと湖面に飛んで行って水面に波紋が広がった。
湖水はマリモでも浮かんでいそうな緑色なのだが、
これは水自体は澄んでいるのだが、湖底が緑亀のお腹みたいな色をしているんだと
思う。
ここはどこからも川が注いでないカルデラ湖なので、有機物が沈殿して、
鍾乳洞みたいになっちゃんたんじゃないか。

最初の脇道が見えてくると、ナビの斉木が「あそこだ」と指差した。
私らはその脇道を右折してぞろぞろと入って行った。
そこは、樹木が絡み合って筒状になっていて、ところどころ蔦が垂れ下がっていて、
私らは身を低くして通って行った。
そこを通り抜けると、突然、ぱっと開けた空間に出た。
周囲は森なのだが、そこだけ畑になっていて、青空が見える。
その畑の真ん中に、茶色く穿り返した箇所があった。
「あそこじゃねーか」と牛島が指差した。
そして私らはそこを目指して、あぜ道を歩き、
乾いた用水路をまたいで、進んでいった。
そして着いてみると、そこだけ一坪ぐらい、
モグラが穿り返したみたいに耕してあった。
「ここかぁ」牛島は鍬を地面におろすとつっかえ棒にした。
「ここしかないよね。他に耕したところ、無いしね」と春田はあたりを見回した。
牛島、春田、斉木、ミキ、ヨーコ、そして私が畑を取り囲んで見下ろしている。
「じゃあ、いっちょ耕してみっか」言うと、靴が汚れるのも構わずに、
牛島は泥の中に入って行った。
ケッズかコンバースのバッシュが泥で汚れた。あとで洗わないと。
「よしお前ら下がってろ」言うと、手にぺっぺっと唾をつける。
鍬を振り上げると、乱暴に振り下ろした。
「よいっしょっとー」
ずぼっと突き刺さった鍬を、テコの原理で返して、土を穿り返す。
ごろごろーっと芋が出てきた。
「おーっ」と一同どよめく。
「おーいみんな引っ張れ」
「手袋が無いんだよ」
「素手でやれよ」
春田と斉木は顔を見合わせて躊躇っていた。
「やれっつーんだよ」
チッと舌を鳴らしてから、二人は畑に降りて行った。
芋の蔓を引っ張ると、文字通り芋づる式に芋が出てくる。
それを素手で掴んで畑の脇に寄せておく。
一通り芋が避けらるのを見ると、又牛島が掘り起こす。
「よいしょっとー」
そして、春田、斉木が、引っ張っては、出てきた芋を、脇に寄せる。
そんなのを15分もやっている内に掘り尽くしてしまった。
「あっちっちっ」言いながら牛島が畑から上がってくる。「農業体験つっても、
これかよ」
「まぁ、こんなもんでしょ。芋掘りとかイチゴ狩りなんていうのは」
手を叩いて泥を落としながら春田が言った。
3メートル四方の一辺に掘り起こされた芋がごろごろと並んでいる。
「どうやって持ち帰るかだな」足で芋をごろごろさせながら牛島が言った。
「袋、忘れたもんね。誰かもっていない?」と春田がみんなに聞いた。「ミキ、
もっていない?」
「もってる訳ないじゃん」
「ヨーコは?」
「もってない。けど…」
「けど、なに?」
「袋はもっていないけれども、ゴミ袋にされたのは思い出した」
「はぁ?」
「私、ゴミ袋にされたのを思い出した。このじゃが芋を見ていて」
「はぁ?」
「私、中学校の頃、カレーが出ると豚肉は全部食べさせられたの、ヒヨリに。
あれって私をゴミ袋にしていたんでしょう」
何を言い出すんだろう、このモンチッチは、突然。
私はとりあえずその場を繕うように「違うよ違うよ」と言った。
「あれは、ほら、あんたが栄養不足でお乳が大きくならないっていうから、
やったんじゃなかったっけ?」
「でも、あんなホルモン豚肉を食べ過ぎたんで、こんな鳩胸になっちゃった」
「それは、あんたの体質だから私の責任じゃないよ」
「でも肉を食べられなかったのは事実でしょう」
「私は食べられないし、あんたはお乳が小さいから、両方にとって都合がいいから、
winwinの関係じゃない」
「じゃあ、あの時私がいなかったらどうしたの」
「そうしたら自分で食べたよ」
「嘘。そうしたら財布の中からゴミ袋を出してそれに捨てるんでしょ」
「そんなもの持っている訳ないじゃん」
「持っているよ。今でも財布の中に入っているんだから。だから、この人が
袋を持っている」と痴漢でも指差すように指差した。
「本当かよ」牛島がこっちに迫ってきた。「本当にそんなもの持ってんのかよ」
「そんなもの持っている訳ないじゃん」私は後ずさる。
と、いきなり後ろから春田が、財布を抜いた。
「取りぃ」
「なにすんの、返して」と飛び掛る。
が、ほーらよ、と牛島に放り投げた。
牛島はそれをキャッチすると、鍬の柄で尻を支えて、くるりと後ろを向いて、
財布の中身を漁りだした。
「勝手に見るなよ」と取り返そうとする。
しかし、でかい背中でガードしながらカードや免許証の隙間をチェックして、
とうとう、間に挟まっているイトーヨーカドーのレジ袋を見付ける。
「なーんだ、こりゃあ」レジ袋をびらびらと広げながら言った。
「そ、それは急な買い物の時に、エコバッグの代わりに…」
「そんな事するわけねーだろ、主婦じゃあるまいし」
「つーか、別にあんたに関係ないし」私は突然ぶ然として言った。
「おめー、合宿で出てきた肉や魚を捨てる積りでいるんだろう」
「関係ねーだろう。つーか芋食って帰るんだろう」
「そうだな。今日はそうかもな知んねーな」
牛島は、よっこいしょ、って感じで鍬を肩に担ぐ、と、胸を反らした。
指先にレジ袋を引っ掛けてひらひら揺らしている。
「ただなぁ、俺が言いたかったのはよぉ、このキャンプ場の飯にしても給食にしても、
これからおめーが食う色々な飯にしても、嫌いなら嫌いでしょうがないけど、
それをこんな袋に入れて、こっそり捨てるっつー根性が気に入らねーって
言ってんだよォォオ」と突然でかい声を出すと、レジ袋を指から落として、
それがひらひらと舞って、地面に着地する瞬間に、鍬でドンと押さえた。
私はびっくりして身を固くした。
が、隣にいたミキが、「痛いッ」と言うと頬を押さえてうずくまった。
「えっ、なんか飛んだ?」急に不安そうなって牛島が覗き込んだ。
が、ミキはますます首を引っ込める。
「ちょっと見せてみな」とミキの顔に手を伸ばす。
「触らないでよ」と頬を押さえたまま、ミキは右肘でガードした。
「ちょっと、いいから見せてみな」
「触らないで、ってんだよ」と右肘でガート。「つーか何で芋ぐらいで切れてんだよ」
「切れてねーよ」
「切れてるわよ」
「切れてねーよ」と又ミキの頬を覗き込む。
「触るな、ってんの」と右肘でガード。
「ったく」牛島は困り果てて両手をだらりとさせた。
皆はというと、春田はすっとぼけているし、ヨーコは元々そんな権力ないし。
「まぁまぁ、そうもめないで」と斉木が火中の栗を拾った
「なんだ、おめーは」牛島がマングース並の敏捷さ斉木を睨む。「だったらお前が
どうにかしろよ。この芋をよお」
「えー。僕だって袋なんて持っていないし」
「なんでお前だけカッターシャツ着てんだよ。それに包んで行くから、
それを脱げよ」
「えー」
「その下にTシャツ着てんだろ。脱いだっていいだろう」
「分かったよ」言いつつしぶしぶ脱いだ。
カッターシャツが、泥付きじゃが芋の上をひらひらと舞った。
アンダーがユニクロか何かのぴちっとしたもので、痩せている割には妙におっぱいが
あるな、と思った。マリリン・マンソンみたいな。

