AWC ◆シビレ湖殺人事件 第6章・ヒヨリ再びー1


        
#1061/1117 ●連載    *** コメント #1060 ***
★タイトル (sab     )  16/02/12  14:15  (171)
◆シビレ湖殺人事件 第6章・ヒヨリ再びー1
★内容
「ちょっと待ってーーーーー」
すーっと黒くなって行くディスプレイの淵に掴みかかると私は言った。
「もうカリキュラムは終わっているし、残っているのも2名なんですけど」
「まぁまぁ、落ち着きなさいよ」
振り返ると、薄暗い部屋にミキの白い顔がぼんやりと浮かんでいた。
「何言ってんのよぉ、今の放送が最終回なんでしょう。どうするのよぉ」
「まぁまぁ、ちょっと考えよう」
と呑気に言うと、テラスの方へ出て行った。

私もテラスに出て行くと、手すりのところまで進んで、何気、あたりを見回した。
もくもくとした古墳の様な森が円状にあって、その真ん中に湖がある。
空は、まん丸で、プラネタリウムみたいだ。
「なんか、空がガラスのボウルを被せたみたい」
とミキが言った。
「ガラスの外から神様が見ていそう。そういうギリシャ神話ってなかった?」
そしてミキは、「おーい。ここはどこなんだー」と叫んだ。
こだまはしなかった。
森は、今でこそブロッコリーみたいにもこもこしているけれども、
元はピナツボ火山みたいなカルデラ湖だったんだと思う。
それが長い年月をかけて森になった。湖水も雨水が溜まったのかも知れない。
そういえばここにくる時、火山灰が降った様な山道を登ってきたなぁ。
あの後すぐに斉木に会ったのだが、その前は一人で…、つーか、駅でも一人だった。
電車の中でも一人だった。
「ねえ、ここにくるまで、誰かいた?」と私は聞いた。
「え?」
「電車の中とかで誰かと会った?」
「私は電車の中でみんなと合流しちゃったからなあ」
「その前は?」
「その前となると、そこまでは覚えていない、つーか、
あんまり一般人は居なかったという気がする。
いや、南多摩の生徒以外は居なかった」
「それも妙だよね」

それからここにきて、最初の晩に、牛島が裏山の崖に転落して死んだ、
と私らは復習を始めた。
牛島は、XYYシンドロームで、
体型は半魚人みたいな感じで、ニキビ面で、性格は切れやすい、
というんで除草された。
翌日は、春田が死んだ。これはヌーナン、XXYYで、
見た感じはキャベツ畑人形みたいで、眉毛が無くて、性格的には場当たり的。
それから、斉木の首吊り自殺。これは、クラインフェルター、XXYで、
体格は貧弱で、おっぱいが出ている。
そしてヨーコの死。ターナー症候群で、X遺伝子が一個しかない。
見た感じはモンチッチで、性格的にはやっぱり場当たり的。
「という事で、男子が、半魚人、キャベツ畑、クラインフェルター、
それに対応する女子が、ミキ、ヨーコ、私…」
「ちょっとぉ。私が女半魚人だっていうの? 私にも死ねと?」
「そんなこと言っていないけど」

