AWC フリー随想 「外来種の貝か?」


        
#377/549 ●短編
★タイトル (GSC     )  10/06/03  00:54  ( 85)
フリー随想 「外来種の貝か?」
★内容
 親子三代 5人で、三河湾の一色海岸へ潮干狩りに行ってきた。
 小さいバケツに約一杯拾ってきた中には、四種類の貝があり、アサリ
以外は名前が分からない。
 A チンミを大きくしたような貝: 長さは5〜6センチ、大きい物は
7センチもあり、貝殻は分厚く、表面に放射状の筋が30数本ある。
色は、付け根(ちょうつがいに近い丸い部分)から、薄茶色の模様が少しずつ
変化し、いったん白くなって、縁(へり)の辺りは黒っぽい焦げ茶色だ
そうだ。
 B 蛤に似た貝: 貝殻は円形に近く、大きさは約5センチ。表面は
灰色で、縁は白い。
 C アサリに似た貝: 貝殻は薄く、長さ約3センチ。手触りも滑らか
で、色は付け根が白く、縁に向かってしだいに濃い色になっている。

 これらの貝と海水を家に持ち帰り、一粒ずつ丹念に洗ってから、海水に
浸して一晩置いた。翌朝、粘液と砂で著しく濁った海水を捨て、再度丁寧に
洗ってから、残りの海水に鎮めて一昼夜放置した。
 なお、Cの貝が、特に粘液を多量に分泌し、今にも死にそうに弱って
見えたので、別のボウルに入れて置いて、先に味噌汁にして食べたが、
アサリに比べて味が悪く、砂も多くて、以前に三重県の鳥羽で食べた
〈似貝〉と同じ物のようだった。
 三日目の朝は、もう一度綺麗に洗った後、なるべく海水に近い濃度の
食塩水を作り、AおよびBの貝と、アサリを別々のボウルに分けて砂出しを
し、夕食にアサリの味噌汁をこしらえて食べた。砂は
少ないが、あくの強い感じだった。
 問題はAの貝で、これは私が泥海の中から30個ほど拾った物であり、
当日は大勢の人が潮干狩りに来ていたのに、誰もこの貝を拾おうとせず、
まだ無数にあったから、食べられるにしても、あまり美味しくないのだろう。
 私は、握り鮨の赤貝・鳥貝・バイ貝など大好きで、特に生牡蛎は大好物
だから、きっとAも食べられる筈と考えて拾ってきた訳だが、いくら
洗っても水は濁るし、思いなしか匂いが強い気もする。
 参考までに、「チンミ  貝  食用」でネット検索したら、下記の結果が
得られた。

  −−−−−−−−−−−− 引用ここから −−−−−−−−−−−−  
フネガイ科の二枚貝。浅海の泥底にすむ。殻長4センチくらい。貝殻はやや
方形で厚く、殻表に放射状の肋(ろく)が18本ほどあり、灰黄色の殻皮で
覆われる。三河湾以西に分布。肉は食用。
  −−−−−−−−−−−− 引用ここまで −−−−−−−−−−−−  

 チンミ貝なら、昔食べた記憶があるが、Aの貝は、それより二回りくらい
大きい。両者は確かに色や形が似ているし、三河湾の浅い泥底にたくさん
居る。だが、〈肋〉を筋の意味だとすると、チンミは18本程度なのに、
該当のその貝は、筋が30本以上もある。
 かつて随筆にも書いたことだが、私は小学生の頃、父親の愛情からとは
いえ、蝸牛(でんでん虫)を食べさせられた記憶があり、ときどき あの
気味悪さを思い出す。Aは巻き貝でなく二枚貝だが、ふと
でんでん虫のヌラヌラした舌触りがよみがえってきて、急に憶病になった。
 一方では、せっかく拾ってきて、塩水を何度も取り替え、指先で一つずつ
納得のいくまで洗ったことでもあるし、
「戦後の食糧難時代とか、飢饉や戦で飢え死にした人々のことを思えば、
今の自分は贅沢すぎる」
 という思いもある。
 五日目の朝、ついに意を決した。
 貝が死んでいないことを確かめ、一つずつゴシゴシ磨いた物を、さらに
カミサンがよく洗って、鍋に水をたっぷり入れ、長い時間沸騰させた。
 貝の口は半分ほどしか開かないが、ゆで上がった身は堅く閉まって
プリプリしている。黒い部分は内蔵なのか、カミサンが包丁で切り取って捨て、
私は貝の身を流水で洗って小皿に取り、名古屋味噌(赤味噌)を乗せて、
前歯で噛んでみた。
「なんとかいけそうだ…」
 しかし、奥歯でしっかり噛んでみると、匂いか味か、若干癖があるみたい
で、そのまま目をつぶって飲み込んだ。
 もう一粒噛んでみたが、今度はなかなか飲み込めない。
カミサンもちょっと口に入れてみて、
「これは やめたほうがよさそう」
 と言い、残念ながら結局全部捨てることにした。
 Bの貝は、二つだけしかなく、これも食べてみたが、砂が多くて、
飲み込めずに吐き出してしまった。

 要するに、食べ物の好き嫌いは心理的な側面が多く、誰かが「美味しい」
と言えば美味しいが、得体の知れない物は食べにくい。
 かつて、〈ジャンボたにし〉を、食料としてわが国に輸入した人の話を
聞いたが、その後人気が出たとは聞かない。ブラックバスやアライグマも、
食料になるかも知れないが、たぶん美味しくないのだろう。
 してみると、納豆・くさやの干物・クラゲ・ウニ・海鼠などを、最初に
食べて「これは美味しい」と言った人は偉い。大いに褒めるべきである。
 先日の潮干狩りで、私はたまたま、浅瀬に横たわっている軟体動物を手で
持ち上げてみたが、子供の腕ほどの太さがあり、あれはたぶん〈海鼠〉
あるいは〈海牛〉ではないだろうか? さすがに家へ持ち帰る気は
しなかったし、まして「食べてみよう」という気にはならなかった。

「誰か詳しい人は居ませんか?」


      [2010年(平成22年)5月26日   竹木 貝石]





前のメッセージ 次のメッセージ 
「●短編」一覧 オークフリーの作品
修正・削除する コメントを書く 


オプション検索 利用者登録 アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE