AWC ◆シビレ湖殺人事件 第3章・斉木ー3


        
#1051/1117 ●連載    *** コメント #1050 ***
★タイトル (sab     )  16/02/08  17:23  (257)
◆シビレ湖殺人事件 第3章・斉木ー3
★内容
ようやく、ロッジにたどり着くと、ミキ、ヨーコ、ヒヨリの3人が、
テラスの手すりに手をついて、見下ろしていた。
まるで漂流してきたボートでも見下ろす様に。
ミキは既にTシャツを着ていた。
既に何があったか話されているのだろうか。
しかし3人は何も言わず、黙って見下ろすだけだった。
「やあ、みんな。そんな所で何をやっているのかな」
と何事も無かったみたいに言いながら、近寄ってみる。
「臭いんだよ。死体が」とヒヨリが言った。
「だから、移動させないとならないんだよ。あっちの方に」と右手を上げた。
「あっち? キャンプファイヤー場でもいいんじゃないの?」
「そんな事したら飯が食えなくなるだろうが。向こうの方に、
貝塚みたいなのがあるんだよ。そこまで運ぶから斉木も手伝ってくれよ」
「もちろん」
そんじゃあ行こうか、みたいな3人は目配せをして、食堂の奥に消えて行った。
自分も テラスの階段を上ると、そそくさと食堂の奥に行く。
しかし、廊下の突き当たりまで行くと、もう酸っぱいニオイがたちこめていた。
階段の中程ではヒヨリが、「うー、無理ぃ」と、引き返えそうとしている。
ミキが立ち塞がって「無理って言っても無理だよ、4人じゃないと運べないんだから。
こうやっておけば大丈夫だよ」と言うとTシャツの首を鼻に引っ掛けた。
「後は見ない様にしておくしかないんじゃない」
ヒヨリは泣きっ面をTシャツの丸首で覆う。
地下室のドアをきぃーっと開けると腐臭は更に強まった。
鉄格子の向こうに、換気用の弁当箱大の小窓があって、2体の遺体を照らしていたが、
腐臭も風に乗って漂ってくるのだろう。
室内に進み入ると鉄格子を開けて中に入って行った。
蠅は舞っていなかった。
牛島はビーフジャーキー化していて仏像みたいに固まっていた。
春田の方は皮膚の炎症もあったので、
顔半分がケロイドの様なグロい状態になっていた。
「くさーい」ヨーコが素直に言った。
うえーっ、とヒヨリはえづく。
「しゃべるな、つーか、鼻で息をするな」とミキが鼻づまりの声を出した。
「さっさと運ぶぞ」
春田は、夕べ運んだまま、鍬鋤にGパンを通した担架の上に乗っかっている。
「じゃあ、前はヒヨリとヨーコで、後ろは重いから私と斉木君ね」
とミキが手際よく指図する。「それじゃあ、いっせーのせいで行くわよ。
いっせーのせぇー」で持ち上げる。
そしてみんなでよろよろと鉄格子の扉をくぐった。
特に苦労したのが階段のところで、前2人は目一杯手を下ろして、
後ろ二人はバンザイ状態で、団地からお棺でも運び出すような苦労をして運び出した。
どうにか裏口から出ると、もう蛇かカエルの死体でも捨てに行くような早足で
“貝塚”まで一直線に走って行く。
“貝塚”とは、山の斜面にある窪地で、
四方がソロバン玉の様な小石で出来ているのでそう呼んでいるのだろう。
深さは3メートルだな。
到着すると、上から見下ろして、「下ろすのは無理なんじゃない?」とミキ。
「むりむり。やむを得ないよ」
と、ミキ、ヒヨリで即決すると、担架をひっくり返して上から落下させる。
春田君は、ごろごろごろーっと転がって行くと、底で卍の様な格好になった。
ここで合掌。
そんな感じで、牛島君のご遺体も運ぶ。こっちは割と軽かった。

帰り道、ロッジに向かって坂道を下っていると、
ミキもヒヨリもTシャツから首を出して、
丸でバキュームカーでもやり過ごしたみたいに、
鼻の穴をおっぴろげて新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込んでいた。
僕は思わずぷっと吹き出した。
「なによ」ヒヨリが睨んでくる。
「あまりにも美味しそうに空気を吸っているからさあ」
「は?」
「多少汚いものに接していた方が免疫力がついていいんだよ」
「は? てかさ…」と、一瞬言い返そうとしたのに言葉を飲み込んだ。
そして正面に見えてきたロッジを指差して言った。
「私はどうせグロ耐性がないから、私の為に地下室の掃除してきてくれる?」
「えっ。まだやんの?」
「そうだよ。あんなに汚かったら、まだ臭ってくるかも知れないし。
ほら。ちょうどあそこにバケツもあるし」
裏口の外水道のところに、用意しておいたかのように、バケツが転がっていた。
そして到着すると、ヒヨリがそれを持ち上げて、こっちの胸に押し付けてきた。
「ハイ、お願い」
「なんで僕が」
「だって、こっちはグロ耐性ないんだから」
「ざーっとでいいからやってきなよ」とミキまで言う。
そして屋内に入ると、三人に急かされるように、階段を降りて、
地下室に入って、そのまま鉄格子の中に入った。
遺体がなくなってみると、結構広いなぁ。
「一人じゃ大変だからみんなも手伝ってよ。あと掃除用具とかどっかにないのぉ」
と振り返った瞬間、3人はまさに鉄格子を閉めるところだった。がしゃーん。
「掃除用具は、お前の股間に刺さってんだろう」
3人は、何やらベルトの様なものを、鉄格子にまわして、施錠した。
鞄の取っ手と南京錠で作った輪っかだった。
「なにすんだッ」
「お前なぁ、股間にそんなものぶら下げて、私に説教してんじゃないよ。
このアナニストが」
3人でガチャガチャと施錠の具合を調べてから、3人共、踵を返した。
「ちょっと待ってぇ」
しかし3人はドアの向こうに消える。
ドーンと扉が閉められた。
一瞬、部屋が揺れる様な気がした。

僕は、鞄の輪っかに飛びついてガチャガチャやって壊そうとしたが、
素手ではどうにもならなかった。
それに外れたとしてもどうにもならないんだ、と思った
あぁ、と呻きながら、壁に背中を付ける。
小窓から入ってくる陽の光が、空中のホコリに反射して光の筋を作っていた。
僕は、壁に背を付けたまま、ずずずずずーっとその場に座り込んだ、
犬が尻尾を巻く様に肛門を前に出す感じで。
ハーパンの隙間からブラシの頭が飛び出してくる。
あの3人はずーっと僕をここに閉じ込める積りでいたんだな、と考えた。
どの段階で作戦が開始されたんだろう。
やっぱ森の中で3人が再会した時に相談したんだろうな。
その前に、なんでイケスのところでミキを襲ったりしたんだろう、とも思う。
それよりなんで夕べアナニーなんてしちゃったんだろう。
そもそもなんでこういう性癖なんだろう。
色々考えたが、考えがまとまらなかった。
光の筋をぼーっと眺めていると、瞼が重たくなってきた。
そしてそのまま眠りに落ちていった。

そして目を覚ました時には、小窓から月明かりが差していた。
そうすると、何と 青い暗闇の中にまたまたナイチンゲールの格好をした
ミキが浮かび上がるではないか。
そしてこんな状況なのにまたアナルが疼きだす。
もう、やめてくれーッ! 
