AWC ◆シビレ湖殺人事件 第6章・ヒヨリ再びー2


        
#1062/1117 ●連載    *** コメント #1061 ***
★タイトル (sab     )  16/02/12  14:15  (257)
◆シビレ湖殺人事件 第6章・ヒヨリ再びー2
★内容
「じゃあ とりあえず、これを履き替えてこよう」と私は足のサンダルを
パタパタ鳴らした。「道とか水浸しだと思うし」
「そうだね」
私らは、だーっと2階に行った。
それぞれの部屋に入ると、スニーカーに履き替える。
そして、廊下に出てくる。
「もうここへは戻ってこないと思うけど、荷物は全部捨てていこう」
「分かった」
「水も、湖水が濁っているかも知れないからやめておこう。
一気に走っていけば、下山なんて一時間だし」
「分かった、分かった」

だーっと階段を下りて、ロッジを後にすると、湖畔の小道に出た。
道は雨が降った後みたいに濡れていた。
そこをスタスタ歩く。
近くから湖を見ると、水位が下がっていて、露出した内側が、
魔法瓶の内側みたいにてかっていた。
空の方からは、パチパチという音がしてきていた。
どっかで電柱でも倒れていて放電でもしているのかも知れない。
道が濡れていたので、感電するんじゃないかとびくびくしながら、
小走りに走る。
やがて、裸木が鳥居の様に組んである門が見えてきた。
そこを入って行く。
V字渓谷脇の山道を登って行く。
分岐点に差し掛かると右折して、蔦のアーケードの下をくぐって行った。
崖のてっぺんに出ると、あずま屋は潰れていて、崖っぷちのヨイトマケも倒れていた。
とにかくヨイトマケのところまで行く。
羊の死体は見ないようにした。
崖っぷちから湖方向を見ると、全体が鳥瞰出来た。
森に覆われている部分は分からないが、木こりの所とか、貝塚周辺は、
露出していて、歯の欠けた櫛の様になっていて、そこから水が流れ出していた。
空は、魚眼レンズの様な丸みがあって、巨大な真空管の中に居る様な感じがする。
そして、バチバチ、バチバチ、と電気が流れる音がしている。
「やばいな、はやく逃げよう」と私は言った。
私らは、羊の死骸は見ない様にして、ヨイトマケをたたんだ。
余ったロープはヨイトマケにぐるぐる巻きにした。
私が前、ミキが後ろで、いっせいのせいで持ち上げる。
その時、バチバチという音に混じって、
《しょ、しょ、しょくんは、たいたい、太陽系の》
という言葉が聞こえてきた。
ぎょっとして目を見合わせた。
「なに、今の」
「分かんない」
「どっから聞こえてくるんだろう」
耳を澄ますと、サマーランドの放送みたいに、どっかから流れてくる。
《諸君は、原初の段階では、一重螺旋の遺伝子であった。
ブクブクと泡が立っている泥の川に太陽が差し込んで
有機体が出来るような過剰な存在だった。
諸君は太陽の子の様な過剰なものだった》
「なに、あれ。放送の続き?」とミキ。
「あの放送ってきっと録音したものだったんだよ。そんで、どっかで混線して、
勝手に流れているんだよ」
「どっから」
「どっかにスピーカーがあるんだよ」
天空が巨大なスピーカーになっていて、そこから響いてくる感じがする。
《しょ、しょ、諸君は過剰な存在なのです。過剰な、過剰な、かかかじょうな》
「もういいよ。行こう」
私が前、ミキが後ろで、ヨイトマケを肩に担ぐと、
丸で籠屋の様に二人三脚で走り出した。
V字渓谷の脇の道を下って行って、湖畔の小道に出る。
そこは道が濡れていたので、丸でヨットの帆でも運んでいるみたいになった。
途中でキャンプ場に立ち寄り、杭になりそうな丸太、ナタ、シーツ
を取ってくる。
しかし、とにかく、籠屋の様に えっほえっほ、と、進んでいく。
ロッジ手前を右折すると、そのまま一気に山道に入った。
最初の右カープも上手く曲がった。
そして牛島が転落した崖の手前に到着した。
とりあえずヨイトマケを下ろす。
「ミキ、ちょっと押さえていて」と片方を持ち上げさせると、
私がロープを全部解いた。
足元にロープがトグロを巻いた。
「10メートル以上あるよね」
「長いよね」
「崖が6、7メートルぐらいだから余裕だよね」
私は崖下を見下ろした。
「じゃあセットしよう」
ヨイトマケの脚を広げて、崖の手前に設置した。
私は、ロープをヨイトマケの脚の一本に絡ませてから、てっぺんの滑車に通した。
こうしておけば、下ろす時に、脚の摩擦を利用して下ろしていけるから。
それから私はしゃがみ込んで、手前側の脚の根元に、丸太を一本、
ナタの背中で打ち込んだ。
シーツで縛って固定する。
「よっしゃ。これでいいや」
言うと、私はロープを袈裟懸けに回して、胸の前で縛った。
また、空から、《諸君は太陽系の子だが》と聞こえてきた。
「うるさいな、あの放送は。何時までやってんだよ」

《最初のエネルギーは太陽系であっても、
今度は銀河のエネルギーによる去勢が行われるのである。
ゴルジ体でタンパク質が去勢されて体内に出て行く様に、
或いは、骨髄でリンパ球が去勢されてリンパ節に流れて行く様に、
人間も学校で去勢されて、勉強もそこそこに出来て、
生活態度もちゃんとした人間になって世の中に流れて行くのである》
「じゃあミキ、下ろして」
私をつないだロープはヨイトマケの脚に“の”の字に絡まっていて、
その先をミキが握っている。
「自分の体重だけじゃなくて、あそこの柱の摩擦を利用して、
ずらしていけばいいんだよ」
「分かった…。つーか私が下りる時にはどうやって下ろしていくの?」
「それは、下に雑木があるから、そこに巻きつけて下ろしてやるよ。
ちょっと細いけど」
「って事は、雑木と滑車が支点になるわけ?」
「そうだよ」
「そんなこと、出来るかなあ」
「出来るよ」
「本当に?」
「本当だよ」
言いつつ、雑木の生えている崖下を見下ろした。結構落差がある。
首都高の高架から下りるぐらいの感じだ。
「ちょっとここでどんな感じだからやってみたいから
ロープを引っ張っていてくれる?」
ミキがロープに体重をあずけると、ピーンとロープが張った。
その状態で、私は空中で丸まってぶら下がってみる。
丸でブランコにでも乗っているみたいにぶらーんぶらーんと揺れた。
「ちょっとだけ下ろしてみて」
ミキが少しずらすと、私も少しずり落ちる。
「重たくない?」
「大丈夫だよ」
「じゃあ、そのまま下ろして」
ミキがずるずるとロープを送り出すと、私はどんどんと下がっていった。
やがて、崖っぷちより下に行くと、壁面に足を突っ張って、
ダイ・ハード状態になる。その状態でどんどん下りて行く。

