AWC     わたしのコンサート鑑賞 (14)


        
#397/549 ●短編
★タイトル (GSC     )  11/07/17  09:02  (179)
    わたしのコンサート鑑賞 (14)
★内容

 最近私は音楽会にほとんど行かなくなった。かつては月に数回、クラシック
コンサートを聴きに出かけた時期もあったが、歳をとって感動が乏しくなった
ことと、夜昼逆転により、音楽を聴きながらつい眠ってしまうこともあって、
わざわざ生演奏を聴きに行く気がしない。
 しかし、今回は次女のQ子が、一人6千円の入場券を買って、両親を誘って
くれたので、昨日午後2時前に、三人で家を出た。この日は全国的な猛暑で、
35度以上の気温が112地域もあったそうだが、その一番暑いさなかに道を
歩くのも、なかなか爽快だ。
 私の住んでいる守山区は、名古屋市の北東部でまだまだ田舎だが、JR中央
線で二駅・地下鉄に乗り換えて三駅、栄で降りて地下街を少し歩けば会場に
行ける。
 名古屋の中心街は栄(さかえ)である。子供の頃には栄町と言ったが、今か
ら50年ほど前に地名が変更されて、私などは近頃やっと呼び慣れた感じだ。
他の地名の多くも、〈…町〉や〈…通り〉の後ろを省略(削除)して呼ぶのが
正式名称と決められた。合理化のつもりかも知れないが、こんな情緒のない
地名変更はいい加減にやめてほしい。
 栄の地下街に〈オアシス21〉という広場があり、舞台では吹奏楽の演奏が
行われていて、折り畳み椅子で自由に聴けるようになっている。いつも必ず何
らかの発表や催し物がある筈だから、もしも暇を持て余すような人が居れば、
ここに来て一日中過ごすことも出来るだろう。
 実は、昨年10月に名古屋で開催された『COP10(コップテン)』、
すなわち「生物多様性条約第10回締約国会議」に合わせたイベントで、私も
誘われて、この舞台で尺八を吹く計画だったところ、希望者が多くて、抽選に
外れた経緯がある。

 さて、本日の会場は〈愛知県芸術劇場〉だ。この建物は確か30年ほど前に
作られ、音楽会場だけでなく、図書館や美術館などを含む総合ビルで、一〜
四階が大ホール・五〜六回がコンサートホールになっている。この音楽会場に
ついても、私は常々言っていることだが、なにしろ反響(残響音)が強過ぎて
腹立たしい。
「近年日本には音響効果の優れたコンサート会場がたくさん出来て、大変嬉し
いことです」
 などと専門家はよく言うが、とんでもない話だ。なるほど演奏する側にとっ
ては、残響の大きい会場の方が楽かも知れないが、聴衆としては、せっかく生
演奏を聴きに行って、「ワアーン ワアーン」と響きわたる反響音ばかり聴か
されるくらいなら、家でCDを聴いている方がましだ。けれども、そういう
批判の声を私は一度も聞いたことがないから、皆さんよほど耳が悪いので
あろう。
 芸術劇場は、エレベーターの六階がコンサートホールの二階に当たり、私達
の席は、二階の14列53〜56番で、舞台に向かって右の56番に私が座
り、55番に次女のQ子、54番に長女のP子、53番にお母さん(妻)が
座った。
私の右は57番と58番の2席だけで、その横は通路と壁だから、あまり良い
場所ではないが、「気がつくのが遅かったから、いい席は取れなかった」と
Q子が言い、それでも舞台はよく見えるし、出演者の顔まで解るらしい。長女
は別の家に住んでいるが、開演の15分前に到着した。四人揃ってコンサート
に来たのは何年ぶりだろうか? 確か10年ほど前に、歌舞伎を観に行って
以来のことである。
 椅子は革張りで、人口皮殻かも知れないが、高級感がある。Q子の説明に
寄ると、座席の並び方は直線でなく不規則になっているそうだが、私には想像
しにくい。きっと、視覚的に美しく、音響効果も合理的に配置されているのだ
ろうが、いざ演奏が始まってみると、大ホールと同じか、あるいはそれよりも
ひどい残響音だった。
 なによりいけないのは、スピーカーが右前の方向に一つあるだけで、言葉が
聴き取れず、話の内容が全く理解できなかったことである。司会者・指揮者・
ゲストによる説明やトークやインタビューが、やたらに反響するだけで、騒音
意外の何者でもなかったのには呆れる。そして、私には分からないが、照明の
光が鋭く眼を射るので、まともに舞台を観ていられなかったそうだ。

 ところで、肝心な音楽会の題名は、The 刑事、これを「ザ デカ」と読ま
せる。要するに、テレビの刑事物に使われているテーマ音楽の演奏会なのだ。
私は時代物が好きで、刑事物は『コロンボ』くらいしか知らないが、妻は日頃
テレビで観ているから、テーマ音楽なら私にも聴き覚えはある。
 特に〈大江戸捜査網〉の音楽は最高で、今回それを楽しみに来たようなもの
だ。〈大江戸捜査網〉は、私の好きな時代物だが、物語や俳優よりも、冒頭の
名文句およびバックに流れるテーマ音楽こそ、比類稀なる芸術作品だと思う。
以前にも書いたことがあるが、その名調子を下に記述する。

  −−−−−−−−−−−− 引用ここから −−−−−−−−−−−−
 隠密同心。
 それは、旗本寄り合い席 内藤 勘解由に命を預け、人知れず人生の裏道を歩
かねばならぬ宿命を自らに求めた者達である。
 極悪非道の悪に虐げられ、過酷な法の冷たさに泣く、大江戸八百八町の人々
を、ある時は助け、励まし、またある時は影のように支える彼ら。
 だが、身をやつし、姿を変えて、敢然と悪に挑む隠密同心に、明日という日
は無い。

