AWC 本の感想>『ネクスト・ギグ』   永山


        
#649/655 ◇フレッシュボイス2    *** コメント #644 ***
★タイトル (AZA     )  18/11/07  21:32  (102)
本の感想>『ネクスト・ギグ』   永山
★内容
・『ネクスト・ギグ』(鵜林伸也 東京創元社)15/4542
 ライブハウスの「ラディッシュハウス」にて月に三度、土曜日に催されるロックバン
ド「赤い青」のギグ。そのクライマックスで、ギターであるクスミがあり得ないミスを
した直後、ボーカルのユースケが倒れる。彼の胸には千枚通しが刺さっており、程なく
して絶命する。ユースケの死は他殺なのか。だとしたら衆人環視の状況下で殺した理由
と方法は? 関係者の中に犯人がいる可能性が高かったが、腑に落ちないものを感じた
ラディッシュハウスの従業員・児玉梨佳は、関係者に問い掛けて回る。「ロックとは
?」
 警察の捜査が進む中、第二の死者が出る。密室状況で見付かった死体は、明らかに他
殺だったが、自殺に偽装されていた。被害者が自身のスマホで遺した最後のツイート、
「ロックは人を殺す」とは何を意味するのか。
 本格的デビューを長らく待たれていたロジック派ミステリの担い手が贈る、最初の長
編。

***ネタバレ注意!***

 物語世界の中に構築されたミステリとして、充分に楽しめましたし、淀みのない推理
物で、端的に言って面白い。一方で、東京創元社から出る新人作家の長編ミステリ第一
作にしては、大人しめの部類に入るかと。知らない読者に手に取ってもらうには不利か
も。
 それから、読みながら、小峰元の諸作や栗本薫の“ぼくら”三部作に通じる空気を感
じていました。各作品の主要キャラの年代は違えど、青春という言葉で括れそうな共通
したイメージ。

 次に、気になったところ。

1.ロープに纏わる疑問
・タカがロープの存在を他の誰にも言っていなかったのは何故か。事件の起きる前な
ら、秘密にする理由が薄いような。
・逆に、ユースケやミナミが、タカがロープを使っているところを一度も見掛けていな
いのは、作り手の都合を感じなくもなし。
・タカが普段の日常生活において、ロープを多岐に渡って利用しないのは何故か。たこ
焼き屋二階から(靴を履かずに)ロープ伝いにスタジオに入り、帰るときもロープで。
スタジオから直に外へ行く必要が生じることもあるだろうから、当然、スタジオには置
き靴しておく。たこ焼き屋にも同様。と、こうすれば便利だろうに。タカの性格にも合
っていそうな?
 ついでに、結果的に本筋とは無関係ですが、路地の目隠しがどれくらいの高さなのか
を記しておいてほしかった気がする。
・タカが隠したロープを隙を見て処分しなかった理由。いくら深く考えずに行動したと
しても、これくらいは思い付くはず。
・そもそもバンドでドラムをやる人が、手に負担の掛かりそうなロープ登りをやるの?
っていう……。

2.ステージ上での殺人に関して、改め不足?
 たとえば――ユースケがお芝居で苦しむふりをして倒れ、真っ先に駆け寄ったミナミ
が隠し持っていた千枚通しで胸を刺す――という古典的トリックの可能性を、初期の段
階で潰しておいてほしかった。他のトリックについては否定してるのだから尚更。

3.殺人と関係ないからって黙っていていいものか?
 特に、クスミ! 早めに話してくれていたら、読者は余計なことに気を回さずに済ん
だものを。(^^;

4.エレベーターの機能について
 エレベーターには、稼働しないまま一定時間が経つと箱が自動的に定められたフロア
に戻るタイプもあるはず。そういうエレベーターではないことを、ちらとでも示してあ
ればなおよかった。

5.動機の問題
 この動機で人を殺めてしまうのは少々首肯しがたいし、一人を死なせてしまったあ
と、二人目にまで手を掛けるなんて、全く後悔していないのではとすら感じる。それだ
け想いが強いんだと受け取るべきかもしれませんが……。
 第一、この動機で行動を起こすような性格なら、日常的に幾度もトラブルを起こして
いるものでは? たとえばギグの打ち上げで入った店にて、クスミを悪く言うお喋りが
近くのテーブルから聞こえてきて……とか、頻繁にありそう。

6.描写視点のこと
 女性キャラの視点で描写されている訳ですが、書きっぷりが男性だなあと感じまし
た。
論理的にどうこうじゃなく、感覚的なものですけど。今の時代に男らしさ女らしさを
云々するのはナンセンスかもしれませんが、「ここは女性ならではの感覚だな」と感じ
させる箇所が少しでもあれば気にならなかったかも。

 あと、これは作者のツイッターにあるコメントを真っ向から否定する形になります
が、ロックや音楽に興味が薄い人には優しくない書き方をしてるな〜と、強く思ったで
す。最初のページから、知らない用語が頻出。想像で補えるところはもちろんあります
が、完全に分からない言葉もちらほら。いちいち検索して把握してから読むため、出足
が非常に悪かったです。物語の波に乗ってからならいいんですけど、初っ端からこれで
はしんどい。
 付随して、ドラムシューズについても説明が欲しかったかなあ。ドラムシューズが登
場したことで、私よく知らないものですから、ライブハウス内には普段履きの靴とドラ
ムシューズを履き替えるための下駄箱的なちょっとしたスペースがあるものだと考えま
した。だから、第二の事件発生を聞いたタカが隣家に向かうのに不自然なルート取りを
した場面は、靴を履き替える必要性からこのルートにしたんだなと解釈してた。

 料理の描写がやけに多い気がする。読者がふろふき大根とかいわれ大根を結び付けて
考えるよう、ミスリードするためだったりして。(^^;) 

 P250の2〜4行目の表現が分かりづらかった。理由を考えるに、台詞内と直後の
地の文とで、階段の上下の言い表し方が逆になっているせいかと。

 繰り返しになりますが、本作は掛け値なしに面白かったです。ロックについて門外漢
の自分でも、序盤を乗り切ればのめり込めましたから、リーダビリティは高い。上で挙
げた気になった箇所も、ほとんどは読了後に思い返し・読み返すことで浮かんだもので
す。
 ミステリとしての面白さを、物語としての面白さが上回った印象なのが、いいのか悪
いのかは分かりません。ただ、ミステリの部分をもっと単純な事件に置き換えたとして
も成り立つでしょうし、多分、感動の度合いもほとんど変わらないと思う。
 だから次の長編では、ミステリと物語とが不可分な作品、いやまあ不可分は大げさだ
としてもより密接なつながりのある作品を読んでみたい。と、一読者の勝手気ままな要
望でした。

 ではでは。




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