AWC 嘘と疑似感情とココチヨイコト(1/25)  らいと・ひる


        
#5459/5495 長編
★タイトル (NKG     )  01/08/15  22:47  (169)
嘘と疑似感情とココチヨイコト(1/25)  らいと・ひる
★内容
 すぐ側のベッドで、まだ幼さの残る全裸の少女は狂ったように喘いでいた。
 癖のないセミロングの艶やかな黒髪、肌はまだ瑞々しくほのかに頬が紅潮している。
微かに幼さを残してはいるものの、普段より大人っぽくもあり、中学生とは思えない
ほどの色香をかもしだしている。
 ビデオカメラのレンズを通して見ているので、あまり生々しさは感じない。画面の
横に見えるバッテリー残量を示すメータを気にしながら、ボクは機械的にその姿を撮
しているに過ぎなかった。
 ズームアウトして、彼女とその上に覆い被さる二十代半ばの太った男をアングルに
入れる。あまり男の姿を画面に入れると、あとで編集する奴に文句を言われるのだが、
彼女との対比があまりにも滑稽だったのでちょっとした嫌味のつもりだった。
 焦点の合わない少女の瞳、そして両足はしっかりと男の腰に絡みついている。彼女
は誰でもいいから、肉体的に繋がる事を望んでいるのだろう。男もまた快楽を求めて
腰を振っているに過ぎない。
「もっとぉ」
 荒い呼吸とともに、彼女の口から言葉がこぼれた。
 彼女が何を欲しているのかは、聞くまでもないだろう。だが、今の状態で彼女はそ
れを意識して言っているのかまではわからない。ただ、本能の赴くまま……いや、こ
の場合、生殖本能でさえ正常に働いているかどうかあやしいものだ。
「おい! こいつ大丈夫なのかよ」
 少女を弄んでいた男がボクにそう聞いてくる。彼女の外見の幼さに対するあまりに
もかけ離れた淫乱さに少々驚いているようだ。
「彼女が大丈夫かどうかなんて、あなたは気にする必要はないですよ。少なくともあ
なたに殺意を抱くことはないでしょうから」
 男はボクの説明に納得がいかなかったのか、腰を動かすのをやめてビデオカメラの
レンズに顔を向ける。
「あまりクスリをやらせすぎるのも考え物じぇねぇか。壊れたら簡単には元に戻らな
いんだぞ」
 男は彼女を心配しているのではなく、この世界での常識をただ忠告しようとしてい
るだけなんだろう。
 だけどその言葉は、ボクにも、そして彼女にも無意味だった。
「それでしたらご心配なく。彼女は『壊れる』ことを望んでいましたから」








                                 繋がりたい


 ダッテサミシイカラ



                      ウソデモイイカラ……






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           『嘘と疑似感情とココチヨイコト』





                  【しすてむ AI】E-01 (C)  らいと・ひる

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◇伊井倉 茜


 昼休み、部室に教科書を置いてきたことを思い出したわたしは、やや早足で目的地
へと向かっていた。
 途中、お手洗いから出てくる藍を見かける。
 いつものように声をかけようとして、彼女の様子がおかしいことに気付く。
 あの子、脂汗を流してつらそうな顔をしていた。
「藍、大丈夫?」
 わたしの声に気付いた彼女は、苦笑いしながら返事をする。
「いつもの事だから平気だって」
「わたしクスリ持ってるけど……」
 スポーツバッグに入ってるポーチの中にたしか鎮痛剤が残ってたはず。わたしはそ
れほど酷くないからあまり飲むこともないけど。
「いいって。これくらい我慢できるよ。それにカイロあててるし」
 即座に藍は断ってくる。
「そう……」
 わたしは言葉が続かない。もともとこの子は必要以上の干渉を嫌うから。
「でも……やだね。こんなシステム」
「え?」
 一瞬、彼女が何を言っているのかが理解できなかった。だが、すぐに彼女の言いた
いことが何であるのかが伝わってくる。
「生物であるための宿命ってやつかな」
 彼女は無理矢理笑ったような顔をしていた。そんな藍を見ていると、こちらまで痛
くなってくる。
「そうだね」
 わたしだってそのシステムに縛られているから。身体の痛み、そして心の痛み。
 選びたくて選んだんじゃない。確率は2分の1。だけど、どちらの方が幸せになれ
るかなんてわたしにはまだわからない。もしかしたら、死ぬまでわからないかもしれ
ないけど。
 大丈夫だという藍を心配しながらも、彼女とはその場ですぐ別れて、わたしは部室
へと急いだ。

