AWC ◆シビレ湖殺人事件 第2章・春田ー5


        
#1047/1158 ●連載    *** コメント #1046 ***
★タイトル (sab     )  16/01/22  18:37  ( 82)
◆シビレ湖殺人事件 第2章・春田ー5
★内容
うーむ 俺は顎を揉みながら唸った。
こりゃあ何か大発見をした気分だぞ。
ヨーコが戻ってきたら色々なところをチェックしてやろう。
髪の毛の生え際とか、陰毛の生え具合とか。
やがて階段をミシミシいわせて、ヨーコが戻ってきた。
俺は膝小僧に手をあてて、よっこいしょと立ち上がるとベッドに移動して、
そして手ぐすねを引いて待っていたのであった。
ところがヨーコはドアのところでフリーズしている。
「どうしたの。こっちにおいでよ」
「なんか湿疹がすごいよ。すごい広がっている。つーか、ゾンビ?」
「えっ? 湿疹? 草笛で出来たやつかな」
俺は口の端を押さえた。
すると口の端から頬の方にかけて、ぬるっとした感じが広がっていた。
そして、指先を見てみると、血と膿の混じったような体液が…。
なんじゃこりゃーッ!
俺はすがるような視線をヨーコに送った。
しかし彼女は、後ずさる様に部屋から出て行ってしまった。
しかし逃げた訳ではなくて、すぐに戻ってくると、
手にしているコンパクトをこっちにかざしてきた。
俺はぐーっと覗き込む。
なんじゃこりゃー。
顔面ピザ状態のケロイドで、目だけがぎょろっている。
つーか、今も現在進行形で、湿疹は首の辺りに広がっているのだ。
しかも 喉に痰がからむ。
炎症は内部にも及んでいるのか。
えっへっ、と痰をきった。えっへっ、えっへっ。
痰はきってもきっても気道に滲み出てくる。
息を吸うと、ひぃー、と喉笛が鳴った。
苦しい。
「苦しい」と俺は言った。「えっへっ、息が詰まる」
「大丈夫?」
「大丈夫じゃなーーい」
えっへっ、と痰をきってから、息を吸ったら、激しく咳き込んだ。
ゲホゲホゲホ。
咳き込んだ後に、ひぃーと息を継ぐと、又咳が出る、の繰り返し。
「苦ひぃー」すがりつこうと手を伸ばした。
ヨーコは後ずさって、両手を丸めて口を押さえると、
ただただ恐怖の表情を浮かべている。
「誰かを呼んでくる」言うと部屋を出て行った。
又階段を駆け下りる音。
背中を丸めて俺は激しく咳き込んでいた。
しかし息を殺していれば咳き込まないので、しばらくそうしている。
そうすると、桟橋の先端の方から、ミキらがきゃっきゃ言う声が聞こえてくる。
それが突然止んだ。ヨーコが到着したのだろうか。
上目遣いで窓の方を見る。既に西日が差してきている。
それから騒がしい話し声がして、
バタバタいう足音と桟橋がきゅーきゅー鳴る音がロッジに迫ったか、と思うと、
足音は室内に移動して、階段からドタドタいう音が響いてきて、
ドア口にヨーコ、斉木、ヒヨリが現れた。
彼らの姿は既に涙で滲んで見える。
ヒヨリは、シューシュー部屋中に虫除けスプレーを散布した。
折角おさまっていた咳が、ガスに誘発されて又出だす。
ゲホゲホゲホ、ひぃー。
「伝染りはしないから、そんなのまかなくていいよ」と斉木。
「だってぇ」
斉木が俺の顔を覗いた。「すごい炎症だな。呼吸器粘膜もやられているのかもな」
苦しい、と言いたかったが咳で声が出ない。
息を殺して、俺は自分の喉を指差して目を大きく見開いた。
「除痰のこつは、焦って息をしない。勝手に出てくるから」
さっきからそうしている。
そうやって息を止めていると、気管支から痰が浮き出てくるのが分かる。
今度は痰がきれる、と思って、咳払いをして、その反動で息を吸って又咳き込む。
「息をするなって」
無理だ、そんな事をしたら酸欠になる。
そうこうする内に目が霞んできた。
窒息か。
「人喰いバクテリアってやつじゃない?」後ろからヒヨリの声がする。
「どうなるの?」
「なんとも分からない」
と言って覗き込むみんなの顔がだんだんぼやけてくる。
色が、赤いセロハンを何枚も重ねた様なレンガ色に見える。
血の海に浮かぶ3匹のETみたいな感じ。
動きもスローモーに見える。
「だいじょうぶ?」、「しっかりしろ」という声も、スロー再生の録音みたいに
聞こえる。
血の海はどんどん濃さを増して行った。
いや、光が見えなくなってきているのか。
これより暗くなったら真っ暗になる、という時、後ろからもう一匹、
赤いETが加わった
あれはミキか。
そいつは、スロー再生みたいな声で、「もをすぐ 放送だよ」と言った。
「ほうそうだよぉ」




元文書 #1046 ◆シビレ湖殺人事件 第2章・春田ー4
 続き #1048 ◆シビレ湖殺人事件 第2章・春田ー6
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