AWC 勝負に絶対はないというお話   永山


        
#496/550 ●短編
★タイトル (AZA     )  21/04/25  22:04  ( 90)
勝負に絶対はないというお話   永山
★内容
 これはある年の夏、ある高校における、一人の女性とお付き合いすることを賭けた、
男と男の戦いの記録である。

 女性の名は白島麗子《しらしまれいこ》。学業優秀でクラス委員長を何度も務め、期
待以上に役割をこなしてきた。長い黒髪が印象的な、令嬢である。

 一人目の男の名は、大上新太郎《おおがみしんたろう》。野球部のエースで、全国大
会の出場経験もある。まだ二年生だが面倒見がよく、何ごとにも率先して取り組む。

 二人目の男の名は、高橋輝也《たかはしてるや》。膨大な知識量と高いIQを誇り、
大人も含めた大型クイズ大会で優勝。問題にぶつかるや解決策をたちどころに産み出
す。

 かように突出した三人による鞘当てが、たった一つの勝負で決せられようはずはな
く、有志による実行委員会が十三番勝負を企画した。引き分けはなし。これに勝ち越し
た者が、晴れて白鳥麗子と付き合うことになるのだ。

 勝負をなるべく不公平なものとするために、実行委員会の判断で、両者がそれぞれ得
意とするであろう対決種目を六つずつ用意し、争った。順不同で、バッティング、ス
ピードボール、水泳、百メートル走、相撲、スキー、知能テスト、国旗当て、難読漢
字、チェス、トランプの神経衰弱、円周率の暗記とやって来て、六勝六敗の五分。
 最終戦までもつれ込んだことにより、俄然、最後になる十三番目の種目をどうするの
かが注目された。完全に運任せになるじゃんけんかくじ引きじゃないかという予想が出
たが、その一方で、ここに来て単なる運任せでは、あまりにも呆気ない。両者が力を発
揮できるようミックストルールになるのでは、たとえば寿司二貫を食べる毎に解答権が
得られるクイズ対決とか。
 ところが、実行委員会が提示した最後の勝負は、ちょっと意外なものだった。
 らくだに乗って炎天下の町内を一周するのだ。
 これは一見すると体力に勝る大上に有利なようだが、高橋は実は鳥取出身で、砂丘に
遊びに行っては何度もらくだに乗った経験があった。こういった観点から、公平な種目
になるであろうと認識されたようだ。

 ちょうどそのらくだレースが行われた日に、一人の転校生が手続きをしに高校へ足を
運んだ。
 皆が盛り上がっているので興味を引かれ、生徒の一人に思い切って聞いてみた。
「何をしているんですか。この暑いのに、らくだに乗ってゆっくり動いているみたいで
すが」
 モニターが用意され、その画面には最後の対決に力を注ぐ男子生徒二人とらくだ二
頭。
「君は転校生かい? じゃあ知らなくても無理はない。ある女子生徒のお相手の座を争
って、二人の男子生徒が戦っているのさ。このらくだレースで決着する」
「らくだレース? レースという割には、遅いですね」
 転校生はしばらくモニターを見つめて、はたと気付く。いや、思い出したと言った方
が正確かもしれない。
「ああ、これ、僕も知っています。遅く着いた方が勝ちになるレースなんでしょう? 
だからのろのろしているんだ。でも、もし勝利の条件が、自分のらくだがより遅くゴー
ルした方を勝ちにする、とかだったら、わざわざゆっくり進まなくても、いい手がある
んですよね。それは戦っている二人が、お互いのらくだを交換すること。そうすれば、
たちまち普通の競争と同じになる。相手のらくだに鞭を入れ、少しでも早く相手をゴー
ルさせればいいのだから」
「うーん? ちょっと何言ってるか分からない。このレースは早くゴールした方が普通
に勝ちだよ」
「あれ? そうなんですか……」
 おっかしいなあと独りごちながら、照れ隠しに頭をかく転校生。
 モニターをもう一度見て、「勝つ気がないとしか思えないんだけど」と思った。
「不思議そうな顔をしてるな。これまでの経過を知らないところを見ると、転校生か」
 さっき話し相手をしてくれたのとは別の男子生徒が近寄ってきた。転校生が認める
と、相手はこれまでの対決について語った。
「大まかに言うと、大上という男は体力系、高橋という男は頭脳系が得意だ。そんな二
人がこれまでに十二の種目で対戦して、五分と五分。さて、たとえば神経衰弱。どっち
が勝ったと思う?」
「そりゃあ、普通に考えれば高橋って人の方でしょ」
「ところがそうじゃないんだ。実際は大上が勝った。それも獲得したペアが大上が一
組、高橋はゼロ組」
「神経衰弱でそんなことって、あり得るんですか?」
「たまたま大上が先に一組ペアができて、あとは、お互いが外しまくって、時間切れ裁
定さ」
「どうしてまたそんな……」
「相撲は高橋が勝っている。最初から圧倒して土俵際に押し込んだ大上が、勇み足をや
らかしてな」
「……」
「全ての種目で逆の目が出たって訳でもないんだぜ。バッティングやスピードボールで
は大上が勝ったし、知能テストや難読漢字では高橋が勝利を収めた。さすがにこの種目
で負けるのはプライドが許さなかったのか、それとも負けたくても負けようがなかった
のか」
「一体全体、何があってそんなおかしなことに」
「なーに、種を明かせば簡単さ」
 相手はいたずらげに目配せをした。
「付き合うその相手なんだが、白島麗子と言って、字面はなかなかきれいな感じだよ
な。だが、顔は平均的、性格最悪で支配欲が強いと来ては、いくらご令嬢で勉強ができ
ても、遠慮したくなるよなあ」
「えっと、じゃあ、やっぱり二人ともわざと負けようとしている?」
「多分な。これは言うなれば、負けられない戦い、負けようと思ってもなかなか負ける
ことができない戦いなんだ」
 転校生は、男子二人にそこまで勝ちたくないと思わせる白島麗子がどんな人なのか、
詳しく知りたくなった。
 それともう一つ、男子二人は何でそんな女子生徒を巡って、戦う羽目になったんだろ
う?と疑問を覚えるのであった。

 終わり





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