AWC 眠れ、そして夢見よ 3−1   時 貴斗


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#540/555 ●長編
★タイトル (tok     )  19/03/21  17:44  (326)
眠れ、そして夢見よ 3−1   時 貴斗
★内容                                         19/04/05 00:50 修正 第2版
   手がかり


   一

 空には雲が浮いている。今日もいい天気だ。青年は大きなあくびをし
た。不規則な形をした綿菓子たちが、おとなしく佇んでいる。ふと目に
とめた一つの形が、猫の顔に見えてきた。青年は愉快な気持ちになって
きた。他にも何かに似ているものがないかと探しだす。そんなふうにし
て見ていると、なんということもない雲が、羊の群れに見えてくるから
不思議だ。
 低くて太い音に気づいて、後ろを見ると、屋上に通じる扉が開いて美
智子が出てきた。
「おや、どうしたんですか」
 美智子は靴音を立てながら青年に近づいてきた。
「ズボン、汚れるわよ」
「構やしませんよ」
 美智子はハンカチを敷いて、青年の横に座った。手の平をコンクリー
トに当て、空を見上げる。
「私も空でも眺めようかと思ってね」
「こうしてると気が落ち着きますよ。僕はよく昼休みにここに来るんで
すよ」
「三度も聞いたわ」
 美智子が目を細める。えくぼができる。
 コンタクトにすればいいのに、と青年は思う。一度だけ、眼鏡をはず
したところを見たことがある。まだ二十代だと言っても通じそうな、か
わいらしい顔だった。もっとも、そんなことは本人には言わない。言っ
たら大目玉だ。
「気分、あんまり変わらないわ。どこがいいの?」
「空ってほら、絵みたいじゃないですか」
「そうかしら。そんなふうに考えたことないわ」
「小さい頃、親父と散歩してて、それで河原の土手に二人で寝ころがっ
て空を眺めてたんですよ。僕が、空って絵みたいだねって言ったら、や
っぱり親父も、常盤さんと同じこと言いましたよ。そんなふうに思った
ことないなあって」
「すごい。よくそんなこと覚えてるわね」美智子の顔に意地悪そうな笑
みが浮かぶ。「今作ったんじゃないの?」
「いえいえ、本当ですよ。そうかあ。そんなふうに思うの、僕だけなの
かな」
 美智子は空を見上げたまま、黙っている。青年は言葉が続かず、ひざ
を抱えていた手を、彼女の真似をしてコンクリートに当てた。
「積乱雲だわ。雨が降るかも」
「え、どれですか?」
「あれよ、あれ」
 美智子は、周辺のビルの群れの中でも、ひときわ大きいやつを指差し
た。その上に、なるほどたしかに山のように立ち上がっている雲が見え
る。
「あれ、積乱雲ですか? 違うと思うけどなあ」
「なんで?」
「だって、夏の雲でしょ?」
「そんなことないわ。寒冷前線があると、その近くにできるのよ」
「へえ、雲にも詳しいんですね」
「科学者たるもの、いろんなことに興味を持たなくちゃだめよ。もしも
被験者が雲の夢を見たらどうするの?」
 青年は視線を美智子から空へと移した。
「僕はただ何にも考えないで眺めている方が好きだなあ。積乱雲とか、
そういうのはどうでもいいんですよ。ああ、綿菓子みたいだな、とかね。
きれいだなあ、とか。常盤さんはそういうふうには感じないんですか」
 怒ったかな? と思い、再び視線を美智子に移すと、意外にも彼女は
少し悲しそうな顔をしてうつむいていた。
 青年の心に、なぜだか彼女が言った「氷の中にいるみたい」という言
葉がよみがえった。
 彼女がいきなり立ちあがったので青年は驚いた。
「雨が降るかもしれないわ。藤崎君も早く中に入った方がいいわよ」
 青年は、足早に歩み去っていく彼女の姿を、呆然と見送った。積乱雲