「よーし。じゃあ包むか」と牛島が号令をかけた。
「それにしても泥だらけだな。これじゃあ泥を運ぶようなものだ」と春田。
「そうだなあ」言いながら辺りを見回した。「あそこのドブみたいなところが
本当は水が流れていたんじゃないの?」
それはさっき跨いで通ってきた空の用水路だった。
目で追っていくと、その先は小高い丘になっていて錆びた鉄の水門が見える。
「あそこを開けりゃあ水が出てくるんじゃねーのか。おい、誰か見てこい。
お前行ってこい」と又斉木がご指名される。
「えー」と斉木。
「いいから、行ってこいよ」
「いこっ」と私は斉木の腕を取った。

私と斉木は、背中に皆の視線を感じつつ、用水路脇のあぜ道を歩いて行った。
皆から十分に離れた、と思ったところで、私は斉木に言った。
「なんで、あいつ、ああやって切れる訳?」
「ニキビヅラだからだろ」
「え、なにそれ」
「彼は交感神経が敏感で、イラつきやすいんだよ。
あと、そういう奴は環境が変わると人間が変わっちゃうから、
それでヒヨリを敵視しているんじゃないの? 
だいたいヨーコとだってそんなに仲良かったとは思わないし」
ちらっと後ろを見ると、牛島とヨーコは、何気、肩を寄せあってる。
「ああいう奴が怖いのはさぁ、交感神経のスイッチングがやたらシャープで、
射精した瞬間にぱっと人が変わって、強姦殺人…とか言ったりなんかして」
「まじー」
もう一回振り返ると、牛島が気が付いて「早くいけー」と怒鳴った。
「冗談じゃねー」と私は呟いた。

すぐに水門に到着して、左右の土手から水門の上にのぼった。
水門は畳一枚分ぐらいあって、上に鉄のハンドルがついている。
水がめの大きさは銭湯ぐらいあって、なみなみと水が溜まっている。
「すっげー。どっから流れてきてんだろう」言いながら斉木は、
湖や周りの森を見回す。
畑の方で「あけろー」牛島が怒鳴っていた。
斉木は、軽く手を振って合図をする。
「そんじゃあ開けよっか」
土手の双方から鉄のハンドルに手を掛けた。
「じゃあ、いっせーのせーで行くよー、いっせーのせー」
で回し出したのだが、えらい軽い。
「空回り?」と私
「いや、ギア比の関係で軽いんだよ。でも少しずつ開いているからどんどん回そう」
そして私らは、どんどん回した。
少しして水がざーっと音をたてて流れ出した。
「もっともっと。全開になるまで」という声に促されてどんどん開ける。
水門が全開になると、水は、鉄砲水の勢いで用水路に流れ出した。
それは、真ん中の用水路から左右の畑に流れ込んでいった。
「畑じゃなくて田んぼだったのね」
水はみんなの居る芋畑に達した。
みんな、濡れるー、とか言いながら、足をじたばたさせていた。
私はほくそ笑むと、手に付いたサビをGパンの尻で叩いた。




#1039/1158 ●連載    *** コメント #1038 ***
★タイトル (sab     )  16/01/15  16:40  (120)
◆シビレ湖殺人事件 第1章・ヒヨリー7
★内容
ロッジに帰ると既に夕暮れ時だった。
夕陽が、森や湖面をオレンジ色に染めていた。
それは丸でみかんとかトマトが熟れる様な感じだった。
つまり昼間は青々としていたのに今ではすっかりオレンジ色なのだ。
私は、斉木と、桟橋に座って芋を剥いていた。
斉木が湖水で芋の泥を洗い流すと、
私は皮を剥いて、タオルの上に置いて、四つに切った。
桟橋の先から、どぼーんと音がしてきた。
スピードのミキが飛び込んだのだ。
Uターンして戻ってこようとすると、
春田が手の平でぴちゃぴちゃと水をかけて邪魔していた。
牛島とヨーコは部屋に居るんだろうか。
何気、ロッジを見ると、テラスから牛島が出てきたところだった。
みしみしと桟橋を歩いてくる。
私の背後まで来るとタオルの芋を覗いた。
「剥けばいいってもんじゃないんだぜ。燃料が一回分しかないんだから、
まずレトルトご飯を温めて、そのお湯で茹でるんだから、
もっと薄くスライスしないと」
「だったら自分でやれば」
「おー。自分でやるよ」
私はナイフを芋に突き刺すと、立ち上がった。
「斉木も来て」。ベッドを作らないと、とは言いづらいので、
「まだ荷物も解いていないし」と言う。

ロッジに戻ってきて、食堂に入ると、薄暗くて、
奥のキッチンではヨーコが鍋を煮立てていた。
それをスルーして廊下に出ると、裏口のところまで行って
Uターンして階段を上る。
ミシミシ、ミシミシ。
2階の一番手前の部屋に入って、窓を開け放つ。
ちょうど桟橋からみんなが戻ってくるところだった。
ミキ、春田の後ろから牛島が、芋を包んだタオルを持っているんだが、
追い立てる様にして歩いていた。
「早く芋を入れないとガスがもったいねーだろう」とかわめいている。
彼らがテラスの下に入ってくると、今度は室内からドタドタいう足音が響いてきた。
それが階段を上ってきて、部屋の前にキターと思ったら、
長身のミキ、キャベツ畑人形の春田が通り過ぎて行った。
「私が着替えている間は外で待っていて」というミキの声が、 
廊下の突き当たりから聞こえてくる。
そして、バタンと扉の閉まる音。
「開けたりしたら後で大変な事になるよ」というミキの声が、
ひと部屋はさんでいても、くぐもったた感じで聞こえてくる。
ってことは、真ん中の部屋は、牛島、ヨーコなのだが、これでは丸聞こえだな…
と思っていて思い出した。
「そういえば、さっき、交感神経がシャープだと強姦殺人をするとか
言っていたじゃない」私はベッドを作っている斉木に言った。「それって、
普通のセックスの後でも起こるの?」
「かも知んない」
「だったらやばいじゃん。隣の部屋」
「かも知んない」
「つーか、その交感神経がシャープになるってなんなの?」
「う。うーん」
「なんなの?」
「うーん、実は…」
「実は、なに?」
「これ、言っちゃってもいいのかなあ」
「いいよ。言っちゃえよ」
斉木は出来上がったベッドに腰掛けて言った。「実はね、
あいつは僕んちで生まれたんだよ」
「へー」
「そんで、父親が高齢だったんだよ」
「へー。そうするとなんかあるの」
「うーん」
「なんだよ」
「まぁ、色々な障害が出てきてさ、交感神経に問題が出たりして、
かーっとしやすくなったりするんだよ」
「なんかはっきりしないなぁ。なんか、医者の息子だから守秘義務でもあるの?」
私は小一時間問い詰めてやろうと思って、向かいのベッドに座った。
が、ばたんと廊下の奥の扉が閉まる音がして、
ミキ、春田が、ぱたぱた歩いてくる音が迫ってきた。
二人は入り口に差し掛かかって、「ご飯だってさ」と言って通り過ぎていく。
斉木も、くんくんと鼻をならしながら「本当だ、夕餉の匂いがする。
ああ、腹へったー。何時から食べていないんだろう」と言いつつ、腰を浮かせて、
ニオイを追いかけるように、部屋を出て行ってしまった。
くそーっ。逃げられた。
しかし、自分もくっついて行った。

キッチンに行くと、牛島が味噌汁の味見をしていて、
背後にヨーコがくっついていた。
こいつら夫婦かよ。
テーブルに行くと、春田がレトルトご飯の中身を、スナック菓子の銀紙の上に
ひっくり返していた。
「こうやって、これをお椀にするんだって」と空のレトルト容器をつまんだ。
「これが箸になるんだよ」と、レトルト容器の丸まった蓋を握る。
私も真似をして、ポテチのパッケージを広げると、レトルトご飯をひっくり返した。
炊きたてのパックご飯のに匂いが漂ってくる。
やがて、お玉をもった牛島が、鍋をもったヨーコを従えて、
キッチンコーナーから入ってきた。
「さあさあ、味噌汁が出来ましたよ」
シェフとウェイトレスみたいに、みんなのレトルト容器に注いで回った。
そして自分も着席。
「今日は色々あったけど、やっとご飯にありつけるね。
それじゃあ皆さんお手手とお手手を合わせて、いただきまーす。
ずーーっ。うめー」
そしてみんなもすすった。
私も、と、目の前の味噌汁と見て、ん? と思う。くんくんしてみる。ん?
「もしかして、出汁とか入れた?」
「そりゃあ入れるさ」当たり前の様に牛島が言った。
「味噌汁なんて出汁がなかったら、泥水みたいなもんじゃないか」
「何でわざわざ…、折角無添加だったのにぃ」恨めしく味噌汁を見る。
折角別の袋に入って添付されていたのに、混ぜちゃうなんて、意地悪さを感じる。
「そこまで駄目じゃあ、ヒヨリの方がおかしいんじゃないの?」
と春田が突っ込んできた。
「そこまで、じゃねーよ。本当のベジタリアンは顔のあるものは食べないんだよ。
たとえニボシでも。シラスでも」
「だからって俺らまでそれに付き合う筋合いはないよ」
「そうね。じゃあ私は勝手にご飯だけ食べるよ。塩で」
「駄目だ」と牛島が睨む。「俺の味噌汁を飲めねーっていうのか」
「なんであんたの味噌汁に付き合わなきゃいけないのよ」
「同じ釜の飯を食うって言うだろう。これだってカリキュラムの一環かも知れねーぞ」
「なにそのカリキュラムって。ただ単に帰るのが遅くなったから一泊しただけじゃん」
とか言い出して、別にこんな奴、説得しなくていいや、と思った。
自分はポテチの袋に乗ったご飯を持って立ち上がろうとした。
「いいよ。いいよ」と牛島が言う。「勝手にしな。だけれどもなぁ、いいかぁ、
これだけは忘れるなよ。お前みたいな奴はなぁ、
将来家庭を持っても味噌汁の味は作れないぞ。
つーかなあ、おめーみたいなのはなぁ、一生お一人様な気がするぜ」
私は立ち上がって睨むと、丸椅子をぎーっと足で押した。
「おいおい、お一人様ががんつけてきたぞ」
私は丸椅子を蹴飛ばして、ご飯を手のひらに退場した。




#1040/1158 ●連載    *** コメント #1039 ***
★タイトル (sab     )  16/01/15  16:40  (167)
◆シビレ湖殺人事件 第1章・ヒヨリー8
★内容
部屋に戻ると、ベッドの上にあぐらをかいて、ポテチの袋に乗ったご飯を、
犬みたいに食べた。
食べ終わると、ポテチの袋をたたんで結んで窓から捨てた。
月明かりが入ってきて、部屋の中は、ファミレスの駐車場ぐらいの明るさ。
微かに風が入ってきて、コケの様な有機体のニオイがする。
私は鼻で大きく息を吸った。
そして、体育座りをして顔を腿に押し付ける。
メリメリと階段が鳴った。
誰かが上ってくる。
ドアから覗いたのはミキと、斉木だった。
二人共、入ってくる。
「どうした。落ち込んだ?」ミキが肩に手を置いて言った。
そして隣に座る。
「二人に攻められたからね。牛島一人だったら、
あいつは交感神経がおかしいんだって言ってやれるんだけど」
私は、牛島は交感神経がおかしいからニキビが出来ていてキレやすいんだ、
と解説してやった。
「でも、春田までおかしいって言うんだったら私の方がおかしいんじゃない?」
「実は春田もおかしい」正面のベッドに腰を下ろしつつ斉木がぼそっと言った。
「はぁ。何言ってんの。今更。つーか、なんで、あんた、さっきからそうやって
実は実はと小出しするわけ。
つーか、春田も交感神経がおかしいの?
あいつなんてどっちかっていうとモチ肌って感じがするけど」
「モチ肌すぎるのもおかしいんだよ」
「なんだよそりゃ」
「ダウン症の人ってモチ肌でしょう」
「あいつダウン症なの?」
「そうじゃないけど」
「じゃあ何よ」
「これ、言ってもいいのかなあ」
「お前、どうして、さっきから人に興味と持たせておいて言わない訳?」それから
私はミキに言った。「…こいつはねぇ、
牛島がキレやすいのは交感神経がシャープだから、とか、
それは父親が高齢だったから、とか、
さっきから産婦人科系の知識をチラつかせておいて、
でも、はっきりとは言わないんだよ。
そんで今度は、春田も何かそれ系でおかしいとか言い出して言わない」
「なんなの、それ。そんな話があるんだったら私だって知りたいじゃない。
言いなさいよ」とミキは斉木のひざ小僧を掴んで揺さぶった。「言いなさいよぉ」
「じゃあ、ちょっと下ネタ、且つ、差別的内容を含むけれども、
この際言っちゃいますか」
そして斉木のした話は、ホントーかよ、と思うような話だった。
「色々聞いた話を再構築して言うんだけれども」と前置きしてから斉木は言った。
「うちのクリニックって不妊治療もやっているんだけれども、
不妊症の夫婦が来ると、旦那の方が、春田みたいな顔をしているんだよねぇ。
頭でっかちで眉毛が薄くて肩幅が狭くて、キャベツ畑みたいな感じ。
それで、精液を調べてみると、透明でザーメン臭が無いんだよ。
それで、染色体の検査をしてみると、XXYYなんだよ。
普通は男はXYだろ。それがXXYYなんだよ。
これは染色体異常でさぁ、ヌーナン症候群っていうんだよ。
それで、なんでこういう事が起こるかというと、
染色体異常だから受精の瞬間からおかしかったんだろうけど、
精子か卵子のどっちかに異常があったんだろうけど…、
多分、精子がおかしかったんだと思う。
男の染色体が精子になるには、複製したり交叉したり分離したりしながら、
XYがXに、更にそのXが分離してIみたいに、
どんどん減数をしていくんだけれども…。
多分このヌーナンの場合、この人の父親が丸高だったんだよ。
そうすると、父親が精子を作る時に、減数分裂が上手く行かないで、
分離しきれないで何かがくっついてきちゃって、奇形の精子が出来ちゃったんだよ。
この場合だと、XYYという奇形精子が出来たんだと思う。
それを、卵子Xが受精して、
それで、このヌーナンの染色体がXXYYになる、と。
それで、それが育つと、春田君みたいなキャベツ畑人形になるんだけれども。
何でXXYYだとそうなるかというメカニズムは分からないけれども、
感じとして、受容体がないっていうか、骨とか筋肉とかが貧弱だから、
食べても食べても吸収されないで、浮腫む、つまりモチ肌になるんじゃないかと。
染色体異常が顔に出るというのは信じられないかも知れないけれども、
ダウン症だって見れば分かるでしょう? 春田君って何気、ダウン症入っていない?」
私らは想像して…、「入っている入っている」とガクガク頷いた。
「浮腫だけじゃなくて、どんぐり眼という特徴もあるんだよね。
瞼とかにも染色体が出るんだよねぇ。
ダウン症とかゲイとかってどんぐり眼だと思わない? 
ゲイを公言している英米のロックスターを想像してみな」
と言われて想像してみる。「うーん、確かにそうだ」
「以上が春田君に起こっていること」
「へーー」
「それから牛島君だけれども、
ヌーナンの真逆っていうか、XYYっていう染色体異常もあるんだよ。
これも親の丸高で起こる染色体異常なんだけれども。
身体的には、身長が高くて、ニキビ面で、性格的にはすぐにキレる。
だから犯罪者に多いんだけれども。
つーか、北欧の刑務所で服役囚の染色体を調べたら多かったってことなんだけれど。
そうすると、これをさっきのと合わせて考えると、
XYY、XY、XXYYが、
半魚人、正常な人、キャベツ畑、という並びになって、
上の方が攻撃性が大って感じになるんだよね」
「へー」
「でも」と私は口を挟んだ。「その割には、春田って普通の人よりも攻撃的な感じも
しない?」
「まあY自体は多いからね。でも場当たり的だろう」
「場当たり的?」
「うん。春田君って場当たり的な感じがしない?」
そういえば、春田って場当たり的、というか、何で今? という事が多い。
例えば、クラスのコンパに遅刻してきて、「何をしていた」と聞くと、
「腹減ったんで途中でラーメンを食べてきた」とか。
さっき私に突っ込んできたのだって、ただあの場の雰囲気に乗ってきただけ、
って感じがする。
「まぁ、とにかく、そういう訳だから、半魚人がキレるのも染色体異常があっての事
だから、あれこれ自分が悪いのかも、とか考える事はないと思うよ」
「そんな奴が、たまたまクラスに二人もいるの?」とミキ。
「発生頻度は千人に一人ぐらいだけれども。
もっとも、千人に一人というよりかは、濃淡があるという気もするけど。
本当に濃い奴が一人居て、他の999人が真っ白、というよりかは、
薄い奴から濃い奴まで濃淡があるという感じだと思うけど。
ただ統計的には、千人に一人だから、学校に一人ぐらいは居るわけで、
校内で一番凶暴な奴が、身長が高くてでニキビ面だったら、疑ってもいいんじゃない?
 だから、単位を落とし奴が実は染色体異常だった、なんて事はあり得る」
「女子にもそういう異常はあるの?」私は自分の事が気になって聞いた。
自分も単位を落としているんだから。
「まあ、Y遺伝子に関する染色体異常だから、
とりあえず女子には関係ないんじゃない?」
「へー、すごいじゃなーい」とミキ。
「驚きだよねえ。牛島と春田がそういう奴らだったなんて」
「産婦人科医がそんな事まで分かるっていうのも驚きじゃなーい」
そういえばミキは斉木んちで産まれたのか。

