AWC ◆シビレ湖殺人事件 第5章・ミキー1


        
#1058/1117 ●連載
★タイトル (sab     )  16/02/12  14:13  (238)
◆シビレ湖殺人事件 第5章・ミキー1
★内容
とうとうヒヨリと二人になってしまった。
翌朝も、私らはキャンプファイヤー場の焚き火で、私は魚を焼いて、
ヒヨリは芋を棒に刺して突っ込んでいた、茹でるんじゃなくて。
ヒヨリの痩せが酷い。顔は煤けていて皮脂でてかっていて、髪はヤマンバ、
シャツもパンツも薄汚れていて、丸で焼け跡の戦災孤児みたいな。
焚き火を見ていると、皮脂で顔が光る。
魚が焼けたので、私は魚の棒を口にもっていった。
ヒヨリが、皮脂でこわばった顔をこっちに向けた。「その魚、腐ってんじゃない? 
昨日のでしょ」
えっ、と思って自分で嗅いでみる。
「最後は自分の鼻を信じるんだ。まるで原始人」
「何言ってんの。子供だって…赤ちゃんがミルクを飲まないから大人が味見をしたら
洗剤が入っていて死んじゃったとかあるんだから。つーか、ヒヨリは何を信じるのよ」
「賞味期限とか」
賞味期限か。そういえば、ポテチの裏の食品成分一覧を見ていた。
「つーか、そんなんで、と畜、行けるの?」と私は聞いた。
「うわー」芋の棒を前にだらーんと垂らして、うな垂れた。
「それって本当に必要な事なの? もう2名残ったんだからそれでいいじゃない」
「MAX2名って事で、定員2名って事じゃないんだよ。
カリキュラムはカリキュラムでやらないと。ナベサダも言っていたじゃない」
「何か言っていたっけ?」
「最後だから頑張れとか」
ヒヨリは芋の皮を剥くと、塩をふってぼそぼそと食べた。
私は、焼きあがったばかりのジューシーな一夜干しの淡水魚に、がぶりと噛み付いた。
ぷちぷちと脂が乗っていて美味しい。

飯食い終わって、ロッジに戻るとベランダに道具を並べる。
ナイフ、と畜ピストル、薬きょうの入ったビニール袋、地図、肉を包むシーツ。
ヒヨリは銃に見入って「これで撃つの? こんなの事高校生にやらせて
罪にならないの?」と言った。
「肉なんて普通にスーパーで売っているんだから、
と畜をやっても普通なんじゃない?」
「普通じゃないよ。つーか、うちの近所に牛がいるんだけれども、
すごいでかい。軽自動車よりでかいんだよぉ。
そんなのこんなんじゃあ」とと畜ピストンを指差した。
「試しに、一発撃ってみよう」言うと私は、銃を持ち上げた。
電動工具並に重たくて両手じゃないと持ち上がらない。
がくんとテラスの上に下ろす。
薬きょうの袋には6個入っていた。一個取り出す。
座薬ぐらいの大きさで、首にぶら下げるロケットみたいな感じ。
銃口をテラスに付けたまま斜めに構えると、撃鉄を上げて、薬きょうをこめた。
引き金に指を突っ込んだ。
「じゃあ、撃つからね」と言うと、私は顔をそらせた。
「撃つぞー」
引き金を引く。
カチャっと音がして、パーンとクラッカーの様な乾いた音がして、火薬の煙が立った。
もわーん。
銃をどけてみると、テラスにすっぽりと穴が開いていた。
「すごい。これだったら象でも逝ってしまうかもね」
「ムリムリ」とヒヨリは激しく頭を振った。「無理ぃ」
「じゃあ、どうする? 行かない?」
「行くには行くけどぉ」
「じゃあ、とりあえずヒヨリは道案内をして。地図とシーツを持ってって」
そして自分は、左のポケットに薬きょうを、ナイフを尻のポケットに挿して、
と畜銃を抱えた。

