AWC ◆シビレ湖殺人事件 第1章・ヒヨリー8


        
#1040/1125 ●連載    *** コメント #1039 ***
★タイトル (sab     )  16/01/15  16:40  (167)
◆シビレ湖殺人事件 第1章・ヒヨリー8
★内容
部屋に戻ると、ベッドの上にあぐらをかいて、ポテチの袋に乗ったご飯を、
犬みたいに食べた。
食べ終わると、ポテチの袋をたたんで結んで窓から捨てた。
月明かりが入ってきて、部屋の中は、ファミレスの駐車場ぐらいの明るさ。
微かに風が入ってきて、コケの様な有機体のニオイがする。
私は鼻で大きく息を吸った。
そして、体育座りをして顔を腿に押し付ける。
メリメリと階段が鳴った。
誰かが上ってくる。
ドアから覗いたのはミキと、斉木だった。
二人共、入ってくる。
「どうした。落ち込んだ?」ミキが肩に手を置いて言った。
そして隣に座る。
「二人に攻められたからね。牛島一人だったら、
あいつは交感神経がおかしいんだって言ってやれるんだけど」
私は、牛島は交感神経がおかしいからニキビが出来ていてキレやすいんだ、
と解説してやった。
「でも、春田までおかしいって言うんだったら私の方がおかしいんじゃない?」
「実は春田もおかしい」正面のベッドに腰を下ろしつつ斉木がぼそっと言った。
「はぁ。何言ってんの。今更。つーか、なんで、あんた、さっきからそうやって
実は実はと小出しするわけ。
つーか、春田も交感神経がおかしいの?
あいつなんてどっちかっていうとモチ肌って感じがするけど」
「モチ肌すぎるのもおかしいんだよ」
「なんだよそりゃ」
「ダウン症の人ってモチ肌でしょう」
「あいつダウン症なの?」
「そうじゃないけど」
「じゃあ何よ」
「これ、言ってもいいのかなあ」
「お前、どうして、さっきから人に興味と持たせておいて言わない訳?」それから
私はミキに言った。「…こいつはねぇ、
牛島がキレやすいのは交感神経がシャープだから、とか、
それは父親が高齢だったから、とか、
さっきから産婦人科系の知識をチラつかせておいて、
でも、はっきりとは言わないんだよ。
そんで今度は、春田も何かそれ系でおかしいとか言い出して言わない」
「なんなの、それ。そんな話があるんだったら私だって知りたいじゃない。
言いなさいよ」とミキは斉木のひざ小僧を掴んで揺さぶった。「言いなさいよぉ」
「じゃあ、ちょっと下ネタ、且つ、差別的内容を含むけれども、
この際言っちゃいますか」
そして斉木のした話は、ホントーかよ、と思うような話だった。
「色々聞いた話を再構築して言うんだけれども」と前置きしてから斉木は言った。
「うちのクリニックって不妊治療もやっているんだけれども、
不妊症の夫婦が来ると、旦那の方が、春田みたいな顔をしているんだよねぇ。
頭でっかちで眉毛が薄くて肩幅が狭くて、キャベツ畑みたいな感じ。
それで、精液を調べてみると、透明でザーメン臭が無いんだよ。
それで、染色体の検査をしてみると、XXYYなんだよ。
普通は男はXYだろ。それがXXYYなんだよ。
これは染色体異常でさぁ、ヌーナン症候群っていうんだよ。
それで、なんでこういう事が起こるかというと、
染色体異常だから受精の瞬間からおかしかったんだろうけど、
精子か卵子のどっちかに異常があったんだろうけど…、
多分、精子がおかしかったんだと思う。
男の染色体が精子になるには、複製したり交叉したり分離したりしながら、
XYがXに、更にそのXが分離してIみたいに、
どんどん減数をしていくんだけれども…。
多分このヌーナンの場合、この人の父親が丸高だったんだよ。
そうすると、父親が精子を作る時に、減数分裂が上手く行かないで、
分離しきれないで何かがくっついてきちゃって、奇形の精子が出来ちゃったんだよ。
この場合だと、XYYという奇形精子が出来たんだと思う。
それを、卵子Xが受精して、
それで、このヌーナンの染色体がXXYYになる、と。
それで、それが育つと、春田君みたいなキャベツ畑人形になるんだけれども。
何でXXYYだとそうなるかというメカニズムは分からないけれども、
感じとして、受容体がないっていうか、骨とか筋肉とかが貧弱だから、
食べても食べても吸収されないで、浮腫む、つまりモチ肌になるんじゃないかと。
染色体異常が顔に出るというのは信じられないかも知れないけれども、
ダウン症だって見れば分かるでしょう? 春田君って何気、ダウン症入っていない?」
私らは想像して…、「入っている入っている」とガクガク頷いた。
「浮腫だけじゃなくて、どんぐり眼という特徴もあるんだよね。
瞼とかにも染色体が出るんだよねぇ。
ダウン症とかゲイとかってどんぐり眼だと思わない? 
ゲイを公言している英米のロックスターを想像してみな」
と言われて想像してみる。「うーん、確かにそうだ」
「以上が春田君に起こっていること」
「へーー」
「それから牛島君だけれども、
ヌーナンの真逆っていうか、XYYっていう染色体異常もあるんだよ。
これも親の丸高で起こる染色体異常なんだけれども。
身体的には、身長が高くて、ニキビ面で、性格的にはすぐにキレる。
だから犯罪者に多いんだけれども。
つーか、北欧の刑務所で服役囚の染色体を調べたら多かったってことなんだけれど。
そうすると、これをさっきのと合わせて考えると、
XYY、XY、XXYYが、
半魚人、正常な人、キャベツ畑、という並びになって、
上の方が攻撃性が大って感じになるんだよね」
「へー」
「でも」と私は口を挟んだ。「その割には、春田って普通の人よりも攻撃的な感じも
しない?」
「まあY自体は多いからね。でも場当たり的だろう」
「場当たり的?」
「うん。春田君って場当たり的な感じがしない?」
そういえば、春田って場当たり的、というか、何で今? という事が多い。
例えば、クラスのコンパに遅刻してきて、「何をしていた」と聞くと、
「腹減ったんで途中でラーメンを食べてきた」とか。
さっき私に突っ込んできたのだって、ただあの場の雰囲気に乗ってきただけ、
って感じがする。
「まぁ、とにかく、そういう訳だから、半魚人がキレるのも染色体異常があっての事
だから、あれこれ自分が悪いのかも、とか考える事はないと思うよ」
「そんな奴が、たまたまクラスに二人もいるの?」とミキ。
「発生頻度は千人に一人ぐらいだけれども。
もっとも、千人に一人というよりかは、濃淡があるという気もするけど。
本当に濃い奴が一人居て、他の999人が真っ白、というよりかは、
薄い奴から濃い奴まで濃淡があるという感じだと思うけど。
ただ統計的には、千人に一人だから、学校に一人ぐらいは居るわけで、
校内で一番凶暴な奴が、身長が高くてでニキビ面だったら、疑ってもいいんじゃない?
 だから、単位を落とし奴が実は染色体異常だった、なんて事はあり得る」
「女子にもそういう異常はあるの?」私は自分の事が気になって聞いた。
自分も単位を落としているんだから。
「まあ、Y遺伝子に関する染色体異常だから、
とりあえず女子には関係ないんじゃない?」
「へー、すごいじゃなーい」とミキ。
「驚きだよねえ。牛島と春田がそういう奴らだったなんて」
「産婦人科医がそんな事まで分かるっていうのも驚きじゃなーい」
そういえばミキは斉木んちで産まれたのか。

