AWC 「長野飯山殺人事件」三 朝霧三郎


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#530/598 ●長編    *** コメント #529 ***
★タイトル (sab     )  19/02/15  20:12  ( 82)
「長野飯山殺人事件」三 朝霧三郎
★内容                                         19/02/15 21:21 修正 第2版
三

 途方に暮れて、我々は明子さんの運転で帰ってきた。
 フロントにはぼけーっとした加藤がいた。
 彼に言う。「加藤君。君の熊の話ねえ、明子さんから聞いたんだが、
斉木が熊を轢いたという話、あれが事件の一部解明に役立ったよ」
「ああ、コールドスリープでしょう」
「なに?」
「熊の冬眠と人間のコールドスリープは似ているけど違うって言っていたら
反応していたよ」
「斉木がか?」
「斉木さんはコールドスリープなんて牛山さんの妹の世界だって言っていたよ」
「なんだって」そして中川はこっちに言ってきた。「おい、もう一回、
僻地病院に行くぞ。明子さん」
「私、牛山さんの所に行かないといけないんです。
あの人が倒れたのは勤務中だから労災になるので、その書類を届けろと、
派遣元の上司にいわれているんです。もしよかったら社用車、貸しますけど」
「じゃあ貸して下さい」

 我々は自走で、又僻地病院へ行った。
 着くなり受付の小窓に「研修医はいるか」と中川が言った。
「もう今日は帰りましたけど」
「看護師の牛山さんは」
「急用があるといって帰りましたけど」
「じゃあ、院長はいる?」
「はあ。どちら様で」
「私はT大法医学教室出身の中川です」
「少々お待ち下さい」
 数分後、我々は院長室に通された。
 ヒゲを蓄えた初老の院長が我々を迎えた。
「これはこれは、あなたがT大の法医学教室の先生ですか」
「もう辞めましたがね。それで、いきなりですが、
看護師の牛山さんは今日は何で帰ったのですか?」
「なんでも、市民病院でお兄さんが亡くられたとかで早退しましたが」
「そうですか。亡くなったんですが。彼女はどういう人なんですか?」
「何か気になる点でもあるんですか?」
「今回の事件で死んだとされている斉木なんですが、
彼は市民病院で亡くなった牛山さんと同僚なんですが、
その妹が牛山看護師ですから、接点があるんですよ。
 その斉木なんですが、熊を轢いているんですが、
熊の冬眠とコールドスリープは似ている、とか言っているんですよ。
あと、コールドスリープに入る前の瀉血は牛山看護師の世界だ、
とか言っているんですよ。
 あと、斉木の病室が異様に寒かったことも
コールドスリープと関係がある様な気がして。
 そんな事から、彼女は一体何者かというのが気になっているんですが」
「そうですか。ミステリアスですなあ。
彼女は昔からこの病院に居たんですがね。
この病院は元々は産婦人科病院だったんですよ。
それで、新生児に溶血性疾患がある場合には、
当院で交換輸血等もやっていたんですが。
ところが、あるケースで上手くいかなくて、
子供に重度の障害が残ってしまったんですなあ。
彼女はそれを非常に気にしていて、
それ以来それがトラウマになったのか血液マニアの様になってしまって、
瀉血だのリスカだのに興味を持ったりして。
 ちょうどその頃、この病院も少子化のあおりで患者数が減ったんで、
人工透析を初めたんですよ。彼女も血液マニアですから、
喜んでそれに参加したんですがね。
 あと、偶然にもその頃から彼女のお兄さんも
人工透析に通うようになったんですが、
不幸なことに肺がんにもなっていましてねえ。
彼女は、血液交換をすれば治るかも知れない、と言っていましたよ。
 あと、透析の方だけでも楽になるようにと、
彼女は個室タイプの透析器を入れてほしいと言っていましたね。
あれだったら夜間寝ながら出来ますから。
そういうのは当院としてもあってもいいなあというんで、
最近導入したんですがね」
「それは今どこに」
「それがちょうど、斉木さんが亡くなった部屋に置いてあるんですよ」
「見せてもらっていいですか」
「ええご案内します」
 病室に行くと我々はPCラックぐらいの大きさの透析器にへばりついた。
 中川は指差しながら、瀉血のチューブ、血液ポンプ、血液濾過器、
そして返血のチューブ、と血の通り道を追っていった。
「ここにポンプがありますね。これを使って、血液交換は出来ないんですか?」
「さあ。血液交換器とは又別の器械ですからね。
血液交換の場合にはシャント手術なんて前提としていないし。
しかし、そのポンプで瀉血は出来るには出来る。
あと、返血は輸血パックで点滴してやればいいんでしょうから、
入れ替えは可能かも知れませんね。
彼女はこれでお兄さんの血をクレンジングして綺麗にする積りだったんですかね」




元文書 #529 「長野飯山殺人事件」二 朝霧三郎
 続き #531 「長野飯山殺人事件」四 朝霧三郎
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