湖畔の小道を、私らは時計回りに進んだ。
もう見慣れた感じの風景の中、ただ じゃりじゃりと足音をたてて歩く。
地図を見ながらヒヨリは左腕を反らせた。「10時のところで左に曲がる」
それから森の方を見て、「こんなところに牛がいるのかなぁ」と言った。
「もし居れば、やっぱり学校が操作しているんだなぁ、という感じはするじゃない」
「そんな大掛かりなことをする? あんなチープな都立高が」と言いつつ、
水面を見やる。「あのイケスなんてもっと不思議だよ。あんなこと、
あの学校がする?」そして湖の反対側の森を見て「もしかすると、
あっちこっちにカメラが仕掛けてあって、ネットで公開しているのかも知れない。
…あの森って、巨大な狸が狸寝入りをしているようだよね。そういう感じがしない? 
本当は私らの動きを薄目を開けて見ているのに、寝たふりをしている」

やがて小道は、せり出した森の傘の下に入って行った。
しばらく歩いていくと、裸の木が門構えの様に組んである箇所に差し掛かった。
「ここだ」と言って、ヒヨリが立ち止まった。「だって地図に書いてあるもの」
「へー、こんなところ?」言うと暖簾でも潜るように、潜って行った。
そのまま私が先頭になって歩いた。
細い道がずっと坂道になって続いていた。
右手に雑木林があって、左手は沢みたいなV字の溝がずーっと続いているのだが、
草木が生い茂っていて底は見えない。
向こう側は記号の√みたいな切り立った崖になっている。
そこを、重いと畜銃を担いで歩いているのだが、
サンダル履きだから足元が危なっかしい。落っこちたら二次災害だ。
「なんか、こういうところを歩いていると、
動物の死体とか転がっていてもなんとも思わないかも」後ろでヒヨリが言った。
「なにを突然」
「いや、道路に犬の死体とかあるとキモいんだけれども、
こういうところだと平気だなぁーって。
家の近くの牛も、道路のそばにいるからグロいんだよ」
「本当にぃ? びびっているからそんなこと言ってんじゃないの?」
「本当にそう思うんだよ」
とか言っているうちに分岐点が見えてきた。
近くに行くと「畜産場は右折」という看板が立っている。
「やっぱここでいいんだ」と言って一旦止まる。
ぐーっと身をよじって、「さぁ どうする?」とヒヨリに言った。
「もちろん行くよ。今だったら平気そうな気がするから」
「じゃあ、行こうか」言って私は、顎をクイッとしゃくって促した。
脇道に入ると木々の枝から蔦が垂れ下がっていて、
足元は枯れたオギが生い茂っている。 
そこを、ばきばきと進んでいくと…。
生い茂った木々の影に、屋根と柱だけのあずま屋みたいなのがぼんやりと見えてきた。
「あれじゃない?」
更に進むと小さな牛がつながれているのが見えた。
家畜のにおいが鼻についた。
「くせー」とヒヨリ。
近付いて行ってみると、あれはヤギか。いや、あれは…。
「羊だよ」
もはや我々は小屋の柵の前に居た。
1メートル余りの薄汚れた小さな羊だった。
「きったねえ羊」とヒヨリは言った。
柵から中を覗き込むと、ビクッと動こうとするが、左右に繋がれているので動けない。
飼い葉桶や藁があって、糞便は垂れ流しであった。
「ずーっと繋がれっぱなしだったのかなあ」
「可哀想だなあ」とヒヨリ。
「でも、やっちゃわないとね」
私は、ちょっと後退して、草むらの上に、と畜銃と薬きょうの袋とナイフ並べた。
何気、あたりを見回すと、あずま屋の向こうに崖があって、
その向こうは湖らしいのだが、その崖っぷちに、ヨイトマケみたいな滑車があって、
長いロープがとぐろを巻いていた。
「あそこ、見て」
「あそこで殺るのかな」
「違うよ。ここで失神させて、あそこに吊るして血を抜くんだよ。
そして吊るしたまま、解体するんだよ。アンコウみたいに」
羊が、暴れようとしてあずま屋ががくっと揺れた。
ヒヨリがビクッとしてそっちを見た。
私はしゃがみ込むと、ナイフとと畜銃を交互に指して言った。
「それじゃあ、ヒヨリ、どっちにする?」
「え?」
「銃で撃って失神させる係りと、腹を裂いたりする係りとどっちがいい?」
えっ、と一応驚いてから、じーっと道具を見て考える。
ヒヨリは草むらの上にシーツを置くと、と銃に手を伸ばした。
重たそうに、肘をくの字にして引っ張り上げると胸に抱える。
「そう行くかあ。じゃあ 一発練習してみよう」
薬きょうの袋から一発出すとヒヨリに渡した。
「え、どうやんの?」と不器用な感じで、撃鉄のあたりをいじる。
「ほら、こうやって」と、ヒヨリがいじっているところに手を出す。
しかし、「いいよ」と言って肩で牽制してきた。
しかし、ガタガタと震えている。あれは武者震いか。
とにかく、自分で撃鉄を上げて薬室に装填した。
「そこの蓋は普通に閉めればいいんだよ」
「分かっているよ。見ていたから」
薬室の蓋を閉めると、銃を抱えて立ち上がった。
そして、あたりを見回して、朽ちた木の根を見付けると、
そこに行ってしゃがみ込んだ。
やおら木の根に銃口を当てる。
「撃つよ」
言うと顔をそらし気味にして、ウーっと顔を歪めた。
引き金をひく。
ぱーんと音がして、木の根が砕け散った。
羊が暴れて、あずま屋が揺れる音がした。
木の根からはむわーんと煙がたった。

