AWC ◆シビレ湖殺人事件 第5章・ミキー2


        
#1059/1158 ●連載    *** コメント #1058 ***
★タイトル (sab     )  16/02/12  14:13  (129)
◆シビレ湖殺人事件 第5章・ミキー2
★内容
帰り道、私らはなんだが上機嫌だった。
V溝の渓谷の脇の道を、意気揚々と引き上げていった。
ヒヨリが前を歩いて、私は後ろから肉をかついで行った。
ヒヨリが「♪肉を担いでいこよっ」と妙な替え歌を歌う。
「ほらほら、気をつけて。ここらへんは滑りやすいんだから」
「了解、了解」
言いつつも、下りだから、どんどんを足を出して行った。
私も、鼻緒をぎゅっと掴んで足を出す。
ところが、湖畔の道に出て、左に湖、右に森を見ながら歩いていたら、
突然 左の下っ腹が痛くなってきた。
「いててててて」と私は歩調を緩めた。
「どうした?」ヒヨリが振り返る。
「下っ腹が痛い、ちょっとこれ持ってて」と肉を渡す。
「いてててて」と腹を押さえて私はうずくまった。
マジ痛い。
しかも、キューっと腹が痛んだ後に、歯磨きのチューブでもひねるみたいに、
中身が直腸から肛門の方に迫ってくるのがわかる。
「やばい、漏れそうだ」
「森ん中でやってくれば?」
「そうする」
私は肛門を締めたまま産まれたばかりのキリンみたいな格好で立ち上がると、
脇腹を押さえつつ内股で森の中へ入って行った。
一歩森へ入るとひんやりしていて、薄暗くて、杉だかの幹があちこちに伸びていて、
地面は草で覆われていた。
どっか適当なところはないだろうか、と進んでいく。
ウンコが後ろに流れていくちょうどいい斜面はないだろうか。
しかし、もはや腸の蠕動運動が痙攣的に押し出そうとしているのを
肛門で止めているので、逆流してごろごろいっている。
ああ、もうあそこでいいや、私は森に入って6、7メートルぐらいのところで
パンツを下ろすと、尻を向こうに向けてしゃがみ込んだ。
ふと、上を見ると、ヒヨリが肩に肉を担いで、もう片方の手を木の幹について、
見下ろしていた。
「なに、見てんのよー」
「誰も来ないか見張っていてやったんだよ」
「誰も来るわけないじゃない。向こう行ってろ」
しかしヒヨリは一瞥した後くるっと向こうを向いただけでその場を離れない。
チッと舌を鳴らした、が、さっきより激しい痙攣がきてもう我慢出来ない。
私は肛門を緩めた。
最初、ぶりぶりっと音がしたものの、後はどぼどぼーーーっと
シチュー鍋をひっくり返したみたいに大量の下痢が流れ出る。
ウンコは下の方に流れていった。
全部出し切ると、お尻から太ももにかけて、じーんとして、
多少吐き気もしたが、妙な安心感を得る。
はぁー、助かった。
と、上を見上げるとヒヨリが見ている。
「魚のニオイがするよ」と彼女は言った。
「量もハンパないね。私なんてコーラックを飲んだってそうは行かない」
恥ずかしいとは感じなかった。
そんな事より拭くものが…。
「ティッシュ、持っていない?」
「そんなもの持っている訳ないじゃん。そのままカニ歩きをしていって、湖で洗えば」
「無理だよ、そんなの」
ヒヨリは肉を担いだまま身をよじってGパンのポッケをさぐると、
「これだったらあるよ」
と、白い紙を取り出して片手で丸めると投げてよこした。
紙は右前方に着地。私はカニ歩きで移動していって、それを拾う 
広げてみると「一学期生物Tの補習に関するお知らせ」?? 
とにかくそれを拝むように揉んで柔らかくすると、そっと拭く。
じーっと見ていたヒヨリが一言。
「斉木に見せてやりたかったよ」

全てが終わって、この世の天国ー、みたいに小道に戻ると、湖面側にたって、
大きく息を吸った。
肉を担いでいるヒヨリがゆっくりと私の方に振り返った、その瞬間だった、
幹から伸びていた小枝の先っぽが彼女の上腕に引っかかって、
塗りたての壁をクギで引っ掻くみたいに、ぐにゃっと切り裂いた。
ところが、いてーっ、となる筈が、ヒヨリは肉を担いだまま、ボーッと見ている。
どくどくと血が出てくる。
「ああー、とりあえず、肉、下ろしな」と、肉を下ろさせると、
傷ついた腕を上げさせて、もう片方の手で脇の下あたりを握らせて止血させた。
「ちょっと待ってな」と言って、道の脇の木のところに走って行って、
絡まっていた蔦をナイフで切り取ってくる。
そして、上腕を縛ってやる。
「ランボーみたいになっちゃったけどね、
これだけ深く切れていたら縛っておかないと」
「でも、全然痛くないよ」とヒヨリ。

ところが…そこからは、私が肉を担いで歩いて行ったのだが…、
ロッジのサイロみたいな屋根が遠くに見えてきた頃、
私らは突然変調をきたした。
まず、私が、さっきの下痢ぴーが、急に恥ずかしくなってきた。
「さっき、本当に誰も見ていなかったよね」突然私は聞いた。
「は? 見ている訳ないじゃん。私以外は」
「まさか写メしていないよね」
「してないよ」
「もしかして 森のあちこちに監視カメラとか仕掛けてあって、盗撮されていた、
なんてことはないよねえ」
「なに、弱気になってんだよ」とヒヨリは笑っていた。
しかし、今度はヒヨリが、「なんか、だんだん傷が痛くなってきた」と言い出した。
「えー」
「痛い。ずきんずきんする」
そして、じーっと、眉間に皺を寄せて、私が担いでいる肉を見ていた。
そうしたら、うっ、うっ、としゃっくりみたいに何かこみ上げて
くるみたいになって、口を押さえて道端にしゃがみ込むと、吐いた。
「大丈夫?」そばに行って背中をさすってやる。
「来ないでー。その肉がキモいんだよぉ。ヒヅメも付いているし」
「えー、今更」

薄くスライスした羊の肉を串刺しにしたものを、
パチパチっと爆ぜる焚き火の周りに、刺す。
ヒヨリは相変わらず芋を棒に刺して焼いている。
肉が焼けてくると、砂糖、醤油をつけて炙った。
そして焼きあがったものを一口食べる。
「うんめー、ジンギスカンじゃない」
「ミキはマッチョだよ」泥パックみたいな顔をこっちに向ける。
「さっきまで生きていたのに」
「自分だって一緒にやった癖に」
「それはそうだけど」脱力して両手をだらーんとさせた。芋が地面に触れる。
「なんで森の中だとグロいのが平気なんだろう。怪我しても痛くないし」
「私もなんで森の中だとああいうことが平気なんだろう」
私は、今では“ウンコ”というのもはばかられるのだった。
「何でだろう…」
と呟きあって、二人して焚き火を見詰めていた。

ピピピッっとヒヨリの時計が鳴った
「放送だ」といってスイッチを押さえる。「今日で最後だから、
何があっても帰れるんだよね」
「そうだねー」
「私は下山したら、モスバーガーとかミスドを大量に食うよ」
「モスとか食べられるの?」
「エビカツとかかきあげバーガーとか和風テーストのがあるんだよ」
「へー。私はとりあえずマックとケンタに行くけどね」
言うと私は羊の肉を焚き火に放り込んだ。
二人共、立ち上がって尻の泥を叩く。
そして私らはロッジに向かった。

食堂に行くと、液晶テレビのバッテリーを交換して、
丸椅子に座って放送の開始を待った。
画面が青白く光って、ナベサダが現れた。




元文書 #1058 ◆シビレ湖殺人事件 第5章・ミキー1
 続き #1060 ◆シビレ湖殺人事件 第5章・ミキー3
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