AWC 「長野飯山殺人事件」1 朝霧三郎


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#523/554 ●長編
★タイトル (sab     )  19/02/15  20:06  (229)
「長野飯山殺人事件」1 朝霧三郎
★内容                                         19/02/15 21:18 修正 第3版
1

 飯山ミュージック劇場は、こんな場末にあって、しかも雪で足元が悪いのに、
盛り上がっていた。
 天井にぶら下がったスピーカーから、音割れしたハウスミュージックが
ガンガン響いてきていた。
 お色気むんむんのピーナがステージ狭しと踊り狂っていた。
 肌の上を、赤、緑、青のスポットライトがくるくるとまわる。
 客のオヤジどもは、手の平も裂けんばかりに手拍子を送っていた。
 踊り子はステージの前面にせり出してくると、激しく身をくねらせた。
「燃えよいい女、燃えよギャラリーッ」という訳の分からないアナウンス。
 踊り子は前後左右に移動しながら、陶酔した様に踊り狂う。
 オヤジどもは狂喜乱舞の大はしゃぎ…。
 突然音楽が止まった。
 スポットライトも消えた。
「ありがとう、ございました」踊り子はちょこっと頭を下げると
楽屋に消えていった。
「続きましてはタッチショー。なお只今おっぱいの化粧中ですからね、
しばらくお待ちを」
 場内にピンクの明かりが点灯した。
マドンナの『クレイジー・フォー・ユー』が流れる。
 ステージの袖から、上半身裸で皮の腰巻だけ付けた女が再登場する。
「はい、拍手よろしくー」
 ぱらぱらぱらー、とやる気のない拍手があちこちで鳴った。
 ステージのすぐ横に居たおっさんが立ち上がって、
でれーんと両手を差し出した。
 女はそこへ行ってあぐらをかくとウェットティッシュで客の手を拭いた。
それから両手をとっておっぱいを揉ませる。
 おっさんはグィッと鷲掴みにすると、グイーっと揉みあげた。
「アーイ、ノー、優しくお願いしまーす」と女が嫌がっても、
ニンマリとスケベそうに笑っている。
 あれは中川といって、俺の電脳同人誌の仲間だった。
T大法医学教室出身の医者で、今は勤務医をやっていると言っていた。
 その隣に座っているのが佐山で、メーカー勤務で、
叙述ミステリーを書くとか言っていた。
 中川と佐山は俺がこの飯山に招いたのだった。
俺がマンション管理員をやっているスキーマンション兼ホテルが
長野県北部地震のせいか暇なので遊びにこないか、と誘ったら、
向こうも暇だから遊びに来るという話になったのだった。
そして泊まりにきたついでに劇場にも招待したのだった。
 中川はピーナの背中に手を回して片乳を揉みながら覗き込むようにして
話しかけていた。
 すけべ野郎。あいつは女好きで、看護師を愛人にしていると言っていた。
「やり過ぎてちんぽから血が出たで」とか言っていた。
「赤玉ってやつじゃないの?」と俺は言ってやったが。
 精液に血が混じるのは睾丸に病気があるからだと俺でも知っているのに、
元法医学者がそんな事も知らないのか。
法医学の知識を元にミステリーを書くとか言っていたが。
 俺は密かにあいつをライバル視していた。
あいつには解けないトリックを考え出して見せつけてやりたい。
いや、俺だったら社会派かな。ストリップ劇場の裏事情でも書くかな。
 劇場の裏事情なら隣に座っている同僚の牛山さんが詳しい。
見ると酔っ払って眠り込んでいる。
インスリンを打っている上に人工透析もしているのに、
こんなに飲んで死なないのだろうか。
時々咳をしている。ゲホッゲホッっと。痰の絡まるようなヤバそうな咳だ。
ヤバイんじゃないのか。
或いは今俺も胸を患っているので、咳に敏感になっているだけかも。

 パタンと入り口のドアが開くと店員が顔を突っ込んできた。
「はい、カミールの個室サービス、42番のお客さん、ステージ横の個室ね」
 この劇場には個室サービスというのがあって
三千円でユニットバスぐらいの個室で一発やらせてくれる。
 店員の後ろからカミールが入ってきた。パンティーにタンクトップという姿で、
手にはコンドームなどの入ったポシェットをぶら下げている。
「俺や」突然酔いがさめたように牛山が立ち上がった。
 なんだ、個室チケット買っていたのか。
 牛山はよろよろと椅子の間をすり抜けていくと、
カミールの後ろにくっついて行って個室の中に消えていった。
 ユニットバスのドアをすかして、抱き合っている影が見える。
 それを見ながら俺は牛山の話しを思い出した。
 カミールと店外デートした話。

【先週の給料日の話なんだけど。焼き鳥屋とかスナックで飲んでから、
十時頃、劇場に行ったんよ。
 最終回の3人目にニューフェイスの娘が出ていて、
久々にアイドル系の娘で、つい年甲斐もなく買っしまったんよ。
本当は俺みたいなジジイは年季系のサービスのいい女に入ればいいのだが。
 個室に入ったらいきなりコンドームか被せようとするんで、
ああ、まだ素人だな、と思った。
 彼女は眉をしかめてオンリーフィフティーミニッツと言っていた。
 英語だったら多少は分かるんで教えてやった。
 そんなんやって早く終わらせようとするから、消耗するんよ。
ぎりぎりまでしごいておいてから入れれば三こすり半で行ってしまう。
そうすれば疲れないだろ。つーか、こんな個室はアンテナショップにして、
店外デートで稼ぐ方が消耗しないだろ、などと教えているうちに、
自分が常連中の常連になった気がして、白けてしまった、萎んだまんまよ。
 もういいと言って、パンツを上げようとすると、
 まだ時間がある、まだ時間があると、引き止める。
 俺は思わず座り込むと、「どこからきたの?」と聞いた。
 フィリピン。
 幾つ?
 十八。
 子供が居ないのは体で分かった。
 借金はいくらあるの?
 それは私の問題。
 まあいいから。
 彼女は指三本立てた。
 三百万かあ。個室で客をとっても一人千円だから大変だなあ。
 しょうがない。
 そんな話しをして、十五分が経ったら、背中を丸めて個室から出てきた。
 それから自販機で缶ビーをル買って、おまんこを肴に、ビールをなめなめ、
結局閉店まで粘った。
 外に出たら雪だ。
 酔いを覚まそうと、コンビニで缶コーヒー買って出てきたら、
さっきの女の子が軒下に立っている。白い薄いパーカー一枚で。
 何やってるの?
 友達を待っている。レストランに行くから。
言うと、パーカーに両手突っ込んで膝をがたがたさせている。
 自分風邪ひくよ。そうしたらこれ飲んで待ってな。今車を回して来てやるから。
 そうして車を回して来ると、彼女を乗せて、
エンジン三千回転ぐらいにしてエアコンで暖めた。
 暖まってくると体も柔らかくした。
 ルームミラーでちらっと劇場の方を見ると店員がシャッターを下ろしていた。
 友達くるのか? 電話掛けてみる? 言ってスマホを渡すと、
掛けて、ぺらぺらぺらーっとタガログ語で何か言っていた。
 携帯を切ると、シーズライヤー、ライヤーと言う。
 なに? なに?
 彼女、うそつきー、と日本語で言った。
 ライアーか。あんた、もう帰った方がいいんじゃないの?
 劇場は二時まで開いているからファミレスへ連れいってくれ、と言う。
 そうしたらデニーズだ。あそこはメニューが写真だから日本語が読めなくても
大丈夫だから。
 デニーズではピザだのハンバーガーだのをぺろーっと食べてた。
俺だったらこんな夜中にあんなもの食ったら胸焼けがしてたまらんが。
 それから劇場に帰るともう閉まっていた。
 結局ホテルに行った。
部屋毎に建物が別になっている昔ながらもモーテルだった。
 部屋は暖かかった。
 入るなりカミールはうずくまるようにして腹を押さえるんで、
何しているんだと思ったが、Gパンのボタンを外してたんよ。
ぺらぺらぺらと脱ぐとすっぽんぽんになった。
 俺もぎんぎんになる。
 それからやったよ。
 終わると、俺の腕を取って、首に巻きつけて、俺の太股に足を絡めて来る。
 何をする気だと思ったら、そのまま俺の胸の中で寝息をたてたんよ。
 体が熱かった。女の体ってこんなに熱を持っているのか。
 雪が降っていたからすごい静かだった。どっかで、しゅーっと、音がしている。
暖房の湯が回っている音だろう。
 俺は、関係を続けたいと思った。でも客になるのは嫌だ。
でも彼女に必要なものは金だろ。どうしたらいい?
 スマホを買ってやろう。劇場の個室は三千円だから、
三千円使う毎に一回やらせてもらえばいい。
それから兎に角冬服を買ってやらないと。
 朝、デニーズ行って、マンゴーを食っている彼女に、スマホの件を提案した。
 そうしたら私、どんどん使う。
 三千円で一回だぞ。
 何回でもやる、と無邪気に彼女は言った。
 そんな話をしていて思ったのは、劇場で一人やっても千円、
あと何人とやらないといけないのかということ。
 突然、俺は、俺が死んで保険金をやれば、と思った。
俺の保険金で借金を返して帰ればいいんだ、と考えた。
 俺は透析にもうんざりしていた。週に三回も四時間も五時間もやるのがだるい。
もうすぐ個室型の透析器が入って寝ている間にできる、と妹が言っていたが、
それでも面倒くさい。
金があれば自分の家に透析器をおけるだろうが、銭が入るのは死んでからだ。
 カミールもうつむいて、うーんとうなっていた。
「どうした?」
「変な事を考えていた。フィリピンから女の子を入れて百万ぐらい抜けば自分は仕事を
辞められる…、だめだめ、それは悪い考え」と頭を振る。
 そんなやばい橋渡れるのか。
 とにかく劇場に彼女を送り届けると、俺はスマホと冬服を買いに走った】

 牛山の話を脳内再生をしていたら、リアル牛山が個室から出てきた。
 チャックのあたりを直しながら長椅子に腰掛ける。
「思った通り、たたなかったよ。ところで、頼みがあるんだが。
今晩、カミールをアパートまで送っていってくれない?」
「えっ、だって俺、東京から来たあの二人とあんたを送っていかないと」
「いいよ、俺らタクシーで帰るから」

 十二時過ぎ、牛山ら三人はタクシーで帰っていった。
 俺はコンビニの前にレガシィをまわすと暖機運転をして待っていた。
 ルームミラーで、百メートルぐらい後方の劇場を見る。
店員が酔っぱらいの客を追い出して、
あたりを見回した後、シャッターを半分閉めた。
 やがて、厚底ブーツにファー襟ジャケットのカミールが現れた。
と思いきや、後ろから四人も付いてくる。
 なんだよ、なんだよ。
 ここで、速攻でトンヅラすればよかったのだが、迷っているうちに、
女たちは小走りに迫ってきて、後部座席に乗り込んできた。
「あーい、あなた怖がっているでしょう。どうしてあなた怖い? 
もし逮捕される、それ私達でしょ。あなた問題ない、だいじょうぶ」
年季系の女が日本語で言った。
 後ろに四人乗ってカミールが助手席に乗った。
「デニーズお願いしまーす」タクシーの運ちゃんにでも言うみたいに言う。
 俺は諦めて車を出した。
 カミールは身をくねらせると、
後ろに向かって英語混じりのタガログ語で話していた。
「ウシヤマは勘違いしている。個室の客はこうやれば早くイク、だの、
デートならおまんこを消耗しない、だの。その積りで彼を誘ったのに、
一発やらせてくれたら三千円分スマホを使っていいとか、ケチな事を言う。
あれは、自分は客じゃない、マネージャーだ、みたいに思っているのか」
 けっ、牛山も気の毒な男だなぁ、と思いつつ、俺は飲み屋街から国道に出る
路地を慎重に走っていた。
 ところが、なんと、その路地の出口のところで、検問をやっていた。
 合図灯に止められた。
 窓を三センチぐらい開けた。「なんの検問ですか?」
「バレンタインデーの飲酒検問でーす。お酒のチェックさせて下さい」と、
マイクみたいな形の検知器を突っ込んできた。
 はーっと息を吹きかける。俺は店では飲まなかったからそれはよかったんだが。
「一応、免許証拝見できますかね」と言ってきた。
 こういう時に限って、ポンタカードだのキャッシュカードだのに挟まって
免許証が出て来ない。心臓がばくばくしてきた。
「手元、暗いですかね」とお巡りが懐中電灯を向けてきた。ついでに隣の女、
そして後部座席の女も照らす。
「あれあれ、後ろに4人乗っているんですか。定員オーバーですね。
つーか外国の方?」
 離れたところにいたお巡り2人も寄ってきた。
「ちょっとパスポート拝見出来ます? パスポート、プリーズ」
「あーい、ノー」女たちは渋りながらもパスポートを出した。
 お巡りたちがパスポートに懐中電灯を当てる。
「あらららオーバーステイだ。こりゃあダメだ。
ちょっと署までご同行願いますかね。ポリスステーション、プリーズ」
「あーい、ノー」
 女たちは車から降ろされると、パトカーに収容されてしまった。
「ご主人の分は、定員オーバーの違反切符を切りますので」言うと、
画板に免許証を挟んで違反切符に記入しだす。
「彼女らはどうなるんですか?」
「さあ。何日か勾留されて、入管に行って、強制送還になるのか、
ちょっとその先は分かりませんねぇ」
 女を乗せたパトカーはパトライトを点灯して行ってしまった。
 ヤバイ。俺はどうなるんだ。
 俺はあたりをキョロキョロ見回した。
 持って行かれたのは今更しょうがない、が、
劇場の客にでも見られていたら「あいつがお巡りに捕まったんだ」と言われる。
 回りに人影はなかった。
 このまま誰にも言わなければバレないだろうか。
牛山には、昨夜誰も出てこなかったと言えばいいか。





 続き #524 「長野飯山殺人事件」2 朝霧三郎
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