AWC 【名人伝異聞】秋本 89・9・6


        
#1813/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (TEJ     )  89/ 9/ 7   0:42  ( 54)
【名人伝異聞】秋本 89・9・6
★内容
 いやあ、ううたん氏のエッセイ『名人伝異聞』を読み、あまりの懐かしさに
思わずワアプロに向かってしまいました。
 中島敦の名人伝。いやあ、これ、わたしの大好きな読み物のひとつです。
懐かしい。高校生の時でしたか、この中島さんの作品で友人が虎になる話が国
語の教科書に出てまいりました。これがわりと気に入って、この中島さんの奴
を図書室から借てきた作品集の中に、この名人伝があったということです。
 要するに、まあ最後の最後に究極の名人みたいな人が出て来て、弓を見、こ
れは一体なんじゃ?という落ちがつく。
 大笑いでした。それでもって自分で、パチンコ名人伝という話を作りました。
要するに、パチンコの名人がいて、店の方が、もうお客さん、店に来ないでく
れ、そのかわりそれ相応のお金を払うから、と云う筋書きで、この名人、今日
はパチンコをやりたい気がする、なんて、店に電話をすると、店から人が飛ん
で来て金を渡してくれる、そんな生活を送っていたんですが、ある日、この金
を持って来た男のポケットからポロリと落ちたパチンコ玉を見て、これは一体
何だ?
 たわいもない話なんで誰にも話さず、自分ひとり喜んでいたという昔話を思
い出したもので。うーん、思わず発表してしまいましたね。歯歯歯!
 それと、もうひとつ。オリゲン・ヘリゲルの名前がまた懐かしい。
「弓と禅」というタイトルの本だったと思います。学生時代、体育の選択科目
の中のひとつに弓道がありました。しんどいことが嫌いなわたしは、迷わず、
一番楽なこの科目を選んだんでしたが、実を云うと、この弓道の先生というの
が、地元の薬局のおばちゃんで、そしてこのおばちゃんが中々に傑作な人でし
た。もうまるっきりドラエモン化した体格で、しかし着てくる服がハデハデ。
口紅はマッカッカ。おまけに髪にリボンまでつけている。一目見て、あっ、と
んでもないおばちゃんだ!とわかる人で、でもって、このおばちゃんはよく授
業に遅刻する。ごめんなさーい、お客さんがいたもんで、なんて笑いながら、
道場に入って来ます。その時の笑顔がよかった。このおばちゃん、そしてよく
自分の薬局のサンプルを持ってきて、的によく当たった学生に賞品として、チ
ィッシュ・ペーパーやら、何やら渡します。わたしはヘタくそなんで、一度も
貰えませんでした。ところがこのおばちゃん、実は滅多に自分では弓を引かな
かったんですね。で、ある日学生のひとりが、先生、見本をひとつ見せてくだ
さいと云いだし、皆、そうだそうだ、とはやしたて、それで、おばちゃん、ニ
コニコしながら、それじゃやって見せよかいね、とかなって、おもむろに(だ
いさん)なんて、弓を射る前のもっともらしい「態度」を演出いたしたりして、
おっ、おぱちゃん、なかなか様になってるな、と思いました、さすがこの道ウ
ン十年です、でもって、いよいよ弓がひきしぼられて、矢が放たれた。
 結果はまったくの外れでした。的が笑っていましたね。学生らも、大笑い。
しかし、おばちゃんはまったくそんなことに頓着ない表情でありました。それ
でもって、最後の深呼吸みたいなそんな儀式も終えてしまった後の後、ニコリ
と笑って、当たらなかったね、と云いました。
 なかなかに素敵なおばちゃんでした。それで、本来は同じ科目を2年選択し
てはいけないことなってるのを、わたしは学校側に頼みこんで、もう一回弓道
を選択した、という、まあ、あくまでもしんどいの嫌、お笑い大好きのわたし
だったんですが、これでも一応、授業であったわけで、最後には実技試験とと
もに、リポート提出かあったわけです。そのリポートにオリゲン・ヘリゲル氏
の文章を引用し、ひとつの笑い話をでっちあげてリポートにしたという、つま
りはそんな話を懐かしく思い出したということなんですね。そしてその結果が
「優」。いやあ、ユーモアたっぷりの傑作なおばちゃんでした。
 それから何年か後、ふと目にしたところの小さな新聞記事が、また笑わせて
くれました。そのおばちゃん、全国弓道大会で女流名人の座についちゃったと
いう記事でした。歯歯歯!
 ううたんさんの先生といい、この薬局のおばちゃんといい、どっちもどっち
傑作な人達です。年寄りは大切にしましょうね。
                          秋本でした。




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