を見ると、わずかにこちらに移動してきたように感じた。


   二

 呼び鈴を押す。応答がない。もう一度押す。滝田は靴のつま先で地面
を叩き始める。
「はーい」
 間延びした女の声が聞こえる。しばらくして、やっとドアが開いた。
髪の乱れたおばさんの顔が、扉の間からのぞいた。
 滝田は慌てて職業的な笑みを浮かべた。
「すみません。私、小暮総合病院の斎藤先生の紹介で来た、滝田という
者ですが」
 倉田恭介の担当医の名を出し、名刺を渡す。その名刺には「滝田国際
睡眠障害専門病院 院長 滝田健三」というでたらめが刷ってある。
「まあ」
 倉田恭介の妻、倉田芳子は甲高い声を出した。
「まあまあ、主人の……。そうですか。よくいらっしゃいました。さあ、
どうぞ」
 靴をぬぐ間も、そうですか、私もう心配で心配で、などと黒板を爪で
ひっかくような声でしゃべり続ける。いらいらする。
 おばちゃんというのは、大別して二種類いるように思う。甲高い声の
おばちゃんと、だみ声のおばちゃんだ。他の種類のおばちゃんはあまり
見たことがない。どうしてだろう。
 彼女は五十代に入っているように見える。歳の離れた女房だろうか。
髪は長く、目は大きく、どちらかというと色白で、昔は美しかったのだ
ろうにと思わせる顔立ちだ。
 彼女の後について歩きながら、奇妙な症状を示し続ける患者の家をつ
ぶさに観察する。歩くときしむような音が鳴る廊下の奥には二階へと続
く階段がある。両側には薄く黄ばんだふすまがある。築年数は十年、い
や、二十年くらいだろうか。なんということはない。普通の家だ。
 倉田の妻はふすまのうちの一枚を開け、さあさあ、どうぞと滝田をい
ざなう。六畳の和室だ。
「汚い所ですが。そうですか、まあ」
 座布団の上にあぐらをかく。
「今お茶をお持ちしますので」
「いや、お構いなく」
 一人になった滝田は、部屋の中を眺め回す。液晶パネルの、ディスク
再生装置と一体型のテレビはほこりも拭かれていない。髪を銀色に染め
たアイドルの女の子が微笑んでいるカレンダーは倉田恭介の趣味だろう
か。エアコンは元々真っ白だっただろうが今は黄味がかっている。そん
なごく平凡な物達に囲まれながら、つまらない一市民としての暮らしを
営んでいたはずの倉田氏が、なぜ突然にあんなふうになったのか。
 家族の話を聞けば何か分かるかもしれないと思うのは、浅はかだろう
か。それでも、何でもいいから手がかりがほしいのだ。
「まあまあ、わざわざご足労頂いて、すみませんねえ」
 耳障りな声を発しながら、おばさんが戻ってきた。
「私、ご主人が入院している病院から依頼されたのですが、やはりご本
人がああいう状態ですから、原因が分かりません。そこで、ご家族の話
をうかがいたいと思いまして。突然訪問して申し訳ありません」
「いえいえ、まあまあ、よく来て下さいました」
 出されたお茶を一口すする。熱いな、と心の中で舌打ちする。
 その時威勢良くふすまが開いて、男の子が駆け込んできた。
「お母さん、おやつ」
「もう、今お客さんが来てるんだから、あっちに行ってなさい。冷蔵庫
にプリンがあるから、それでも食べてなさい」
 子供は来た時と同じ勢いで走っていった。騒々しい家だなあ、と滝田
は思う。
「小暮病院でいいかと思ってたら、検査のために他の病院に移すってい
うでしょ? 私もうびっくりしちゃって。何にも手につかなくて、夜も
眠れないんですよ」
 そうは見えませんが、と言いたいのをこらえる。
「それで、どうなんですか? かなり悪いんですか? あの人が死んじ
ゃったらどうしようと、そればかり気がかりで」
「いえいえ、大丈夫ですよ。死にはしません」
 まさか死ぬことはないだろうと考えていた。だが、彼が重態なのかど
うかも知らない。ただ、痩せさらばえていることは確かだ。このままだ
と栄養失調で亡くなるかもしれない。そうなっては滝田も困る。結局何
も分からないまま調査が終了してしまうのは避けなければ。
「でも院長先生がじきじきに出向いて下さるということは、かなりの重
病じゃないんでしょうか」
 院長はまずかったかな、と滝田は思う。しかし、相手を信用させるに
はそれくらいした方がいいのだ。人間というのは権威に弱いものだ。例
えば同じ発見を有名な学者がしたのと、町にどこにでもいそうな高校教
師がしたのとでは、学者の方が信用されるに決まっている。
「いえいえ、そんなことはありません。脳に異常が見つかっているわけ
でもありません。ただ、眠り続ける原因が分からないんですよ」
「まあ」
 倉田芳子の眉が八の字になった。
「心配することはありませんよ」
「小暮病院でもいろいろ聞かれたんですよ。普段どんな生活をしている
かとか、お酒はどのくらい飲むかとか、寝るのは何時くらいかとか」
「ええ。それはうちの方でも聞いています」寝るのは何時かしか聞いて
いないが、調子を合わせる。「今日うかがったのは、そういった医者が聞
くような通り一遍のことではなくて、もっと突っ込んだことを聞くため
なんですよ」
「と、おっしゃいますと」
 滝田は身を乗り出し、倉田芳子の瞳をみつめる。
「何か、秘密にしていることがあるんじゃないですか? 医者にも言っ
てないような」
 無論、そんなことは分からない。しかしそれで何か情報が引き出せれ
ばもうけものだ。
 倉田芳子は急に下を向いて考え込み始めた。
「大丈夫ですよ。秘密は厳守します」
 だいぶ迷っていたようだが、やがてしおらしく言った。
「実は、主人は新興宗教にかぶれてまして」
「宗教ですって?」
「言ってましたわ。会社がつぶれるかもしれないって」手の甲で目頭を
おさえる。「自分はクビになるかもしれないって、そう言ってました」
 鼻をすすり上げ始めた。近くのティッシュペーパーの箱から一枚引っ
張り出し、鼻をかんだ。
「ずいぶん悩んでたみたいです。それで宗教にすがったんです。私、や
めろやめろって、何度も言ったんですよ。あんなわけの分からないもの
に入れこむから、たたったんだわ」
「で、その新興宗教というのは何て名前ですか。どこにあるんです?」


   三

 高梨の話には嘘があった。たしか、精神的には何の問題もないと言っ
ていたはずだ。そうではなかった。悩みがあったのだ。
 滝田はそこだけ他の建物のようには道に面しておらず、遠慮がちに引
っ込んだ所に建っている小さなビルの正面玄関の前に立っていた。縦に
トーテムポールのように並んでいる看板を見上げる。「二階 和田幸福研
究所」とある。同じ研究所でも滝田のそれとはだいぶ趣が異なる。中に
入り、小さなエレベーターに乗る。四人も乗れば窮屈に感じられるほど
の狭さだ。降りると、廊下をはさんで正面に銀の枠で囲まれたガラス製
の、観音開きのドアがあった。案内は出ていないが、他に扉がないので
それが和田幸福研究所だろう。
 少し躊躇したが、意を決して中に踏み込んだ。左側に、町の小さな病
院のそれに似た受付がある。誰もいなかったが、「すみません」と声をか
けると黄色いセーターを着た目鼻立ちの整った女性が現れた。
「あの、和田先生に面会を申し込みたいんですが」
「会員証をお持ちですか」
「いえ、私、会員ではないんですが、和田先生とちょっとお話ししたい
ことがありまして」
 女性の顔が怪訝そうな表情に変わる。
「先生は会員ではない方とはお会いしません」
「倉田恭介さんのことについてお話を聞かせていただければと思いまし
て」
 女性がパソコンを操作するのをみつめる。
「こちらの加入者の方ですね。しかしプライバシーをお教えすることは
できません」
 困ったな、と思ったが、このまま帰るわけにはいかない。一か八かだ。
「では、御見葉蔵さんについてお話ししたいのですが」