とここで、私は、あれっ?と思った。
「だったら私が悪いんじゃないじゃん。あいつらの染色体に問題があるんじゃん。
特に牛島の。だったら即追放したいなぁ」
「何も即じゃなくたって、明日には下山じゃない」
「今夜じゃないと駄目だよ。だって…」
と言いかけたところで、誰かがメリメリと階段を上がってきた。
牛島か、と思って息を潜めた。
しかし、ドアのところに顔を出したのはキャベツ畑とモンチッチ、
春田とヨーコだった。
「何してんの」とキャベツ畑が首を突っ込んでくる
「ちょっとあんたらこっちにきな」と私は激しく手招きした。
そして春田を斉木の横に、ヨーコを私とミキの間に挟んで座らせた。
「みんな聞いて。牛島は即追放しないと駄目な事になったの」
「え、何の話?」
「牛島をこのままここに置いておくと今夜にでもこの子が強姦、だけじゃなく、
殺されてしまう可能性があるんだから」
「えっ」とヨーコはウサギのように体をビクつかせた。
「牛島には染色体に異常がある事が判明したの。
これはもうドクター斉木の診断だから確定しているのね。
その異常があると、強姦殺人をしたりするの。
つまり、あいつは、遅かれ早かれ刑務所のうすーい味噌汁をすする運命に
あるんだけれども、勿論それには出汁なんて入っていないんだけれども。
それはいいんだけれども。
とにかく、あいつを、即、除草しなければ、ヨーコの命が危ないの。
お前はどうする?」といきなり春田に矛先を向ける。
「えっ。そんなこと急に言われても…」
「考えている暇なんてないのよ、緊急事態なんだから。
あいつが染色体異常で、凶暴だというのは、もう医学的にそうなんだから、
どうにもならないんだから。
今日だって、田んぼで私に絡んできたし、さっきだって味噌汁で絡んできたでしょう。
そういうのはもうみんな医学的に分かっていたことなんだから。
そして、今夜にはこの子が強姦の上殺害される、っていうのも、
医学的に分かっているんだから。
それでも、放置しておくの?」
「そりゃあ、そんな事聞かされれば…。どうにかしなくちゃと思うけど」
「じゃあ、あんたも追放に賛成?」
「うう…うん。でもどうやって」
「今、何している?」
「明日のコースのチェックをしているけど」
「うーん」と唸って考えた。「私にいい考えがある」。指で合図して、
全員に顔を近づけさせると私は小声で言った。「あいつに武器を持たせて、
挑発してこっちに向けさせるのよ。そうしたら、半魚人が武器を向けた、
半魚人が武器を向けた、半魚人、半魚人、って連呼してキレる様に仕向けるのよ。
あいつはキレやすいからキレるんじゃない?」
「本当に刺してきたら?」
「そんなことをしたら完璧に向こうが悪いんだから、みんなで逃げてきて
ハブにすればいいんだよ。だから、まず誰かが武器を渡して…。春田君が…、いや、
ヨーコの方がいいか。春田君は地下からモリを持ってきて」
「今?」
「そうだよ。今だよ。私達は食堂の入り口で待っているからとってきて」