ヒヨリ、ふっふーっと煙を吹くと、熱いかどうか確かめながら、薬室を開けて、
銃をひっくり返して薬きょうを捨てる。
「もう一発頂戴」
箱から出して渡してやる。
今度は結構手際よく装填した。
「じゃあ、本番 行くよー」言うと、銃を抱えて立ち上がった。
正面から屋根の下に入ると、羊の前に立つ。
羊は気配を察して逃げようとするが、縄につながれて逃げられない。
ヒヨリはにじり寄ると、羊の鼻の上に銃口を乗っけた。
羊は後ずさろうとするが、縄がピーンと張って動けない。
ヒヨリは顔をそらし気味にすると、またまたウーっと顔をしかめた。
そして、ついに、引き金を、引いたー。
パーンという音が湖の方にこだまして、返り血がヒヨリの頬に数筋、顔射された。
羊はがくんと膝から崩れて、スローモーションで倒れて行った。
やりやがった、と私は思った。
さすがに今の一発で、ヒヨリは、呆然自失で突っ立っている。
私は駆け寄っていくと、銃を握ったまま硬直している手を開かせて、
銃を奪うとそこらへんに放り投げた。
「よし、今度はあそこに吊るすから、ヒヨリ、後ろ足を持って」と言っても呆然自失。
「おいおい、目を覚ませ」と頬の血を指の腹で拭ってやる。
その血をねじりつけるところがないので、足元の羊で拭いたら、暖かくてへこんだ。
生き物だ。早くしないと目を覚ましてしまう。
「ほら、ヒヨリ、目を覚ませ」と、頬とひたひたと打つ。
ヒヨリは、はっとして目を覚ました。
「これ 早く運ばないと。私がこっちを持つから、あんた後ろ」
「オッケーオッケー」と小屋の奥に入って行くと、後ろ足を持った。
「そんじゃ、いっせいのせいで。いっせーのーせー」で持ち上げる。
羊は、肩から首から脱力しているので、ちぎれるんじゃないかと思えた。
えっちらおっちら運び出すと、一斗缶でも運んでいる様に内臓が揺れて、
口から中身が溢れてきそう。
額からは血がぼたぼた流れている。
ヨイトマケのところまで運んでくると、ばさっとそこに下ろす。
即、私はロープのところにいって引っ張ってくると、
ヨイトマケのてっぺんにぶさらがっている滑車を見て、
あそこに通してから脚につなぐんだな、と了解して、
ロープを滑車に通すと、後ろ足にぐるぐる巻きにして片結びで結んだ。
そして反対側に行ってロープを引っ張ると、羊がぐねーっと引っ張り上げられる。
「私が引っ張り上げるから、あんた、そこのところにつないで」と言って、
体重をあずけて、ロープを引っ張り上げる。
背後で、ヒヨリがヨイトマケの脚にロープを固定した。
手を離すと、逆さまに万歳をした状態で、羊は軽く揺れている。
丸まって生きていたのに、毛の無い腹を晒していて、
しかもメスで おっぱいが並んでいる。
口は半開きで泡でぶくぶくしている。
早くしないと息を吹き返す。
Gパンのポケットからナイフを取り出すと、どこだ、と、
アホみたいに自分の頚動脈を触ってみる。ここらへんかあ。
ぶら下がっている羊と見比べた。
しゃがみ込むと、迷わず、羊の首筋に、だいたいここらへんかと検討をつけて、
ナイフを引いた。
しかし、毛皮が垂れ下がってきていて、刃が立たない。
数回切りつけてみるが、丸で、絨毯でも切っているような切れ味の悪さだ。
羊が揺れると、息をしているような温もりが立ち上ってくる。
もたもたしていたら息を吹き返してしまう。
ナイフを逆手に持ち替えると、耳の後ろに刃を立てて、そのまま数センチ差し込んだ。
そして、ぎこぎこやりながら手前に切り進んできた。
途中で頚動脈を切ったらしく、ざーっと、ペットでも逆さまにしたみたいに
血が流れ出してきた。血は地面で泡立つと、そのまま崖の方に流れて行った。
反対側も同じ要領で切り裂く。

