AWC ◆シビレ湖殺人事件 第1章・ヒヨリー6


        
#1038/1117 ●連載    *** コメント #1037 ***
★タイトル (sab     )  16/01/15  16:39  (210)
◆シビレ湖殺人事件 第1章・ヒヨリー6
★内容
テラスから降りて行ったところの湖畔には船着き場があって、
一艘のボートがけい留されていた。
そこで、女子3人で、待っていた。
ミキがペットに入れた湖水を陽の光にかざして、「これ、飲めんのぉ?」と言った。
「平気だよ、そんぐらい」とヨーコ。
「じゃあ飲んでみなよ」
そしてヨーコが飲む。
「臭くない?」
「別に」
ミキも一口飲む。口をへの字に結んだ。水面を見つつ、Tシャツの裾を
パタパタさせて、「後で泳ごうかなぁー」と言った。
「水着、持ってきたんだ」と私。
「スピードのこんなやつ」と片手でコマネチのポーズをする。
「あんまりセクシーオーラ出さないでよ。あいつらその気になったらどうするのよ」
「えー、そんな事心配しているのぉ?」
と、馬鹿にしたように私を見下す。お前なんて襲われる訳ないだろ、みたいな。
自分の顔色が曇るのが分かる。
ミキはペットの水をあおって、手の甲で口をぬぐいながら、ロッジの方を睨んだ。

そっちを見ると、テラスから、農機具を担いだ牛島と春田と、
しんがりに斉木が出てくるところだった。
牛島はタオルを頭に巻いていて、Tシャツを肩までまくっていて、
Gパンを膝までまくっていて、新島のナンパ師風情。
斉木だけカッターシャツを着ていた。手に持っているのは地図だろうか。

「おーい、行くぞー」と牛島に怒鳴られて、自分らも男子と合流した。
湖畔をぐるり一周回っている小道に出る。
道幅が狭いので、私らは一列縦隊で歩いた。
小道の上に、森の樹木が傘のようにせり出してきている。
陽のあたる箇所はレタスのような薄い色、日陰ではブロッコリーのような濃い緑色を
している。
小道は乾燥していて、みんなが歩くと、じゃりじゃり音がした。
時々誰かが小石を蹴飛ばすと湖面に飛んで行って水面に波紋が広がった。
湖水はマリモでも浮かんでいそうな緑色なのだが、
これは水自体は澄んでいるのだが、湖底が緑亀のお腹みたいな色をしているんだと
思う。
ここはどこからも川が注いでないカルデラ湖なので、有機物が沈殿して、
鍾乳洞みたいになっちゃんたんじゃないか。

最初の脇道が見えてくると、ナビの斉木が「あそこだ」と指差した。
私らはその脇道を右折してぞろぞろと入って行った。
そこは、樹木が絡み合って筒状になっていて、ところどころ蔦が垂れ下がっていて、
私らは身を低くして通って行った。
そこを通り抜けると、突然、ぱっと開けた空間に出た。
周囲は森なのだが、そこだけ畑になっていて、青空が見える。
その畑の真ん中に、茶色く穿り返した箇所があった。
「あそこじゃねーか」と牛島が指差した。
そして私らはそこを目指して、あぜ道を歩き、
乾いた用水路をまたいで、進んでいった。
そして着いてみると、そこだけ一坪ぐらい、
モグラが穿り返したみたいに耕してあった。
「ここかぁ」牛島は鍬を地面におろすとつっかえ棒にした。
「ここしかないよね。他に耕したところ、無いしね」と春田はあたりを見回した。
牛島、春田、斉木、ミキ、ヨーコ、そして私が畑を取り囲んで見下ろしている。
「じゃあ、いっちょ耕してみっか」言うと、靴が汚れるのも構わずに、
牛島は泥の中に入って行った。
ケッズかコンバースのバッシュが泥で汚れた。あとで洗わないと。
「よしお前ら下がってろ」言うと、手にぺっぺっと唾をつける。
鍬を振り上げると、乱暴に振り下ろした。
「よいっしょっとー」
ずぼっと突き刺さった鍬を、テコの原理で返して、土を穿り返す。
ごろごろーっと芋が出てきた。
「おーっ」と一同どよめく。
「おーいみんな引っ張れ」
「手袋が無いんだよ」
「素手でやれよ」
春田と斉木は顔を見合わせて躊躇っていた。
「やれっつーんだよ」
チッと舌を鳴らしてから、二人は畑に降りて行った。
芋の蔓を引っ張ると、文字通り芋づる式に芋が出てくる。
それを素手で掴んで畑の脇に寄せておく。
一通り芋が避けらるのを見ると、又牛島が掘り起こす。
「よいしょっとー」
そして、春田、斉木が、引っ張っては、出てきた芋を、脇に寄せる。
そんなのを15分もやっている内に掘り尽くしてしまった。
「あっちっちっ」言いながら牛島が畑から上がってくる。「農業体験つっても、
これかよ」
「まぁ、こんなもんでしょ。芋掘りとかイチゴ狩りなんていうのは」
手を叩いて泥を落としながら春田が言った。
3メートル四方の一辺に掘り起こされた芋がごろごろと並んでいる。
「どうやって持ち帰るかだな」足で芋をごろごろさせながら牛島が言った。
「袋、忘れたもんね。誰かもっていない?」と春田がみんなに聞いた。「ミキ、
もっていない?」
「もってる訳ないじゃん」
「ヨーコは?」
「もってない。けど…」
「けど、なに?」
「袋はもっていないけれども、ゴミ袋にされたのは思い出した」
「はぁ?」
「私、ゴミ袋にされたのを思い出した。このじゃが芋を見ていて」
「はぁ?」
「私、中学校の頃、カレーが出ると豚肉は全部食べさせられたの、ヒヨリに。
あれって私をゴミ袋にしていたんでしょう」
何を言い出すんだろう、このモンチッチは、突然。
私はとりあえずその場を繕うように「違うよ違うよ」と言った。
「あれは、ほら、あんたが栄養不足でお乳が大きくならないっていうから、
やったんじゃなかったっけ?」
「でも、あんなホルモン豚肉を食べ過ぎたんで、こんな鳩胸になっちゃった」
「それは、あんたの体質だから私の責任じゃないよ」
「でも肉を食べられなかったのは事実でしょう」
「私は食べられないし、あんたはお乳が小さいから、両方にとって都合がいいから、
winwinの関係じゃない」
「じゃあ、あの時私がいなかったらどうしたの」
「そうしたら自分で食べたよ」
「嘘。そうしたら財布の中からゴミ袋を出してそれに捨てるんでしょ」
「そんなもの持っている訳ないじゃん」
「持っているよ。今でも財布の中に入っているんだから。だから、この人が
袋を持っている」と痴漢でも指差すように指差した。
「本当かよ」牛島がこっちに迫ってきた。「本当にそんなもの持ってんのかよ」
「そんなもの持っている訳ないじゃん」私は後ずさる。
と、いきなり後ろから春田が、財布を抜いた。
「取りぃ」
「なにすんの、返して」と飛び掛る。
が、ほーらよ、と牛島に放り投げた。
牛島はそれをキャッチすると、鍬の柄で尻を支えて、くるりと後ろを向いて、
財布の中身を漁りだした。
「勝手に見るなよ」と取り返そうとする。
しかし、でかい背中でガードしながらカードや免許証の隙間をチェックして、
とうとう、間に挟まっているイトーヨーカドーのレジ袋を見付ける。
「なーんだ、こりゃあ」レジ袋をびらびらと広げながら言った。
「そ、それは急な買い物の時に、エコバッグの代わりに…」
「そんな事するわけねーだろ、主婦じゃあるまいし」
「つーか、別にあんたに関係ないし」私は突然ぶ然として言った。
「おめー、合宿で出てきた肉や魚を捨てる積りでいるんだろう」
「関係ねーだろう。つーか芋食って帰るんだろう」
「そうだな。今日はそうかもな知んねーな」
牛島は、よっこいしょ、って感じで鍬を肩に担ぐ、と、胸を反らした。
指先にレジ袋を引っ掛けてひらひら揺らしている。
「ただなぁ、俺が言いたかったのはよぉ、このキャンプ場の飯にしても給食にしても、
これからおめーが食う色々な飯にしても、嫌いなら嫌いでしょうがないけど、
それをこんな袋に入れて、こっそり捨てるっつー根性が気に入らねーって
言ってんだよォォオ」と突然でかい声を出すと、レジ袋を指から落として、
それがひらひらと舞って、地面に着地する瞬間に、鍬でドンと押さえた。
私はびっくりして身を固くした。
が、隣にいたミキが、「痛いッ」と言うと頬を押さえてうずくまった。
「えっ、なんか飛んだ?」急に不安そうなって牛島が覗き込んだ。
が、ミキはますます首を引っ込める。
「ちょっと見せてみな」とミキの顔に手を伸ばす。
「触らないでよ」と頬を押さえたまま、ミキは右肘でガードした。
「ちょっと、いいから見せてみな」
「触らないで、ってんだよ」と右肘でガート。「つーか何で芋ぐらいで切れてんだよ」
「切れてねーよ」
「切れてるわよ」
「切れてねーよ」と又ミキの頬を覗き込む。
「触るな、ってんの」と右肘でガード。
「ったく」牛島は困り果てて両手をだらりとさせた。
皆はというと、春田はすっとぼけているし、ヨーコは元々そんな権力ないし。
「まぁまぁ、そうもめないで」と斉木が火中の栗を拾った
「なんだ、おめーは」牛島がマングース並の敏捷さ斉木を睨む。「だったらお前が
どうにかしろよ。この芋をよお」
「えー。僕だって袋なんて持っていないし」
「なんでお前だけカッターシャツ着てんだよ。それに包んで行くから、
それを脱げよ」
「えー」
「その下にTシャツ着てんだろ。脱いだっていいだろう」
「分かったよ」言いつつしぶしぶ脱いだ。
カッターシャツが、泥付きじゃが芋の上をひらひらと舞った。
アンダーがユニクロか何かのぴちっとしたもので、痩せている割には妙におっぱいが
あるな、と思った。マリリン・マンソンみたいな。

「よーし。じゃあ包むか」と牛島が号令をかけた。
「それにしても泥だらけだな。これじゃあ泥を運ぶようなものだ」と春田。
「そうだなあ」言いながら辺りを見回した。「あそこのドブみたいなところが
本当は水が流れていたんじゃないの?」
それはさっき跨いで通ってきた空の用水路だった。
目で追っていくと、その先は小高い丘になっていて錆びた鉄の水門が見える。
「あそこを開けりゃあ水が出てくるんじゃねーのか。おい、誰か見てこい。
お前行ってこい」と又斉木がご指名される。
「えー」と斉木。
「いいから、行ってこいよ」
「いこっ」と私は斉木の腕を取った。

私と斉木は、背中に皆の視線を感じつつ、用水路脇のあぜ道を歩いて行った。
皆から十分に離れた、と思ったところで、私は斉木に言った。
「なんで、あいつ、ああやって切れる訳?」
「ニキビヅラだからだろ」
「え、なにそれ」
「彼は交感神経が敏感で、イラつきやすいんだよ。
あと、そういう奴は環境が変わると人間が変わっちゃうから、
それでヒヨリを敵視しているんじゃないの? 
だいたいヨーコとだってそんなに仲良かったとは思わないし」
ちらっと後ろを見ると、牛島とヨーコは、何気、肩を寄せあってる。
「ああいう奴が怖いのはさぁ、交感神経のスイッチングがやたらシャープで、
射精した瞬間にぱっと人が変わって、強姦殺人…とか言ったりなんかして」
「まじー」
もう一回振り返ると、牛島が気が付いて「早くいけー」と怒鳴った。
「冗談じゃねー」と私は呟いた。

すぐに水門に到着して、左右の土手から水門の上にのぼった。
水門は畳一枚分ぐらいあって、上に鉄のハンドルがついている。
水がめの大きさは銭湯ぐらいあって、なみなみと水が溜まっている。
「すっげー。どっから流れてきてんだろう」言いながら斉木は、
湖や周りの森を見回す。
畑の方で「あけろー」牛島が怒鳴っていた。
斉木は、軽く手を振って合図をする。
「そんじゃあ開けよっか」
土手の双方から鉄のハンドルに手を掛けた。
「じゃあ、いっせーのせーで行くよー、いっせーのせー」
で回し出したのだが、えらい軽い。
「空回り?」と私
「いや、ギア比の関係で軽いんだよ。でも少しずつ開いているからどんどん回そう」
そして私らは、どんどん回した。
少しして水がざーっと音をたてて流れ出した。
「もっともっと。全開になるまで」という声に促されてどんどん開ける。
水門が全開になると、水は、鉄砲水の勢いで用水路に流れ出した。
それは、真ん中の用水路から左右の畑に流れ込んでいった。
「畑じゃなくて田んぼだったのね」
水はみんなの居る芋畑に達した。
みんな、濡れるー、とか言いながら、足をじたばたさせていた。
私はほくそ笑むと、手に付いたサビをGパンの尻で叩いた。




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 続き #1039 ◆シビレ湖殺人事件 第1章・ヒヨリー7
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