#1041/1158 ●連載    *** コメント #1040 ***
★タイトル (sab     )  16/01/15  16:41  (195)
◆シビレ湖殺人事件 第1章・ヒヨリー9
★内容
抜き足差し足で、階段を下りて廊下を進むと、私、ミキ、ヨーコ、と斉木は、
食堂のドアに張り付いた。
ドアの隙間から覗くと、牛島が、壁にかかっている道のりマップみたいなのを
携帯のライトで照らしていた。
休憩場所の見当でもつけているんだろう。
地下から春田が、メリメリ、ドタドタいわせながら、モリを持ってきた。
「しーしーっ」と指で合図しながら、それを受け取った。
ずっしりと重い。
ボートのオールの先っぽに火箸でも付けた様な感じで、
でっかい矢じりが付いている。
こんなんで刺されたら死んじゃう。
それをヨーコに渡す。
「いい? 指し棒にでもすればって渡すのよ。
頃合を見計らってみんなで突入するから」とヨーコの背中を押した。
そしてドアの影から見守る。
食堂は異様に明るい月光で照らされていた。
しかし足元まで明るいわけではなく、ヨーコが真ん中辺まで行くと
椅子がぎーと音を立てた。
「誰だッ」。 牛島がビクッとして振り返る。「あー、びっくりした。
そんなところで何をしているの。つーか、なんでそんなもの持ってんの」
「そこに立てかけてあったの。地図なんてこういうので指さないと
迫力無いなーと思って」と言って渡した。
「ふーん」受け取ると、ライフル銃の重さでも確かめる様に両手で握った。
「あの烏合の衆に言う事をきかせるには、いいかもしんねーな」
言うと、柄の方をグッと突き出して、ニーっと笑う。
「よし、今だ」私の掛け声で、全員が突入した。
牛島は、足音に反応して睨んできたが、テーブルのところで椅子をぎーぎー
鳴らしてやると、こっちの敵意に気付いたか、モリをがっちりと抱えた。
「なんだよ、お前らは」
「ヨーコ、こっちきな」ととりあえずヨーコを呼び戻す。
子供みたいに戻ってくると私らの後ろに隠れた。
「何もってんの? それで私らをビビらす積り? でも似合っているよ。
半漁人みたいで」と私は言った。
「なんだと」。このやろう、という怒りが顔に浮かぶ。
「半漁人みたいで似合っている、って言ったんだよ」と囁くように言った。
「てめぇ」口をゆがめると抱えていたモリをこっちに向けてきた。
予想通りの反応に、すかさず私は、「あっ、半漁人が刃物を向けてきた」と
振り返って言った。
他のみんながこぞって、
「えぇ、半魚人だって?」
「半魚人つーのがやべーな」
「きゃー、半魚人、こわーい」
と、繰り返す。
その内誰かが「半漁人、半漁人…」と小声で繰り返し始めた。
他の誰かがそれに乗っかり、声も段々大きくなり、手拍子も重なって、
だんだんとシュプレヒコールになっていく。
「半魚人、はんぎょじん、ほら、半漁人」と私らは連呼しながら、迫って行った。
「黙れーっ」と牛島は怒鳴った。
「半魚人、はんぎょじん…」
「黙れってんだろう。てめーらぶっ殺すぞ」
「半魚人、はんぎょじん、はんぎょじん…」
「ごるぁああああああ??」と絶叫すると、牛島はモリを放り投げた。
うわー、と全員がたじろいで、連呼は止まる。
しかし、牛島はぶるぶると震えながら、うずくまる様にして頭を抱えている。
そして顔を上げると、額から鼻筋にかけてYの字が浮き上がっているではないか。
Y遺伝子!
それから、爬虫類的蛇行で丸椅子を蹴飛ばしならテーブルに迫る、
と、テーブルに飛び乗った。
「てめーら、ふざけんじゃねー」
全員が逃げ惑う様を、肩で息をしながら睨んでいる。
そして、肩寄せ合って震えているミキとヨーコに狙いを定めると、床に飛び降りた。
ヨーコを捕獲して餌食にする気か。
ミキが「やめてー」と叫んでヨーコに覆いかぶさった。
何故か牛島は躊躇って、フリーズした。と思ったら、廊下に飛び出して行った。
だだだだーっと階段を駆け上る音。
それからメリメリと2階で動いている音がしてくる。
みんな固唾を飲んで天井を見上げていた。
と思ったら どどどどーっと、と階段を下る音。
「今度は地下に行ったぞ」と春田。
「武器でも取りに行ったのかな」と斉木。
しかし しばらくして、廊下をミシミシいわせて登場した牛島は、
リュックを背負ってランプを手に持っていた。
これから帰る積りか。
私ら全員を無視して、途中でモリを拾うと、テラスに向かった。
「どこ行くんだよ。危険だよ」かつてのよしみで春田が言った。
「うるせぇ」と血まなこで睨む。
そして牛島はテラスから月あかりの中に出て行った。
私らも全員でテラスに出ていって行方を見守った。
ランプを揺らしながら、山道の方へ歩いて行く牛島の背中が見える。
しかしすぐにロッジの影になって見えなくなってしまった。
今度は全員でキッチンコーナーへ行って、裏の窓を開けて見る。
牛島のランプが森の中で幹の陰になったり出てきたりして、
点いたり消えたりしている。
やがて完全に見えなくなると、誰かがため息をついた。
全員で、テーブルのところに戻ると、
倒れた丸椅子を元の位置に戻して、みんなで座って何気脱力。
「あんなに挑発するべきじゃなかったんじゃない?」と春田が言った。
