AWC お題>見本>五十音プラス   永山


        
#428/550 ●短編
★タイトル (AZA     )  14/03/29  23:26  ( 82)
お題>見本>五十音プラス   永山
★内容
「あ、本だ」
「お、それに目を付けたか。いい本なんだ」
「う、ほんと? かわいらしい絵柄だから言ってみただけなんだけど」
「本当さ。絵本だから、みきちゃんくらいでも読めるかな」
「絵本ぐらい当然、読めるわ。でも、ねえ、本田にいちゃん。お願いだからぁ」
「何でまた……しょうがないな。では読んでやるから、心して聞くように」
「うん」
「それでは……おほん。『うそかほんとうか』。昔々、あるところに――」
「その出だし、昔話の基本だね」
「茶々を入れない」
「だって、まんまなんだもん。言いたくもなるよ」
「賢く本音を隠すことを学ばないと、友達なくすぞ」
「――けほっ。けほけほん。ねえ、何だか煙たいよ」
「話をそらすな――こほ、こほんこほん。本当だ、煙が出てる」
「あのさ、本田にいちゃんケーキ焼いてるんじゃなかった?」
「そうだった!」

 〜 〜 〜

「シホンケーキ、こへてるのにいはいとおいひい(焦げてるのに意外とおいしい)」
「ほおばりながら喋らないこと。だいたい、シホンではなく、シフォンケーキだ」
「スホン?」
「違うっ。セホンでもソホンでもなく、シフォンだ!」
「あー、分かった。本当はチホンでもツホンでもなく、セシボンなんだよね」
「……フランス語で誉められたことになるのか、今のは?」
「これぞお世辞のお手本」
「何だ、お世辞か」
「いや、ほんとほんと。本当に美味でした」
「そんな『ほんと』を連発されると、かえって信じられなくなる」
「本心から言ってるのに〜。日本語って難しい」
「みきちゃんが使ってるのは、差し詰め、“ぬほんご”だな」
「ひどい〜。そこまで言われる筋合いない」
「どうかね。――本題にそろそろ戻ろうか。この本、まだ読み終わってなかった」
「今日は本読みで終わるのね」
「ああ。このあと七時から、『マル秘!本当にあった宇宙人の痕跡!』を観た
いんだ」
「少し前に、似たようなタイトルの、やってなかった? 『恐怖!本当にあっ
た吸血鬼の痕跡!』ってな感じの」
「それは前の前だ。前回は、『未来へ!本当に的中した予言の数々』だ」
「のほほんとしているのに、こんなことだけは記憶力抜群なんだね。ま、本田
にいちゃんの一番の取り柄だし」
「おまえ、さっきのリベンジのつもりか。ならば、こっちがリベンジの見本を
見せてやろう」
「ご、ご冗談を。尊敬する本田にいちゃんに謀反を起こすなんてつもりは、さ
らさらありませんです」
「こいつめ、ほんと、調子いいな」
「それもこれも本田にいちゃんの人徳のなせる技」
「意味が分からん。もういいや。本に戻るぞ」

 〜 〜 〜

「本田にいちゃん、『はこねゆほん』て、どこにあるの?」
「やけに唐突だな。はこねゆほんて、もしかすると、はこねゆもとのことか?」
「ああ、これ、ゆもとって読むの」
「そうだよ。さっきの物語に温泉が出てきたから、思い出したって訳か」
「うん。温泉で有名でしょ? 昔、行ったことあるし」
「だったら、箱根湯本は駅名で、地名としては箱根町の湯本らしいぞ」
「えー、嘘だよ。本田にいちゃん、私が物を知らないからって馬鹿にして」
「嘘じゃないよ。――ほら、本に出てる」
「……うー。そんなことより、本田にいちゃん」
「また話をそらして逃げたな」
「元々の用事を伝えに来たの、思い出したのよっ。古本屋に売る本、早く決め
なさいって、おばさんが言ってた」
「あ、その話か。前から言われてんだよな〜。テレホンでも手紙でも言われた。
でも、催促されても、全然決められなくってさ」
「悩む必要なんてないじゃん。ベッドの下にある、エロ本とかさ」
「ばっ――何で」
「知ってるよ〜、とっくの昔から」
「あ、あんなもの、売れないの。ていうか、買い取らないの、古本屋の方も」
「ふうん。高く売れそうなのに」
「ないない。高く売れるのは……手漉きの和紙で作られた古い和本なんかかな。
いや、その前に、みきちゃん。ベッドの下のこと、秘密にしておいてくれない
かな?」
「口止め料をくれたら、いいよ」
「……仕方ない。今、金欠だが、そのための金を、本を売って作るか。いくら
ほしいんだ? 一応、聞いておく」
「最低でもこれくらい」
「……何だ、その四本指は? 四千円?」
「ううん。ほんの四万円」
「高いよ!」

――終わり





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