僕は両耳を押さえてイヤイヤをする様に頭を振ると脳内ミキを追い払った。
でも何時もこういうタイミングで脳内ミキは出てくるし、アナルは疼くのだった。
今みたいに、夜、一人で居る時とか。
或いは、もうちょっと長いスパンで言うと、風邪をひいて学校を休んでいる時とか。
或いは、もっと長いスパンで言うと、高校入学前で日常生活が中断されている時とか。
つまり解離的な状況でミキは現れてくる。
そういう時のミキは、イデア的というか、身体を持っていないから動物的な欲求も無
い。
ウンコもしなければまんこもない。
だから、ペニスを刺すという事は有り得ない。
そして、ちょうど疼いていた肛門に、
ナイチンゲールの様に職業的な使命感から奉仕する、というのが妄想のパターンだっ
た。
どうやったら、大人の愛というか、
普通にキスしたりセックスしたり出来るんだろう、と考えた。
それは、解離があったら駄目なんじゃないのか。
それは、切り花みたいなもので、根が無い感じ。
もっと連続していないと駄目なんだ。
生きている女っていうのは、大地に連続している、というか、
花もあれば根もある訳で、綺麗な体もあればウンコ系もある訳で。
成熟した愛というのは、その両方を受け入れないと。
でも、あのイケスに居たのは、リアルミキなんだよな。
どうしてリアルミキにあんなナイチンゲール的奉仕を求めたんだろう。
それは、あまりにも脳内ミキが大きくなりすぎて
リアルミキを飲み込んでしまっただめなんじゃないのか。
だから、リアルミキに接する為には、脳内ミキを消してリア充すればいいんだ。
つまり唯脳的な状態を回避すればいいのだ。
それにはどうすればいいか。
とりあえず、首でも締めて、頭に行く血流を止めてしまおうか。

僕は、立て膝をした格好て、スリーパーホールドでもかけるみたいに、
腕を首に巻いて考え事をしていたのだが、
このまま上体をぐーっと前に押し付ければ首が絞まるんじゃないか、
と思ってやってみる。
すると、頚動脈の脈拍が、どくんどくんと強くなって行くのが分かる。
脳に血を送ろうと、必死になっているのだろうか。
緩めてやると又元に戻る。
もう一回、ぐーっと締めてやる、と、又どくどくいいだす。
しかし、それ以上は強くはならなかった。
試しに手の平で締めてみたが同じだった。
圧迫が足りないんじゃないのかと思って、何回もスリーパーホールドをかけてみるが
上手く行かなかった。
その内、首が痛くなってきて、首をぐるぐる回していたら、
通気口の鉄格子が目に入った。
あそこにベルトを通して首を圧迫すれば…。
僕は立ち上がると、ハーパンからベルトを抜いて、
そこらに転がっていたバケツを踏み台にすると、鉄格子に渡して輪っかを作った。
ぱんぱーんと引っ張って強度を確かめる。
壁に背を付けて、その輪っかに顎を乗せると、
喉笛にかからない様に頚動脈の位置にもっていく。
臍の前で脈をとりながら体重を預けた。
すると、手首の脈拍でも心臓が苦しがっているのが分かる。
僕はにんまりとして脚に力を入れた。心臓も楽そうになる。
そして又体重を預けて心臓を責める。
心臓がバクバク言い出した。
今度は少し長めに苦しめてやるか、と、やっていたら、
目の前がだんだん白くなってきた。
アハハ。
しかし、僕って何時でもハンズフリーだな。アナニーの時もそれで失敗したのだ。
ふと目を凝らすと、入り口のドアのところに誰かが立っている。
「誰だ」
「何をやっているの?」ヨーコだった。彼女は鉄格子のところまで来ると
「死ぬ積もり?」と言った
「何しにきたんだ」
「これ、夕ご飯」しゃがむと、鉄格子の隙間から芋を2個転がしてきた。
夕ご飯? もうそんな時間なのか?
「そんなところから早く下りてきて」と言って、ヨーコは立ち上がった。
もっさりヘアーに浮腫んだ顔が月明かり浮かんだ。
その顔を見て、ああ、こんな事やっていても無駄かもなぁ、と思う。
だって、こうやって首を締めて脳を矯正すれば肛門性愛から解放されるとか
思ったのだが、
ヨーコのムーンフェースを見れば、やっぱりヨーコにはヨーコの気質があるように、
僕には僕の気質があって、それ故の運命みたいなものがあるんじゃないかと。
「もしかしたら僕も君も死ぬ運命なんじゃないか」僕は不用意に言った。
「えっ」
「今、突然思い付いたんだけど、
今まで死んだ奴らって染色体異常で取り除かれたんじゃないかと思って」
「えっ」
「男にも女にも染色体異常っていうのがあるんだよ」と僕は言った。
「男だと XYYシンドロームが牛島だろ。
     XXY、クラインフェルター症候群が僕だろ。
     XXYY、ヌーナン症候群が春田だろ。
女だと、XXX、トリプルXシンドロームがミキ、
    XXで普通なのがヒヨリ、
    X一本のターナー症候群がヨーコ」
「あなたもどっかおかしいの?」
「ああそうだよ。この胸を見てみな」僕はTシャツをめくって見せた。
「こんなに貧弱な体格なのに乳房だけでかいだろう。
こういうのはクラインフェルターの特徴なんだよ。
だから、僕も含めて、男子3人は取り除かれる運命だったのでは…」
「ミキも取り除かれるの?」
「XXXはスーパーフィメールっていうぐらいだから生き残るかも。
でも、X遺伝子一個の君は…」
「死ぬというの?」
「かも知れない」
「どうして私がそれだと分かるの?」
「そりゃあ見れば分かるよ。産婦人科医だから。春田と君は似ていると思うよ。
ヌーナンが女に起こるとターナーになるんだよ。
キャベツ畑人形みたいに頭がでっかくて、眉毛が薄くて。
そういうところが類似しているんだよ」
「そういえば春田君は眉毛が薄いのを気にしているな、って思ったの。
一緒に居る時に、甘い香りがしてきて、
あれ、これミクロゲンパスタのニオイだ、って思った。
それは私も使っていたので分かったのだけれども。やっぱり同類だったのか」
「性器はどうだった?」
「え?」
「牛島と春田のペニスを見たんだろう」
「牛島君のはでかかった。春田君のは小さくて…」
「金玉はどうだった? 半分股間にめり込んでいなかった?」
「そこまでは見ていない」
「もしそうだったら彼は確実にヌーナンで、
僕の診立てが正しかった事になるんだがなぁ。
そうすると君もターナーだという可能性も高くなる」
言うと僕は月明かりに浮かぶヨーコの文字通りムーンフェイスを見た。
「もし、君がここで胸と性器を見せてくれれば正しい診断がつくんだけれども。
どうかな、見せてくれないか」
「いやだ、そんなの」
「僕だって、ほら、こうやっておっぱいを見せているんだから」
言って僕はシャツをめくりあげてひらひらさせた。
「いやだ。恥ずかしい」
「いいじゃないか。こっちだって見せているんだから」
言うと、シャツを思いっきり引っ張った。
「ほら、こうやって見せているんだから。ほらぁ」
と、その瞬間バランスが崩れて足の下のバケツが外れた。
ビーンとベルトが頚動脈に食い込む。
「うっ」
急に目の前は真っ白になった。
慌てて、ベルトの間に指を突っ込もうとするが自重で食い込んで入らない。
「ううう」
足が空を蹴って、ズボンが脱げるとブラシが露出した。
目の前が暗転すると、どす黒い血の海の様になる。
ヨーコの顔がぼやけてきた、と思ったら、
でっかい顔に離れた目が狛犬みたいで。
あれはなんだ、と僕は思った。
あれはもしかして…。
ここはもしかして…。
ここがどこなのか分かった。
そう声に出そうとしてももう出ない。
ここがどこだか分かったぞ、と思いつつも、意識は薄れて行った。
ブラシがずるっと抜け落ちて、大量の脱糞をした。どぼどぼどぼ。
黒い血の海に2匹の狛犬が加わった。
そいつらは「放送の時間だー、放送の時間だー」と言った。
しかし目の前は真っ暗になった。




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 続き #1052 ◆シビレ湖殺人事件 第3章・斉木ー4
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