AWC お題>デュエット  《マスカット》


        
#1296/1336 短編
★タイトル (QKD     )  00/12/22  05:14  ( 70)
お題>デュエット                      《マスカット》
★内容

陽子がその噂を聞いたのはもう随分前の事だった。誰も本気で信じる事
はないだろうが、確かにロマンティックな話だなと陽子は思った。


なんでも・・・陽子の街から車で1時間ほどのところに結構大きな湖が
あって、その湖畔に愛し合う二人が立ってデュエットをすると・・・
その二人は必ず幸せになれるという噂だった。

ただ、この噂はこれだけではなかった。ただし・・・というのがついている
のだった。


陽子は良介を愛していた。陽子にとっては多分生涯一度でいいと思える程の愛
だった。彼と陽子はあるボランティア活動で知り合った。汗をかきながら
笑顔で施設のフェンスの修理をする良介を見た時から陽子の愛は始まって
いた。何度か話すうちに二人きりで逢うようになった。良介は何時も
熱っぽく自分の夢を話した。そんな彼を陽子は何時もうるんだ目で眺めて
は愛してるわと思った。


一度試してみようかしらん・・・陽子は思った。ただ、気になるのは
その噂のただし・・・の部分だった。けれど陽子は試してみなければ
何も始まらないし、どうせロマンティックな噂にすぎないんだし・・・
休みにドライブがてらロマンティックも悪くないわと決心した。


次の日曜日、陽子は良介と湖畔にたたずんでいた。良介は「少し寒くないか」
と陽子に言った。陽子は良介と手をつないでそばに寄ると良介に囁いた。
「此処で私とデュエットをしてくれない?」「えっ?」良介はちょっと驚いた
顔をした。「ちょっとでいいのよ」陽子は良介も好きな歌をデュエットしよう
と甘えた。良介は少し怪訝そうだったが、陽子の甘えを可愛く思ってくれた
のか応じてくれた。


デュエットが終わると・・・良介はゆがんだ顔をして陽子に言った。
「君って女は本当にくだらない女だな」「えっ?」陽子はびっくりして良介
をまじまじと見た。「全くあの施設の子供らもそうだ、あほばっかのくせして
甘えやがって」信じられないような言葉が陽子の耳に次から次へと入って
きた。良介は不機嫌な声で帰るぞと言うと荒々しい運転で陽子を脅えさせた。


やっぱり噂は本当だったんだ・・・陽子は気落ちしたがこれで良かったんだ
と妙に安堵した。ただしの部分・・・それは、二人の愛が本物でなかった
場合には愛してはいない方の本性がさらけ出されるという話だった。


良介の本性を見た陽子は彼と別れられて良かったと笑った。
次は伸一にしようかな・・・陽子は施設の屋根修理に汗を流す伸一にとって
おきの笑顔でタオルを手渡した。



湖にもし?妖精が住んでいたとしたら・・・こう言うだろう
「人間って本当に勝手な生き物なのねぇ。あの陽子という女は自分の本性を
まだ解ってないのよね、誰ときたって駄目でしょうね、あれじゃぁ」


                                       00/12/22(金)

☆★☆★☆★☆★☆★《マスカット》 QKD99314 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

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