 校舎脇の部室棟は、文化部ではわたしの所属する吹奏楽部だけが一つ割り当てられ
ている。大量にある楽器類を音楽準備室だけではしまいきれないためであった。
 棟の古いモルタルの黄ばんだ壁には、模様のように蔦が絡みついている。これでも、
ちゃんと夏にはかわいい小花をつけて、秋には紅葉するのだ。部活のみんなはあまり
好きではないようだが、わたしはなんとなく気に入ってるんだけどな。
 木でできた大きな看板の「吹奏楽部」の文字はちょっと褪せていて、歴史の古さを
ここに来るたびに再確認したりなんかする。
 歴史だけじゃない、うちの部はその人数の多さも相当なもの。3学年合わせて、7
0名近くの大所帯。
 ここまで人数がいると顔は知っていても深く話したことがないとか、そういう人が
何人かまだいる。だから、挨拶しか交わさない人もいるわけだったりする。
 わたしは役職と、後輩には受けがいいということもあって8割以上の部員に関して
はそれなりに親しいといってよい。その理由というのがよく相談を持ちかけられる為
である。単に損な性格が災いしているのかもしれない。
 部長の林田君は、ちょっとクールというより事務的な口調や態度が多く、それはそ
れで仕事をこなすにはいいのかもしれないが、何か相談するということに関しては、
特に後輩たちは距離をおいてしまうからだ。
 結果的に副部長であるわたしに、そういう仕事がまわってくるわけであったりする。
 だけど、同じ三年生に関しては例外的な人間もいる。年上には気軽に相談できても
同学年となると話はまた別であり、それほど深く関わることのできない人もいるわけ
だ。
 だから、わたしが昼休みに部室に戻って扉を開けたとき、煙のもうもうとした部屋
の中で一人の部員がこちらをぽかんと眺めていたのを見て、とっさに名前が出てこな
くても、それはそれでしょうがないのかもしれない。と、自分に言い訳するのも空し
いけど……。
「あれ? 伊井倉さんどうしたの?」
 彼女はタバコを吸っていた。だからといって注意する気にはなれない。わたしは風
紀委員でもないし、ましてや彼女の親でもないんだから。そこで、ふっと彼女の名前
を思い出す。
「教科書置いたままだったから、取りに来たんだよ。橘さんは?」
 彼女の名前は橘玲那(たちばな れいな)。パートはパーカッション。肺活量なく
なるからタバコなんてやめろなんてのは、無意味な忠告にしかならないだろうな……
たぶん。
「三限から、かったるくてね」
 彼女のその言葉にわたしは苦笑する。
「わたしにもそれだけの度胸があれば、五時間目の数学さぼりたいなぁ……なんか寝
不足でさ」
「さぼっちゃえば?」
 無責任に彼女は言ってくる。
「っははは。クラス委員が率先してやるわけにはいかんでしょ」
 ちょっとばかり茶目っ気を出して答える。別にわたしは彼女の事は怖いわけではな
い。授業をさぼってタバコを吸っているからといって、筋金入りの問題児には見えな
い。
 橘さんは一見、どこにでもいるような普通の女の子。茶髪にしてるわけでもないし、
クラスにとけこめなさそうなタイプにも思えない。
「伊井倉さんって頼まれたらけっこう断れないタイプでしょ?」
 いきなり図星。かなり勘のいい子かもしれないな。
「まあね」
 わたしは照れ隠しに舌をちらりと見せる。
「優等生も大変だ」
「ま、何事も楽しもうとしなくちゃ、楽しくならないからね」
 それほどの冗談を言ったつもりはなかったのに、彼女は笑い出した。
「うふふふ。伊井倉さんて面白いね」
「ん?」
 そう言われてわたしは思わず戸惑う。
「ほら、あたしってあんまり親友とか作りたくないタイプなんだけどね、伊井倉さん
って、誰にでもそんな感じみたいだからさ、変に構えなくていいから楽でいいなぁっ
て。なんかさ、他人に言えない秘密でも安心して言えそうな気がしたりして」
 どこまで本気かわからない彼女の言葉に、わたしは何と答えていいのやら。
「それは多分……わたしって口堅いし、必要以上に他人に干渉しないように訓練され
てるから」
 ふと藍の事が頭に浮かんで、苦笑いがこぼれた。
「なにそれ?」
「損な性格って事かな」




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