AWC ◆シビレ湖殺人事件 第1章・ヒヨリー3


        
#1035/1158 ●連載    *** コメント #1034 ***
★タイトル (sab     )  16/01/15  16:36  (117)
◆シビレ湖殺人事件 第1章・ヒヨリー3
★内容
やがて地面はだんだんと平坦になり、完全に平らになる。
靴の裏で、乾燥した地面のじゃりじゃりした感じが分かって、湖畔だなぁと感じる。
振り返って今出てきた山を見ると、杉だか檜だか、枝の払われたノッポの木が、
櫛の歯みたいに並んでいる。
私らは、じゃりじゃり音をたてながら、あたりを見回しながら進んだ。
右手に防風林みたいなのがあって、それを迂回して進む。
左手に広場があって、キャンプファイヤーの跡みたいなのが真ん中にあった。
正面に湖が見えてきた。
周囲1.2キロのカルデラ湖か。
ぐるり一周もこもことした古墳の様な森に囲まれている。
水面もお堀の水みたいに緑がかっている。
更に進むと、防風林の影からロッジが全容を表した。
屋根が赤くて高くて、リンガーハットみたいな建物。
湖畔に面したところがテラスになっていた。
そっちに回り込むと…そこに落ちこぼれ男女2、2が荷物を転がして、
ごろごろしている。