「いやぁ、さっきのがXYYの本性だよ。
夜中になればあの調子でヨーコを襲ったんだから、これで正解だったんだよ」
「そうかねえ。みんなで追い詰めたからあんなんなったんじゃない?」
「自分だって、ノリノリで連呼していた癖に、
後になって後悔するのって、場当たり的だよね」
「まぁまぁ、もうこれ以上揉めない。今日はもうさっさと寝ちゃおう」
とミキが言った。
「放送は?」
「えー、あんなの見るの?」
「それ見て寝るか」
「そうだね」
話すことがなくなって、しばらくぼーっとしていた。
突然森の方から、「ぎょえーーーーーっ」という叫び声が響いてきた。
マンホールにでも吸い込まれていくような響き方だった。
「なんだッ」春田は裏窓のところに走って行って外を見た。
それから戻ってくると、「行ってみよう」と斉木の肩を叩いて、自分はテラスへ
出て行った。
斉木もそれに続く。
「もう、なんなのよー」とミキ。
「どうする?」と私は聞いた。
「もう面倒くさいよ」
「でも、とりあえず行ってみる?」
「うー、うん」
というんで、女子も後に続いた。

裏の山に入ると、私らは左に伸びている坂道を登った。
男子は既に先に行っていて、見えない。
一つ目の折り返しを右に曲がる。
森が鬱蒼としてくる。
木々の間から湖面が見える。小波に月光が反射してイカ墨パスタみたい。
「でも、虫の声とか全然聞こえないね」と真ん中のヨーコが言った。
「そうだよ。ここは地球じゃないんだよ。実は黄泉の国を彷徨っているんだよ」
と先頭のミキが、わーと振り返る。
ずずずーっとヨーコが滑ってくる。
「危ないじゃない。すべるんだから」としんがりで私が文句を言った。
しばらく行って、最初の平坦な道になったところで、男達の背中が見えてきた。
「おーい、どうした」向こうを見ている彼らにミキが言った。
「土砂崩れ」振り返って斉木が言う。「しかも、牛島がそこに引っかかっている」
「うっそー」
駆け寄ってみると 幅5メートルぐらい、深さは見えないのだが、
ずっぽり陥没していて、壁面からは、
植木鉢から引っこ抜いた植木みたいに、根が出ている。
そこに牛島がぶらさがっているのだ。
牛島は携帯の光で照らし出されていた。
地面から2メートルぐらいのところだろうか。
ナップの肩紐の片方を首に、もう片方が木の根に引っ掛けた状態で、
両手をだらーんと下に垂らしている。
「おーい」と斉木が呼びかけても反応しない。
「こんな崖、あったっけ」とミキが言った。
「活断層でもあったんじゃないの?」と春田。
「地震なんてあった?」
「俺らが騒いでいる時にあったのかも」
「そんな事より、彼をどうにかしないと」と斉木が言った。
「どうにかしてっ言われても、絶対届かないよ」
斉木は、とりあえず崖から顔を上げると、携帯のライトであたりを照らした。
「あそこにモリが落ちている」というと走って行って拾ってきた。
「このきっぽにロープを引っ掛けて、肩紐に通せば…」
「ロープなんてないよ」
「何か代替品は…。そうだ、ベルトだ。みんな、ベルトを外して」
言われるがままにベルトを外すと斉木の足元に投げた。
斉木は、みんなのベルトとつなぎ合わせると、バックルをモリの先にひっかけた。
そして、釣竿でもしならせるようにベルトを引っ張った。
そのまま崖っぷちにかがみ込むと、モリの先っぽで牛島の肩紐を狙う。
何回も空振った後、ようやっと肩紐に通った。
さらに数分かけて、モリの顎にバックルを引っ掛けてベルトを引っ張ってきた。
「よっしゃー」斉木はモリを脇に置くと、
ベルトを両手で引っ張って引っ掛かり具合を調べた。
「ばっちり引っ掛かっている。じゃあ、いっせーのせえで引き上げよう」
と春田に言った。
「じゃあ、いっせーのせえ」で、二人は、綱引きみたいに後ろに体重をかけた。
「まだまだ」とミキ。
「せーのせえ」
「まだ、もうちょっと」
「いっせーのせい」
牛島の両肩が出てきたところで、私やミキもリュックの肩紐に手をかけた。
そして全員で思いっきり引っ張る、と、ずるんと、
舟に引き上げられたシーラカンスの様に這い上がってきた。
なんとなくぬとぬとの牛島を全員で見下ろした。
「これ生きてんの?」とミキ。
「斉木、検視だ。医者になるんだろう」と春田が言った。
「えぇっ」と言いつつも、片膝をついて携帯のライトで瞳孔のチェックをした。
しかし分からないらしく、携帯を畳んでしまうと、頚動脈に指をあてた。
「脈拍はゼロだな」
「死亡って事?」
「どうるす?」とミキが春田に言った。
「って俺に聞かれても」
「置いていく訳に行かないでしょ」
「どうやって運ぶんだよ」
「春田君が背負って行く」
「やだよ。つーか、なんか生臭くない?」
「牛島がにおっているの?」と私。
「いや、土のニオイだろう」
「なんか、ここらへん一帯生臭くない?」
「もう、引き上げようよ。ねえ、春田君、担いじゃいなさいよ。男でしょう。
強いところ見せてよ」とミキが春田の肩を叩いた。
「エェエエ。じゃぁ斉木、せめて後ろから押さえていろよ」
「おっけー」
そして全員で春田に背負わせると、斉木が尻の辺りを押さえた。
女子3人が携帯のライトで山道を照らす中、
男子3人は、チャリの3人乗りみたいにグラグラしながら降りて行った。

