AWC かんせんぼうし   永山


        
#488/489 ●短編
★タイトル (AZA     )  21/01/06  20:08  ( 73)
かんせんぼうし   永山
★内容
 FS大学のサークルの一つ、万武闘鑑賞《よろずぶとうかんしょう》研究会――通称
ヨブカン――はクラブへの昇格申請を伺うところまで来ていた。会員が七名以上になれ
ば予算のもらえる部活動として認めてくれるよう、申請する条件を満たす。現在の会員
数は総勢五名。この春の新入生勧誘で二人増員を目指す所存であり、本日の活動は、確
実に新入生を入れるにはどう据えればよいかを考える作戦会議の位置づけであった。
 もちろん、申請したからと言って認可されるとは限らない。有象無象の怪しげなグ
ループが増えてきて、各クラブに割り当てる部室の確保もままならない状況下、審査を
厳しくしようとする動きがある。
 万武闘鑑賞研究会は、どちらかと言えばその怪しげな方に分類されてしまうだろう。
活動コンセプトは“リングなどで行われる、基本的に一対一の、肉体を駆使した武闘
(舞踏を含む)を鑑賞することで満喫し、議論する”というもの。要するに格闘技や武
道の試合を見て楽しもうってだけなのだから、世間一般にはなかなか届きそうにない。
 なので、せめて大学側や学生会によい印象を持たれるよう、色々とルールを定めてき
た。講義中は勉学に集中し成績も少なくとも赤点だけは取らないレベルを維持する。年
に四度はサークルの会報として季刊紙・誌を出す。学生会を通じての活動には積極的に
参加。特にボランティア活動には進んで手を挙げる。政治的な活動とはもちろん無縁
で、サークル室内では政治の話をしないことまで決めてあった。

「まったく、大言壮語しておいてこれはないよな」
「そうそう。何でマスク二枚になるんだよ」
「色々と言い訳してたけれども、要するに、元々金がなかっただけなんじゃね?」
「じゃあ、あの説明は嘘だと?」
 大部屋をパーティションで分けただけの狭いサークル室、そのドア越しに漏れ聞こえ
て来た雑談に、会長の竹内《たけうち》はしかめ面になった。軽く息を吸い込んでか
ら、ドアを開ける。
「おぃーす」
「あ、竹内さん。お疲れです」
「お疲れ。おまえらそういう話は感心しないな」
「そういう話って?」
「今までしてただろ。マスク二枚云々て」
「はあ、していましたけど」
 何がいけないんだと言わんばかりの顔つきになり、互いを見合わせる会員達。
 竹内は空いていたスペースにパイプ椅子を持って行き、開いてどっかと腰掛ける。腕
組みをしてから続けた。
「まさかおまえ達、知らないのか? いや、新二年生はともかく、清水《しみず》は知
っているはずだよな」
「ああ。うちの大学の大先輩だ」
 清水は申し訳なさげに片手を後頭部にやった。
「だったら言うなよ。そしてみんなにも分かるように説明しなきゃ」
「そうだな。ただ、今度の仕打ちがあまりにもしょぼかったからつい」
「どういうことですか、大先輩って?」
 後輩達の声に、竹内は清水にさせるつもりだった説明を、自らがやると決めた。
「プロレス雑誌『Rの闘魂』の名物編集長である本山武尊《もとやまたける》は、FS
大学OBなんだよ」
「へー! 知りませんでした」
 竹内や清水の世代からすれば考えられない反応である。一年違うだけでどうしてこん
なギャップが生まれるのやら。
「それはちょっと申し訳ないことをしたかも」
「うちら総合格闘技の方から入ったので、プロレス関連はあんまり詳しくなくって」
「我がサークルに入っておいてその言い分はないぞ」
 後輩をたしなめると、竹内は本棚の一角に目をやった。『Rの闘魂』最新号が置いて
ある。その中程のページに、本山編集長のお詫びがでかでかと載っていた。

 ふた月ほど前、プロレスの取材でメキシコへと発つことになった本山は、誌面にて
大々的な予告をしていた。現地でプロレス関連グッズを大量に購入してきて、読者に
どーんとプレゼントするというものだ。現地でしか流通していない裏ビデオ的プロレス
映像も入手する算段があると豪語していたため、読者からの期待は高まった。
 ところが取材を終えて帰国した本山は、読者プレゼント用の品々を持ち帰ってはいな
かった。現地のホテルで盗難に遭い、取り戻すために色々手を打っていたが、仕事の都
合でタイムアップ。日本に戻らざるを得なくなったという。
 そんな本山がどうにか持ち帰れたプロレスグッズが、覆面レスラーの試合用マスク二
枚のみだった。とりあえず愛読者プレゼントの第一弾に充てるというが、当初の発表か
ら随分とスケールダウンした企画に不満の声が上がっていた。

(大先輩を敬えないようなメンバーがいると知られたら、心証を悪くする。審査で不利
だ)
 竹内は狭いサークル室を見渡しながら思った。
(肩を寄せ合うような距離で座るのがやっとだ。クラブになれた暁には、格闘技の技を
掛けられる程度のスペースはほしいな)
 そのとき、竹内はくしゃみが出そうな感覚を覚えた。むずむずする鼻を指でつまむ。
しばらくすると、くしゃみは消えていった。

 終





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