AWC ◆シビレ湖殺人事件 第1章・ヒヨリー7


        
#1039/1117 ●連載    *** コメント #1038 ***
★タイトル (sab     )  16/01/15  16:40  (120)
◆シビレ湖殺人事件 第1章・ヒヨリー7
★内容
ロッジに帰ると既に夕暮れ時だった。
夕陽が、森や湖面をオレンジ色に染めていた。
それは丸でみかんとかトマトが熟れる様な感じだった。
つまり昼間は青々としていたのに今ではすっかりオレンジ色なのだ。
私は、斉木と、桟橋に座って芋を剥いていた。
斉木が湖水で芋の泥を洗い流すと、
私は皮を剥いて、タオルの上に置いて、四つに切った。
桟橋の先から、どぼーんと音がしてきた。
スピードのミキが飛び込んだのだ。
Uターンして戻ってこようとすると、
春田が手の平でぴちゃぴちゃと水をかけて邪魔していた。
牛島とヨーコは部屋に居るんだろうか。
何気、ロッジを見ると、テラスから牛島が出てきたところだった。
みしみしと桟橋を歩いてくる。
私の背後まで来るとタオルの芋を覗いた。
「剥けばいいってもんじゃないんだぜ。燃料が一回分しかないんだから、
まずレトルトご飯を温めて、そのお湯で茹でるんだから、
もっと薄くスライスしないと」
「だったら自分でやれば」
「おー。自分でやるよ」
私はナイフを芋に突き刺すと、立ち上がった。
「斉木も来て」。ベッドを作らないと、とは言いづらいので、
「まだ荷物も解いていないし」と言う。

ロッジに戻ってきて、食堂に入ると、薄暗くて、
奥のキッチンではヨーコが鍋を煮立てていた。
それをスルーして廊下に出ると、裏口のところまで行って
Uターンして階段を上る。
ミシミシ、ミシミシ。
2階の一番手前の部屋に入って、窓を開け放つ。
ちょうど桟橋からみんなが戻ってくるところだった。
ミキ、春田の後ろから牛島が、芋を包んだタオルを持っているんだが、
追い立てる様にして歩いていた。
「早く芋を入れないとガスがもったいねーだろう」とかわめいている。
彼らがテラスの下に入ってくると、今度は室内からドタドタいう足音が響いてきた。
それが階段を上ってきて、部屋の前にキターと思ったら、
長身のミキ、キャベツ畑人形の春田が通り過ぎて行った。
「私が着替えている間は外で待っていて」というミキの声が、 
廊下の突き当たりから聞こえてくる。
そして、バタンと扉の閉まる音。
「開けたりしたら後で大変な事になるよ」というミキの声が、
ひと部屋はさんでいても、くぐもったた感じで聞こえてくる。
ってことは、真ん中の部屋は、牛島、ヨーコなのだが、これでは丸聞こえだな…
と思っていて思い出した。
「そういえば、さっき、交感神経がシャープだと強姦殺人をするとか
言っていたじゃない」私はベッドを作っている斉木に言った。「それって、
普通のセックスの後でも起こるの?」
「かも知んない」
「だったらやばいじゃん。隣の部屋」
「かも知んない」
「つーか、その交感神経がシャープになるってなんなの?」
「う。うーん」
「なんなの?」
「うーん、実は…」
「実は、なに?」
「これ、言っちゃってもいいのかなあ」
「いいよ。言っちゃえよ」
斉木は出来上がったベッドに腰掛けて言った。「実はね、
あいつは僕んちで生まれたんだよ」
「へー」
「そんで、父親が高齢だったんだよ」
「へー。そうするとなんかあるの」
「うーん」
「なんだよ」
「まぁ、色々な障害が出てきてさ、交感神経に問題が出たりして、
かーっとしやすくなったりするんだよ」
「なんかはっきりしないなぁ。なんか、医者の息子だから守秘義務でもあるの?」
私は小一時間問い詰めてやろうと思って、向かいのベッドに座った。
が、ばたんと廊下の奥の扉が閉まる音がして、
ミキ、春田が、ぱたぱた歩いてくる音が迫ってきた。
二人は入り口に差し掛かかって、「ご飯だってさ」と言って通り過ぎていく。
斉木も、くんくんと鼻をならしながら「本当だ、夕餉の匂いがする。
ああ、腹へったー。何時から食べていないんだろう」と言いつつ、腰を浮かせて、
ニオイを追いかけるように、部屋を出て行ってしまった。
くそーっ。逃げられた。
しかし、自分もくっついて行った。