 女性が滝田をにらみつける。ビンゴだ。
「少々お待ち下さい」
 立ち上がって、姿を消した。そのまま戻ってこない。滝田は靴先を鳴
らし始めた。
 五分近く待たされて、ようやく戻ってきた。
「お会いになるそうです。正面のドアからお入り下さい」
 軽く礼をしてこげ茶色の扉を開けると、そこにまた別の女性が立って
いる。他には誰の姿もない。この女が“先生”なのだろうかと思ってい
ると「どうぞこちらへ」と言って滝田を案内する。「第二応接室」という
札がかかった別の部屋のドアを開け、「先生、お客様です」と中の人物に
告げ、滝田に向かって丁寧におじぎをする。
 中から、「どうぞ、入って下さい」という声がした。入っていくと、ゆ
ったりとしたソファに腰掛けていた男が立ち上がった。ポマードで髪を
オールバックにした、初老の男だ。
「あ、どうも今日は。私こういう者なんですが」
 滝田は倉田の妻に渡したのと同じ名刺を男に手渡した。男は目を細め
てしげしげとながめた。
「ほう、病院の院長先生ですか」男はにこやかな笑みを浮かべた。「私は
ここの所長の和田です。で、今日はどんなご用ですか」
 手の平で男の向かい側のソファを指して、ゆっくりと腰掛ける。滝田
も座った。
「実は、うちの患者に倉田恭介さんという方がいるのですが、その人に
ついてお聞きしたいことがありまして」
「ええ、聞きました。こちらに来られていた人ですね」
「そうです。その方が今実に不可解な病気にかかっておりまして。お聞
きになっていませんよねえ」
「いや、奥さんの方からうかがっていますよ。なんでも昏睡状態と夢遊
病がいっしょになった病気だとか」
 夢遊病とレム睡眠行動障害とは別物なのだが。
「奥さんもこちらに来たんですか」
「ええ、すごい剣幕でしたよ。あなた達が主人をおかしくしたんだって、
そんなことを言うんですよ。まったく、困ったことです」
 滝田はいつも話の核心にふれる時にそうするように、相手の瞳をしば
らくみつめた。
「実を言いますとね、私も、こちらの研究所が倉田さんに何かしたんじ
ゃないかと思っているんですよ」
 和田は柔和な表情をくずさず、少し首を横に傾けた。
「おやおや、奥さんはともかく、病院の偉い先生までそんなことをおっ
しゃる。私達が何をしたのでしょうか」
 倉田芳子の話を聞いた時に直感した。新興宗教といえば……
「洗脳ですよ。あなた達は、例えば倉田さんに、誰か別の人間だと思わ
せるように、思想を改造したんじゃないですか」
 和田は狐につままれたような顔をした。
「ああ、奥さんから聞いたんですね。我々が宗教団体だって」
「違うんですか?」
「私達は、人間が幸福になる方法を研究しているんですよ。しかし宗教
団体ではありません。あなたは、私達が倉田さんを別の人間にしたと言
うが、そんなことが簡単にできるんでしょうか? いったいどうやって。
何のために」
 滝田は困った。洗脳の結果、あんなふうになったのだとすれば、無理
にこじつければ何とか説明がつく。倉田氏が詳細を語ったのは御見葉蔵
氏の人生だけだ。あとの二人はあいまいだ。この研究所がなんらかの方
法で御見氏についての情報を得ていて、その人格を倉田氏に植え付けた
のだとすれば、少なくとも御見氏についての謎は解決する。しかし、洗
脳ではないと言い張られては、どうしたらいいのだろう。たしかに、人
間を全くの他人だと思わせるのは、そんなに簡単にできそうもない。一
つのキーワードが浮かんだ。
「催眠はどうです? あなた達は倉田さんに催眠術をかけたのではない
ですか?」
「私達は悩める人を救うために、催眠を使うことはあります。それはそ
の人の悩みを、より良く知るためです。人は心の秘密を、なかなか打ち
明けないものです。その壁を取り払ってあげる必要があるのです」
「倉田さんにもかけたんですね?」
「ええ、かけましたよ。もちろん事前に本人の了解を得ています。何か
問題がありますか?」
「どんな種類の催眠術ですか。使い方を間違えると、非常に危険な行為
だと思いますが」
 和田の顔が、一瞬くもったように思えた。しかしすぐににこやかな顔
に戻る。
「それをあなたに言う義務があるのでしょうか。私達は倉田さんのプラ
イバシーを守る責任があります」
「別に倉田さんがどんなことをしゃべったか教えてくれと言ってるわけ
ではありません。私はあなた達が倉田さんを人形みたいに操ったのでは
ないということが分かればそれでいいんです」
 和田の笑みがくずれた。目は笑みを保っているが、口元がゆがんだま
ま戻らない。
「退行催眠ですよ」
「え?」
「記憶をどんどん過去にさかのぼらせていくのです。人の悩みは幼少期
にどんなふうに育てられたか、どんな大人達と接したかに大きく関わっ
ていることが多い。それを知るためです。倉田さんを操るためではあり
ませんよ」
「どこまで戻らせたんですか? つまり、何歳頃まで戻ったか、という
ことですが」
 その質問はひらめきだった。まだ何かが明瞭に分かったわけではなか
った。しかし、御見葉蔵氏が過去の人物であることと、退行催眠という
言葉が、瞬時に頭の中で結びついたのだ。
「どこまでって、今言いましたように、幼少期ですよ」
「何歳ですか。それとも」自分でも思いがけない言葉が出た。「生まれる
前ですか?」
 和田の表情がさらに険しくなった。
「これ以上は秘密です。倉田さんのプライバシーに関わります。悪いが、
次の方が私を待っています。もうそろそろお引取り願えませんか」
「退行催眠というのは、そんなにほいほいとかけていいものなんです
か? あなた達はそういう資格なり、免許なりを持っているんですか?
それは法的に問題ないんですか?」
 和田が今までの温厚な態度からは想像もできないような、薄気味悪く
不気味な表情を浮かべた。
「いいでしょう、お話ししましょう。秘密は守っていただけますね」
「ええ、誰にも言いません」
「私達も驚きました。退行催眠で前世の記憶がよみがえったというよう
な話は、いくつも聞いたことがありますが、まさか本当に目にする機会
にめぐり会えるとは。倉田さんは突然、今までの様子とは全く違ったふ
うにしゃべりだしたのです。『ここはどこだ。お前らいったい、こんな所
で何をやっとる』とね。後のことはご存知でしょう。彼は御見葉蔵さん
として詳しくお話を聞かせてくれました。しかし、当然それはその場で
終わらせましたよ。後日、私達は御見さんのお墓参りをさせていただき
ました。それで前世の記憶だと確信するに至ったのです。奥さんからご
病気のことをお聞きした時にはびっくりしました。しかし夢遊病と私達
とは何の関係もありません」
「しかしあなたは恐れている。もしかしたら犯罪者にされてしまうかも
しれない。違いますか?」
 催眠をより高めていけば、洗脳やマインドコントロールも可能なので
はないか?
「あなたは大変な誤解をされているようだ。催眠をかけるのに資格や免
許は必要ありません。会話と同じですよ。『私が合図をすると、もう声が
出ません』というのと、『とても美味しいですよ。買いましょう』という
のはあまり差がありません」
 催眠術を使って詐欺まがいの商売をすることも可能だと言っているよ
うにも聞こえる。
「仮に催眠を使って人に罪を犯させたとしても、法的な場で術者の責任
を追及するのは難しいでしょうね」
 そういうことを裏でやっている、とも取れる発言だ。
 その時ドアが静かに開いた。見ると、いかつい警備員が立っていた。
「次の方が私を待っています。お引取り願えますか?」
 和田は繰り返した。





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