ロッジに到着すると、そのまま地下室に降りていって、
鉄格子の向こうに、ごろりと下ろした。
おんぶしている間に死後硬直したらしく、牛島は招き猫の様な格好で転がった。
それからみんなで、地下室にあった食糧や武器を食堂に移動したのだが、
階段が狭いし暗いしで、何往復もせねばならず、すげー疲れた。
やっと運び終わった時に、ピッピッと腕時計のアラームが鳴った。
「放送の時間だ」息も絶え絶えの私はみんなに言った。




#1042/1158 ●連載    *** コメント #1041 ***
★タイトル (sab     )  16/01/15  16:42  (150)
◆シビレ湖殺人事件 第1章・ヒヨリー10
★内容
《 諸君、今日は一日お疲れ様でした。疲れたでしょ。
私もサボっていた訳じゃないんだよ。
さっきまで理系志望の生徒の相手に講義をやっていたんだから。
そんなんだから食事もまだで…だからちょっと失礼して、
今日は食べながら放送をしたいと思うんだが。
と言っても、ファーストフードぐらいしかないんだけど。これはビッグマックか。
じゃあちょっと失礼して。ガブッ。んー、うまい。ジューシーだ。
反対側から肉汁とかソースがこぼれるね。
さぁ、それじゃあ放送を始めたいと思います
諸君ら、疲れているかも知れないけど、授業は授業で、やってもらわないと。
何かあると授業を放り出してしまうのが落ちこぼれの悪い癖。
もっとも、放送は、今日を含めて、4、5回しかないので、
本当にエッセンスというか、トピックスを数個、
いや、一個言えるかどうかという感じなんだが。
そこで、これだけは伝えておきたい、というのは何か、と、生物Tと、
あとちょっとUにもかかる範囲で考えてみたんですが、
やっぱり、今時の高校の生物は、結構高分子になっていて、
DNAの複製とかタンパク質の合成とか、そういうのが柱になっているんだが…。
それはどういう感じかというと、君たち、教科書読んでいないだろうから、
ちょっとどんな感じか教えてやるけど、
タンパク質の合成というのは、
細胞の中に核があって、核の中に遺伝子があって、
その必要な部分がメッセージRANというのに転写されて核外に出てきて、
そこで、そこらへんに漂っているアミノ酸がひっついて、
それでタンパク質の合成、って事になるのだが。
ただ、ここで重要なのは、そのまま細胞外に放出されたりはしないで、
ゴルジ体というところで、調整が行われるということなんだよね。
ここで注目したいのは、このタンパク質の合成、というのと、ゴルジ体による調整、
というのは、なんか、過剰、と、去勢、という感じがしないか、
ということなんだけれども。
或いは、…タンパク質の合成と、遺伝子のコピーというのが高校生物では
重要だ、って言ったけれども…遺伝子のコピーについて言うと、
コピーをしたのはいいけれども、コピーに失敗して、がん細胞になっちゃった、
とかなったら、今度は、リンパ球が出てきて、がん細胞を攻撃するわけでしょう。
ここでも、がん細胞が発生するという過剰と、リンパ球による去勢という、
過剰と去勢がある。
この過剰と去勢というのが、トピックになるんじゃないかと私は考えているんだが。
ところで今リンパ球とか出てきたけれども、リンパ球ってなんだか知っている?
リンパ球っていうのは血液の一種で、
インフルエンザとか麻疹とかになったらそれが攻撃してくれるんだが。
このリンパ球が出来る時にも、この過剰と去勢っていうのがある。
このリンパ球はどこで出来るかというと、諸君らの腰骨の中に造血幹細胞という
10万個に一個と言われる幻の細胞があって、
そこから血とかリンパ球が増殖してくる。
ところが、その中に、自分を攻撃してしまうリンパ球がある。
これがあると、膠原病とかの自己免疫疾患になってしまうんだけれども。
だから、そうならない為にそれを取り除く作用があって、
これを免疫寛容というんだけれども。
だから、私が言いたかったのは、
造血幹細胞からリンパ球が増殖するという過剰があり、
一方で、自己免疫反応を起こす様なリンパ球を取り除く去勢もある、
ということなのだけれども。
そういう感じで、体のいたるところで、過剰と去勢、
ということが行われているのだけれども、
ここからは教科書からはちょっと離れてしまうのだが、ま、いいでしょう、
重要なのは、この過剰と去勢の去勢って、誰にとっての去勢なのか、
という事なんだね。
過剰というのは、太陽の光が泥の川に差してきて花が咲く、みたいな感じだから、
自体的に咲くという感じでいいんだけれども、
それを去勢するとなると、整える、という感じで、誰の為に整えるんだ、となってく
る。
とりあえず、自分にとっての去勢、と考えるだろうが、
でも、なんとなくおかしいと感じない? 
だって、自分を攻撃するから骨髄が免疫寛容をする、というと、
どうしてそんな機能が最初から備わっているんだろう、そんなの目的論的じゃないか、
って感じがしない? 
えー、生物学的にものを考える時の基本的なスタンスというのを、
ちょっと、ここで教えるが、
ダーウィンの『種の起源』で、
首の長いキリンと首の短いキリンがいて、餌が高いところにしかなかったので、
首の長いキリンが生き延びた、という場合に、
首の長いキリンは環境に適応する為に首を伸ばして行った、
って考えちゃダメなんだよ。こういうのは目的論と言って。
たまたま、首の長いキリンと、首の短いキリンがいて、
たまたま、餌が高いところにある、という環境が、首の長いキリンを選択した、
と考えないとダメなんだね。
つまり環境が遺伝子を選択したと考えるのが正しいスタンスなんだね。
そう考えると、この、骨髄に関して言うと、骨髄がリンパ球を選択した、というのは、
遺伝子が遺伝子を選択した様なもので、なんかおかしくない? 
そんな作用が遺伝子にあるのか、と思わない? 
環境が個体なり遺伝子なりを選択する、というふうに選択説的に考えるならば、
骨髄とか遺伝子とかいうローカルなものの外に、
もっとグローバルな環境を想定しないとおかしいでしょう。
ちょっと話を遺伝子に戻すと、
さっき、遺伝子のコピー失敗、
つまりがん細胞が出来るというのは過剰だと言ったけれども。
遺伝子をコピーする瞬間というのは、コピーというよりかは、
DNAポリメラーゼが元の遺伝子を鋳型にして、
そこらへんに漂っている塩基を選択する、って感じで、
これはどっちかというと、合わないものをはじく、という感じで、
去勢なんだよね。
そして、むしろ、このDNAポリメラーゼが塩基をびーっとくっつける時に、
びーっとズボンのチャックを上げていたら布に引っかかっちゃった、
みたいな感じで余計なものが出来ちゃったのががん細胞で、
どっちかというと、こっちが過剰なんだよね。
だから普通にDNAポリメラーゼが塩基を選択していくんだったら、
これは選択説的に行われているんだから、
やっぱり何かグローバルな外部からのエネルギーがないとおかしいんだよね。
といってもなかなかイメージ出来ないだろうから、ちょっと模式図的に言うと…。
遺伝子のコピーって、ながーい二重螺旋の一部が解けて、
丸で電車の線路が上下に分かれるみたいになるんだけれども、
そこに、一両編成の電車、これがDNAポリメラーゼだとして、
それを走らせて行くんだけれども、
でも、レールが片方しか無いと安定しないので、
もう一本、仮のレールを持ってきて走り出す。
そうやって走りながら、仮のレールを、どんどん継ぎ足していく、
という、この継ぎ足されたレールが新しい遺伝子で、
そういう感じでコピーが行われていって新しい遺伝子の鎖が出来るのだが。
そのコピーが行われている時に遺伝子が解けている場所って、
上側は左から右へ、下側は右から左へとなっていて、つまり上下線があるのですよ、
丸で電車の上り下りみたいに。
という事は、あれは化学合成というよりかは、
電車の様に外部から電気なり磁気なりを貰ってきてやっているんじゃないか。
何も奇想天外な事を言っている訳じゃなくて、普通に考えればそうならない? 
因みにDNAポリメラーゼというのは亜鉛酵素で出来ていて、
亜鉛酵素は反磁性だから自体的には磁石にはならない、が、磁気の影響は受ける。
亜鉛は脳にも多く含まれているけれども、
高圧線の下に住んでいると脳腫瘍になるとかいうのも関係あるんじゃないか。
だからつまり、遺伝子の複製というのは、遺伝子自らの作用ではなくて、
電車みたいに、外部から電気とか磁気とかを与えられてやっているんじゃないか、
と、私はイメージしているのだが。
あと、遺伝子って、内側に向かって二重螺旋だよねえ。
あれって、外部のエネルギーによるから、そうなんじゃないのか。
もし自分の力でコピーしているんだったら、
葉っぱみたいに外側に向かってシンメトリーになるんじゃないのか、とも思う。
まぁ、それはどうでもいいんだが、私が言いたかったのは、
もし、遺伝子の複製が外部の電気、磁気の作用によるのであれば、
一蓮托生、他の部位に関しても、同じことが言えるのであって、
ゴルジ体も骨髄も、何か外部の電気なり磁気なりの影響を受けて
作用しているのではないか。
つまりそれは宇宙の磁気なのではないか。
だから、リンパ球においては、造血という過剰があり、免疫寛容という去勢がある、
と言ったが、後者は、宇宙の磁気によるんじゃないか…。
…という訳なんだが、どうかね。
いきなりちょっと突っ走りすぎた気もするが。
以上は私の説なんだが、みんなにはどう聞こえるかね。
お前らみたいな低偏差値の落ちこぼれには、馬の耳に念仏かね。
それとも、理解できて、なお、基地外が知ったかしていると聞こえるかね。
或いは、理解出来て、さもありなんと思ってくれたら一番嬉しいのだが。
さて、今日は初日ということで、こんなところ終わりにしたいと思うんですが。
ところで、そうそう、今日話した事が、亡くなった生徒、牛島君っていったっけか、
彼となんの関係があるんだ、という気持ちはあるかも知れないけれども、
それは、2回目、3回目になれば、だんだんと関係してくる、かも知れない。
えー、それじゃあ今日はこれで終わりにします。
次回の放送は明日の5時になります。
その時間になったらバッテリーを入れてディスプレイの前で待っていて下さい。
それではみなさん、今夜はよく眠って明日のカリキュラムに備えて下さい。
それではみなさん、又明日》

プチッ。




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