キッチンに行くと、牛島が味噌汁の味見をしていて、
背後にヨーコがくっついていた。
こいつら夫婦かよ。
テーブルに行くと、春田がレトルトご飯の中身を、スナック菓子の銀紙の上に
ひっくり返していた。
「こうやって、これをお椀にするんだって」と空のレトルト容器をつまんだ。
「これが箸になるんだよ」と、レトルト容器の丸まった蓋を握る。
私も真似をして、ポテチのパッケージを広げると、レトルトご飯をひっくり返した。
炊きたてのパックご飯のに匂いが漂ってくる。
やがて、お玉をもった牛島が、鍋をもったヨーコを従えて、
キッチンコーナーから入ってきた。
「さあさあ、味噌汁が出来ましたよ」
シェフとウェイトレスみたいに、みんなのレトルト容器に注いで回った。
そして自分も着席。
「今日は色々あったけど、やっとご飯にありつけるね。
それじゃあ皆さんお手手とお手手を合わせて、いただきまーす。
ずーーっ。うめー」
そしてみんなもすすった。
私も、と、目の前の味噌汁と見て、ん? と思う。くんくんしてみる。ん?
「もしかして、出汁とか入れた?」
「そりゃあ入れるさ」当たり前の様に牛島が言った。
「味噌汁なんて出汁がなかったら、泥水みたいなもんじゃないか」
「何でわざわざ…、折角無添加だったのにぃ」恨めしく味噌汁を見る。
折角別の袋に入って添付されていたのに、混ぜちゃうなんて、意地悪さを感じる。
「そこまで駄目じゃあ、ヒヨリの方がおかしいんじゃないの?」
と春田が突っ込んできた。
「そこまで、じゃねーよ。本当のベジタリアンは顔のあるものは食べないんだよ。
たとえニボシでも。シラスでも」
「だからって俺らまでそれに付き合う筋合いはないよ」
「そうね。じゃあ私は勝手にご飯だけ食べるよ。塩で」
「駄目だ」と牛島が睨む。「俺の味噌汁を飲めねーっていうのか」
「なんであんたの味噌汁に付き合わなきゃいけないのよ」
「同じ釜の飯を食うって言うだろう。これだってカリキュラムの一環かも知れねーぞ」
「なにそのカリキュラムって。ただ単に帰るのが遅くなったから一泊しただけじゃん」
とか言い出して、別にこんな奴、説得しなくていいや、と思った。
自分はポテチの袋に乗ったご飯を持って立ち上がろうとした。
「いいよ。いいよ」と牛島が言う。「勝手にしな。だけれどもなぁ、いいかぁ、
これだけは忘れるなよ。お前みたいな奴はなぁ、
将来家庭を持っても味噌汁の味は作れないぞ。
つーかなあ、おめーみたいなのはなぁ、一生お一人様な気がするぜ」
私は立ち上がって睨むと、丸椅子をぎーっと足で押した。
「おいおい、お一人様ががんつけてきたぞ」
私は丸椅子を蹴飛ばして、ご飯を手のひらに退場した。




元文書 #1038 ◆シビレ湖殺人事件 第1章・ヒヨリー6
 続き #1040 ◆シビレ湖殺人事件 第1章・ヒヨリー8
一覧を表示する 一括で表示する

前のメッセージ 次のメッセージ 
「●連載」一覧 朝霧三郎の作品
修正・削除する コメントを書く 


オプション検索 利用者登録 アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE