AWC タコヤキ屋“じゅうじゅう”の謎 うちだ≠


        
#3108/3137 空中分解2
★タイトル (TEM     )  93/ 4/15   0:53  ( 81)
タコヤキ屋“じゅうじゅう”の謎 うちだ≠
★内容

 OLのアフター5はカラオケや(ディスコ…は死んだな)飲み会や屋内プー
ルやボーリングだけじゃないの。だいたい私も良美もお酒が飲めないし、うち
の会社ってけっこー田舎だし。そんなんで最近私と良美はタコヤキ食べて帰る
のが主流となってます。成人式を迎えるというのに、まだ色気より食い気。
……ううむ、しっかしこれじゃ高校生みたいだね、ま・不況ってせいもあるし
ついつい安上がりな享楽に溺れがちなワケ。私と良美はタコヤキにはちょっと
うるさくて、駅から会社までの範囲のタコヤキ屋はすべて制覇してしまった。
で、その結論として言うんだから児童公園横にある“じゅうじゅう”ってタコ
ヤキ屋のタコヤキはまじでウマイ!!! タコはでっかくて柔らかいし、ウド
ンコでどろ〜んとした味がしないし、大きさもマル。タレはオイシイし、マヨ
ネーズはサービスでつけてくれるし値段もナイス。ただ、焼いてくれるのがカ
ニみたいに異常にエラが張ったオッサンと、今時ヤンキーで黄色のイカみたい
な頭した手伝いのバイトの兄ちゃんなんだよね、これがどっちも無口ときてる。
“カニとイカがタコを焼く”って私らはけっこー笑っちゃったんだけどさ。(あ
・もちろん本人の前で言わないよ、怖いもん)
私たちはいつものようにふたりでタコヤキを1パック買う。良美が渡した50
0円をイカの兄ちゃんは黙って受け取るとまた黙って140円の釣りをよこし
た。そうして焼けたタコヤキをカニのおっさんが黙って私に差し出した。私た
ちはいつものように自販機でジュースを買って、児童公園内のベンチに座る。
このベンチは特等席で、何が良いってモニュメントの横ってことでちょうど風
の死角になるからあんまし寒くない。ベンチの後ろには道1本隔てて“じゅう
じゅう”が見える。私と良美ちゃんはタコヤキをぱくりとほうばった。まだほ
くほくの出来立てのタコヤキ。
「あぢぢぢ・熱いよこれ〜〜……でもウマイ」
いきなり1個を口に入れてしまった良美は私のとなりでもんどりうっている。
黙っていればなかなか美人だしセンスいいしスタイルいいし、お嬢で通るのに
「係長の奴、成人式に行くんなら有休とれって。ひどくない?」
「うちの会社って募集の用紙にはしっかり土日祝日休みって書いてあるんだよ」
「あったまくるなー」
これだけ喋りながらも、私たちはぽんぽんとタコヤキをほうばっていく。あっ
たかいほうがダンゼンおいしいですからね、タコヤキは。
「ねえね、章子は“じゅうじゅう”の噂、聞いた?」
「えっ何何??」
良美はちらりと店のほうを振り返った。中のふたりは相変わらず寡黙にタコヤ
キを焼いている。良美は少し体を低くして私の耳にささやいた。
「“じゅうじゅう”のオッサン、スケコマシだって」
「スケコマシィ〜? 似合わね〜」私はげらげらと笑ってしまった。「オッサ
ンのほうがぁ?イカのほうならまだ分かるけどさあ」
「ええっ私、イカのほうだってヤダよ」
「でも、イカって顔だけはけっこーイイ線いってない? 顔だけね」
「でも聞いたのはオッサンの方の話だったよう。何かさあ、閉店間際に迎えに
くる女が、毎回変わるってハナシ」
「ぎゃはははははははははは、マジ〜〜?」
「章子、声が大きい……」
はっとして、私と良美はそうっと店の方を振り返る。中のふたりは相変わらず
寡黙にタコヤキを焼いていた。
「良かった、聞こえてなかったみたいだね」ほっと息をつく私。
「章子はカニのオッサンどう思う?」ニヤニヤして良美が私の顔をのぞきこむ。
「……オッサンはタイプじゃないナー」
「でもさあ、寡黙でなんかちょっと高倉健みたいでシブイじゃない?」
思わずぷっと吹き出してしまう私。「高倉健が怒るよ。どっちかっつーと南伸
坊じゃないの?」
「そーかなー、南伸坊って寡黙か?」
「似てるのは顔。カニのオッサンは何考えてるか分かんなくてキモチワルイ」
言い切る私に良美はしばらくうつむいてから言った。
≠サうかあ、章子はオッサンのことはホントにどうとも思ってないのね?」
「思うかそんなもん。何なのよ一体」
良美は私の顔を正面から見て、言った。「じゃあ言うわ。私、健一さんのこと
好きなの」
「けんいち??」
「カニのオッサン」
「えっ」私は金魚のように口をぱくぱくして後の言葉が続かない。
「章子、ほんっとーーにあの人のことどうとも思ってないの? タコヤキ受け
取るときに見つめあってたじゃないの」良美の目はマジだ。
私はやっとの思いで言葉をしぼりだした。「違う、それ違う」
良美は疑わしそうな目をして私をしばらく見てから、勝ち誇ったように笑って
言った。「私、健一さんと寝たわ」
「げげ」
「だから章子がどんなに見つめたって駄目よ。私、譲らないんだから」
「ゆ・ゆ・譲るもなにも、私はどうとも思ってないんだってば」
「悪いけどあきらめて。オネガイ」
「だ、だから、ぜんぜんどーとも思ってないってゆってるのにぃぃぃぃ!!」

口の中にまだタコヤキのソースの味が残っている。さっき良美が言った噂は本
当だろうか。今、良美の言ったことは本当だろうか。カニのオッサンはいかに
して良美の心を捕らえたんだろう。振り返ると“じゅうじゅう”のふたりは相
変わらず寡黙にタコヤキを焼いていた。


                 おしまい




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