   隠密同心 心得の条
    我が命 我が物と思わず
    武門の義 あくまで影にて
    己の器量を伏し
    ご下命 いかにても果たすべし
    死して屍 拾う者無し
    死して屍 拾う者無し
  −−−−−−−−−−−− 引用ここまで −−−−−−−−−−−−

 今回のプログラム中、大江戸捜査網の演奏は期待通りで、ホルンの美しい
音色と、曲のメリハリが見事であった。
 他の曲目も結構楽しめて、これなら軽音楽もまんざら出ない。
 オーケストラとはいえ、弦楽器はギターくらいしか無く、いわゆる吹奏楽の
編成だが、特にトランペットの響きが素晴らしかった。
 問題点は結局会場の残響に尽きる。そもそも生演奏の醍醐味は、音の切れ味
と立体的な広がりであり、どんなに高価なオーディオ設備でも、本物のオーケ
ストラの音を再現することは出来ない。ところが、今回の演奏では、楽器の生
の音色(倍音など)が不鮮明で、まるでカーテンの向こうで演奏しているかの
ように篭もって聴こえたのと、音源に広がりがなく、あたかも舞台の真ん中で
かたまって演奏しているような閉塞感を覚えた。ゆえに私は、
「ひょっとして、演奏音の半分以上をマイクロフォンで拾って、スピーカー
から流して聴かせているのではないだろうか」
 と疑いつつ、終始首をひねっていたほどだ。もしも人工的な機械音は全く
無く、あれが純粋な生演奏の音だとしたら、まさしく会場設計のミスに寄る
残響音の弊害に他ならない。
 もう一つ難点を言えば、観客の手拍子が多すぎたことである。近頃の音楽会
は、雰囲気を盛り上げる目的で手拍子を促すのが風潮となっているが、本日も
指揮者が指示して、ほとんどの曲に手拍子を入れた。幸い〈大江戸捜査網〉と
〈Gメン75〉だけは静かに鑑賞出来たが、本来音楽に手拍子は邪道であり、
リズムが乱れるし、演奏が綺麗に聴こえてこない。娘のP子も、私と同じ感想
を述べていた。

  −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

   プログラム

  2011年 7月10日(日) 15時 開演
  愛知県芸術劇場コンサートホール

  シエナ・ウインド・オーケストラ 「The 刑事(デカ)」
  指揮・サクソフォン: オリタ ノボッタ
  吹奏楽: シエナ・ウインド・オーケストラ
  ゲスト: ゆうたろう、岡田一彦、大脇まどか

       第1部 The 刑事(デカ)
1. 必殺 / 平尾昌晃
2. 大江戸捜査網 / 玉木宏樹
3. 踊る大捜査線(危機一髪) / 松本晃彦
4. 太陽にほえろ(テーマ 青春 危機 愛 テーマ) / 大野克夫
5. 西部警察&西部警察Part2
   スペシャルメロディー / 宇都宮安重・羽田健太郎

       休憩 20分

       第2部 オリタ ノボッタ POPS ステージ
1. 恋はあせらず
2. 「名探偵コナン」 メイン・テーマ
3. ピンクパンサーのテーマ
4. ラテン フィエスタ(トリステーザ コパカバーナ 宝島 ブラジル)
5. アメリカン・ジャズに敬礼

       アンコール
1. Gメン75
2. 星条旗よ永遠なれ

  −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 ゲストのゆうたろうは、石原裕次郎に似ているそうで、芝居の一齣を演じた
り、パーカッションを披露したりしていたが、上にも書いた通り、言葉が全然
聞き取れなかった。
 第2部では、指揮者の説明が割合よく聴こえ、アルトサックスもテナーサッ
クスも、スピーカーを通さない生の音で、実に優雅なソロを聴かせてくれた。
 アンコール曲の最後〈星条旗よ永遠なれ〉は、観客の中で楽器を持参して
来ている人たちをも舞台に上がらせ、にぎやかな演奏が行われた。このような
観客参加の方式は既に知られているらしく、かなり大勢の人が管楽器を持って
舞台に上ったようだ。
 幕間(休憩時間)に、私はQ子とロビーへ行き、CDを買ってきた。
『The  デカ = 究極の刑事ドラマ テーマ集』 竹本泰蔵 指揮
シエナ・ウインド・オーケストラで、収録21曲の最後に、〈大江戸捜査網〉
があり、帰宅後に聴いたら、上々の演奏になっていた。

 音楽会の帰りに、私たち家族四人は、松坂屋九階のレストランに入り、見
晴らしの良い窓際に座って夕食を食べた。銘々好みの食事を注文し、私はざる
そばと握り鮨のセットを頼んだが、これはことのほか美味しかった。
 勘定は、P子が「ええて ええて」と言いつつ支払ってくれたが、この
名古屋弁については、いささか補足する必要があるだろう。
 喫茶店や食堂の出入口で、ときどき見かける光景を、以前にP子がおもしろ
おかしく話したことがある。
 どこかのおばさんたちが2、3人で食事をした後、レジの所で財布を出し
ながら、押し問答をしている様子だ、
「今日はわしが払っとくで」
「そんなことはいかんて」
「ええて ええて
「いかんてえ」
「ええてえ」
「いかんてえ」
「ええてえ ええてえ」
 ……

     [2011年(平成23年) 7月11日   竹木 貝石]






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