AWC 「長野飯山殺人事件」二 朝霧三郎


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#529/555 ●長編    *** コメント #528 ***
★タイトル (sab     )  19/02/15  20:11  ( 85)
「長野飯山殺人事件」二 朝霧三郎
★内容                                         19/02/15 21:21 修正 第2版
二

 ところが翌日、またまた明子さんの運転で市民病院に行ってみると、
牛山さんはICUから出てきたのはいいのだが、
夜中にまたまた肺胞出血が進んで、
鎮静をかけられて人工呼吸器をつけられていた。
 もう意識がなく話せない。
「なんだー」我々は頭を抱えた。
 がっかりして、折りたたみ椅子に三人して座っていると、
看護師が来て、牛山さんの人工呼吸器からチューブを入れて、
ずずずずずーっと吸引した。
 牛山さんは体をビクビクーっと痙攣させた。
「なにをやっているんですか? 痰を取り除いているんですか?」と中川に聞く。
「ああやって、分泌物を取り除かないと誤嚥を起こすからね」
 看護師が作業をしながら、言った。
「斉木さんは中野市の僻地病院に行っちゃったんですってねぇ」
「えッ、斉木を知っているんですか?」
「ええ。この前、牛山さんと一緒に来ていましたよ」
「えッ、斉木がこの病院に」
「あら、そうですが」
「何科ですか。呼吸器科ですか?」と中川。
「え、ええ」
「内科ですか外科ですか」
「それは…、あらなんか私、余計な事いっちゃったかしら」
 看護師は牛山の鼻からチューブを抜くと、
適当に人工呼吸器のコントローラをチェックして、そそくさと出ていった。
「こりゃあ、面白い事になってきたで」と中川。「呼吸器科に通っていたって事は、
胸に切開の傷でもあったかも知れない。
そうすれば、銃弾をそこに埋め込んでおいてやな、空砲を撃たせれば、
他の人には、撃ったと思える。そんであんな僻地病院に運ばれて、
素人に毛が生えた程度の研修医に診させたら、わからんかも知れない」
「じゃあ、その情報をもって僻地病院に行ってみましょうか」
「そうやな」
「じゃあ、明子さん、また送っていってもらえますか」
「ええ」

 我々は又、飯山市から中野市の僻地病院に向かった。
 途中車窓から雪山を見て私は呟いた。
「折角気楽にスキーでもする積りだったのに、
やっかいな事件に巻き込まれちゃったなぁ」
「そんなに気楽じゃあないですよ。今年は熊が出ますから。
地震の影響かも知れないけれども」と明子さん。
「実際に出たのか」と中川。
「いや、加藤さんから聞いただけなんですけど。
加藤さんは斉木さんから聞いたと言っていました。
運転していたら山から熊が出てきて轢いてしまったと」
「近いのか」
「ちょうど中野市に向かう途中ですが」
「そこに連れていってくれへんか」
 我々は斉木が熊をはねたという中野市の北陸新幹線の高架下に降り立った。
 あたり一面は雪だった。
「ここらへんに、熊の死体はないかなあ」と私。
「斉木のアパートは中野市やから、中野から飯山方向の車線の向こうやな。
向こう側が河川敷みたいになっているから、どっか、向こう側にないやろか?」
 そして3人で、反対側の河川敷みたいなところを探してみた。
すぐに雪の上に熊の死体を見付けた。
「雪のおかげで保存状態がいいな」中川はしゃがみこんでじーっと見ている。
「これや。ここに銃創があるで。でも回りの雪は全然血で汚れていない。
つまり死んだ後に撃ったんや。そして弾を取り出したんじゃあないやろか」
 そこまで言った時に、高架の上から、
シャーーーーっという新幹線の音が響いてききた。
「このタイミングで撃ったんですかね。ドラマみたいですが」
「多分そうや。そして、その弾を傷口に入れたんや」
「じゃあ、僻地病院に行って、斉木に尋問してみますか」

 ところが僻地病院の斉木の病室に行ってみると、
なんと斉木は今朝方死亡していて、もう葬儀屋が運んで行ったという。
「検死したのかっ」中川が女の研修医を怒鳴った。
「しましたよ。変死だと思ってちゃんと検視官を呼んで。
そうしたら解剖の必要はないというから、死亡診断書を書いたんです。
そうしたら葬儀屋さんが迎えにきたんです。全部決まりの通りにやったんだから」
「まだ生きている可能性があるから、早く葬儀社に電話して」
丸で自分の部下にでも言う様に研修医に言った。
 しばらくして、事務方の男がきて言った。「あのー、葬儀屋に電話したら、
搬送の途中で遺体が消えたっていうんですよね」
「そんな馬鹿な。警察には通報したんですか」
「一応通報したそうですが、もう検死も済んでいるので、
これは逃亡というよりかは、
葬儀屋が死体をなくしたみたいな扱いになるそうです」
「そんな馬鹿な」
 一瞬興奮したがすぐに冷静さを取り戻す。
 中川は部屋を見回した。
「なんかここは寒いなあ」といいつつ窓際に寄る。
 カーテンは閉まっていたが、窓は開けっ放しだった。
室内の温度は零下に近かった。




元文書 #528 「長野飯山殺人事件」一 朝霧三郎
 続き #530 「長野飯山殺人事件」三 朝霧三郎
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