AWC 平成最後もしくは令和最初かもしれない殺人   永山


    次の版 
#475/475 ●短編
★タイトル (AZA     )  19/12/30  21:09  (104)
平成最後もしくは令和最初かもしれない殺人   永山
★内容
「こりゃ豪華にしなきゃならん訳だ。周りが貸し別荘だらけだから、単なるホテルじゃ
客が寄り付かない」
「警部、何のんきなことを言ってるんですか。この島にわざわざ渡ったのは、殺しの捜
査のためなのを忘れないでください」
「忘れちゃいねえよ。リゾート気分で臨んだら、迷宮入りしたなんて御免だ。分かって
ることを言ってみろや」
「えー、被害者の名前は、チェックイン時のサインによると、大平昭治(おおひらしょ
うじ)。運転免許証の顔写真及び記載事項とも一致しています。年齢は三十一。職業は
カメラマンを自称していますが、実際は恐喝に手を染めていたようです」
「そんな奴が、時代の移り目を祝おうと、こんなおしゃれなホテルの十階、眺めのいい
最上階の部屋に泊まるってか。価格も特別設定で馬鹿高くなってるだろうに」
「一緒にチェックインした女性がいたそうですが、今は行方知れずで」
「そいつが犯人てことで決まりか?」
「分かりませんけど、間違いなく第一容疑者ですね。派手な赤のドレスを着ていたとの
ことで、その格好のままなら、じきに見付かると思いますが……」
「死亡推定時刻は? 大まかな数字はそろそろ出ただろ」
「午前0時を挟んで前後一時間ずつ、です。大きく外れることはないだろうと」
「近所でカウントダウンイベントが催され、花火を打ち上げたんだっけか? 花火の音
に紛れて撃ったとしたら、誰も気付かねえかもしれんな」
「可能性は高そうです。午後十一時から午前一時の間に目撃というか、異変に気付いた
者はまだ見付かっていませんから」
「撃たれそうになって、どうにか逃げられなかったのか。大の男が女を前に」
「手足は強力なダクトテープで拘束され、口にもダクトテープ。とても逃げたり助けを
求めたりできる状態ではなかったでしょう」
「感覚的な発言に、理路整然と答えるなよ。――おっ、指紋が出たらしい。うん? 被
害者の指紋じゃねえか」
「え、被害者の指紋が検出されたってわざわざ知らせに? どういうことだろ……」
「何だ、分かったぞ。ガラス窓に被害者の指紋がべたべたあって、それが字を書いたよ
うに見えたから、いち早く知らせてくれたようだ」
「なるほど。つまるところ、ダイイングメッセージってやつですか」
「そのようだ……が、何だこりゃ。『018』だとよ」
「数字と来ましたか。うーん、部屋番号? いや、このホテルは各フロアの階数プラス
二桁番号だから、018はありませんね」
「語呂合わせじゃねえか? マルイ・ヤエとかいう女の名前とか」
「そんなことを言い出したら、きりがなくなると思いますが」
「何だと。じゃあ、例を挙げてみな。きりがないくらいにな」
「お、怒らないでくださいよ。こんなことで」
「俺は口から出任せ言う奴が大嫌いなんでな」
「しょうがないなあ。女の名前じゃなくてもいいですね? マルイ・エイト、マル・カ
ズヤ、マルイワ、マイヤ、マイワ、マトヤ、マトバ、えーっと……ワイヤー? レイ
ヤ、レイワ、レイ・イバ。うーん、オカズヤ?」
「待て。それくらいで勘弁してやる。二つか三つ前になんか言ったな。レイワって」
「ああ、言いましたね。奇しくもって言っていいのか、『令和』だ。そういえばテレビ
のワイドショーか何かで前にやってました。西暦の年を令和の年に変換する方法。令和
を数字に置き換えると018。これを西暦の下三桁から引くんです。今年だったら、2
019の019から018を引いて1。令和一年、令和元年てことです。うまくできて
ますよねえ」
「豆知識は今んとこどうでもいい。被害者が書き残した018が令和だとしたら、どん
な意図が考えられる?」
「うーん……自分が撃たれたのは、令和になってからだと伝えたかった?」
「はあ? そんなことに何の意味があるってんだよ。発生から何年も経って遺体が見つ
かり、詳細な死亡日時が特定できない事件なら役立つに違いないが。今回は死亡推定時
刻は明らかになってんだ」
「そんな大声で文句を僕に言われても。被害者に言ってください」
「被害者にも言ってやったよ。まったく、でかい図体をして後ろ手に縛られた不自由な
態勢で、ちまちまと指紋を付けて苦労したろうに。何でこんな訳の分からんメッセージ
を」
「――そうか。後ろ手だったんですよね」
「ん? どうかしたかそれが」
「だって、考えてもみてください。後ろ手に縛られてたのなら、字もそのままの姿勢で
書いたはずですよ。普段書いているのと同じつもりで書いたら、字は逆さまになるんで
す」
「逆さまに……なるな、確かに。それで? 018が逆さだとすると、元は何だ」
「810になります。これなら真っ先に調べるところがありますよ。部屋番号、八階の
十号室に行ってみましょう」

 〜 〜 〜

「まさか、こっちにも死体があるとはな」
「えー、男の名前は成正明(なるまさあきら)。チェックインのサイン及び運転免許証
で確認済みです。職業はまだ照会中。チェックイン時刻は、大平より二時間半ほど早い
ですね」
「で、こいつが赤いドレスの女に化けていたのか」
「多分。こうしてドレスとウィッグとヒールがあるので、間違いないでしょう」
「なのに、何でこいつまで殺されてる? しかも同じように後ろ手に拘束されて、足も
縛られ、口にはダクトテープと来た」
「確かに変です。状況から推すと、先にチェックインした成正が女性に化け、ホテルを
一旦出てから大平と合流し、今度は男女カップルとしてチェックイン。隙を見て大平を
拘束する。成正は正体を明かして部屋のキーも見せた上で、計画を得意げに語ったんで
しょうかね。で、大平を殺害後、810号室に戻って扮装を解き、知らん顔をしてい
た。こう考えるのが理にかなっています」
「成正を操っていた誰か第三者がいるってことだな。それを解き明かすヒントになれば
いいんだが、このダイイングメッセージが」
「またですね。血文字で、床に書かれているのはさっきと違いますけど。今度のは“h
EISEI”。筆記体っぽいですが、平成と読めます」
「令和に平成。出来過ぎだ。どうせまた逆さ文字だろ。何て読める?」
「そうですね……これも数字だとしたら、135134、かな」
「……なるほど、4は上の頂点が開いた形か。よし、じゃあすぐに行こう。この部屋番
号のところに」
「それが……このホテルは十階までなので、そんな部屋はありません」

 〜 〜 〜

「結局、あれは逆さ文字じゃなかったんですね。床に書いてあったから、被害者が死ぬ
間際に藻掻いて身体の位置が変わったとしたら、字のどちらが上かなんて分からなくな
って当然です」
「だからってなあ……英語で書くことはねえじゃねえか。いや、黒幕だった犯人はアル
ファベットを知らねえガキだったから、意味を理解されないように英語にしたのはまだ
分かる。だが、文の頭を小文字にするとは」
「被害者は最高にテンパってたんですよ。“He is E・I”で犯人のイニシャルを
表そうと思い付くくらいなら、ローマ字で名前をずばり書けばいいのにしないくらいな
んだから」

 終





前のメッセージ         
「●短編」一覧 永山の作品
修正・削除する コメントを書く 


オプション検索 利用者登録 アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE