AWC 『ルナティック・ジェラシー / 月夜の誓い』 ごんた


        
#3102/3137 空中分解2
★タイトル (HVJ     )  93/ 4/14   5: 8  (184)
『ルナティック・ジェラシー / 月夜の誓い』 ごんた
★内容


   『ルナティック・ジェラシー / 月夜の誓い』



 1981〜1983 / 欲望と快楽の日々。

 グラス越しに、あなたは思わず溜息をもらしてしまいがち、、。乱れ
狂うレーザーとスリムな女達の爪先。ワインレッドなヒールに差し込む
快楽の陽光たち。クラブハウスに群れ狂う、しゃがれた眼付きの女達。
 欲情が満たされるだけの不埒なルージュが誘いかける女神のささやき。
マニキュア越しにそっとあなたの耳もとで揺れながら、グラスの底へと
誘いかける。気ままに揺れ遊ぶ視線は奪われたままの深い溜息、ベッド
サイドの欲望へと絡みつく。
 快楽の陽光、スリムなヒールはクラブのリズム越しに、、、、あなた
の唇が淫らに踊りだす。まるで断末魔のうめき声のように、官能と快楽
が欲望と幻想を呼び覚ます。          1981〜1983




 1984、2/23 / ルナティック・ジェラシー

 あなたは、黒いウールのハーフコートに、肌寒い2月の冬空色にお似
合いな手編のセーターを着込みなさい。デニムのシャツとウールのスラ
ックスに良く似合うスウェードのローファーを選びなさい。そうして、
あなたは病棟を、空のベットだけを残して、そっと部屋を出るのです。
 脳腫瘍で、彼女は時々ひどい吐き気とめまいに襲われます。あなたは
彼女を興奮させてはいけません。羽毛のように壊れそうな身体、白いネ
グリジェに夢の続きを見せて上げなさい。とても素敵な寝顔です。
 愛する者を救い出す勇気を出しなさい、あなたの優しさが、きっと彼
女を幸せに出来るはず。そう、あなたは今夜、彼女の全てを盗み出しな
さい。彼女の望む全てを、、、。



 1983、12/3 / さよならの感傷旅行

 深夜の眠たげな3時ころ。今夜もあなたは彼女に誘われて、クラブの
夜に流されている。ときどきあなたは、そんな夜に流されたままの時を
気にしながら、冷たく湿った朝靄に霞んだ日差しを待つだけの二時間を
過ごしている。メンソールの煙ったい不健康な空気から今夜も抜け出せ
ずにいる。
「踊らないの?」
「ああ、友美、、、今夜は踊りたくないんだ。」
「具合わるいの?。」
ミニスカートの裾があなたの眠たげな瞳のなかで揺れながら求めるまま
に触れ合いためらいがちに、あなたの両手、器用な指先が彼女の夜の仮
面を静かに濡らしてゆきます。そっと近付け頬を寄せたくなるような彼
女の長くて美しい黒髪も、今夜のあなたには陰気で色あせた灰色の雨雲
のよう。まるで憂鬱な梅雨空を思わせます。
「ねえ、、、。」
「ん、、。」
眠たげな視線に欲情を失い忘れそうなあなたの唇が女の耳たぶを軽く食
みながら、ほんのり湿る彼女の胸元があなたに何かつぶやきかけていま
す。

 甘い唇の向こうに苦い言葉が今夜のあなたを待ち伏せして、安ホテル
のベットまで運んでゆきます。
「今夜で、、、さよなら。」
「、、、」
「、、、」
「今夜で、、、最後なんだね、、。」
「ねぇ、そんな顔しないで。ほ〜ら!、、もう、哀しまないで。優しく
さよならって言って、、。」
「、、、。」

 あなたが恋したこの街に、今夜の別れの闇に用意されたベットサイド
の哀しげな横顔。素敵な感傷旅行のチケットが二枚、殺風景に置かれて
いる。そんな情景を心のどこかで認めてごらんなさい。それを知るほど
に募る彼女への想いにさよならを、そのために用意した夜は眠らないは
ず。
 幸福が癒すはずの二人の夜が静かに明ける頃、あなたの内で彼女が消
え、彼女の中のあなたも消えて、そうして二人、感傷旅行に出かけなさ
い。遠い別々の旅路へ、、、、。



 1983、冬

 そんな夜明けの感傷旅行から幾日か過ぎさって、二人はそれぞれに傷
口を癒していたはず。二つの傷口は別々の包帯にくるまれて、いつかそ
っと静かにはずされます。とかれた包帯の塗り薬に汚れたままの傷口を、
醜いその傷跡を誰も癒しはしないはず。それをあなたは知っている。気
まぐれな恋人達の憂鬱な戯れ、おしゃべりではないのです。二人きりの
熱い想いだけが癒しえることを、もうあなたは知っているはず。
 そうです、それは幾度も闇に重ね、そうして互いを慰める為だけに嘘
で満たされた優しさでしたね。闇に重ねた欲情とメンソールシガレット
の煙に不安を隠しながら、一体何を求め合って来たのだろう?。




