AWC ◆シビレ湖殺人事件 第1章・ヒヨリー5


        
#1037/1125 ●連載
★タイトル (sab     )  16/01/15  16:39  (100)
◆シビレ湖殺人事件 第1章・ヒヨリー5
★内容
ぎーぎー椅子を鳴らして立ち上がる、と、丸椅子をまたいで廊下に集中した。
さっき来た廊下を突き当たりまで戻ると、全員で地下へ通じる階段を覗き込んだ。
「何も見えね」と先頭の牛島。
「携帯のライトは点くんじゃないか」
携帯を取り出すと春田はライトを点灯させた。
二人はその明かりを頼りに階段を下まで降りて行くと暗い地下室の中へ入って行った。
「ランプがあるぞ」、「チャッカマンもある」、とかいう会話が聞こえてくる。
やがて明かりが灯った。
そして他のメンバーもぞろぞろと入って行く。

部屋の中はひんやりとしていた。
牛島がランプを持ち上げると部屋の様子が浮き上がる。
広さとしては、10畳ぐらい。
真ん中が鉄格子で仕切られている。
「『羊達の沈黙』みてーだな」
「『O嬢の物語』って話もあるよ」
「ふざけんな」とミキ。
牛島が鉄格子の入口を押す。きーっ、と如何にもな音がした。「鍵はねーんだな」。
ランプをかざして突き当たりの壁を見る。
壁の上部に2箇所、ダルマストーブの窓みたいな観音扉があった。
牛島は背伸びをして、それを開けた。
すーっと光が入ってきた。
部屋全体が、薄暗いが、見えてきた。
がらーんとした牢屋の隅に毛布がかかった何かがある。
牛島がそこに行ってしゃがむと毛布のすみを引っ張った。
「白骨死体だったりして…。なーんだ、こりゃ。さしすせそだ」
砂糖、塩、酢、醤油、味噌の容器。
「さしすせそ、の“そ”ってソースの“そ”じゃないの?」
「味噌だろう」
味噌? だったら無添加かどうかチェックしないと。突然私は割って入ると、
しゃがみ込んで味噌を取る。
陽の光にかざしてラベルをチェックする。
「よかった。カツオエキスとか入ってなくて」
「オメー、甘いんじゃねーの」牛島は自分の背後の壁を指さした。「これを見てみな」
そこには、鋤、鍬、ナタ、モリ…。鍋と刃渡り15センチ位のナイフもあった。
牛島はナイフを取り上げると、「最後日にはこれで牛の腹を裂くんだぜ」と言った。
「そんなんで刺したら蹴飛ばされるんじゃない?」と春田。
「じゃあこれ?」とモリを指す。
「それは漁に使うんじゃない?」
「ヨーコがと畜に詳しい」とミキ。
「ほんと?」。後方のヨーコに問いかける。
「ガールスカウトで殺していたんだよね」
「見学に行ったんだよ」とヨーコが低い声で言った。「そこに転がっている畜産銃で
失神させるんだよ」
えっ、みたいに驚いて、牛島は、足元に転がっている銃を見た。
電動ドリルみたいな銃。
「それからお腹を割いて、逆さにつるして血を抜くんだよ」
「へー。そんじゃあ、そういうのはオメーに任せるよ」
「びびってんじゃないの?」と私。
「びびってねーよ。ただ、牛殺しなんて、ウィリー・ウィリアムスじゃねーんだから」
「あれは熊殺しだろ。牛殺しは大山デス」と春田が正拳突き。

地下室から這い出してくると、今度はミシミシいう階段を上って2階に行った。
上がってすぐのところに浄化槽式のトイレがあった。
窓から顔を出すと屋根にポリタンクが見えた。水はあそこから流れてくるんだろう。
客室は、廊下の右手に3室並んであった。
一番手前の部屋に入って窓際に立つと湖が一望出来た。
手前に窓枠、その向こうに樹木が生い茂っていて、その向こうに湖、
という順番になっていて、ジオラマみたいな遠近感がある。
「こりゃあ、いい眺めだ。夜になったら神秘的かも」と春田が言った。
「じゃあ俺、ヨーコと」と突然牛島が。
「じゃあ俺はミキ」と春田。
「ずうずうしいんじゃなーい」とミキ。
なんでこいつら、すぐオスメスでべたべた張り付くんだろう。
「つーか、何で男女なの?」と私は不平を言った。
「女同士にしたって誰か一組は男女になるんだぜ。だからみんな男女にした方が
公平だろ」
「それに、ナベサダも生殖能力がどうとか言っていなかった?」
「いちいちイヤらしいこと言わないで」
「冗談です」
私はなんとなく斉木を顔を見合わせた。苦笑い。

そんな感じで、二階見学が終わると食堂に戻ってきて丸椅子に着席。
「私、ノド渇いちゃったんだけど。そこの水、ないの?」とミキがキッチンコーナーの
蛇口を指さした。
春田がコマネズミのように飛んで行ってひねると、一瞬、ざーっと出たが、
すぐにゴボゴボいって今のが最後の水だったのが分かる。
「はぁー」とうなだれるミキ。
春田は、戻ってくると、空のペットを振った。「湖で汲んでこようか」
「つーか、あんなの飲めんの」と私。
「腹、下っしゃうかなあ」
「トイレの水も、もうないよ」
「それも汲んでくるか」
「何に汲んでくるのよ。鍋?」
「裏口にバケツがあった」とミキが言った。
「いっそのこと、湖でやっちゃえばいいか」
「ダメだよ、そんな事したら湖が汚れるじゃない。大事な飲み水なんだから…。
つーか泊まる気?」私は牛島に振った。
「えぇー。今から帰んのかよ。今何時だよ」
「もう3時」
「今から帰っても日が暮れちゃうなあ」と春田。
「芋食って一泊するっていうのはどうよ?」と牛島。
「じゃが芋だったら味噌汁に入れると美味しいんだよ」突然ヨーコが言った。
「さつま芋だったらどうする?」
「さつま芋でも美味しいよ。かぼちゃみたいで、おほうとうみたいになる」
「そんなのいいからどうすんの」と私。
「じゃあ、とりあえず、芋掘りをして一泊して明朝下山、っていうのはどうよ」
「俺らはそれでいいよ」。春田とミキはなんとなく目配せしていた。
私は斉木を見た。
「僕もそれでいい」と彼は言った。




 続き #1038 ◆シビレ湖殺人事件 第1章・ヒヨリー6
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