「いたいた」思わず顔がほころぶ。「なんだよ、うだっているじゃん」
とにこやかに迫っていたのだが、牛島、という男子が いきなり三白眼で睨んでいる。
頬骨がでっぱっていて、ニキビが吹き出ていて、
てんぱーの前髪を垂らしてそれを隠している。影では半魚人と言われている。
「残る2人はお前らか」牛島がレスしてきた。
「よぉ」斉木がへつらうように手を上げた。
牛島の隣にはヨーコがいた。
こいつはモンチッチみたいなずんぐりむっくりした体型をしている。
湖面側の手すりにミキが寄りかかっていた。
多分学年一綺麗な子で、シンデレラとか自由の女神みたいな顔をしている。
あー、と長い手を伸ばしてあくびをしていた。
そのすぐ手前には春田。
こいつはキャベツ畑人形みたいな感じで、顔がでかくて眉毛が無い。
こいつらツーツーで出来ているんだろうか。
でも対等な関係じゃなくて、牛島のペットがヨーコ、ミキのペットが春田、
という感じがする。
…とか思いつつ、テラスに上がって、リュックを下ろした。
ふと、春田の靴が目に入った。妙に綺麗。
「もしかして車できた?」
「なんで?」
「なんとなく汚れてない、つーか」
「いきなりいちゃもんつけてんのかよ」と又牛島が言ってくる。「人を疑って、
そうじゃなかったら倍返しだからな」
「ここに来る道路は、この前の地震で寸断されているんだよ」と春田。
「だったら先生はどうやってくるの?」と斉木。
「しらね」
「しらねって、みんな黙って待っていたわけ?」
「全員、携帯圏外ですから」と春田。
斉木が時計を見た。「11時5分前」。
「ちょっとぉ。誰かがあけてくれるまで待っている積もり? 
パチンコ屋じゃないのよぉー」ミキがTシャツの丸首をひらひらさせて
胸に空気を入れた。私の為にどうにかしろよ、オトコ達、みたいな感じ。
牛島、春田がベタっとガラスに張り付いて中を覗いた。
サッシを開けようとガタガタ揺らすが鍵がかかっている。
「裏から入れないかなぁ」と春田。
「そうだな、裏に行ってみるか」
テラスの反対側に降り口があって、牛島がでかい背中を揺らして降りて行った。
それに春田が続く。それから他のみんなも。
それから全員でぞろぞろとロッジの反対側を歩いて行った。
はたして裏口はあったのであった。
そして春田がドアノブに手をかける。
開けてみぃ、みたいに牛島が顎をしゃくった。
カチャっと音がして、さーっと開けると…。
入ってすぐのところに階段があって地下と2階につながっている。
その向こうはバストイレだろうか。
私らは中に入り込むと、手前の廊下を左に進んだ。
突き当たりのドアを開けると、対面式キッチンがあって、
カウンターを通り抜けるとさっき外から見ていた食堂だった。
真ん中にテーブルがあって、スナック菓子だのペットのドリンクが用意されている。
「なんだよ、おもてなしの準備が出来ているじゃない」牛島がガサガサあさる。
「暑い暑い、みんな窓開けよう」とミキがサッシを開けた。
春田がコマネズミみたいにキッチンに走って行くとそっち側の窓を開ける。
さーっと、湖からの風が入ってきた。
「いい風が入ってくるじゃない」首を風にさらしてミキが言う。
「さあ、頂こう、頂こう」
「勝手に食べていいの?」
「今更。つーか、既に上がりこんでいるし」
牛島はぎーっと丸椅子をひいて座るが早いか、
パーンと袋をあけてポテチを口に入れた。
「うーん、味が濃くてうめー」
みんなもぎーぎー椅子をひいて、ぱんぱーん、と、
スナック菓子とペットの蓋を開けた。
私はスナック菓子の袋に圧力をかけて、穴でも開いていないか調べた。
「用心深いな」
と言う牛島は無視して、裏のアレルギー物質一覧を見る。
別にアレルギーなんじゃなくて、グロ耐性がないから
動物性のものが嫌いなだけなんだが、ベジタリアンって事にしてある。
「形が無くても駄目なのかよ」と牛島。
うるさいなあ。「形はなくてもアレルギーは起すでしょう」
「給食だったらどうする」
「給食だって、今はアレルギーの子供には別メニューがあるじゃない」
「俺はそんな女とは暮らせないな。同じものを食って、
同じベッドに寝てって感じ」言うとヨーコに向かってスナック菓子の袋を振った。
黙って手を突っ込むモンチッチ。
どうしてこいつは、言われるがままに食うんだろう。
そういえば中学校の頃、カレーの肉とか全部こいつに食わせた。
ロボトミーにでもされたみたいに従順なんだよな。
でも内心私の事を恨んでいるかも知れない。
牛島はなおも食えと袋を揺らした。
それから自分でもぼりぼり食う。
ポテチの油が顔に滲み出てきてニキビをてからせて、半魚人みたいになった。
げー。
その隣の春田も猿、っていうか、キャベツ畑人形みたいな顔をしているのだが、
小さな口でぽりぽりと菓子を噛む。
「これ美味しいよ」と、ミキに差し出した。
悠然とスナック菓子を口に運ぶミキ。
高い鼻。大きい目。長いまつげ。丸で自由の女神、つーかエルビス。
どうして、同じ人間でも、こうも造りが違うのか、と思う。
神がもし粘土で人を造ったのなら、神が丹精こめて造ったのはミキだろう。
春田なんていうのは余った粘土で適当に造った感じ。
でも結局こいつらツーツーで釣るんでいるのか。
余っているのは斉木か、と、テーブルの反対側の斉木を見ると、
あいつもミキを観察していた。
中学校の時、じーっとミキを観察していて、突然
「このクラスの半分は僕んちで生まれた。君もそうだ。お母さん元気?」と言って、
ミキが腰を抜かしたって事があった。
全く身の程を知らない事を言う奴だよなぁ。
つーか、ここにいるのは全員、八王子×中卒か。
まあ、あの都立高ではクラスに3人も4人も中学の同窓生が居るのは普通だが、
でも、6人というのは多いけれども。




元文書 #1034 ◆シビレ湖殺人事件 第1章・ヒヨリー2
 続き #1036 ◆シビレ湖殺人事件 第1章・ヒヨリー4
一覧を表示する 一括で表示する

前のメッセージ 次のメッセージ 
「●連載」一覧 HBJの作品
修正・削除する コメントを書く 


オプション検索 利用者登録 アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE