#526/598 ●長編 *** コメント #525 ***
★タイトル (sab ) 19/02/15 20:09 ( 59)
「心臓が止まっても死なない男」4 朝霧三郎
★内容
4
俺は午後からの勤務の為にレガシィでマンションに向かった。
このややこしさから逃れるには、
誰かにフィリピーナをおっつけなければならない、と思っていた。
まず、俺の前に勤務していた加藤という男はどうだろう。
マンションの更衣室で加藤と引き継ぎをする。
「何か変わった事あった?」
「ガンダムのナレーションをやっていた人が死んだ」アニメオタクの加藤が言った。
「そうじゃないよ。業務の事だよ」
「業務では特にないよ。そっちは何か変わった事あった?」
「大ありだよ。まず熊を轢いた」
「どこで?」
「中野町の高架の下だよ。今日は暖かいので冬眠から覚めたのかも知れない」
「冬眠といえば、ガンダムにもコールドスリープというのが出てくるけど、
あれは冬眠とは違って、眠る前に、
血を抜いて不凍液を入れてゆっくりと凍らせて行くんだよ」
「へー。血液交換だな。牛山妹の世界だな。
…まあ、冬眠の話はどうでもいいから。
そんな事よりお前、そろそろ所帯を持ってもいいんじゃないか?
お前、外人は嫌いなの?」
「そんな事ないけど」
俺はスマホでツイッターを開くとピーナの名前を入力して画像を表示した。
「こんな女どうだ」
「うーん、原住民っぽいね」
「贅沢言ってんじゃねーよ。おめーにしてみりゃあ、こんな女上玉だろう。
それにフィリピンだったら、常夏だぞ」
「フィリピンに住むの?」
「そうじゃないけど。とにかくお前の顔を写メで撮らせろ。
向こうに送っておくから」
「いいけど」
そして俺は加藤の写真を相手の女に送った。
加藤が帰ると、風呂掃除、巡回、蛍光灯交換、フロント業務などをこなす。
仮眠をとるとすぐに夜中になった。
夜中の三時、朝日、読売、毎日の新聞屋をオートロックを解錠して入れた。
「お前ら、新聞を配る前にちょっといい話し」と全員をフロントの前に集める。「お前
ら、結婚とか考えていないの?」
「え、なにをやぶから棒に」
「いい女がいるんだよ。ちょっとこれを見てみな」
俺はツイッターの画面にピーナの名前を入れて表示して見せた。
「こういう女と結婚してみたいと思わないか」
「今は新聞配達も外人ばっかりだからインターナショナルなのには
慣れているけれども、ピーナとなんか結婚して笑われないかなあ」
「笑われる訳ないだろう、今や角界にも芸能界にもピーナハーフは多い。
時代はピーナだぞ」
「ビザとか問題ないの?」
「だからお前らが身元保証人になって入国させて、
気に入ったら結婚すればいいんだよ」
「成田に行くのかあ。だったら夕刊の休みの日じゃなあいとダメだな」
「とにかくお前らの顔を写メで撮らせろ。向こうに送っておくから」
「いいけど」
朝になって牛山が出勤してくると聞いてきた。
「どうだ、進展はあったか」
「俺は仕事が早いぜ。一晩で四人確保したよ」
「誰よ」
「加藤と新聞屋だよ。これからカミールに会いに行く」
「それは期待が持てそうだな」
それだけ交わすと、俺はそそくさと退社した。