私はミキをスルーして、食堂に戻ると丸椅子に座った。
何気、ディスプレイを見て、思った、あの斉木の染色体異常の話と、
ナベサダのクーロン選択説とかいうのはどっかで絡むんじゃないか、と。
斉木の説を大まかに分けると2つに大別出来る気がする。
半魚人タイプXYYと、キャベツ畑人形タイプXXYYだ。
半魚人タイプは、骨っぽくて性格が荒い。
キャベツ畑タイプは、浮腫んでいて場当たり的。
これにナベサダのクーロン選択説を重ねると、こうなる、
半魚人タイプは、骨っぽいから、磁気が宿って、
銀河系的になって、厳格で荒っぽい感じになる、そして、
キャベツ畑タイプは、受容体がないから、ぶよぶよしていて、それは太陽系的で、
テキトーで優しい感じになる。
そうすると、斉木的に、染色体異常で除草されたという奴は、
同時に、クーロン選択説的にも、極端に銀河系的、とか、極端に太陽系的とかで、
除草されてもしょうがなかったんじゃないか。
自分もどっちかというと骨ばった感じだ。
だから、磁気が宿っていて、それで性格的にも几帳面で、
食品成分表が気になったりするのかも知れない。
でも自分には染色体異常がないから、お肌もすべすべだ。
クーロン選択説的にも、どっちかというと銀河系的だけれども、
極端にって程じゃなかったと思う。
だから、除草されなかったんだ。
じゃあミキはどうだろう。
私は考える人のポーズで考え事をしていたのだが、
指の隙間からじーっとミキを見た。  
明りさきに立つ彼女は、すごいスタイルもいいし、肌も綺麗だ。
でも、すげーマッチョで、デビルマンレディーみたいな感じもする。
性格も結構自己チューだし。
あれ、やっぱ女半魚人なんじゃないか。
染色体異常的にもXXXだし、
クーロン選択説的にも極端な銀河系なんじゃないか。
つまり、除草されるべきなんじゃないか。
もしかして、学校当局は最後の最後で、
ミキを除草して私だけを選ぼうとしているんじゃないのか。
私はディスプレイを見た。臨時放送でも始まるんじゃないかと思って。
でも無理だ。もうバッテリーも無いし。
つーか、4日もカリキュラムをやらされて、放置されてんだから、
学校は私らをここに閉じ込める積りなんじゃないか。
逃げ道は全部塞がれているんだから。
むしろ、逃げた方がいいんじゃないか。
逃げた方がいいな。
私はガバッと丸椅子から立ち上がった。
「逃げようか」と呟いた。
その時だった。なんか、ボーリングの玉が転がってくるような、
ゴーーーーっという音がしてきた。
なんだろう。
ゴォォォォォーという音はだんだん近付いてきて、揺れもともなって、
部屋がミシミシいいだした。
ミシミシ、ミシミシ。
来た、来た、キターーー!
「地震だーっ」とテラスのミキと顔を見合わす。
突然、がくーんと直下型の揺れが来た。
ぽーんとディスプレイがすっ飛んだ。
ひぇー。
それから、横揺れがきて、椅子やテーブルがスケボーにでも乗っているみたいに
ギーギー揺れ出した。
天井も壁も床もガタガタいっている。
「潰れるぅ」
「こっちに来なー」
ミキがテラスから手招きした。
ガクガクしながら出て行った。
湖方向を見ると、木々は、怪獣が首を揺するようにわっさわっさと揺れていて、
湖面は、雨でも降っているみたいに、ざわめき立っていた。
「でかい、でかい」
「落ち着いて」
「落ち着いているよー」
更に、どかーんと2度目の直下型の揺れが来た。
「ひぇー」
「あれを見て」ミキが湖方向を指差した。
なんと、湖のエッジがひび割れていて、あちこちから水が流れ出していた。
少なくとも、貝塚付近と木こりをやったところから、水が流れ出している。
「なんなんだあれは。どうなっちゃうんだ」
私らはそのまま抱き合って恐怖をこらえつつ湖方向を見ていた。
しかし、どんな大地震もせいぜい1分で大きな揺れは収まるのであった。
木々の揺れもおさまり、湖面も一応静かになった。
もっともあちこちから湖水は流れ出しているのだが。
私らは体を離して、手すりに突っ伏した。
「こりゃあ天変地異の前触れかもね」とミキ。
「何言ってんの。天変地異そのものだよ。
これはもう、逃げるしかないレベルだよ」
「ええ?」
「だって、あそことあそこは水が流れているし」と貝塚の方と木こりの方を指さした。
一回決壊すると、その水位に達するまで水が流れ続けるんだろうか。
「こっちは山になっているから崩れなかったけれども、
牛島が落っこちたところなんて活断層になっているから、
あそこが割れて水が流れ出したら、もう逃げられないかも知れない。
それに、空の様子も変だよ。あそこの細ーい雲って、地震雲じゃない?」
「えっ。どこ?」
「ほら、あそこの細い雲」
「…」
「それになんかパチパチいっていない」
「えっ」
「なんか空の方からパチパチ、パチパチ、ラジオみたいに聞こえない?」
「さぁ」
「とにかくさぁ、もう、こんな惨憺たるありさまなんだから、もう逃げるっきゃない
よ」
「でも、さっき放送があったばかりなんだから、向こうも知っているんじゃない?」
「待っている気? 待ってらんないよ。地震なんて連発でくるんだから。
次の地震がきて活断層に亀裂が入ったら、
富士山から溶岩が流れ出すみたいにこっちに水が流れてきて、
もうおしまいなんだから」
こんなこと、ごたごた言っている間に、下りちゃった方が早い。
牛島が引っかかった崖さえ越えてしまえば、たかだか数キロなんだから、
走って下りれば1時間もかからないかも。
「私は一人でも逃げる」と私は言った。
「どっから下りるのよ」
「もちろん牛島の引っかかった崖から」
「あんなドロドロした崖から下りるのは無理よ。
それともシーツでもよってロープにする? だとしても、縛り付けておく木もないし」
「私にいい考えがある」と私は言った。「と畜の時に使ったヨイトマケがあるでしょ。
あれには長いロープがついていたから、あれを持ってきて、崖の上に設置して、
まず一人が下りるでしょう。
そして今度は下の人が逆綱引きの要領で上の人を下ろせば」
「えー、そんなの上手く行くかなあ。一人目は下りれたとしても、
二人目はヨイトマケごと崖下に転落するんじゃない?」
「杭でも打って固定しておけばいいんだよ、ヨイトマケの脚を」
「うーん」
「とにかく、じーっとしていれば死ぬんだから。
座して死を待つよりかはイチかバチかでやるっきゃないよ」
「うーん」
「じゃあ、いいよ。私だけ行くから私を下ろしてよ」
「えー、いいよ、私も行くよ」とミキはすがるように言った。




元文書 #1060 ◆シビレ湖殺人事件 第5章・ミキー3
 続き #1062 ◆シビレ湖殺人事件 第6章・ヒヨリ再びー2
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