とここで、私は、あれっ?と思った。
「だったら私が悪いんじゃないじゃん。あいつらの染色体に問題があるんじゃん。
特に牛島の。だったら即追放したいなぁ」
「何も即じゃなくたって、明日には下山じゃない」
「今夜じゃないと駄目だよ。だって…」
と言いかけたところで、誰かがメリメリと階段を上がってきた。
牛島か、と思って息を潜めた。
しかし、ドアのところに顔を出したのはキャベツ畑とモンチッチ、
春田とヨーコだった。
「何してんの」とキャベツ畑が首を突っ込んでくる
「ちょっとあんたらこっちにきな」と私は激しく手招きした。
そして春田を斉木の横に、ヨーコを私とミキの間に挟んで座らせた。
「みんな聞いて。牛島は即追放しないと駄目な事になったの」
「え、何の話?」
「牛島をこのままここに置いておくと今夜にでもこの子が強姦、だけじゃなく、
殺されてしまう可能性があるんだから」
「えっ」とヨーコはウサギのように体をビクつかせた。
「牛島には染色体に異常がある事が判明したの。
これはもうドクター斉木の診断だから確定しているのね。
その異常があると、強姦殺人をしたりするの。
つまり、あいつは、遅かれ早かれ刑務所のうすーい味噌汁をすする運命に
あるんだけれども、勿論それには出汁なんて入っていないんだけれども。
それはいいんだけれども。
とにかく、あいつを、即、除草しなければ、ヨーコの命が危ないの。
お前はどうする?」といきなり春田に矛先を向ける。
「えっ。そんなこと急に言われても…」
「考えている暇なんてないのよ、緊急事態なんだから。
あいつが染色体異常で、凶暴だというのは、もう医学的にそうなんだから、
どうにもならないんだから。
今日だって、田んぼで私に絡んできたし、さっきだって味噌汁で絡んできたでしょう。
そういうのはもうみんな医学的に分かっていたことなんだから。
そして、今夜にはこの子が強姦の上殺害される、っていうのも、
医学的に分かっているんだから。
それでも、放置しておくの?」
「そりゃあ、そんな事聞かされれば…。どうにかしなくちゃと思うけど」
「じゃあ、あんたも追放に賛成?」
「うう…うん。でもどうやって」
「今、何している?」
「明日のコースのチェックをしているけど」
「うーん」と唸って考えた。「私にいい考えがある」。指で合図して、
全員に顔を近づけさせると私は小声で言った。「あいつに武器を持たせて、
挑発してこっちに向けさせるのよ。そうしたら、半魚人が武器を向けた、
半魚人が武器を向けた、半魚人、半魚人、って連呼してキレる様に仕向けるのよ。
あいつはキレやすいからキレるんじゃない?」
「本当に刺してきたら?」
「そんなことをしたら完璧に向こうが悪いんだから、みんなで逃げてきて
ハブにすればいいんだよ。だから、まず誰かが武器を渡して…。春田君が…、いや、
ヨーコの方がいいか。春田君は地下からモリを持ってきて」
「今?」
「そうだよ。今だよ。私達は食堂の入り口で待っているからとってきて」




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