 1984、1/24 / 告白と約束

 あなたの不安な足取りが女の枕元へ駆けよります。
「ただの脳腫瘍よ!。」
「腫瘍?。」
「そう。」
「、、、、」
「もう手術は無理みたいなの、、、。気づくのが遅すぎたみたい、、。」
「、、、」

あなたは彼女の震えそうな小さな肩を優しく抱いてやりなさい。しばらく
じっと眼を閉じて、不安に震える心のどこかに、あなた自身の安らぎの言
葉を求めなさい。煙草をくわえたまま、煙に目蓋を細目ながら、、、、。
「僕がついてる、、、。」
ひと言、そうつぶやきなさい。

 一晩中彼女に付き添って、精いっぱいの思いやりを、優しさを、、。月
夜がとても奇麗な窓越しに浮かぶ彼女の白い横顔、、、涙が頬を濡らしま
す。それは、さよならの別れを告げられたあの夜に似ているようでした。
どこかが似ているような気がします。

 いつも二人は、そんな夜ばかりを巡り合って、闇に恋していたのでしょ
うね。沈黙に包まれた告白の夜。枕元に彼女の横顔、哀しみと混乱に震え
る目蓋に揺れる涙。どうして今夜の彼女はあなたを哀しませるのでしょう。
それを今夜、どうして告げる必要があったのでしょうか?。

「朝までぐっすりお休み、、、。」

あなたの心の中で、何かがはっきりと動き始めていました。

「解っていたんだ、、、でも、言い出せなかったんだよ。辛かったね、ご
めんよ。」



 1984年、2月23日 / 月夜の誓い

 こっそりと彼女はあなたの腕の中、白い病棟を抜け出しました。きっと
病院中が大騒ぎになることでしょう。薬づけの冷たく無関心につながれた
ままの命を、今、あなたによって、彼女のすべてを盗み出しなさい。

 病棟を後にする足音も、鉄のドアが締められ廊下に響く長くて深い闇の
声も、彼女には何一つ聴こえてはいません。彼女は薬で良く眠っています。
あなたはいたって冷静に、次の仕事に取りかかりなさい。女の静かな眠り。
月夜のあなたを、もう誰もとめられはしません。
 彼女のカルテを盗み出すのです。不法に書き換えられた偽りを、あなた
は彼女の為に盗み出します。

 白くて長い廊下のあちらこちらを防犯システムが作動しています。赤外
線警報装置が見張っていることでしょう。あなたは油断してはいけません。
それは、こっそりと行われなければなりません。気づかれないように、計
画通りに今夜、彼女を盗み出しなさい。

 今日の夜勤、見習い看護婦さんとは知り合いです。あなたの信頼のおけ
るパートナー。彼女はすべてを知っています、、、何もかもを。二週間前
からあなたの計画にもぐり込んで、あなたのベットと好奇心とを虜にしま
したね!。そんな彼女は、看護婦好きなあなたの指先を少し器用にします。
 今夜のあなたは、あとは彼女からカルテを受け取りさえすればいいので
す。警報装置をうまく抜ければ、今夜のあなたは暗闇に潜めいた女の声を
待つだけ、、、。
「早く!!、約束の裏口の鍵!。ネェ!、きっと、見つからないで!。」


 裏口を閉ざす重たく厚い扉を抜けると、そこは一面の野原。月夜に照ら
し出され、冷たい夜風にさらされている。

 今夜の月明りがあなたを謎めいた冒険へ勇気へと駆り立てるかのように、
そこに、その胸に、あなたはしっかりと彼女を抱きしめている。もう、決
して離してはいけません!。あなたの胸に、高鳴る鼓動に、月夜にぼんや
りと浮き上がった彼女の白い身体をしっかりと埋めなさい!。素肌の温も
りを、彼女のいとしさを、そして愛の重みに永遠の約束を、、、、月夜に
誓いを!。

 数え切れないほどの闇と欲望と快楽の夜を重ねるだけの「月影」ではな
かったのですよ!。そう、彼女は月影のように虚ろで悩ましげな魅力。ハ
イヒールの爪先で淫らに闇を踊る月夜の妖精でした。あなたを狂わせ夢
中に、、、、。そうして、あなたを愛によって苦しめます。確かな愛と希
望の光りをあなたに与えてくれたのですね。


      ルナティック・ジェラシー。告白と誓いの月夜に
     秘められたジェラシー。不安で失いそうな愛の妬み。
     狂いそうな愛の光。
      あなたに今夜、そっとささやきかける。


                     FIN


          HVJ36211   ごんた




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