《太陽系の子である過剰は銀河系で去勢されなければならないんです。
タンパク質の合成という過剰は、ゴルジ体で去勢されなければならないのです。
ということは、諸君らは、太陽系にして銀河系という矛盾した存在なのです。
であるから、たとえば、
みなさんのこーまんが左右対称なのは、
あくまでも太陽系の生成の都合であるにも関わらず、
それを美しいと思うのは、
あとから脳に宿った銀河系の都合だという矛盾があるのです。
だから、どんなに愛していて、こーまんに接吻しても、
オリモノが飛び出してくると、げーっとなったりするのです》
なにを、お下劣な事を言っているんだ、あの放送は。
しかし、とにかく私は崖下に到着したのであった。
「下りられたぞー」私は怒鳴った。「そんじゃあ、警察を呼んでくるから」
「えっ、私を下ろしてくれるんじゃないの?」上からミキが怒鳴った」
「いやー、私が走っていった方が早いよ、絶対。30分で街につくから、
警察のヘリコプターで迎えにくるからさあ」
しかし結び目がきつくて解くのに苦労していた。
「うそ」とミキが怒鳴った。
「嘘じゃないよ」
「私を重りにしたでしょう」
「そんなことないよ」
「そうに違いない」
言うとミキはあろうことか、引っ張り上げだした。
いっぺんでつま先立ちになる。
ミキは猛烈に踏ん張って、私を釣り上げた。
「下ろせッ」
「いやだーっ。下ろしてたまるか」
みるみる私は地上2メートルぐらいにまで吊り上げられた。
《過剰な部分は学校で去勢されなければならなかった。
そうやって世界に出て行くのです。
しかし、あまりにも過剰が多いなら、
それはもうウンコです。
そんなものは、もう、学校には来ないで、
ここで除草されてしまえばいいのです》
「おろせー」と私は怒鳴った。
「いやだー」
「下ろせー。こんなところで除草されてたまるか、下ろせッ」
「いやだー」
「分かった、分かった」地上5メートル付近で、
私は崖っぷちの向こう側で踏ん張っているであろうミキに向かって言った。
「分かったよ。ミキも下ろすからさあ。とにかく私を下ろしてよ」
ミキは返事をしなかった。
しかし私はスーっと降りていった。
着地するとミキが崖っぷちから顔を出した。
「裏切ろうとしたら、また吊り上げるからね」
「分かった分かった、じゃあ、ミキを下ろすから、余ったロープを下ろしてよ。
そうしないと、こっちからロープを送り出せないから」
しかし、ミキはそうする前に、自分の脇の下にロープを回すと胸の前で縛った。
そして余ったロープを下に下ろす。
くそー。ロープが降りてきたら、
思いっきり引っ張ってロープだけ引きずり下ろそうと思ったのに。
ミキがくっついていたんじゃあ、本当にミキを下ろさないとならない。
ミキが下ろしてきたロープは私の足元でトグロを巻いた。
私は、ロープが解けないまま、自分ごと雑木の周りを回ってくると、
ロープをどんどん手繰り寄せた。
そうすると、崖の上では、ミキがロープにつながっていて、
ヨイトマケの滑車と雑木の根元が支点になっていて、私がロープを握っていて、
余ったロープが足元にトグロを巻いていて、その最後に私がつながっている、
という状態になった。
そしてロープがピーンと張るまで思いっきり引っ張った。
「じゃあミキぃ、そこで浮き上がってみな」と崖上のミキに怒鳴る。
ミキが宙にぶら下がった。
でも、木の根元に引っかかっているので、引っ張られる事はなかった。
そして、私は、ロープを少し送り出した。
ミキがずるっと下りる。
そういう要領で、どんどんとロープを送り出すと、
ミキはずるずると崖の下に降りてきた。
ところが、崖の中間のあたりで、なんと、ロープが足りなくなったのだ。
「ロープが足りない」と私は怒鳴った。
「このままだと、やばい。一回引っ張り上げるから」
私は綱引きの様に、へっぴり腰で後ろに体重をかけた。
ミキが微かに上に上がった。
「下ろしてーッ」とミキが怒鳴る。「下ろしてッ」
「ロープが足りないから一回引っ張り上げる、つってんの」
と私が言うのもきかないで、ミキは暴れだした。
「暴れるな」
「下ろしてよー」
ミキが暴れると、雑木の根元でロープが擦れて、きりきり言いだした。
「暴れるなあー」
「下ろしてよー」
と尚もミキはもがく。
「やばい、木が折れる」
と言った瞬間、ぼきっと雑木が折れた。
同時に私はものすごい勢いで吊り上げられて行った。
ひぇー
そして、地上2、3メートルの地点で、
ミキと私のロープは絡まった状態で止まったのだ。
今や、私らはヨイトマケの滑車を支点にしてアメリカンクラッカー状態で
宙吊り状態になっている。
「暴れるなって言っただろう」隣にぶら下がっているミキに言った。
「だって、私を置いていこうとするから」
「どうするんだよ、この状態」
私らはロープを見上げた。
2、3回よじれて絡まっている。
「あれが解ければ私が下りられるよね。重いから」とミキ呟く。
「えっ?」
ミキが下りたら、私は引っ張り上げられてしまう。
しかし、ミキはロープにしがみつくと解こうとした。
そうはさせまいと私はロープを握った。
「離せッ」とミキが手で突いてきた。
「お前こそ、暴れるなよ」
又、空の上から放送の音が聞こえてきた。

《諸君らは、学校での去勢も無理、このキャンプ場での去勢も無理。
本当にもうどうしようもない、ウンコなのです。
もうこうなったら、水に流してしまうしかないのです。
おまえらウンコはこの水で流れてしまえ》
放送に被って、ゴォォーーという地響きがしてきた。
来た、来た、キターーーー
「又、地震だー」
地響きがロープにも伝わって、私らはアメリカンクラッカー状態のまま、
ぶらーんぶらーんと揺れ出した。
すぐ横の壁面から、砂埃が舞ってくる。
そして がくーんと直下型がキターーーーーーー!!と思ったら、
崖の壁面から湖方向に亀裂が走った。
ビリっ、ビリビリびりっー。
湖の方から濁流が押し寄せてくるのが見える。
やばい。
しかも、袈裟懸けのロープが狭まっていて、片腕が万歳状態になっていて、
反対側の首を締め付けている。
半ば首吊り状態でロープが頚動脈を圧迫しているのだ。
キーンと耳鳴りがして目の前が白くなってきた。
それからポジとネガが反転するように、辺りの様子が変になってきた。
空は紫、崖は黄色、ミキはオレンジ色に見える。
っていうか赤い。ロープも赤いよ。つーか大腸みたい。
つーか、あれは臍の緒じゃん。
ミキの腹から出ている臍の緒は首に巻きついて真っ直ぐに上空に伸びている。
自分の腹を見たら、やっぱり臍の緒が出ていて、私の首に巻き付いてから、
遠くの方に伸びていた。
ここってどこだよ。
湖水が私らに到達した。
水圧でぐいぐいと締め上げられた。
もう無理ぃと思ったが、どっかがぶっちぎれて、
私とミキは数珠繋ぎのまま、どんどんと流されて行った。




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 続き #1063 ◆シビレ湖殺人事件 最終章
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