AWC 兎美味し   永山


        
#508/509 ●短編
★タイトル (AZA     )  21/09/28  19:53  (142)
兎美味し   永山
★内容
※本作は短編シリーズの二作目に位置付けされますが、一作目は都合によりこちらには
まだ置いておりません。m(__)m 本作のみで独立したものとして読めます。



「来月のテーマ、難しくない?」
 KK学園高等学校の正門を出ると同時に、神林《かんばやし》アキラが言った。彼女
に半歩遅れてついていく神酒優人《みきゆうと》は、小首を傾げた。
「そうかな。毎回難しいから、取り立てて言うほどのものじゃ……」
「難しいことは認めるのね? だったら素直にここは『そうだね』とても言っておきな
さいな」
「……そうだね」
 二人はともにKK学園高等学校の文芸部に所属している。今話題にしている『テー
マ』とは、文芸部が毎月催している部内競作のお題のことで、部員が持ち回りで決め
る。月末締め切りで、読み合って批評し合うのだが、割と緩いムードでやっている。だ
から、部員同士が相談するのも問題ない。
「もうちょっとさぁ、堂本《どうもと》さんも広げやすいテーマにしてくれればいいの
に。まさかの動詞だなんて」
 今回の当番だった同じ一年部員に対して神林、文句をぶつぶつ。
「それを言っちゃだめだよ。堂本さんにとっては書き易い、広がりのあるテーマに思え
たのかもしれないじゃないか」
「彼女の肩を持つのね」
「そのようなことは決して。書きにくいのは確かだから」
「具体的にアイディア、浮かんでいるの? 書きにくいって言うからには」
「具体的には程遠い。使えないネタばかり浮かんでくるんで困ってる」
「一つか二つ、聞かせてよ。私にならうまく料理できるかもしれない」
「自信家だねえ。それじゃまあ、いつものように交互に披露するってことで。――知っ
ての通り、僕が好んで書くジャンルはミステリだろ。ミステリで『食べる』と言えば」
「毒?」
「ああ、それもあった。でも毒は服用、飲むってイメージだな。食べるとなると、証拠
を消すための行為さ。たとえば遺体を」
 言い掛けた神酒の前で、神林が立ち止まって、くるっと振り返った。レストランでコ
ウモリの丸焼きステーキ昆虫のサラダ添えでも出されたみたいに、嫌そうな顔をしてい
る。
「人肉ってことー?」
「うん。かなりポピュラーなんだけど、君が知らないってことは一般的ではないのか
な。ネタバレになるから作品名は伏せるけれども、傑作短編があるよ。ミステリ以外で
も、飛行機事故などで遭難して食糧がなくてやむにやまれずとか」
「そ、それだけ有名なネタなら、使いにくいって訳ね。証拠を消す、他のパターンはど
うなのよ」
 隣に並んで再び歩き始めた神林。神酒はどこまで話していいものかを考えながら答え
る。
「他の物証としては、凶器が筆頭かな。ネタバレにならないよう、即興で考えて……乾
物のかんぴょうで絞め殺したあと、煮戻して食べちゃう」
「さすがに切れるでしょ、かんぴょう」
「じゃ、ネタバレ云々を越えてる定番、氷の凶器はこれに近いと言えるんじゃないか
な。犯行後、食べるなり、溶かして飲むなり」
「氷は水にして流すのが一番だと思うけど……。それはともかく、凶器になり得る食べ
物ばかりが食卓に並ぶっていう絵面は面白いかもね」
「なるほど。普通に『事件が起きて凶器が消えた、実は食べられる凶器でした』では、
よっぽど凶器に工夫がないと二番煎じもいいことろだけど、ずらっと揃えればまた違っ
た方向の面白味が生まれそうだ」
「神酒君みたいなミステリ好きの夫と、無邪気を具現化したような妻がいて、妻が食卓
に並べる料理が、ことごとく凶器になり得る物ばかりだったら、夫は何を思うのかしら
とか、どう?」
「どうって……」
 神酒は既出の食べられる凶器トリックの数々を思い浮かべてみた。
(七面鳥の丸焼き、善哉、ダツのお造り、堅焼き、カニ、貝……ごちそうだな)
「とりあえず、ちぐはぐな組み合わせに、うん?となって、そこから、これ全部凶器に
なるぞと連想し、恐怖を感じるかな」
「『世にも奇妙な物語』っぽくしたらいけるんじゃない?」
「ああ、そっちの系統ね。いいオチが見付かれば、悪くない。さあ、もう半分は来た
よ。家に帰り着くまでに、次は君の番だ」
「うーん……考えてはいるんだけれども、最初のが頭から離れなくて」
 頭を抱えるポーズを取った神林。芝居がかっているけれども、何とはなしにかわいら
しい。
「最初って?」
「最初って言うか、前のテーマのね。『手紙』のときに浮かんだ『やぎさんゆうびん』
のアイディアって、『食べる』のテーマにも合ってると思わない?」
「ああ……そうか、手紙を食べるよね、確かに」
「今度のテーマが『食べる』と分かっていたら、『手紙』のときには温存したのに!」
 テーマ『手紙』に対して、神林はあれこれ迷った果てに、結局『やぎさんゆうびん』
ネタで書き上げ、理屈っぽいのとオリジナリティにやや欠ける点はマイナスだったもの
の、概ね好評を得ていた。
「別に、続けざまに同じ題材を扱ってはいけないという決まりがある訳じゃないんだか
ら、今度も『やぎさんゆうびん』で行けば?」
「前、オリジナリティを言われたのに、そんなことできますか。で、思ったのが、童謡
の次は童話かなって」
「童話って『浦島太郎』や『桃太郎』?」
「他に何があるっていうのよ。ともかく、そういう有名な童話と食べる行為を結び付け
ること自体は、さほど難しくはないと思うの」
「それはどうかなあ?」
 疑問を呈した神酒に、神林はすぐさま例を挙げ始めた。
「ベタなところでいいのなら、『桃太郎』で桃を割ってみたら、中の子供まで割ってし
まって、仕方がないからスタッフが美味しく」
「おぉーい、さっきまで人肉料理にびびっていた人と同一人物とは思えない発言だ」
「神酒君の話で、免疫ができたのね。改めて言うまでもなく、童話って残酷な物が多い
でしょ。『シンデレラ』のラストって、シンデレラと王子が継母や姉たちを炎で熱した
鉄板の上で裸足で踊らせるバージョンがあるって聞いたことあるわ。こんがり焼けたと
ころを、スタッフが美味しく」
「何でやねん」
 一応、礼儀として突っ込んでおく。
「『鶴の恩返し』は換えの利かないアンパンマンね。減る一方。あ、さっき言ってた遭
難の話だけど、瀕死の重傷を負った人が愛する人のために『僕の頭、食べていいよ…
…』って迫って来たら凄く怖いと思わない?」
「色んな所から石が飛んで来そうだから、やめなさい」
「愛と自己犠牲をホラー風味にしただけなのに。――残酷な童話と言えば、『かちかち
山』も。おばあさんはたぬきに撲殺された上に、料理され、おじいさんはそれを知らず
に食べてしまう。う、自分で言っていて気分悪くなってきた」
 今さら!?と思った神酒だったが、この童話が突出して残酷なのは論を待たないとこ
ろだ。
「おじいさんから依頼を受けたうさぎも、情け容赦のない残酷さを発揮。たぬきに大火
傷を負わせ、傷口に辛子味噌を塗り込み、最後は泥船に乗せて海に漕ぎ出し、沈んだと
ころを櫂でぼこぼこにして溺死させる。土左衛門となったたぬきは回収してスタッフが
美味しく」
「もういいって。うさぎのその行為が現代の法律に照らしてどの程度のものになるかっ
ていう、模擬裁判が何度か開かれたと聞いた覚えがあるなあ。判決は有罪で、量刑は覚
えてないけど、懲役刑だったのは間違いない」
「おばあさんを殺された段階で、おじいさんが復讐を果たしていたら、正当防衛?」
「いや、成立しないだろ。たぬきだってその時点では捕まって、食われる寸前だった。
盗みの代償に命を取るってのは、今の法律では行き過ぎってことになるだろうから、た
ぬきの方こそ、正当防衛が成り立つ可能性はあったかもね。口八丁で縄を解いてもらっ
たあと、おばあさんを殺しちゃったから過剰防衛になるけど」
「おじいさんが直接復讐するのと、依頼を受けた第三者が復讐するのとでは、どちらが
罪が重いのかしら」
「うーん、多分、うさぎが手伝う方が重いんじゃないかなあ。計画性が際立つって意味
で。おじいさんが激情に駆られて復讐したのなら、情状酌量の余地が大きいと言えそ
う」
「そっか。じゃ、だめかなあ」
 歩きながら腕組みをする神林。危ないからやめときなよって注意すると、案外素直に
解いた。
「腕組みするほど、何を考え込んでるの?」
「ぱっと思い付いたのがあって。童話を二つ、組み合わせるのよ」
「面白そう。聞かせて」
「『かちかち山』のその後に、かの有名な『うさぎとかめ』レースが開催されたことに
するのよ」
 『うさぎとかめ』って童話と童謡、どっちがメインだっけ? 神酒は内心思ったが、
神林の話には関係がなさそうなので、今はスルーした。
「で、かめは密命を帯びているの。競走相手のうさぎを痛い目に遭わせてくれと。依頼
主はもちろん、たぬき。と言っても『かちかち山』のたぬきは死亡確認済みだから、そ
の子孫ね。うさぎの方は『かちかち山』に登場した当|人《うさぎ》でもいいし、子孫
でもいい。依頼を請け負ったかめは、レース前に眠り薬をうさぎに盛る。あるいは、こ
のレースがマラソン並みに長いコースだったら、途中で給水スペースがあるから、そこ
のウサギのドリンクに薬を仕込んでおいてもいいわね。眠り薬により途中で眠り込んだ
うさぎに、かめは追い付いてから煮るなり焼くなり、好きなようにうさぎを料理できる
って訳」
「……そうしてできあがったうさぎ料理は?」
 答は分かっていた。けれども、聞かずにいられなかった。
 神林はにっこりして言った。
「もちろん、スタッフが美味しく食べる」

 おしまい





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