AWC 「長野飯山殺人事件」一 朝霧三郎


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★タイトル (sab     )  19/02/15  20:10  (152)
「長野飯山殺人事件」一 朝霧三郎
★内容                                         19/02/15 21:20 修正 第2版
一

 私、佐山と中川が同人の斉木に誘われて
このスキーマンション兼ホテルに来て三日が経っていた。
 初日はごたごたがあってろくにスキーも出来ず、
これでは慰安にならないと、慰安の慰安としてストリップ劇場に行った。
二日目は怠惰に温泉に浸かって過ごした。
そして三日目の今日も昼頃に起きると温泉に浸かっていたのだが。
 その帰りにフロントに差し掛かると、管理室の中で、
何やらガヤガヤ騒いでいるのが見えた。
清掃員やら、主任管理員、コンシェルジュやらが
「このままだとシフトが組めなくなる
…加藤ちゃんと牛山さんに連投してもらうにしても限度がある」
などと侃々諤々やってる。
 私はドア付近にいたコンシェルジュに訪ねた。
「ちょっと、何かあったんですか?」
「それが、斉木さんが撃たれたんですよぉ」
「はぁ?」
「ピストルで撃たれたんですよぉ」
「えー」私はほとんどそっくり返りかけた。
 コンシェルジュの高橋明子はネットのニュースを印字したもの広げると
読み上げた。
「今日十一時過ぎ、中野町のホテルで中野市在住の
マンション管理員斉木和夫さんが何者かに拳銃で撃たれました。
斉木さんは市内の病院に搬送されましたが、命に別状はないとの事です。
飯山署によりますと、
防犯カメラには外国人風の女性が銃撃の後走り去る姿が映っており、
同署は事件との関係を調査中…ですって」
「外国人風の女性っていったら、ストリップ劇場と関係あるんじゃないのか?」
中川が言った。「あの晩、一緒に帰ってきた時、牛山さんという人が
何とか言っていたなあ。何とかいう踊り子に入れ込んでいる、と。
彼に聞けば何か分かるんじゃないのか。牛山さんは今日はいないんですか?」
「今、裏のエントランスで雪かきしていますが」
「そこに行ってみよう」と中川。
 猪みたいな主任管理員を先頭に、私、中川、高橋明子は、
裏のエントランスに走って行った。
 裏口のエントランスに到着するとすぐに猪は雪かきをしている牛山さんに
詰め寄った。「牛山さん、斉木が誰に撃たれたのか知っているのかい」
「知らんよ」と背中を向けたまま牛山さんは雪かきに集中。
 しばらく二人は押し問答していたのだが。
 ところが突然牛山さんは、わーっと天を仰いだかと思ったら、
がばっと自分の体を抱くようにして雪の上に倒れてしまった。
咳き込んで吐血している。
 何で斉木、牛山と連続して人が倒れるのか、という疑問が鎌首をもたげたが、
とにかく、みんなで裏口のエントランスに運んだ。
 牛山は、更に咳き込み、吐血する。
「こりゃあもう救急だな」と中川。
 猪みたいな主任管理員が救急車を呼んだ。
 しかし、来るのは早いのだが、ストレッチャーで救急車に格納してから、
出ない出ない。
あちこちの病院に電話しては「今、別の急患を診ているから」
などと断られて手間取っている。
 猪みたいな主任管理員が怒鳴った。「なに時間食ってんだ、こんなの、
心筋梗塞、脳梗塞だったらとっくに死んでいるぞ」
 咳き込んでいた牛山がギクッと目を見開いた。
自分で尻のポケットから財布を出すと、診察券を取り出して
「ここに連れていってくれ。何時もここに通っているんだ」と言う。
「診察券を持っているならそこに行きましょう」と救急隊員が言った。
 そういう感じで、救急車はやっとこ動き出した。
 猪の主任管理員が同乗して、私と中川は明子さんの車でついていく。

 市民病院のICUの外で待っていると、医師が出てきて、我々に説明した。
「肺胞出血を起こしてまして、今、薬物療法をやっていますが、
場合によっては血漿交換をしなければならない」
「斉木はここには運ばれてきていないんですか?」私は聞いた。
「今朝中野町で撃たれた斉木なんですが、
彼もおんなじマンションで働いているんですよ」
「それは中野町の病院じゃないですかね。向こうで起こった事件なら」
「それじゃあ主任さんはここで牛山さんの様子を見ていて。
俺らは向こうに行ってみるから」と中川が命令口調で言った。

 私と中川は、明子さんの運転で、中野市の僻地病院へ言った。
 そこは、小さくて古い病院。
 明子さんが言った。「ここは元々は産婦人科だったんですが少子化で
人工透析や救急病院も始めたんですよ。
牛山さんの妹が看護師をやっていて、彼女から聞きました」
 受付の小窓に「斉木さんの職場の者ですが」と告げる。
「十三号室ですよ」と簡単に教えてくれた。
 これじゃあ、犯人がとどめを刺しにきたら簡単にやられちゃうな。
 我々が病室の前まで行くとちょうど女医さんが出てきた。
「今、面会謝絶ですよ。立入禁止です」と冷たく言う。
「しかし、私ら知り合いなのだから具合ぐらい聞かせて下さいよ」
と私は下手に出た。
「部外者には言えませんよ」
 ここで中川がT大医学部の威光を放つ。「私はT大法医学教室の
中川といいますが」
 女医の顔色が変わった。
「あなたが診たんですか」
「はい」
「傷口の大きさとか、火薬の付着の有無とか、教えて下さいよ」
 若い女医は従順に答えた。「傷の大きさは五ミリ。
使われた拳銃は38口径の9ミリです。銃弾は肋骨に当たって止まっていました。
火薬の付着はありません。距離は至近距離だと思われます」
「解せないなあ。普通銃の口径以上に射創はでかくなるんだが。
まあ拳銃なら同じぐらいの大きさの場合もあるが」
 女医は逃げる様に行ってしまった。
 次に警察関係者が出てきた。
「あの、斉木くんの友人なんですけれども、
事件の経緯を教えてもらえませんか?」
「マスコミ各社に言った通りですが」
 ここでも中川がT大の威光を放つ。
「私はT大医学部のモノですが」
「あ、そうですか」
「何かストリップ劇場との絡みとかあるんやなかろうか」
 我々は、牛山さんとカミールの関係を知っていたので、そんな事を聞いたのだが。
「実はですね、一昨日の夜なんですが、飲酒検問に
斉木さんが引っかかったんですよ。
その時にストリップ劇場の踊り子五人を捕まえましてねえ。
一人はビザがあったんで帰したんですが…」
「それが今回の事件と関係あるのですか?」
「さあ、今のところはなんとも」
「そうですか」

 三人でマンションに帰ってきたところで、我々はもう一つ情報を得る事が出来た。
 フロントには加藤という管理員が居たのだが。
「主任管理員はどうしました?」と聞くと、
「まだ、帰ってこなーい」と、それを聞いただけで、
こいつ池沼?と思える様な返答をしてきた。
「君ぃ。君が最後に斉木と会ったのは何時? 何か言っていなかった?」
と中川が聞く。
「前回勤務の時に斉木さんに会いました。その時に、
フィリピン人と結婚しないかと言われました」
「なにぃ?」
「フィリピン人の写真を見せられました。
そして僕の写真も撮って向こうにメールしたみたいです」
「それは偽装結婚?」
「詳しい事は知りません。斉木さんに聞いてみないと」


 我々は客室に戻ってこれらの情報を整理しようと思ったのだが、
やっぱりひとっ風呂浴びながら、という事になった。
 我々は湯船に浸かり、濡れたタオルを頭に乗せて、今日得た情報の整理を始めた。
「まず事件のあらましですが、
まず、あの晩、斉木は踊り子五人を乗せていて飲酒検問に引っかかった、
そしてカミールだけが帰ってきた、というのが事件の始まりですね。
それから、斉木は加藤に偽装結婚らしきものを進めていた。
あと、斉木を撃ったのはカミールなんじゃないか、という疑いがある」
「そうやな。そして想像だが、四人もフィリピン芸人をもってかれたんじゃあ、
その筋のひとから脅かされていたかも知れない。
それでまず偽装結婚で穴埋めをしようとした。
だけど上手く行かないから、落とし前をつけるために死ななければならなかった」
「実際に撃ったのはカミールって感じですが」
「それは怪しいと思うで」
「何故ですか?」
「だって傷口は五ミリしかないのに、九ミリの弾が出てきたんやで」
「でも、医者が弾を摘出したんですよ」
「あんな研修医にはなんにもわからないやろう」
「それに撃たれたところは防犯カメラにも写っているし」
「そうだけれども、俺にはまだ疑問だな」
「じゃあ、そこらへんの事、カミール周辺の事を、明日牛山さんに聞いてきますか。
見舞いのついでに」
「そうやな」




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 続き #529 「長野飯山殺人事件」二 朝霧三郎
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