死んでしまえば最早物。割と落ち着いて、腹に取り掛かる。
毛の生えていない腹の、陰部に近いあたりに、ブスリとナイフを突き刺して、
ぎこぎこやりながら下の方に切り進む。
もくもくと小腸が湧き出してきて、生ぬるい温もりが顔に当たった。
今度は脚の付け根からへその方にむかって、逆Y字切開する。
毛皮から内臓が出ているのが妙な感じだったが、
この内臓を本体から切り離さなければならない。
ふと気になって背後のヒヨリを見ると、怯えるでもなく、
膝に手を突いて中腰になって覗き込んでいる。
「ねぇ、そんなに丁寧に解体しないでも いいんじゃない? 
食うところだけ切り取っていけば」
「えっ」
「だって、別に肉屋に卸す訳じゃないんでしょ」
「そりゃあ、そうだけど」
「どこを食いたいのよ」
「うーん。このもも肉んところ」
「じゃあそこだけ切れば」
そっかあ。そうだよな。
もしかして自分も自然の中でテンションが上がっちゃって
解体ショーをやっていたのかも知れない。
それって、野外で、燻製を作るみたいな、アウトドアオタクの興奮だよなぁー、
と、ナイフを握りながらも、一気にトーンダウンしていった。
とりあえず、私は、吊るしたまま、片脚の太ももの皮を剥いた。
それから、その下にシーツを敷いて、太ももがくるようにロープを緩めた。
シーツの上に横たわった太ももの付け根の部分を、
まきでも割るみたいにナイフを数回振り下ろして粉砕し、本体と分離した。
その部分だけをシーツに包む。
「残った羊は崖下にでも落とそうか」
「いいよいいよ、このままで」とヒヨリが言うので、
そのまま、お手てとお手てを合わせて、なむなむして、ミッションコンプリート。




 続き #1059 ◆シビレ湖殺人事件 第5章・ミキー2
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