AWC 悟りを得るのは難しい 3   永山


        
#1128/1128 ●連載    *** コメント #1127 ***
★タイトル (AZA     )  20/04/28  19:30  ( 71)
悟りを得るのは難しい 3   永山
★内容
 考えすぎなのは分かっている。分かっているんだけれども、最悪の場合を想定してし
まう性格だし、そうしないと落ち着かない。
 そもそも捨て場所はゴミ収集所でいいのか? 通りすがりの人々の目にとまる恐れの
あるあのスペースに捨てるのは、適当じゃない気がしてきた。ではどこにすればいいん
だろう。ゴミ処理業者や古本屋に処分を頼みに持ち込むのはだめだ。人と顔を合わせる
のは無理。ゴミ収集ではなく、町内の廃品回収はどうか。やっぱり、中身を見られる恐
れがあるんだろうな。チェックされたら同様に「誰がこんな物を置いていったんだ?」
と騒ぎになって、調べようという流れになるかも。防犯カメラに顔が映っていたなんて
ことになったら目も当てられない。
 こういうときはネットに頼るとしよう。検索して調べてみたら、“白いポスト”って
いう物があるらしいと知った。青少年にとって教育上よくない書籍等を投函して、子供
達の目から遠ざけるのが目的だとかで、エロ本全般やアダルトDVDなんかを入れてい
いとのこと。
 これだ!と思ったものの、どこに白いポストがあるのかが分からない。生まれてこの
方、一度たりとも見た覚えがなかった。昔はたくさんあったが、数を減らしているらし
い。行政のホームページを当たっても情報はないみたいだし、苦心惨憺して検索を繰り
返して、所在地付きのリストが掲載されたサイトがようやく見つかった。全国の目撃情
報を元にして作られた物だった。
 そこのリストを当たると、一番近くでも電車で六駅先と判明。降りたことのない駅だ
が、どうやら駅舎を出てすぐのところに設置されているみたい。ぱっと来てぱっと捨て
てぱっと帰るには好都合だなと、真剣に検討し始めた矢先、地図で確認して仰天した。
駅の目の前に交番があるじゃないか!
 何となく怖い。もしかして、白ポストに捨てに来る人と捨てられる物を密かに見張っ
ているんじゃないだろうな。その上で怪しい人物には声を掛け、捨てる物の中身を調べ
るのかも。
 想像がまたも悪い方へと膨らみ、やる気が萎えた。別の白ポストにしようと、二番目
に近いところを調べる。するとこれまた交番が近い。三つ目も同じだった。これ以上遠
くとなると、ちょっと行けそうにない。それに、移動距離が長くなれば、他人に見つか
るリスクも比例して増す。
 燃やせたら一番いいんだけれども、あいにくと都会ではそんなスペースはない。まさ
か調理コンロの上で焼く訳にもいかないし。
 こうなると、写真集をそのままの形で捨てるのは諦めるべきかもしれない。手間が掛
かろうが、一枚ずつ剥がし、ハサミで切り刻む。これしかない。いくらうちの母親がゴ
ミのチェックをするからって、細切れになった紙片をジグソーパズルのごとく元通りに
並べるまではしまい。
 ただ……大量の紙片を一つの袋に入れていたら、何これと詰問されそうな予感があ
る。演劇部に頼まれて紙吹雪を作ってみたけど、作りすぎてしまったんだ、とでも答え
ようか? 簡単にばれそう。
 どれを取っても大小の不安がつきまとう。でもどれかにしなくちゃいけない。考え抜
いた挙げ句に、最寄りの白ポストに投じることに決めた。テレビのニュースなどで盛ん
に言っているじゃないか、法施行から一年間は捨てるための猶予期間だと。一年が経過
した時点で、罰則規定が実施に移される。裏を返せば、今なら見付かってもまだ大丈
夫。捨てに行くところを警官が見付けたからって、とがめるはずがないんだ……多分。
 このような変遷を経て、やっと決心がついたのは夏休みの最終日。遊びとか宿題とか
で忙しく、写真集のことばかり考えていられる状況じゃなかったため、こんなに時間が
掛かってしまった。平日に捨てに行くのは難しいだろうから、九月に入って最初の日曜
日、七日に決行するぞと心のメモ帳に刻んだ僕だったが……。

 二学期の初日。始業式が終わって教室に入ると、僕は異変にすぐ気付いた。
 僕の席は最も廊下寄りの列の最後尾で、左隣の列よりも一つ分、席が多かったのだ
が、今朝は違っていた。隣に席が設けられている。
「これは――転校生か?」
 思わず声に出た。それだけ僕にとって転校生という存在はどきどきするものなのだ。
これって多分、小学生のときの思い出に起因している。転校してきた子が超絶美少女
で、近寄りがたい雰囲気すらまとっていたのだ。その子は僕の席の隣に来た訳ではなか
ったけれども、もしも隣合う席だったら全然授業に集中できなくなっていたかもしれな
い。
 と、ここまで考えて、当たり前の事実に気付く。転校生は男の可能性だってあること
に。
 おかげで冷静になれた。過度な期待はせず、心静かに転校生の登場を待とう。そうし
て迎えた朝のショートホームルーム。
 先生のあとについて入って来たのは――女子だった。
 そして僕はまたもや思わず声に出してしまっていた。
「あ」
 何ごとかと数人に振り返られたが、曖昧に笑ってどうにかごまかせたと思う。
 転校生の女子がきれいな子だったのは間違いのない事実だ。だけど僕に声を上げさせ
たのはそんなことではなく。
 例の写真集のモデルの子にうり二つだったのだ。

 続く





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