AWC どうだっていいよね、メダルの色なんて   永山


        
#479/482 ●短編
★タイトル (AZA     )  20/08/31  19:57  ( 98)
どうだっていいよね、メダルの色なんて   永山
★内容
 僕、片柳憲吾《かたやなぎけんご》。アマチュアレスリングの選手を引退したばか
り。五輪で二大会連続金メダルを取っての引退だから、まだ記憶してくれてる人も多い
と思う。

「犯人が分かったと聞いて来たんですが」
 その金メダル、二つ並べて自宅のステレオの上に飾っていたのだが、うち一つが昨日
の月曜、消えた。盗まれた可能性が高い。オリンピックのメダルを盗まれたなんて公に
なると、管理がなってないとかどうとか叩かれそうな予感がしたけれども、仕方がな
い。警察に届けた。
「現時点では犯人ではなく、飽くまで容疑者です」
 それが報道に乗らない内に、容疑者が見付かったという連絡を警察からもらった。昨
日の今日のことだ。
 担当の刑事さんは柔道の猛者とかで、僕と同じように耳がカリフラワーみたいになっ
ている。階級が違うのもあるけれど、身体が大きく、もし戦ったら負けるかも。こうし
て小部屋に二人だけになると、圧迫感が否応なしに伝わってくる。
「が、恐らく間違いないでしょう。片柳さんの留守中、お宅に出入りする様子が防犯カ
メラに映っていましたから」
 刑事さんは机の向こうにどっしり構えて座り、ゴツゴツした手を組んでいる。外見か
ら来るイメージとは対照的に、喋りは軽い調子だ。
 それにしても防犯カメラのことを念頭に置かず、盗みに入るなんて。よく分からない
が、よほどの間抜けか、金に困っていたのか。でもお金目当てなら二つとも持って行く
んじゃないか。
「それで、メダルは無事なんでしょうか」
「うーん、無事ではないですな。修復は可能でしょうが」
 換金済みではないらしい。傷を付けられたということか。
「それよりも、事件として扱えるかどうか、微妙になるかもしれんのです」
「え? どういう意味でしょう」
「説明します。難しい話は抜きに、ざっくりと。親族相盗例といって、身内の者が盗ん
だ場合、罪には問われんのですわ」
「身内って……誰ですか」
 ショックで声が掠れた。もう一度同じ問い掛けを発した僕に、刑事さんは「明臣《あ
けおみ》君です」と答えた。
「明臣が? 何でまた」
 現在中学一年生の明臣は息子だが、養子だ。子供がほしいができない僕ら夫婦が、姉
夫婦の子供三人兄弟の内の一人を引き取った。
「片柳さんのお姉さんも、同じ大会のオリンピックメダリストですよね。銀の」
「え、はい。その通りですが、それが何か関係が」
「前の日曜に、明臣君を姉夫婦のところに遊びに行かせましたよね」
「はあ。割と早い内から、彼には本当の両親は僕らじゃなくて、姉さん夫婦なんだよと
打ち明けてますので」
 答えながら、嫌な想像をしてしまった。銀メダルに終わった実母を想い、金メダルを
あげようとして持ち出したのか? あるいは姉が明臣に命じて――いや、まさか。

 そんなことを考えていると顔に出たのだろうか。刑事さんはこちらを見て、微苦笑ら
しきものを表情に浮かべた。
「明臣君から直に聞きます? 泣き止んだばかりでまだ落ち着きを取り戻していないか
ら、時間が掛かるでしょうけど」
「うう」
 直に聞こうかと思ったが、何だか僕まで泣いてしまいそうな予感がしたので、やめて
おく。
「刑事さんから聞きたいです。お願いします」
「分かりました。彼の話によると、最初、銀メダルを持ち出したんですな」
「うん? 姉の?」
「そうです。友達に見せて自慢するために。ところが、見せた場所がよくなかった。河
川敷で友達数人に見せて、ちょっと悪ふざけをする内に、ポチャンと。川に落ちて、ど
こに行ったか分からなくなってしまった」
「ええ? そんな流されるようなもんじゃないでしょうに」
「川底の丸っこい石の間に入り込んだようで、探したが見付けられなかったと。焦った
のは明臣君です。勝手に持ち出しただけでもまずいのに、なくしたとなれば大目玉を食
らうかもしれない。彼にとっては、あなた方夫婦もお姉さん夫婦もどちらも怖い親です
から」
 姉や僕は、姉の息子らにアマレスをさせようと躍起になった頃がある。体験させるだ
けでその後続けるかどうかは子供達次第、という意識はあるのだが、ついつい強要しが
ちになる。結局、三人ともレスリングをやらなくなってしまった。その際のイメージか
らすれば、僕らは怖い大人だろう。反省しきりである。
「で、今どきはネットで調べれば、銀メダルの入手方法も分かる。明臣君が見付けたの
は、金メダルを利用すること」
 刑事さんの言葉でぴんと来た。
「もしかして、銀メダルを金メッキした物が金メダルだという話を」
「ええ。幸いにもあなたとお姉さんは同じ大会で金と銀。デザインは同じだから、メッ
キを溶かすなり剥がすなりすれば、外見は同じになると考えたようです。あなたの金メ
ダルが消えることについては、もう一つあるのだから怒りの度合いが比較的小さくて済
むのではないかという期待から」
「はあ……でも、それじゃあ当てが外れた訳だ、明臣は」
 僕はこんな事態の只中なのに、思わず笑ってしまった。
「ええ。明臣君世代にとっちゃ昔話になるから知らなくても無理はないが、当時は凄く
話題になりましたな」
 僕と姉がメダルを獲得したのは、アラブ某国で開催された大会。原油に金に宝石にと
えらく豊かな国だったからか、1912年のストックホルム大会以来の純金製の金メダ
ルが用意された。
 以前のオリンピック憲章では、“金メダルは、純度何パーセント以上の銀メダルに金
メッキを何グラム以上施したものとすること”といった規定があったが、2004年に
この文言が削除された後は、IOCに事前に提出して承認が得られればOKとなってい
る。
「持てば重さの違いで分かりそうなものなのに」
 思わず僕が呟くと、刑事さんは「そりゃ無理ってもんでしょ」と笑った。
「それでですね、証拠探しってことで、手の空いている者全員で川をさらったら、首尾
よく銀メダル、見付かりまして。幸い無傷らしい」
 よかった。オーバーでも何でもなく、胸を撫で下ろした。
「あとはあなた次第ってことです。さっき言ったように刑事事件にはまずできないでし
ょうし、したくないでしょ?」
 メダルには傷が付いたが、それだけで済むのなら安いもの。許すの一択だ。
「こんなことなら、銀メダルでもよかった。いや、銀があったら結局持ち出されるか
ら、銅メダルがよかったかな」
 僕が冗談交じりに言うと、刑事さんも呼応した。
「そりゃいいですな。銅という字は金に同じと書きますしね」

 終





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