AWC 「長野飯山殺人事件」2 朝霧三郎


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#524/555 ●長編    *** コメント #523 ***
★タイトル (sab     )  19/02/15  20:07  (126)
「長野飯山殺人事件」2 朝霧三郎
★内容                                         19/02/15 21:19 修正 第3版
2
 その晩、一睡も出来なかった。
 夜中じゅう、強迫観念に襲われていた。
やくざに拉致られて廃工場でリンチを受ける。
生爪を剥がされたり、歯をペンチで抜かれたり。
 朝になると、それでも空腹になって、朝マックへ行った。
 ソーセージマフィンを食っていたら、なんと、牛山さんの妹の良美さんが現れた。
彼女は飯山の隣町の中野町の僻地病院で看護師をしていた。
そこで牛山さんも透析をしていたのだが。
 彼女は、片手にショルダーバッグ、片手にトレーを持って、
操り人形の様に座席の間を歩いてくる。
途中で俺に気付き、こっちにくると相席してきた。
「あらー、おはよう、これから出勤?」
「いや、今日は夜からのシフトなんだよ。そっちは?」
「私はこれから」
 言うと、エッグマフィンをつまんでがぶりとかぶり付く。。
 その時、ジャケットの袖から手首が出て、
鱧でも刻んだみたいなリスカの痕が見えた。
 あれは、昔、僻地病院で、新生児の交換輸血に失敗して子供を死なせた
ということがあって、それがトラウマになっていて、リスカをするのだという。
 それからリスカのみならず、瀉血、透析、血液クレンジング療法など、
ほとんど血液マニアになってしまっているという。
 何でそんなことになるのか。
 前にゲイバーに行った時に、オカマのリストカッターが言っていた、
リスカはアナニーに似ていると。
アナルが疼くのは、勃起したペニスが空中に投げ出されたみたいな
寂しい時なのだが、そういう時にアナニーを繰り返すと脳に回路が出来るという。
同時にアナルに限らず、尿道切開、チクニーなど同時多発的に性感帯が発生する。
 それと同じで、良美の場合、交換輸血で空虚な気持ちになって
リスカを初めたのだが、同時に瀉血、透析、血液クレンジング療法などに
連鎖していったのではないか。
 俺は、エッグマフィンを食っている良美を、上目遣いで見た。
「そうそう」と良美がこっちを見た。「兄貴の透析だけど」と又血の話。
「とうとううちの病院に個室用の透析器が入るのよ、今日ね。
あれがあれば兄貴も夜に透析出来るだからいいと思うんだ。
もう兄貴も疲れているだろうから」
 俺もあんたの兄貴のせいですごい疲れてると言おうかと思ったがやめた。
「俺も今病院に通っているんだ。飯山市の市民病院だけれども。胸を患って」
「へー。兄貴もそっちにも通っているのよ」
「どこが悪いの?」
「うん、ちょっと」
 がんかな。あの咳の事を思い出した。
「兄貴に会ったら連絡くれるように言ってよ。
最近シフトの関係で全然会わないから。電話しても寝ていたら悪いし」
「ああ、言っておくよ。遅くとも明日の朝にはマンションで会うから」
「じゃあ、よろしく」
 良美はハッシュドポテトを食ってコーヒーを飲むと行ってしまった。
ゴミをトラッシュボックスに入れて。

 彼女が行ってしまうと、又拷問の続きが脳裏に浮かんだ。
鼻の穴に割り箸を突っ込まれたり眼球をえぐられたり。
でも別に俺には責任はないとも思う。俺はただ単に風俗店で遊んでいて、
アッシー君をやっただけだものなあ。それに誰にも見られていないんだから、
見つかる要素もないし。
 などと思っていたら スマホが振動した。
「斉木か」
「えっ」
「飯山興業のものだけれども。あんただろう、夕べうちのタレント連れ出したの。
四人もパクられちまったぞ」
「はぁ?」
「は、じゃねーよ。もう劇場は穴あいちゃうし、
マネージャーは女を返せって騒いでいるし、どうしてくれるんだよ」
「なんで俺だって分かるんですか。つーかどうやってこの番号知ったんですか」
「一人出てきたんだよ、まだビザがあった女がいて」
 カミールだ。カミールには電話番号を教えていない。牛山に聞いたのか。
「お前、即行で事務所に来い。来ないならこっちから行くぞ。
もうそっちの住所とか特定しているんだから。今から一時間以内に来い」
言うと電話は切れた。

 俺はとにかく、まだ女の匂いがぷんぷんするレガシィに乗ると、飯山に向かった。
 俺の住んでいる所は中野町といって、長野線の信濃竹原駅という寂れも寂れた
駅付近にある。
 飯山に行くには、雪の高社山を右手に北上していく。
 左右にうず高く雪がつまれた県道355を北へ走った。
 時々バスとすれ違うとチェーンの音がじゃらじゃらしてきたが、
それが行ってしまうと、人も車もいなくなった。
 355から414に入ると更に寂れて自分の車以外は何もなかった。
 俺はチェーンを付けておらず、溝の減ったスノータイヤだけだった。
ここで、又事故でも起こしたら、泣きっ面に蜂だ。夕べの定員オーバーで、
せっかくのゴールド免許にも傷もついたし。
 ところが、北陸新幹線の高架の下のところで、ごとっと何かを轢いた。
 なんだッ。猪か何かか。まさか人じゃあるまいな。
 降りてって確かめると熊だった。
体長一メートルに満たない小熊が頭から血を流して倒れている。
 つま先でつついてみたが、もう死んでいた。
 しょうがないな、と呟いて、尻尾を引っ張って、
左手の夜間瀬川の河川敷の方に捨てた。
 バンパーがへこんでべっとり血がついていた。
 ちっ。くそー。まだ、不吉な連鎖が続いているのか。
 突然高架を新幹線が、びーーーーーうーーーーとドップラー効果の
残響を残して走り去っていく。

 やくざの事務所は劇場隣のスナックの二階にあった。
 事務所に入ると、スカーフェイスのやくざが二人が麻雀卓で牌をこねていた。
「一緒にやらない?」と言う。
「いやー、三人麻雀はちょっと」
「まあいいわ。遊びにきたんじゃねーものな」こっちに向き直る。
「兄ちゃんよお。どうしくれるんだよ。今日から劇場開けられねーじゃねーか。
ただでさえニッパチで売上げが上がらねーのに、
タレント四人も連れて行かれたんじゃあ堪ったもんじゃない」
「俺、何か悪い事しました?」
「なにぃ」
「こんなの言うのなんなんですけど、
俺的には、風営法の看板の出ている店で遊んでいて、
アッシー君を頼まれただけなんだけれどもなぁ。事故った訳でもないし」
「なに言ってんだ、おめーは」
「もしタクシーに乗っていて、捕まったりしたら、
タクシー会社にも文句言うんですか?」
「なに、ごちゃごちゃ言ってんだ、おめーは。
そんな言い訳がマネージャーに通用すると思ってんのか」
「マネージャー?」
「劇場が開けられないのは俺らの問題だが、
女はマネージャーから預かったタレントだ。
女には一人当たり三百万の借金が残っている。
カミールは帰って来たからいいとして、三百かける四人で千二百万だ。
それをマネージャーが返せと言ってんぞ。お前払え」
「千二百万もあるわけないですよ」
「だったらホームレスでもぷーたろーでもいいから四人野郎を用意して、
偽装結婚させるしかないな」
「えー、無理だよ。つーかストレスで胸焼けがしてきた。
つーか、俺胸が悪いんですよ。これから病院に行かないとならないんで、
帰ります」俺は勝手に踵を返した。
「ちょっと待て」やくざが立ち上がった。
 脇目も振らず、俺は階段を駆け下りた
「ゴルァ、お前の住所も何もかも分かってんだからな。逃げても無駄だぞ」
背後でやくざが怒鳴っていた。




元文書 #523 「長野飯山殺人事件」1 朝霧三郎
 続き #525 「長野飯山殺人事件」3 朝霧三郎
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